灰崎を活かせ 作:隣のポパロン
間違ってるところや辺なところがあったら教えてください。
「みんな!聞いてちょうだい!」
誠凛高校のマネージャー兼監督の相田リコは、部活終了後のミーティングでメンバーを集めた。
「どうした?監督。」
キャプテンを務める日向順平が返事をした。
「ウチに練習試合の誘いがあったんだけど。一応みんなの意見を聞いておきたくて。」
「練習試合?なんでそんなこと俺らに聞くんだよ?いつも監督が決めてるじゃん。」
「それが、相手が相手だからねえ…。」
「勿体ぶってねーで、とっとと教えて、ださい。監督。」
火神は慣れない敬語を使いながら質問する。そして、リコは、少し間を開けてから口を開いた。
「……相手は、元キセキの世代、灰崎祥吾君のいる。福田総合高校よ。」
「「「っ!?」」」
「灰崎!?って、あのクズ野郎のいるところかよ!」
誠凛のメンバーは驚きながら、脳内で、WC黄瀬にしたラフプレー。そして、味方の先輩たちにはいた暴言などを思い出していた。
「ええ、そうよ。だけどWCの時の灰崎君と、スクープショットを得意とするスキンヘッドの望月君以外は皆引退している。それに加えて、灰崎君は練習試合には殆ど出たことが無いの。だから、正直実力としては格下になるわ。だけど、今回の練習試合は鉄平が居ない布陣を試す機会にもなる。」
「何か悪いことでもあんの?」
水戸部の影から顔を出した小金井が、リコに質問する。
「ええ、でもそれは灰崎君が居ない場合の話。」
「ん?でも灰崎は殆ど練習試合に顔を出さないんだろう?」
皆が疑問に思っていることを伊月が口にする。
「考えてもみて、わざわざ静岡から東京に来てウチと練習試合をしにくるのよ?私は恐らく、今回灰崎君がこの練習試合に参加してくるとみてるわ。」
「確かに…。ウチにはキセキの世代と渡り合う火神がいる。それを抑える手段がないままウチと練習試合を組もうなんて考えない。か。」
「そういうこと。だから意見を聞きたいの。灰崎君は危険なプレイヤーよ。黄瀬君とやったときにもラフプレーをしていたのはみんなも知ってるわよね?だから怪我をする危険性もある。私としては余り勧めたくはないのだけれど、どうする?」
リコはバスケ部の皆に問いかけた。
「…やるよ。監督。福田総合高校は…灰崎は強い。これから先対戦しないとも限らない。なら、しておくべきだと思う。」
日向がそういうと、部員たちは次々に賛成の声をあげる。
「よし!じゃあ早速承諾の連絡をして来るわ。日程は来週の日曜よ。それじゃあ解散!」
リコの言葉に皆は荷物をまとめて帰路につく。帰り道、火神と黒子はファーストフード店に寄っていた。
「おい、黒子。お前はさっき何も言わなかったけど大丈夫かよ?」
「…はい。別に大したことではありません。ただ、灰崎君もバスケを好きでいてくれたのかな。と思いまして。」
「まだわからねえだろ。黄瀬に仕返しする為かもしれねえしよ。」
「そうですね…。今度会った時直接聞いてみたいと思います。」
「それはそれで大丈夫かよ。お前ら別に仲良いわけじゃねえんだろ?」
「別に良くはありませんでしたけど、特別悪かったわけでもないです。それに…あの時。灰崎君は僕を案じるような事を口にしていましたのできぼうはあるかと。」
「あの時?」
「…いえ、なんでもないです。取り敢えずはいつも通り全力で勝ちましょう。」
「あぁ!」
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「よし!皆集まったわね。今日は前から言っていた福田総合高校との練習試合よ。それじゃ、みんな準備をお願いね。それが済み次第アップね。」
「「「オス!」」」
練習試合の当日、火神達はリコの指示に従って各々動き始めた。そして、準備が終了し、それぞれがストレッチをしていると、ついに今日の対戦相手である福田総合高校がやってきた。
「おい、黒子。灰崎いなくねえか?」
「はい、でも。彼は帝光中時代、いつもアップはしていませんでしたから。恐らく試合開始直前。もしくは遅れて来ると思います。」
「チッ、ふざけやがって。途中で出てきても速攻でぶっ倒してやる。」
火神は闘志を燃やしながらアップを再開した。そして、アップが終盤に差し掛かったところで、灰崎と白木がやって来た。
「…灰崎。女と来てんのかよ。よし、殺そう。」
「キャプテン。」
「あ?なんた黒子?」
「あの人は女性ではありません。男性です。」
「「「えぇ!?」」」
「マジかよ…女にしか見えねえぜ…。」
皆が驚いていると、灰崎と白木こちらを向き、黒子の存在に気づいた。
「黒子先輩!」
