序章 ウッソの記憶
古い木製の椅子に座った男は「リガ・ミリティアの軌跡」と表紙に書かれた雑誌のような書物を、これまた年季の入った木製の机に広げて読み始めた。
その男………【ウッソ・エヴィン】は、その書物を読みながら、自分の心に引っ掛かる物のヒントを探そうと考えていた。
V【ヴィクトリー】ガンダムで戦っていた頃、バルセロナの漁村で出会った漁師の爺さん………確か、ロブ爺さんと言ったか……そのロブ爺さんに息子のニコルと間違われた事。
パッと見で似ていて、見間違いと分かれば、それは日常でもありえる。
しかしロブ爺さんは、ウッソの事をニコルと呼び続けた。
当時少年だったウッソは、ロブ爺さんが老人で少しボケ(認知症)ているのかと思い深くは考えていなかった。
何故だろうか……大人になるにつれて、心の引っ掛かりが大きくなっている。
日常生活をしっかり営んでいる人が、死に別れた自分の息子と間違えるだろうか………
書物を読むにつれ、色々な疑問が脳裏を過ぎっていく。
(そういえば、シャクティが何故地球に来たか……それも分からず仕舞いだったな……)
ウッソは当時を思い出し、辛い記憶だが、懐かしさを感じていた。
シュラク隊のメンバーに可愛がってもらった事、女王マリアとの出会い、V2を初めて操縦した時の感覚、エンジェル・ハイロゥでの激戦………
(マヘリアさんやオデロさんには、弟のように可愛がってもらったな………)
ウッソは書物を閉じると、少し軋む椅子の背もたれ体を預けて瞳を閉じた。
あの時……クロノクルからシャッコーを奪う半年ぐらい前に見た夢……
夢なのか現実か分からない……男からバトンを渡される夢……
「あれは、現実………じゃないよな………でも………」
光の差し込む窓の外に見えるV2ガンダムを見て、ウッソはV2を始めて操縦した時の感触……誰かに後押しされているかのような感覚を思い出していた。
「V2………お前は知っているのかな……僕達に希望と光を残してくれた人達の事を……お前を造る為に、母さんに力を貸してくれた人達の事を………」
ウッソは呟くと、軋む椅子から立ち上がり、部屋を後にした。
ウッソは、朧げながらに気付いていた。
2つの翼が1つになった瞬間を……
そして、希望の翼を残す為に闘った人達がいた事を………
そして、時代はウッソの戦っていた頃の3年前に巻き戻る。
宇宙世紀0150年………
まだ、V計画の雛型のモビルスーツがようやく完成しようとしていた時代の話である。