灰崎を活かせ   作:隣のポパロン

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変なところがあったら直しますので教えてください。




第2Q

「キャプテーン!灰崎さん連れて来ましたー!」

 

白木は灰崎と共に体育館へ入った。すると部員たち一瞬シンとなり、そこら中からざわめきが聞こえた。

 

「お、おう。ご苦労。灰崎。今日は白木の実力を見るためにゲームをするから準備をしてくれ。」

 

望月が灰崎に声を掛けると、灰崎は馬鹿にした表情で望月を見た。

 

「ハァ?うるせえんだよハゲ。指図すんな。」

 

「はぁ……。灰崎さん…先輩は敬いましょうよ。」

 

白木はキャプテンが蔑ろにされているのを見て、溜息を吐きながら注意した。

 

「テメェも、ごちゃごちゃうるせえよ。」

 

「本当に問題児ですね。灰崎さんは。そうだ、アップがてらにもう一回1on1しましょうよ。僕まだ攻めてないですし。」

 

「テメェ…調子に乗んなよ?」

 

白木は灰崎にパスを出し、もう一度受けた。

 

「おい、何か急に始まったぞ。」

 

「いきなりあの灰崎とやる気かよ。今年の…いや、来年の後輩は勇気あんなぁ…。」

 

「どうせ負けんだろ。」

 

部員たちは口々に言葉を吐くが、対面している二人の耳には入っていなかった。

 

(灰崎さんの身体能力の高さは確かに脅威。だけど、僕だって歯が立たないわけじゃない。)

 

白木は右へ左へ、前へ後ろへとボールを動かして灰崎を揺さぶる。

 

(へぇ、ドリブルスキルも中々なもんだァ…。さて、どう来るか…。右か左か。それとも意表をついてシュートか。こいつのスピードがさっき昼前にやった程度なら。この俺が付いていけないわけがねえ。シュートだとしても、俺の方が高い。見せてみろよ…テメェの技。俺が奪ってやるよ。)

 

(さて、先ずはクロスオーバーからの……。)

 

「右へ行った!!」

 

白木は右へ高速で動く。

 

(アァ?さっきより速えな……が、まだまだだな。)

 

部員たちも白木の速さに驚き、声をあげる。

 

「凄え速さだ!でもやっぱり灰崎も付いて行ってるぞ!」

 

(やっぱり速度の布石は効果なしか。残念。だけど、まだだ!)

 

「そこからターン!だけど、灰崎は振り切れてない!」

 

「おいおい、あんまりガッカリさせんなよ。攻めあぐねてんじゃねえぞ!」

 

「おっと、危ない危ない。」

 

白木は一度引き、体勢を立て直した。

 

「確かに速え。が、俺ほどじゃねえ。それに加えて、加速力も減速力もイマイチ。正直、アイツら相手じゃお前は役立たずだな。」

 

「そういうのはこれ見てから言ってくださいよ!」

 

「おぉ!白木のやつ仕掛けた!」

 

白木は灰崎に向かっていき、距離を詰めた。

 

(アン?今度は何するつもりだ?)

 

白木は再びボールを左右に動かし揺さぶる。

 

(さっきよりもボールが速え。手は出せねえな。クロスオーバーから左、そこから右へターン。そして…バックビハインドか!)

 

白木は右へ行くと見せかけてからボールを背面にやって、左へ切り替えそうとする。

 

(甘え甘え、甘すぎる。確かにあの高速クロスオーバーからのバックビハインドは少し驚いたが、切り替えしから全くスピードに乗れてねえ。取れる!!)

 

灰崎はボールの出所にスティールしに行った。しかし

 

ダン!

 

(なんだァ!?)

 

灰崎の予想を裏切り、ボールは白木の左側ではなく、右側へ出て行った。

 

(アァ?何をした?今間違いなくバックビハインドで右から左へ切り替えして行くはずだった。なのに、何で切り返したはずのはボールが右にある?しかもそれだけじゃねえ…。ボールがコイツの背面から加速して出て来やがっただと!?)