「白木君、灰崎君。お久しぶりです。中学以来ですね。」
黒子の言葉に再臨メンバーが一様に驚く。
「おい黒子。そっちの奴ってまさか…。」
日向が白木を指差し、驚きながらそういうと、白木が答える。
「はい、僕は帝光中バスケ部の白木です。まぁ、二年生の時までは三軍で、その時は試合にも出てませんでしたけどね。」
白木は朗らかに笑いながらそういうと、隣にいた灰崎が口を開く。
「おい、ごちゃごちゃ言ってねえで行くぞ。」
灰崎は特に何もいう事なく、自分達のメンバーの元へ向かって行った。
「何だ?意外と大人しいな。黒子の話を聞く限りだと、絶対突っかかって来ると思ったんだが。それに黒子の一個下って言った?なんでいるの」
「キャプテン。白木君は注意した方がいいです。」
「え?でもあいつ、三軍だったんだろ?いくら帝光って言っても、三軍じゃ、普通の選手なんじゃないのか?」
「わかりません。練習に彼はあまり来ませんでしたし、出て来ても、いつも何かを試していて、本気の彼は見た事ないです。でも、帝光中は僕たちの代が引退した後。その次の代も全中で優勝しています。その時のメンバーに彼が入っていたというのを雑誌で見ました。」
「マジかよ…。今年は忙しくて見てなかったわ。ってことは、全国クラスってことか。」
皆がその言葉を聞き、神妙になっていると、火神が笑った。
「面白え!下の学年にもまだまだ強え奴が沢山いるってことだろ。望むところだぜ!」
「はぁ…。全くこいつは。でも、火神の言う通りだ!俺たちはWCを優勝したんだ。それに慢心するのは確かに良くない。だが、自信は持っていいはずだ。行くぞ!絶対勝つ!!」
「「「おう!!」」」
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「黒子先輩たち、気合入ってますねえ…。」
「んなことどうだっていいんだよ。テメェ…約束は守れよ?」
「あーはいはい。分かってますって。安心して下さい。本当にクズだなぁー(ボソ)」
「あァ?なんか言ったか?」
「頑張りましょーって言いました。」
実はこの二人の間には今回の練習試合において、ある約束が交わされていた。
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灰崎は放課後に廊下を歩いていると、白木に呼び止められた。
「はぁ?練習試合だァ?んなもん知るかよ。俺は忙しいんからテメェらだけで行けよ。」
「どうせこの前の女の人のところでしょう?弁明しに言った時ぶっ叩かれたんですけど。」
「自業自得だろうが」
「それはそうなんですけどー…。その言葉、灰崎さんの口からききたくないです。」
「チッ、つーわけだ。俺は練習試合には行かねーよ。」
「灰崎さん…。」
「しつけえなァ。」
「もし来てくれたらこの人紹介します。」
白木はポケットから携帯を取り出し、ある画像を見せる。
「アァ?おい、誰だこいつは。」
「東京にいる人なんですけど。どうですか?美人でしょう?」
「あぁ、こりゃ良いな。けど、この顔どっかで見たことあるような顔だな…。」
白木は携帯を閉じ、ポケットの中へと入れる。
「もし練習試合に来てくれたら…。紹介しますよ?」
「…仕方ねえな。良いぜ。テメェの口車に乗ってやるよ。」
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そんなこんなで、灰崎は態々東京に来ることを決めた。
「そろそろ始まるかなっと。」
白木はユニフォームを着て、リコの元へと行く。
「ん?どうかしましたか?」
「えっと、貴女が誠凛の監督と聞いたので、挨拶を、と。僕はまだ中学生なんですが、今回の練習試合に参加させていただきます。」
「え?あ、はい。わかりました…。」
「では、よろしくおねがいしますね。」
白木はそれだけ言うと、福田総合高校のメンバーの元へと戻っていった。
「……。」
「どうしたんだよ?固まって。」
小金井がぼーっとしていたリコに声を掛けた。
「…凄い。なんて筋肉なの。服の上だから胴体の部分はあくまで予測でしかないけど。全ての数値があまりにも高い…。キセキの世代に届き掛けてる…。それに、腕の筋肉が凄い密度で引き締まってる。あの腕…緑間くん以上だわ…。」
「な!?緑間以上!?でも監督が言うほどには見えないな。普通に見えるけど…。」
「恐らく意図的に強靭な筋肉の上に脂肪を乗せてるのね。だから筋肉が表に浮き出ないの。プロレスラーの体もだいたいそんな感じよ。筋肉の上に脂肪を乗せて打撃に対しての防御力を強めてるの。でも、彼の場合は違うわね。ほとんどこじつけみたいなものだけど、多分自分の警戒度を下げるためじゃないかしら?」
