灰崎を活かせ   作:隣のポパロン

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第4Q

第2Qの始まりは福田総合からで、白木は灰崎に向かってパスを出し、灰崎が相手ゴールへ向かっていく。すると、その前に火神が立ち塞がった。

 

「テメェ、本気出せよ!」

 

「アァ?本気ダァ?練習試合でテメェ相手に出すわけねえだろが。」

 

「な、テメェ!」

 

火神が灰崎にプレッシャーをかけようとすると、ハーフライン付近で白木が突然大声をあげた。

 

「灰崎さん!パース!!パス下さい!パス!」

 

突然の大声に、灰崎は火神を抜くことをやめ、その場でボールを保持する。

 

「ア"ァ"?んなとこで貰ってどうすんだ!」

 

「良いから下さい!」

 

「チッ、ヘマしたらぶっ殺すぞ。」

 

白木の要求に灰崎は渋々パスを渡す。白木の手にボールが治ると、白木に少し距離を置いてマッチアップしている伊月が白木に声をかけた。

 

「君、まだ中学生なんだよね?随分上手いね。流石は帝光中だ。」

 

「ありがとうございます。WC優勝チームのPGからそんなこと言われると照れますね。…では、是非これも見てから再評価をお願いします。」

 

にこやかな笑みを浮かべ、白木がそう言うと、あるモーションに入る。そして、それを見たコート内の選手や控えの選手全ての顔色が変わった。

 

「っ!?待てよおい、一体何してやがる…!?」

 

日向は驚きの声をあげ、他の誠凛メンバーもみな硬直してしまった。

 

白木がモーションを終えると、ボールは高々と上昇し、誠凛のゴールへと吸い込まれて行った。

 

「今のは……緑間の高弾道3Pシュート!なんで中学生のあいつが使えるんだ!?」

 

火神や黒子、そして他のメンバーたちの顔が青ざめる。

 

「テメェ…なんだそりゃ。」

 

そして、灰崎ですら、白木に対して驚きの声をあげた。

 

「もちろん見ての通りですよ。さてさて、次はディフェンスです。しっかり止めましょう!」

 

白木の声に福田総合のメンバーたちは我に返り、自陣へと戻っていく。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「何で?え?キセキの世代の技は模倣を得意とする黄瀬でさえ、満足にできなかったのに…。監督!あれはどう言うこと!?」

 

小金井がリコに詰め寄った。

 

「あの腕の筋力を考えたら、決して不可能ではない…。やられたわ。これは痛い失点。3点という数字より、完全に飲まれた。」

 

リコは悔しそうな顔をしながらコートを見つめる。

 

(だけど、今のシュート…何か違和感を感じた…。一体何?確かにハーフラインからあの高弾道で放たれたシュートは緑間君のだわ…。ダメ、一度じゃ分からない。せめてもう一度あれば分かると思うけど…。でももう一本あの高弾道を食らったらこのQで流れを取り戻すのはキツイか…。それほどのインパクトがあった。なら、彼を止めるしかない。でも、あの打点の高い高弾道を止められるのは火神だけ、他のメンバーじゃ高さが足りないだろうし、唯一足りるであろう水戸部君だと、恐らく彼のスピードには敵わない。しかし、火神をマークにつけるとすると灰崎君が止められない…!どうするのが最善か……。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

(なーんて考えてるでしょうね。)

 

白木は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるリコを見ると、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

(確かに、鍛え上げたこの腕なら緑間さんのシュートは多少は再現できる。だけど、それは多少であって、完全に再現できるわけではない。緑間さんの凄さは百発百中の正確性。そして、何本打っても乱れない精神力と体力。高々と放るだけのシュートなんて誰でも出来る。それが入るから彼は凄いんだ。僕の高弾道3Pシュートの確率は試合中ではない時、なおかつ調子が最高に良いとき5割ジャストぐらい。これについてはもうこれ以上成功率はあげられなかった。そして勿論、試合中となると練習のようには行かない。今の調子やマークの相手を考えるとせいぜい2割4分くらいだ。それに、緑間さんのようにそう何本もホイホイ打って入れられるほどの体力もないし、もしそんな事をしたら、腕が疲れて僕の強みであるノーモーションパスに欠陥が生じてしまう。ここからはうまく立ち回らなくちゃ。)

 

「さぁ、皆さん。それぞれのマークをお願いしますね。」

 

誠凛ボールで始まり、伊月は相手陣地までボールを運ぶ。

 

(黒子のマークが外れてる…。止められないとわかってマークするのを諦めたのか?今相手の選手でフリーになってるは…あの中学生PGか。あのPGは何か不気味だ。もしかしたら黒子に対して対策をしてるのか?くっ駄目だ。考えてもラチがあかない。ここはやはり、一発頼むぞ!)