 

白木は灰崎の逆を取り、そのままゴールに向かってジャンプした。

 

「おい!あいつ、あの持ち方!」

 

「嘘だろ!あの身長でダンクする気かよ!」

 

白木は大きくボールを振りかぶるような体勢でゴールへ向かう。

 

「行かせるわけ…ねぇだろうが!!!」

 

「灰崎も速い!バランスを崩してたのに、もう追いついたぞ!」

 

灰崎はブロックのために白木の前に回り込み高くジャンプした。

 

「僕が貴方の実力を見誤るわけないでしょう。予想してましたよ。貴方が追いつくことを。」

 

白木はそう言うと、高く持っていたボールを引き戻した。

 

「ダブルクラッチ…だとォ!」

 

白木は体を捻って灰崎をかわし、高くボールを上に放る。

 

パサッ

 

ボールは綺麗にリングに触れることなく入って行った。

 

「スゲェ…。あの灰崎が…。」

 

「負けたのか……。」

 

「まさか灰崎と同等…?」

 

部員たちがザワザワと騒ぎ始める。

 

「テメェ…。何しやがった。バックビハインドからのインサイドアウトか…だが、それには腕の位置に納得がいかねえ。あそこまで腕を伸ばしてインサイドアウトが出来るわけねえ。それに加速して出てきたボールも変だ。」

 

「それはですねぇ…。エラシコって知ってますか?サッカーのドリブルスキルなんですけどね。今時じゃ、ネイマールやらクリスティアーノ・ロナウドやら結構な数の選手が使ってますけど、一昔前じゃ物凄いテクニックだったんですよ?ロナウジーニョって選手がよく使ってましたね。」

 

「エラシコ…だと?」

 

「結構難しいんですよ、バックビハインド中にやるのは。左に向かって掌から押し出す最中に手の甲にチェンジして右へ押し出す。その為には手首に良い感じでスナップを効かせなきゃならないですし、滑らかにするためにボールから手が離れないようにしないといけないし、そこからさらに加速させるには相当の手首の力が必要ですから。これは体の関節や筋肉の微妙な動きを察知して先を読む赤司さん。見ただけで模倣し、自分の技術にする黄瀬さん。そして、技を奪い、自分の物にする灰崎さんの3人への対策です。3人とも共通してるのは、見ること。それをさせないために考えた技です。まぁ、圧倒的なリーチと反射神経を持つ紫原さんとそれをコピーした完全模倣状態の黄瀬さんには止められるかもしれないですね。それに、灰崎さんに追いつかれたと言うことは。キセキの世代最速の青峰さんとノってきた火神さん相手には効果がない。まぁ、緑間さんには辛うじて使えるかって感じですかね。それで、貴方が僕のしたことを見抜けなかったということは、黄瀬さんにも通じるということが証明出来ました。」

 

「成る程ねェ…。単なる雑魚じゃねえのは理解したわ。だが…まさかそれだけなんてことは言わねえよなぁ?」

 

「ええ、これから先はゲームで披露しますよ。」

 

白木は再びボールを持ってアップに入った。しばらくしてから、皆の準備が済み、チーム分けがされる。

 

「それじゃあチーム分けをする。Aチームはこの前の練習試合の時の時のスターティングメンバーで。Bチームは、C 及川。SF 赤山。PF 能登。SG 兼山。PG 白木。今読んだチームは赤のビブスを着てくれ。」

 

Bチームのメンバー達はビブスを着て、お互いにコミュニケーションをとった。

 

「自己紹介するぜ。俺は赤山聡太。こいつは及川照史だ。こっちが能登康平でこっちが兼山悟。俺たちは2年だ。それで…お前、本当に男?結構疑わしいんだけど?」

 

(及川さんは身長約189cm。能登さんは185。赤山さんと兼山さんは182。ってとこかな。みんな結構高身長だなぁ…。僕がちいさいみたいじゃないか。)

 

「ハハ。よく言われます。僕は美人ですから。」

 

