機動戦士ガンダム ダブルバード   作:くろぷり

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スクイード1からの脱出

 

「マイ、しっかり掴まってろよ…………って、掴まる物が無いか…………」

 

 ニコルの1人ノリ突っ込みに、マイは思わず笑ってしまう。

 

 捕虜から解放された事を、しっかり認識出来た事が嬉しかった。

 

「ありがとう、ニコル。危険を冒して来てくれて…………助かったわ」

 

「いやいや…………本当に危ないのは、これからだぜ!!この機体は、旧世代並のスペックしか無い…………ベスパの艦隊を振りきって、レジア達の元へ無事に還れるか…………もう、マデアさん達の援護は期待出来ないしな」

 

 そう言いながらニコルは、ゼータガンダム・リファインの操縦桿を握り締める。

 

「これ…………モビルアーマーでしょ??そんなに性能悪いの??」

 

「んー…………モビルアーマーじゃなくて、可変モビルスーツなんだけど…………装備が貧弱なんだよなー」

 

 ニコルが全天周囲モニターが起動すると、身体がまるで宇宙にいるような感覚になった。

 

「結構揺れるから、気持ち悪くなるかもだけど…………吐くなよ??」

 

「吐くって…………ってニコル!!乙女に失礼な事言うなーっ!!」

 

 ニコルは普段通りのやり取りに安心し、ゼータガンダム・リファイン…………ウェーブライダーをスクイード1から離脱させる。

 

 ちょうどニコルの足元側に、蒼く光る球体が映っていた。

 

「綺麗…………地球って、やっぱり綺麗だよね」

 

「住んでた頃は、そんな事感じなかったケド…………俺達の故郷に戦争を持ち込む訳にはいかない!!ここで食い止めないとな。綺麗な地球は、綺麗なままがいい!!」

 

 ウェーブライダーのバーニアが火を噴き、リガ・ミリティアとベスパの戦闘宙域に向けて動き出す。

 

 全速力で飛ぶウェーブライダーだったが、直ぐにゾロアットとラングに囲まれる。

 

「敵の数、多過ぎだろ!!コイツでやれんのか??」

 

 ニコルは悪態をついたが、敵の1番後方にいる戦艦から飛び出して、敵陣の中を飛んでいれば、囲まれるのは当たり前だ。

 

「ニコル…………これ、ヤバくない??」

 

「ヤバいケド、やるしかない…………」

 

 ゼータガンダム・リファインは、ウェーブライダーからモビルスーツの形態となり、ビームを連射する。

 

 ベスパのモビルスーツのコクピットに次々と突き刺さっていくビームに、マイは驚く。

 

「ニコル、凄い!!」

 

「いや…………オレに余裕が無い!!くそっ…………本当は殺さないで戦いたいのに…………今死んだ人達の中にも、分かり合える人がいたかもしれないのに…………」

 

 ニコルの辛そうな表情を見て、マイの胸も苦しくなる。

 

 それでも、普段なら感じるであろうドキドキ感は全く無い。

 

 その事に疑問を感じる余裕も無く、全天周囲モニターの中の宇宙は激しく動く。

 

 地球の蒼い光が上になったり下になったり……………画像が揺れているだけなのは頭で理解しているが、まるで自分の身体もグルグルと廻っているような感覚に襲われる。

 

(ニコル…………ヤッパリ凄いよ!!苦しい戦いを乗り越えて来たんだもん、当たり前か…………それに比べて、私は何をしてるんだろ…………)

 

 この戦いだって、自分が捕まっていなければ必要の無いモノだったかもしれない。

 

 そう思うと、マイはとても辛くなった。

 

 確かに、ニコルの戦いは凄まじい。

 

 四方八方から襲い掛かるビームを回避し、正確に射抜いていく。

 

 それでも、ベスパのモビルスーツ隊は次々と沸いて来る、

 

「どんだけの数がいるんだよ!!これじゃ抜けるのは無理だ!!戦闘宙域を離脱して、とりあえずマイの無事だけ伝える!!」

 

 ミノフスキー粒子の濃い場所では、通信さえ出来ない。

 

 再びウェーブライダーの形態に戻ると、戦闘宙域から逃げるようにバーニアを全開で噴かす。

 

「こちらニコルだっ!!ミリティアン・ヴァヴ、応答してくれ!!」

 

「ニコル??あなた、無事だったの??マイさんは、助けられたの??」

 

 雑音は酷いが、なんとか管制官のニーナの声が聞こえて来る。

 

「繋がった!!なんとか、マイは助けたよ。ケド、状況は最悪だ!!敵がウジャウジャいて、とても突破出来そうにない!!」

 

「ゴメン、ニコル!!はっきり言って、コッチも戦線を維持するだけで手一杯で…………助けに行ける余力は…………」

 

 ニーナの声を聞けてマイの無事を伝えられただけで、ニコルは満足だった。

 

 ニコルは一瞬マイを見て…………そして決意を固める。

 

「コッチの事は、心配しないでくれ!!いや、少しは心配して欲しいケド…………とりあえず、地球に降りてみる!!」

 

「ちょっとニコル!!地球って…………地球には、大気圏があるのよ!!分かってるの??」

 

 ニーナの焦った声を聞いて、緊迫した状況にも関わらずニコルとマイは笑ってしまった。

 

「ニーナさん…………私もニコルも地球育ちだから、知ってますよ。だから、ミリティアン・ヴァヴも後退して下さい。皆に、ありがとうございましたって伝えておいて下さい!!」

 

 マイは画像が乱れながら映るニーナに、頭を下げる。

 

 皆…………か。

 

 レジアにって言いたい所なんだろうけど、大人になったなとニーナは感じた。

 

「マイ…………無事で良かった…………レジアにも、しっかり伝えておきますね。ニコル、せっかく助けたんだから必ず無事に帰って来なさいね!!」

 

「ああ…………なんとかする。なんとしても、皆の所に帰るよ!!だからニーナさん、皆に…………誰1人欠ける事なく、また会おうって伝えてくれっ!!」

 

 ニコルの決意の表情に、ニーナは頷く。

 

 大気圏突入…………それが、どんなにリスクの高い事か……………

 

 ニーナもマイも、そしてニコルも知っている。

 

「マイ、どうなるか分からないケド…………オレに命を預けてくれ」

 

「うん、大丈夫だよ…………ニコルは私なんかよりも、ずっと成長してる…………ニコルが今…………判断した事が、1番ベストだと思う」

 

 ベスパのモビルスーツ隊に追われながら、蒼い地球は少しずつ近付いて来ていた。


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