ホラズムの指令室からは、レグナイト隊の後方より更なるモビルスーツの存在を確認していた。
「レジア!!前方から援軍が来てるわ!!気をつけて!!」
ミューラの声がレジアの元に届いた頃には、既にトライバードのセンサーが敵の援軍の数を正確に照らし出す。
「更に10機かっ!!こいつはキツいな!!」
この時、ようやく月から離された事に気付き、レジアは唇を噛み締めたが、時既に遅しである。
「レジアさん!!あの機体、ラングじゃない!!」
マヘリアの悲痛な言葉に、レジアも弱冠の絶望を感じていた。
トライバードのモニターにはザンスカールの首都防衛用のモビルスーツ[シャイターン]が映し出されていた………
(トライバードだけなら逃げ切れるが、ガンイージは無理だ!!どうする?)
レジアの考えが纏まる前に、レグナイトのラングがトライバードに襲いかかった!!
「なんで、ザンスカールの首都防衛用モビルスーツがこんな所に?シャイターン相手ではイージは不利だわっ!!」
モニターとセンサーを見ながら、ミューラが叫ぶ。
シャイターンは、装甲の厚さと肩・胸・足にビーム砲を装備したモビルスーツである。
防御・攻撃、共に優れたシャイターンは、平均的な能力のラングを軽く上回っていた。
「一度撤退させましょう!!このままじゃ二人とも犬死にだ!!」
ボイズンの言葉はもっともであり、トライバードの機動性を持ってしても逃げるのが精一杯だろう。
まして囲まれてしまっては、ガンイージでは逃げ切る事すら出来ない事が予想された。
だからこそ、決断は早い方がいい………
ミューラに決断を急がせる為に、ボイズンはわざと大きな声を上げた。
「…………トライバードだけ回収しましょう。ガンイージは戦場に残って、トライバードの逃走時間を稼いでもらいます!!」
ザンスカールは、まだ月とは衝突はしたくないはず…………
であれば、ファクトリーの位置さえ見つからなければ、トライバードだけは護りきれる………
そう考え発したミューラの言葉に、指令室全体の時間が止まったかのように静寂が訪れた。
「そんな…………そんな馬鹿な話あるかよっ!!イージは、苦労して地球から宇宙に持って来たんだぞ!!それを簡単に見捨てるなんて!!」
静寂を破ったのは、モビルスーツファクトリーから指令室に身を移したニコルだ。
「イージも大切なモビルスーツではあるけど、トライバードはもっと大切な機体なの!!私たちリガ・ミリティアが勝利する為には、トライバードクラスのモビルスーツが量産されないといけないわ!!データの収集が終わるまでは、ザンスカールに捕獲されても、破壊されても駄目なのよ………」
「それにイージまで撤退させたら、この基地の存在がザンスカールに知られてしまう。そうなってしまったら、我々もリガ・ミリティアも終わりだ………」
ミューラの言葉もボイズンの言葉も、正論であった。
しかし、マヘリアという人の命を無視した言葉に、ニコルは怒りを覚える。
「マヘリアさんは、この基地を守る為に必死で戦ってるんだぞ!!そんな人の命を犠牲にして生きる未来に、何が残るんだよ!!」
先程は恥ずかしくて、マヘリアの事をガンイージに転換していた。
だがマヘリアの命が消えてしまう危機感から、今はニコル自身の素直な感情が前に出ている。
「ありがとう、ニコル…………でも皆が言ってる事が正しいの。だって、私はリガ・ミリティアのモビルスーツ・パイロットなんだから…………死ぬ覚悟はできてるわ!!レジアさん!!早く逃げて!!」
その言葉を無視するかのように、トライバードはレグナイトの赤いラングの左腕をビームシールドで焼き払い、更にビームサーベルで両足を切断した。
「ぐわっ!!なんてモビルスーツだ!!まぁいい、ここはアーシィ・リレーン大尉のお手並み拝見といくか」
そう言うと、手負いのラングを操りレグナイトは母艦の方にラングを向ける。
その視線の先には、アーシィ率いるシャイターン隊を捉えていた。
同じくトライバードのモニター越しにシャイターンを捉えたレジアは、マヘリア機に近づく。
「オレは出来た軍人じゃないし、そもそもレジスタンスであって軍人じゃねぇ、好きにやらせてもらうさ!!」
レジアの言葉に、静寂に包まれていた指令室では驚きの声が上がる。
「レジア!!何を馬鹿な事言ってるの!!私達は………リガ・ミリティアは………あなたも、トライバードも失う訳にはいかないの!!わかって!!」
ミューラの悲痛の叫びとは逆に、ニコルはレジアの言葉に力が沸き出る感覚に包まれていく。
「ガンスナイパー、ファクトリーにあったよね??あいつを出そうよ!!」
高揚感に体が突き動かされているニコルは、再びファクトリーに向かって伸びる蛍光灯に照らされただけの道を走り出していた。
「ニコル!!待ちなさい!!」
しかし、ミューラの声は走るニコルの耳には届かない。
「ミューラさん。ガンスナイパーという機体を私は知らないが、スナイパーというぐらいだ。長距離射撃に特化した機体なのだろう?ニコルも、うちの工場でモビルスーツは扱っている。支援だけなら何とかなるかもしれませんよ?」
そんなボイズンの言葉に、ミューラはまるで子供のように首を振った。
「ガンスナイパーは、サイコフレームを搭載しているんです。しかも、長距離に対応したセンサーは組み込んでいない………普通に動かして、しかも長距離射撃するなんてまだ無理なんです!!完成には、まだ時間が………」
ミューラの言葉に、ボイズンは頭が真っ白になり、状況が理解出来ない。
「つまり、封印されたサイコフレームの技術を使い、ニュータイプ専用の機体を作ったと………そういう事ですか!!」
ボイズンの頭には、怒りと呆れが同時に襲ってきていた。
「あんた、自分が何してるのか分かってるのか?ニュータイプは存在しない!!我々の大切な資金は、あんたの実験費用に当てれるような余裕はないんだ!!」
ボイズンは、ニコルがガンスナイパーに向かって走っている事を忘れるぐらい、気が動転していた。
そして確実に、マヘリアやレジアの危機は近づいていく………