「すごい自信だな。」

 

「まぁ、それほどでもありますね。それで…どうしましょうか。あっちの人達中々強そうですね。」

 

「念のために言っとくけど俺たちはベンチメンバー。あっちの5人はレギュラーだ。俺らにもそれぞれ特技がある。まぁ、地力はあっちの方が上だが、勝負にならないほどじゃない。灰崎以外はな。」

 

「頼りにしてます。ですけど、厄介だなぁ。灰崎さん。同じチームにしてくれても良いのに。」

 

「おいおい、それじゃあその相手が困っちまうよ。」

 

赤山は朗らかに笑う。すると及川が白木に話しかけた。

 

「それにしてもお前。よく灰崎と普通に接しられるな。俺たちの言うことは全く聞かないんだぞ?あいつは。な?能登。」

 

「及川はあいつに話しかけたことないだろ。俺は一回殴られかけたぞ。それに、あいつのせいで部の雰囲気も変わったしな。それについては少し気にくわない。」

 

「能登の意見には賛成だ。俺あいつのこと嫌いだし。」

 

兼山はそう言うと、こちらを見下しているように笑う灰崎をみた。

 

「まぁまぁ。落ち着いてください。それよりも、デフェンスの時のマークの話なんですけど…。」

 

「お前が灰崎につくんだろ?わかってるって。俺たちじゃ手も足も出ねえもんな。頼む。」

 

「はい、お任せを。」

 

話がまとまったところで、審判役の部員から集合がかかり、早速ジャンプボールを始める。

 

「じゃあ及川さん。よろしくお願いしますね。」

 

「あぁ、なんとか取るよ。」

 

及川と相手のレギュラーが向かい合う。そして、審判からボールが大きく上にあげた。すると、相手は飛ばずに自分のコートへと戻った。

 

「ん?」

 

「なんだ?」

 

及川はボールを白木の元へ出すと、皆がその行動を不思議に思っていると、灰崎が声をかけて来た。

 

「先手はくれてやるよ。」

 

灰崎を中心にディフェンスが組まれ、既に守りの体制に入っていた。

 

「優しいですね。灰崎さん。」

 

「良いからとっととこいよ。」

 

「はいはいっ!」

 

白木はスピードを上げて灰崎に突っ込んでいく。

 

「おい!待て白木!」

 

兼山の声を無視し、白木は灰崎に1on1を仕掛けた。

 

「く、この状態で仕掛けるのは無茶だ。」

 

能登は白木のフォローのために動き出した。白木は先程とは考えられないほどアッサリ灰崎にボールを取られた。白木はすぐに戻り、灰崎の前に立つ。

 

「……。」

 

灰崎は何も言わずに白木と対面していた。

 

「どうしたんですか?灰崎さん。黙ってるだなんて貴方らしくもない。」

 

「うるせぇよ。あんまり気ィ抜くんじゃねえぞ。」

 

灰崎な白木をかわしてドリブルで持っていく。

 

「おい、さっきと灰崎との1on1はなんだったんだよ!やけに簡単にターンオーバーされたぞ。」

 

兼山の言葉に、赤山が反応した。

 

「まだ中学生なんだ。技術で灰崎とやり合えてるだけでも相当だ。俺ら全員一点特化型のロールプレイヤーだろ。足りないところはお互いに助け合えばいいさ。」

 

赤山がそう言うと、他の3人も頷いた。兼山はダッシュで戻ると、灰崎の前に立つ。

 

「アァ?そんなカスみてえなディフェンスで止められるわけねぇだろ!オラァ!」

 

灰崎は兼山をスルリとかわすと、そのままシュートへと持ち込んだ。

 

「まだだぁ!」

 

ヘルプに入った及川が灰崎のシュートをブロックするために大きく飛び上がった。

 

「ハッ。雑魚が。テメェじゃ相手になんねえんだよ!」

 

「これは、さっきの白木のダブルクラッチ!」

 

