「あんた!!ニコルだったっけ?何勝手にガンスナイパーをいじってるンだい!!」
エステルのヒステリックな声が、ファクトリーに響き渡る。
「マヘリアさんとレジアさんが堕ちそうなんだっ!!黙って見てられません!!」
「黙って見とけ!!あの二人はプロのパイロットなんだ!!あんたの出る幕は無いんだよ!!」
ニコルの声に被せるように、エステルの声が更に大きくなった。
「この機体なら、長距離射撃は可能な筈だっ!!オレにだって援護ぐらい出来る!!」
「モビルスーツの名前だけで判断するんじゃない!!その機体は、まだ未完成なんだ!!」
エステルの声は、確実に大きくなっている。
今にもコクピットに乗り込もうとするニコルを、何としても止めたいエステルの感情が伝わってくるようだ。
しかしニコルの感情は高ぶっており、エステルの声は頭の中をすり抜けて行く。
「ニコル・オレスケス。ガンスナイパー出すよ!!ハッチ開けて!!」
エステルの思いを無視するように、スルリとガンスナイパーに乗り込んだニコルは、メガ・ビームライフルを振り回しながらハッチに突き進む。
「ハッチをブッ壊されたら、この基地の場所をザンスカールの連中に気付かれかねない!!ええぃ!!仕方ない!!」
エステルはやむを得ず、ハッチを開いた。
「サンキュー!!エステルさん!!このまま適当なトコで、援護射撃に移る。待ってろよ!!マヘリアさんっ!!」
ガンスナイパーを戦闘速度で操縦しながら、ニコルは射撃ポイントを探し始める。
この時、ガンスナイパーのコクピット周辺が赤い光りに包まれ始めた事を、ニコルは気付いていなかった………
「レジア機とマヘリア機は?」
ガンスナイパーのモニター越しに見える戦闘の光点を確認し、ニコルはメガ・ビームライフルを戦闘宙域に向ける。
「長距離射撃用のセンサーは??これ??」
ニコルは手早くモニターを長距離射撃用の物に切り換えて、援護射撃を開始しようとするが………
「なんだ??これ??これじゃ照準なんか、つけれっこないぞ」
そのモニターを見て、ニコルは軽いパニックに陥っていた。
通常モニターから多少拡大されただけの長距離射撃用のモニターは光点が大きくなった程度で、モビルスーツの判別すら難しい。
「これじゃ、当たりっこないぞ!!もっと近づかないと………」
その言葉とは裏腹に、操縦菅を握るニコルの手は震えている。
それまでは高かったテンションも、実際の戦場に足を踏み入れた瞬間、ニコルにも死の恐怖が襲いかかっていた。
戦闘宙域に近づけば、それだけ狙われる危険性が高まる。
正規パイロットでもあるマヘリアですら死と直面している場所に飛び込んでいくという事に、ニコルの本能は危険を察知してしまった。
「くそっ!!手が思うように動かない!!これが戦場のプレッシャーなのか??くそおぉぉぉぉ!!」
自分の想いとは裏腹に全く動かない手に、ニコルは思わず叫んでいた………