灰崎を活かせ   作:隣のポパロン

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おかしなところがあったら教えてくれると嬉しいです。



第1Q

「はぁー…。ダリィ…。上の学年も居なくなったかー…。チッ。辞めどきかネェ…。」

 

灰崎は授業をサボって屋上で寝転がり、そんなことを呟きながら1日を過ごして居た。黄瀬に負けた日から、ごく稀にしか顔を出していなかったバスケ部には全く行かなくなっていた。

 

「あれ?バスケ辞めちゃうんですか?それは困ったなー…。」

 

「ァン?」

 

誰も居ないはずの屋上で声が聞こえ、灰崎は寝転がったまま目だけを声のする方へ向けた。

 

(女…?ちげぇな、男用の制服か。身長は175cm無いくらいか。珍しい容姿をしてやがる。髪も肌も真っ白だな。髪の長さは肩口。やっぱり女にしか見えねえ。いや、んなことより…。)

 

「テメェ、帝光中か?中坊が何でこんなとこにいんだよ。」

 

灰崎は上体を起こして足を組み、怪訝そうな顔をで、かつて自分も着ていた帝光中の制服を着た相手を見た。

 

「ちょっと、睨むのは辞めてくださいよ。灰崎さん。今日は学校見学の日ですよ?自分の志望校ぐらい見に行くでしょう?」

 

「チッ、ならとっとと見学に行けよ。屋上なんかに用はねぇだろうが。」

 

灰崎は再び寝転がり、もう話は終わった、と言うふうに、目を閉じて寝る体勢に入った。

 

「屋上に用があって来たんじゃありませんよ。貴方に用があったんです。」

 

「ハァ?俺に?悪いが男は抱けねえぜ。」

 

帝光中の少年は一瞬だけキョトンとし、少し頬を緩めた。

 

「フフフ。そうですか。まぁ、それについては追い追い話すとして、今はその話じゃありません。灰崎さん。バスケ部辞めちゃうんですか?」

 

「否定しろや…。俺がどうしようとオメェには関係ねぇだろうが。」

 

灰崎は身体を起こすと、鬱陶しそうに帝光中の男子生徒を見て、その横を通り過ぎようとする。

 

「いえ、関係ありますよ。僕、来年ここに入学して、バスケ部に入る予定なんですけど、灰崎さんが居ないとキセキの世代を倒せないじゃないですか。まぁ、それも二番煎じですけど。」

 

「アァ?キセキの世代を倒すだァ?テメェ如きじゃアイツらはやれねぇよ。」

 

「あれ?見てもないのに随分なこと言ってくれますね。僕も一年の頃からバスケ部で貴方たちのことを見ていたし、高校入ってからの試合も見に行っていたからよく知っているつもりですよ。」

 

「一年の頃…?俺はお前なんか見たことねぇぞ。」

 

「そりゃ僕が三軍に居たからじゃないですか?」

 

「ハァ?ククク…ヒャハハハハハ!!テメェ、そんなんでアイツらを倒すとか言ってんのかよ。」

 

「僕1人ではキツイですよ。だから貴方も必要だと言っているんじゃないですか。」

 

「うるせぇんだよ。」

 

「ん?」

 

灰崎は立ち上がり、少年の元へ行き、胸倉を掴んだ。

 

「そんな熱血は他所でやれ。ウゼェんだよ。」

 

灰崎は少年を壁に向かって押し退けると、そのまま階段を降りていった。

 

「やれやれ、やっぱり扱い辛いなぁ…。」

 

少年の言葉は誰の耳にも入らず、そのまま消えていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「チッ、さっきのガキは何だ?くそったれ。」

 

灰崎は人のいない場所を探す為に廊下を徘徊していた。

 

「体育館は空いてるっぽいな。あそこで良いか。」

 

灰崎は体育館を目指して歩く。しかし、他のクラスは授業中のため、人目につかないよう校舎から外へ出て、遠回りをして体育館に向かった。灰崎が体育館に到着すると、そこには、先ほどの少年が、バスケットボールを持って立っていた

 

「テメェ…。」

 

「だからそんなに怒らないでくださいよー。ただ貴方とバスケがしたいだけなんですから。」

 

少年は持っていたボールを灰崎に向かって投げ、灰崎がそれをキャッチした。

 

「しましょうよ。1on1。暇でしょう?」

 

「チッ、テメェみてぇな雑魚が相手になるわけねぇだろう。弁えろよ。」

 

「それは僕から点を取ってから言ってください。」

 

「…舐めやがって。」

 

灰崎は受けたボールを地面に向けてバウンドさせる。

 

「格の違いを見せてやるよ。」

 

灰崎は親指をペロリと舐め、ゆっくりと少年に向かって行く。

 

(やっぱり凄い迫力だなぁ。それに隙がない。)

 

2mの距離になると、灰崎はボールを左右につき、少年を翻弄する。

 

()れるもんなら、()ってみやがれ!」

 

灰崎は爆発的に加速し、少年の左手側へ抜きにかかる。

 

(速い…!が…。ついていける!)