 

伊月は黒子にパスを出す。黒子はそのパスの軌道を変え、火神へとパスを出した。それを見た瞬間に、白木は動き出した。

 

「やっぱり…。良い仕事です。灰崎さん。」

 

「なっ!?」

 

火神がパスを受けると、目の前には灰崎とその後ろに立つ白木の二人が火神のマークについた。

 

「火神にダブルチーム!」

 

「馬鹿な!黒子のパスを読んでいたのか!?」

 

誠凛メンバーが驚きの声をあげる。

 

「関係ねえよ!二人ブチ抜けば良い話だろうが!!」

 

火神は灰崎をかわそうと高速でドライブを仕掛けた。

 

「ハッ!甘えんだよ!」

 

「テメェがな!」

 

灰崎はそのスピードについていく。が、火神はそこからロールターンで切り返し、灰崎を振り切ってゴールへ向かおうとする。

 

「いえいえ、甘いですよ。」

 

灰崎の影から出てきた白木が火神に対してスティールを決め、ボールを奪いとった。

 

「そんな!あの火神があんなにあっさりとボールを奪われるなんて!」

 

「止まるな伊月!すぐに戻れ!!」

 

日向から指示が飛び、伊月がすぐに戻ろうとする。

 

「望月さん、お願いしますね!っておっとと!」

 

白木は望月に向かってパスを出そうとした所、何者かの手が伸び、パスをカットされそうになった。そこですかさず白木はハンドエラシコを使い、望月から他の選手へとターゲットを変更した。

 

「さすが黒子先輩。相変わらず攻守の切り替えのタイムロスが無い。」

 

「今のは…。」

 

黒子が白木のパスを狙っていたが、白木にいとも簡単にかわされてしまう。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「そんな!なに!?今のパス。振り被った方向とボールの飛んだ方向がめちゃくちゃだわ…。黒子君のスティールまで通じないなんて…。本当になんてデタラメな…。」

 

「キセキの世代に食い込んでるでしょあれ!」

 

「……いいえ、やっぱり、反応速度はともかく、何度見てもスピード、特に敏捷性に関しては今の段階ではキセキの世代に届いていないわ。」

 

(でも、だとするとおかしいことがある。さっきの火神君のドライブ。いくら灰崎君と白木君が相手だったとしても、あんなにあっさりボールを奪われるなんで変だわ。灰崎君はまるで本気を出していなかったし、白木君がボールを奪いに来るまでに火神君なら体勢を立て直す時間は十分にあったはず…。なのにどうして反応できなかったの?火神君の数値は……っ!?なにこれ…火神君の調子が全然出てない!?絶不調もいいとこだわ…。いったいどうなってるの?アップの時はむしろ調子は上向きだったのに…。)

 

「…タイムアウトとるしかないわね。」

 

誠凛は、福田総合がシュートを決められたところでタイムアウトをとった。

 

「どうしたんだよ監督。確かに押されかけてたけど、まだ序盤だぜ?この程度自力で立て直せるぞ。」

 

「いえ、確かにあの黒子君封じと緑間君の高弾道3点シュートは対策は必須。それよりも……火神君。調子はどう?」

 

「え?火神?」

 

疑問に思う誠凛メンバーは皆不思議そうに火神をみた。

 

「っ、いや、別に特には。」

 

「強がりとか要らないから。本調子、全然出てないみたいね。」

 

「…ウス。でも、よくわかんねえ。こんな感じは初めてだ。」

 

「やっぱり…。きっと灰崎君の仕業ね。火神のディフェンスをするとき、火神よりも早い段階でブロックに飛んで、執拗なまでにダンクを封じてきてる。今の所試合中の不自然なことはそれぐらいだわ。」

 

「ってことは、火神はダンク出来てないから本調子が出てないってことか?」

 

伊月は皆が思っていた疑問をリコに投げかけた。

 

「今の段階ではあくまで予想でしかないけど、火神君の性格上結構有効な手かもしれないわ。多分入れ知恵は白木君かしらね。全く厄介な中学生だわ…。誠凛のアクセルは火神だわ。エースが乗らなきゃチームは乗れない。頼むわよ。」

 

「ウス!」

 

「よし、それじゃああと二つ。まず白木君の3点シュートは火神君が止めて。」

 

その指示に日向が疑問の声をあげる。

 

「え?でも、それじゃあ灰崎はどうするんだ?」

 