「まぁ、確かにあの顔でメッチャ筋肉浮き出てたらシュールかも。でも、監督が驚くぐらい筋肉つけてるのに、よくあんなに華奢だよなぁ。」
「恐らく筋力トレーニングをせずに自然な動きだけで筋肉をつけたんだわ。前にパパの言っていた事覚えてる?筋肉は使えるようにしないと意味がないって。彼の場合、その無駄な筋肉の量が本当に少ない。そうするには恐ろしいほどの運動量が必要なはず。とにかく彼には注意が必要かもしれないわね。よし、全員集合!試合前のミーティングを始めるわよ!」
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「スタメンは木吉さんの位置に水戸部さんが入ったみたいですね…。さてさて、灰崎さん。火神さんをマークするのは多分灰崎さんです。その時にお願いがあるんですけど。」
「なんだよ?」
「火神さんには決してダンクさせないで下さい。」
「…何言ってんだ?いくら俺でもジャンプ力に限っちゃあいつには勝てねえぞ。」
「ダンク以外には何させても良いです。とにかくダンクさせないで下さい。」
「…チッ。しゃーねえな。今回の練習試合だけはテメェ言うこと聞いてやる。」
「ありがとうございます!ではこちらも行きましょうか。誠凛さんは準備できてるみたいですし。」
白木と灰崎はチームメイトの元へと向かい、両チームが整列し、互いに礼をすると、所定の位置に着く。ジャンプボールは火神と灰崎の勝負となった。
「テメェが灰崎か。アップ無しなんて、随分と舐めた真似してくれるじゃねえか。」
「ハァ?ギャーギャーうるせえんだよ。良いから黙ってろ。」
「チッ、カンに触る野郎だぜ。」
両チームが準備を終えると、ボールが審判から大きく上に投げられる。その後に火神と灰崎が大きくジャンプをする。そして、
「やった!火神が勝った!」
「まずは一本とるわよ!」
ジャンプボールは誠凛ボールとなる。火神から伊月にボールが渡り、そこから黒子へとパスが渡り、更に黒子から火神へとパスが渡った。
「よっしゃ!まずは一本!」
火神がゴールに向かってダンクをするために飛ぼうとする。
「させねえよ。」
「速い!」
灰崎は火神の前に回り込みブロックの体勢に入った。
(くっ、これじゃあダンクが出来ねえ!が、俺にはもうシュートだけじゃなく、パスの選択肢もあるんだ!)
「キャプテン!」
火神は上に掲げていたボールを引き戻し、日向に向かってパスを出した。
「ナイスだ!火神!」
日向は不可侵のシュートでマークを外し、3Pシュートを決める。
「く、いきなりか!」
「落ち着いて下さい。望月さん。まだ時間はたっぷりありますから。」
「白木。何か考えがあるのか?」
「ええ、これからじわじわ効いてきますよ。」
誠凛は火神のポストプレーからシュートを決めていく、しかし、福田総合も灰崎を中心に攻め、18対15の僅差で第1Qを終えた。
「おかしいわね。」
リコがそう呟いた。
「あぁ、確かにそうだな。」
リコの言葉に日向が同意した。
「灰崎が大人しすぎる。確かに上手いし、火神じゃないと止められない。だけど、黄瀬とやった時はあんなものじゃなかったはずだ。」
「ええ、それに加えて白木君。確かに一部一部身体能力の高さが光るプレーもあったけど、ほとんどパスを配給するだけで、特に何もしていない。彼もこんなものじゃないはずだわ。取り敢えず、これからもう少しアグレシッブに行きましょう。敵が本気を出さないならここで決めるつもりで行きなさい。」
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「よしよし、良い感じですね。」
「どこがだ。火神に好き放題させてんじゃねえか。」
白木の言葉に、灰崎が不満そうに応えた。
「いえ、順調ですよ。火神さんの得点はかなり少ないですから。灰崎さんのおかげで、火神さんはレイアップを一本だけしか決めていません。これは相当ですよ?その代わりに日向さんが今日は調子がいいみたいですけど、まぁその程度は誤差です。結局チームの中心は火神さんと黒子先輩。そしてチームを勢い付かせるのもこの二人。ジワジワと効いてくるはずですよ。さてさて、能登先輩。次のQは僕が黒子先輩を止めますので、相手のPGのマークはお願いしますね。」
「あぁ、わかった。話には聞いてたが、やっぱり止められないな、あの11番は。」
「伊達に全中三連覇してませんよ。黒子先輩だって、キセキの世代と肩を並べる幻の六人目ですから。まぁ、止められないものは止めなければいいだけなんですけどね。」
白木は笑みを浮かべながらコートへと戻って行った。