 

少年は灰崎の動きについて行き、2人がゴールに向かって横並びになる。

 

(へぇ…。このガキ…。確かに口だけじゃねぇな。足を痛めてたとはいえ、完全模倣を使う前のリョータを振り切った時と同じぐらいのスピードを出してるつもりなんだがな。…まぁ、今はアップしてねえしそれほど出てねえだろうが、それはコイツも同じことだ。だが…。)

 

灰崎はそこから右斜めに向かって進む。

 

(ゴールから離れた。そこからロールで内側に切り込むつもりですかね?それとも緩急を使って僕を振り切ってからドライブしてくるか…。この人の性格上、1on1で外から打つことはないと思うけど…。)

 

灰崎はそこから急停止し、ロールを決めながら内へと切り込んだ。

 

(やはりそうきたか!だけど行かせない!)

 

少年は灰崎の進行方向へと入る。しかし

 

「甘えんだよ!」

 

「っ!レッグスルー!」

 

灰崎はロールで切り返した後、フェイクを入れてレッグスルーで切り返し、少年のバランスを崩した。

 

(今の爆発的な加速力、トップスピード、減速力。キセキの世代ほぼ遜色ない。いや、このドリブルなら寧ろ抜けてもおかしくない。)

 

「ケッ、こんなもんかよ。終わりだ。」

 

灰崎はダンクをしようと飛び上がる。が、

 

「まだですよっ!!」

 

少年もすぐに体勢を立て直し、ブロックをする。

 

(このガキ、なんて跳躍力だ。そんなに高く飛んでねえとはいえ。つーかこのガキ、この俺と力勝負だと?舐めるな…っ!?何だこの力は!?)

 

少年は手首を返すと、軽々とボールを弾いた。

 

「アァ?」

 

ボールは灰崎の手から離れ、壁に転がっていった。

 

「テメェ…。どこにそんな力を隠してやがる。」

 

「どこにって言われても、手首ですけど。」

 

「チッ、この俺がパワー負けだと?ふざけやがって。」

 

「仕方ないじゃないですか。赤司さんの天帝の眼対策に必要だったんですから。少し卑怯ですけど、この腕のサポーターもね。」

 

「どう言う事だ?」

 

「それを言うには少しお願いがあるんですけど。」

 

「ハァ?俺が答えろって言ってんだろうが。答えろよ。」

 

「だから、その代わりにお願いしたいことがあるんですって。」

 

「…チッ。んだよ?」

 

「春まで待てないので、できるだけ早く僕をここの部活に参加できるようにしてください。推薦で決まっているし、部活見学も認められているそうなので問題ないはずです。」

 

「ハァ?だったらテメェが行けよ。何でいちいちテメェ1人で出来ることをこの俺が手伝わなきゃ何ねえんだ?」

 

「簡単な事ですよ。僕一人で行ったら舐められちゃうでしょう?ほら、僕って女の子に負けないくらい美人だし。だけど、貴方からの紹介なら別です。それなりの地位が初めから手に入る。どっちも結果は同じだとしても、過程が違う。ならより早く確実に出来る方を選んだだけです。それに…実力は見せたでしょう?」

 

「…ふざけた野郎だ。俺が呆れるなんて相当な奴だぜ。」

 

「ありがとうございます!では早速今日からお願いしますね。放課後また体育館に来ます。」

 

少年は灰崎にそう言い残すと、そのまま荷物を持って体育館を去った。

 

「チッ、気に食わねえ野郎だ。つーか、あいつの名前知らねえや。まぁ、いいか。」

 

キーンコーンカーンコーン

 

「昼か。あのハゲが新キャプテンだったな。」

 

 

灰崎は2年の教室に向かって歩き出した。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ガラガラ

 

「おい、あれ。灰崎って奴じゃねえか?」

「うわ、マジだ。何で一年のあいつが2年の教室に来るんだよ?」

「俺が知るわけねえだろ。」

 

ザワザワ ザワザワ

 

(チッ、うるせえカスどもだ。あそこか…。)

 

「おい。」

 

「な、何だ?灰崎。」

 

「ちょっと来い。」

 

灰崎は、福田総合高校バスケ部新キャプテンの望月和宏を呼び出した。二人は教室を出て、階段の踊り場へと向かった。

 

「それで…何の用なんだ?灰崎。」

 

「…今日から。推薦でここの入学が決まってる中坊を一人連れてく。練習参加させろ。」

 

「中学生?誰なんだそいつは?」

 

「帝光中の奴だ。名前は知らね。今日来るっつーから。それじゃあな。顧問に言っとけよ。」

 

灰崎はそれだけ言うと、屋上へと戻って行った。

 

「帝光中…。また帝光中か…。」

 

望月は胃をさすりながら教室へと戻って行った。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「初めまして、今日から部活に参加させてもらいます。白木 (しろき) ( みなと)と言います。ポジションはPGです。推薦でこの学校の入学を決めていますので、来年から正式に入部しますが、待ちきれなかったので今日から参加させていただくことになりました。気軽にシロちゃんって呼んでくださいね。」