「黒子君が灰崎君へのパスを常に狙っておいて。取り敢えず第2Qはそれで凌ぎましょう。でもこれで、火神の攻めは取り戻せるはずよ。今までは灰崎君がピッタリくっついてディフェンスしていたからダンクに行く攻めは全て守られてしまった。だけど白木君が相手ならそれなりに勝機はある筈。二人とも頼むわよ。」

 

「はい。」

 

「おう!」

 

誠凛メンバーは話し合いが終わるとコートへ出て行った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「おい、テメェ…。さっきのシュートは一体なんだ!?」

 

タイムアウトと同時に灰崎は白木に詰め寄った。

 

「何って、見たまんまです。緑間さんの高弾道3点シュートです。まぁ、本人ほどの正確性はありませんから、これは僕が絶対に決まると確信したときだけしか使いませんが。ですから、本家みたいに沢山パスを貰って、沢山打つなんてことはできませんからそこの所はよろしくお願いしますね。」

 

「チッ、つくづく気に食わねえ野郎だ。そんなことより、このタイミングでタイムアウトかよ。まだ開始してから数分だぞ。ったくダリィな。こっちは一分一秒でも早く終わりてえっつーのによ。」

 

灰崎はグチグチ文句を垂れ流しながら給水する。

 

「まぁ、誠凛さんもやっと気が付いたってことみたいですね。」

 

白木がそう呟くと、望月がそれに反応した。

 

「気が付いたって、なにがだ?」

 

「火神さんの不調の原因ですよ。」

 

「不調?だが今の所、火神から良いようにパスを出されているし、僅かとはいえ誠凛がリードしているんだぞ?」

 

「フフフ、それはパスを出させてるんですよ。まぁ、そこら辺は見ていただければわかりますよ。すみませーん。」

 

白木は、ベンチの選手からノートを受け取ると、それを望月に渡した。

 

「これは一体なんだ?」

 

望月はノートを開いて中身を見た。

 

「ん?…スコアブックか。」

 

「はい、それで、誰が決めたか確認して見てください。」

 

「誰がって、見るまでもなくほとんど灰崎だが。」

 

「あ、ウチじゃなくて誠凛側です。」

 

「あぁ……。4番が一番多いな。3点シュート結構決めてたしな。2番目はPGの5番か。この選手のプレーもレベルが高かったな。」

 

「もう、違いますよ〜。相手の10番の得点はレイアップの一つだけしかないでしょう?」

 

「確かに…だがこれが一体…っ!?」

 

「気がついて頂けましたか?それ、ウチで例えるなら灰崎さんがレイアップ一本しか決められてないのと同じですよ。」

 

「確かに…これは異常だ。一体何をしたんだ?」

 

「火神さんはどうも感情によってプレーの精度が増していくみたいですから。ダンクを決めさせず、本人の勢いを削いで集中するのを妨げているんです。まさかここまで効果があるとは思いませんでしたけど。まぁ、1番の形はこのまま皆気付かずにそのまま試合終了になってくれれば良かったんですけどね。」

 

「……まさか、二個下の選手にここまで頼もしさを感じたのは初めてだ。」

 

「あはは。ありがとうござます。確かに、今日の火神さんの相手は灰崎さん。黄瀬さんにあんなことしてたんだもの。否が応でも盛り上がっちゃいますよね。でも駄目です。このまま、火神さんにはどんどん不調になっていただきましょう。ねえねえ灰崎さん。」

 

「アァ?んだよ?」

 

「これから、奪える技は奪って下さいね。」

 

「んなもんしてるっつーの。ただ、火神ってやつゴール決めてねえだろ。奪うもんなんて何一つねえよ。」

 

「あるじゃないですか。火神さんがパス出す時に相手をかわすためにやるロールやターンなんかが。」

 

「…テメェ。俺がテメェらにパスしろって言ってんのか?」

 

「そうですよ。キセキの世代の緑間さんや紫原さんもパスを出すようになったんですよ?灰崎さんもパス出してもらわないとあの人たちに勝てないじゃないですか。それに、通常状態の火神さんと黒子先輩のペアはキセキの世代の力を上回ることはWCで証明されています。それは、身体能力の面を火神さんの運動神経が、特殊能力の面を黒子先輩の観察眼と経験がそれぞれ対応していたからです。つまり、あの二人は僕と灰崎さんの目指す関係ですよ。だから、僕ら二人の初戦はあの二人を選んだんです。」

 

「……ケッ。テメェと組むなんて虫唾が走る。寝言は寝て言えよカス。」

 

「フフフ。まぁ、キセキの世代とやるときだけでも協力していただければいいんです。その他は貴方一人で勝てますからね。でも、今日だけはお願いを聞いてください。さてさて、行きましょうか。面白くなるのはここからですよ。」

 

白木は笑みを浮かべながらコートへと入っていった。

 

 


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