「おー、やってるやってる!!って、呑気な事言ってる場合じゃねーな。とりあえず、とっととマイを助けて逃げねーと!!」
ニコルは、スクイード1の窓から戦闘の光を確認した。
艦内は突然の戦闘状態に、慌てているクルーが多い。
「今のうちだな…………っつても、なんのヒントも無しに探すのって………不可能じゃねーか??」
ニコルは少しの不安もあの為、小声でブツブツと独り言を言ってしまう。
それらしい場所を覗いてみたりしてみるが、そんな事で見つかる訳もない。
「おい、ちょっと来い!!」
突然、正面のベスパの兵がニコルを見ながら声をかけてきた。
「ヤベっ!!いきなり見つかった!!」
ニコルは逃げようとするが、俊敏な動きをするベスパの兵に襟首を後ろから掴まれ、暗い部屋の中に放り込まれる。
「うわぁぁぁぁ、ヤベぇ!!って………ふがっ!!」
パニックになり大声を出すニコルの口を塞いだベスパの兵は、鋭い眼光でニコルを睨む。
「お前、ニコル・オレスケスで間違いないか??」
恐ろしく鋭い瞳で睨まれている為、ニコルは涙目で頷く。
「お前…………本当に、マデア少佐にタシロの闇を暴くように言われて来たのか??とても少佐の御眼鏡に適うような人間には見えないんだが…………」
ベスパのノーマル・スーツに身を包む男は、ニコルの口を塞いでいた手を退ける。
「マデアさんの仲間かよ…………ビックリさせないでくれよー」
「ビックリしたのはオレの方だ。まさか、こんな子供みたいな奴が………いや、子供みたいだからいいのか??少佐から、童顔とは聞いていたが…………」
残念そうな表情を浮かべるベスパ兵に、ニコルは少し苛立ちを覚えた。
「協力しろって言ってきたのは、あんたの大将だぞ!!もう少し、感謝というものを…………」
「マデア少佐は、お前の幼なじみを助ける協力もしているんだろ??お互い様だ。オレはメッチェ・ルーベンスだ。よろしくな」
ブロンドの髪に、美しい顔立ち…………年齢はニコルとそう違わなそうに見えるが、年齢より大人っぽく見える。
いわゆるイケメン、と言うヤツだろう…………マイが見たら、キャーキャー煩そうだな…………
ニコルは少し嫉妬しながらも、メッチェと握手を交わす。
「で、メッチェさんは、マデアさんの仲間なんだろ??マリア・カウンター所属なのか??」
「いや、オレはベスパのイエロージャケットだ。だが、曲がった事は嫌いでね。それに、マデア少佐はマリア・カウンターでもあるが、ベスパでもある。ベスパ内には、少佐を慕う人間は多いのさ」
メッチェはそう言いながら、ニコルを連れて通路を進む。
「ここから先は、士官達でも入れない空間だ。サイキッカーと、タシロが信用する数名の兵しか出入り出来ない。怪しいとすれば、この中だ」
メッチェはそう言うと、ニコルを扉の前に立たせて電子キーのボックスを拳銃で撃った。
「うわぁぁぁ!!メッチェさん、突然どうした??」
至近距離で銃を撃たれて、ニコルは心臓が飛び出しそうになる。
「ここからは、君だけで進むんだ。警報は鳴るが、今の状況では何の警報か分かるまでに時間がかかる。タシロも今は艦橋にいないしな…………ここからは、我々は敵となる。次に会っても、気安く話かけないでくれよ!!」
そう言うと、メッチェは今来た通路を引き返して行く。
「まぁ…………そりゃ、そうだよな…………メッチェさん、ここまでサンキューな」
ニコルはメッチェに聞こえない事は分かっていたが、とりあえず小さくなる背中にお礼を言うと、普段は入れない通路に目を向ける。
「さて…………マイ、無事でいてくれよ…………肝心なイケメンはいなくなっちまったがな…………」
ニコルは、赤い光が不気味に光る通路に足を踏み入れた。
その通路は、なんとなくだが空気が冷たく感じる。
死臭…………と言うのだろうか??
背筋が凍える感じが纏わり付く。
「こんなトコにマイがいるのか??無事ならいいケド…………」
ニコルは開けれる扉を次々と開けていくが、変な器械が置いてある部屋が多く、マイの手掛かりは掴めない。
しかし、大きな椅子の上に変な器械がある部屋に足を踏み入れた時、マイの気配をニコルは感じた。
「マイ………この部屋で何かされたのか………そんな気がする」
その時、何故かニコルはマイの気配を感じ始める。
「こっちか??」
マイの気配が強くなる方向に、迷いなくニコルは進む。
そして、マイの気配が強く感じる部屋の扉を開けようとした………が、ロックがかかっている。
「なる程…………だからメッチェさんは、さっきロックの外し方を見せてくれたって訳か…………確か、この辺りに撃ち込んでたな………」
ニコルはメッチェがやったように、扉のロックを解除した。
「マイ!!いるか??」
「ニコル!!銃声が聞こえたから、助けに来てくれたと思ったわ!!ありがとう」
マイは、ニコルに近寄りお礼を言う。
いつもなら、抱き着いて喜びを表現しそうなものだが…………レジアと付き合ってるんだから、そうもいかないか…………
「マイ、身体は大丈夫か??何もされてないな!!」
「1回、変な器械に座らされて、その時に大切な何かを取られた気がするの…………私、変なところない??」
マイの身体を一通り見たニコルは、首を傾げる。
「見た目は平気そうだな…………あんまり長居は出来ないから、まずは逃げようぜ!!皆と合流して、戦艦に戻ったら詳しく診てもらおう。マイ、走れるか??」
「うん…………大丈夫!!」
ニコルは、マイの手をとり走り出した。
マイの人を愛する感情を抜き取られた事に、ニコルはまだ気付けてはいなかった…………