 

少年もとい白木 湊が挨拶を済ませると、部員たちが小声でヒソヒソと話す。

 

「あいつ男?だよな。女みてえだな。」

「おい、あいつ灰崎の知り合いらしいぞ。あんまりそういうこと言わねえ方がいい。」

「マジかよ…。でも肝心の灰崎が居なくねえか?」

「いつものことだろ。いる方が珍しいっての。」

 

すると、スキンヘッドの男が白木の前に出る。

 

「あ、あぁ。よろしく頼む。俺はキャプテンの望月 和宏だ。わからないことがあったら気軽に聞いてくれ。」

 

「はい、よろしくお願いしますね!キャプテン!では、早速お願いがあるんですけど良いですか?」

 

「ん、なんだ?」

 

「今日は僕の実力を見て欲しいので、ゲームを沢山しましょう。」

 

「あぁ、そうだな。じゃあ早速アップをしてゲーム準備をしよう。」

 

望月がそう言うと、部員たちが返事をして動き始めた。

 

「あと、キャプテン。灰崎さんはそんなに練習に出てないんですか?」

 

「あぁ、月に2度くれば良い方だ。それに、来たとしても隅で女とイチャついてるだけだが。」

 

(うわぁ…前々から思ってたけどクズだなぁあの人…。)

 

「そうだったんですか。では灰崎さんを呼んで来ます。校内に残っていると思うので。」

 

「お、おい!」

 

白木はそのまま体育館を出て行った。

 

(確かに、西校舎に空き教室が沢山あったはず…。女の子とイチャイチャするなら屋上よりも空き教室だよね。)

 

白木は西校舎まで行き、一階から順に空き教室を1つ1つ調べて行った。

 

「あ、いた。」

 

教室の中を覗くと、灰崎が、一人の女を膝に乗せ、服の中に手を入れていた。

 

(ヤダなぁ…。こういう空気の中に入るのは。)

 

白木はうんざりしながらも、教室のドアを開け、中へと入って行った。

 

「灰崎さん。誰ですかその女。」

 

「え?」

 

「アァ?」

 

「灰崎さん。やっぱり浮気してたんですね。酷いです……うっ…ヒック…。」

 

白木は両手で顔を覆い、その場にしゃがみ込んだ。

 

「ちょ、待てテメェ。」

 

「灰崎君。どういうこと?彼女いないんじゃなかったの?」

 

「ちょっと待て!あいつは…!」

 

「さようなら。貴女もごめんなさいね。」

 

女はそう言うと荷物をさっさとまとめて教室を出て行ってしまった。

 

「テメェ…。よっぽど殺されたいらしいなぁ。」

 

灰崎は座っていた椅子から立ち上がり、白木の前に立った。

 

「後でちゃんと弁解しておきますよ。それよりもなんで部活に来ないんですか?貴方がいないと意味ないって行ってるじゃないですか。」

 

「ハァ?何でテメェに命令されて行かなきゃなんねえんだよ?」

 

「別に命令なんてしてないですよ。それに、灰崎さん。バスケ嫌いじゃないんでしょう?」

 

「……つくづく訳の分からねえ野郎だな。何を勘違いしてるのか知らねえが、中学の頃辞めたのは嫌いになったからだ。高校になって始めたのは俺が辞めてからキセキの世代だの何だのって騒がれ始めたからそれを奪ってやろうと思っただけだ。」

 

「なら、どうして黄瀬さんとの試合の後、バッシュ捨てるよ辞めたんですか?」

 

「……テメェ。」

 

灰崎はここに来て怒りから別の感情が顔に見え始めた。

 

「怖いから睨まないでください。それにその前。青峰さんに殴られた後、どうしてすぐに起き上がって殴り返さなかったんですか?貴方がパンチ一撃で伸びる程貧弱じゃないのはよく知っていますよ。」

 

「目障りだ。失せろ。」

 

灰崎は白木の横を通り抜け、教室から出ようとする。

 

「やりましょうよバスケ。」

 

「テメェ…。テツヤみてえだな。いちいちうぜえんだよ。」

 

「黒子先輩は僕の師ですからね。あっちは別に何かしたとは思ってないと思いますが。黒子先輩とあってから2年間。彼から諦めない姿勢を教わりました。だから、キセキの世代に勝つことも諦めないし、貴方と一緒にバスケをすることも諦めません。」

 

灰崎と白木は数秒の間見つめ合うと、灰崎が目を逸らして額に手をやった。

 

「俺を怒らせて過ぎて呆れさした奴はお前が初めてだわ。マジで。」

 

「じゃあ、行きましょうよ。暇でしょう?」

 

「…チッ。足引っ張ったら殺すからな。」

 

「はい♫」

 

「あと、さっきの女に弁解しとけよ。」

 

「あぁ。はいはい。」

 

「それとテメェの名前は何だ?」

 

「僕はさ白木 湊です。シロちゃんって呼んでね☆」

 

「黙れカス。」

 

「酷い!」

 

二人はそのまま体育館へと向かっていった。


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