灰崎は先程の白木と同じようにダブルクラッチを決めた。白木はそれを見て苦笑しながら溜息をついた。

 

「はぁ…。酷いなぁ。もうこの試合じゃあれ使えないよ。」

 

灰崎はディフェンスに戻る途中で白木に近付く。

 

「本気で来いよ。んなもんじゃねえだろ。」

 

「はい。わかっていますよ。」

 

白木は及川からボールを受け、相手コートまでゆっくりとボールを持っていく。先程の無謀なプレーとは違い、慎重に上がってきた。

 

「先程とは打って変わって、今度はスローペースできたな。」

 

望月がそう呟くと、それに灰崎が反応した。

 

「ありゃ、わざと俺にとられたんだよ。」

 

「わざと?」

 

「あのガキが俺と1on1で張り合えるとわかってか何だか知らねえが、他の四人の気が明らかに抜けてた。つまり、白木の野郎は自分頼りのプレーをさせねえためにわざとミスして他の奴らの気を引き締めたんだよ。」

 

「そんなことが…。」

 

「やっぱりな。あいつの行動の節々に赤司っぽさを感じるぜ。だから気に食わねえ…。」

 

「灰崎…。」

 

「足引っ張んじゃねぇーぞハゲ。」

 

白木に対面する灰崎。白木は外に向かってドリブルし、灰崎を引きつける。

 

(チッ、こいつ。俺をサイドに引きつけて他のプレイヤーを活かすつもりか。だがらといって、俺がこいつのマークを外せば、シュートしに来るだけだ…。なら、パス出される前にとってやるよ。)

 

(く、プレッシャー凄いな…。まぁでも、関係無いし。)

 

ヒュッ!

 

「…あぁ?」

 

「え?」

 

ボールが突然白木の元から、中にいる及川に渡った。及川は突然ボールが来たことに驚き硬直したが、すぐにシュートに持って行き、ゴールを決めた。そして、硬直していた他の部員達も我に帰った。

 

「…なんだ?今ボールが突然及川のとこに飛んでいったぞ。」

 

灰崎も硬直が解け、白木の方を見た。

 

「テメェの異常な手首の強さはさっきのわけのわかんねえ技の為じゃなく、その為か。」

 

「当然ハンドエラシコの為だけに手首をそこまで鍛えるはずないじゃ無いですか。僕は元々ノーモーションでパスを出せるのが売りなんですよ。キセキの世代。特に赤司さんの天帝の眼の対策としてこのプレースタイルを確立させました。手首だけを動かしてパスを出す、そして、手首を動かすときに動く筋肉の部分はリストバンドで隠す。これで完璧。」

 

「セコイなお前。」

 

「ありがとうございます。それに、これは黄瀬さんも真似できないですから。」

 

「へぇ…。随分と自信ありげに言うじゃねえか。」

 

「それは勿論。黄瀬さんは自分の身体能力を超えた技は他の何かによって代わりをしています。青峰さんのチェンジオブペースは最高速度が及ばない分、最低速度を落として緩急をつけた。緑間さんの場合は遠くまでシュートを飛ばすために溜めを長くした。紫原さんの場合は、足りないリーチを予測とジャンプ力でカバー。赤司さんの天帝の眼は今までの経験と、コピーで培った観察眼で補った。だけど僕のパスは文字通り手首だけ、カバーのしようがありません。どうしたって無理ですよ。」

 

「…チッ。面倒だ。今日はもう帰るわ。」

 

灰崎はゼッケンを脱いでそこら辺に放り投げると、荷物をまとめ始める。

 

「お、おい。灰崎。」

 

望月が灰崎を呼び止めようとする。

 

「うっせーよハゲ。次回からは真面目に来てやるよ。」

 

灰崎はそう言い残すと、そのまま体育館を後にした。

 

「…。キャプテン。仕方ないので、他のメンバーを入れましょう。一応僕の実力テスト中でしょう?」

 

「あぁ。そうだな。矢部。SFに入ってくれ。」

 

望月が声をかけ、再びゲームが再開した。


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