真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第八十二話

 

 

 

 

恐らく撤退の殿の役目をしに来たであろう顔良。それが偶々、俺が居た部隊の近くに来たから俺の部隊で対応したのだが……

 

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「師匠や華雄さんに比べたら楽勝ッス!」

 

 

大河や魏の兵士達が顔良の部下達を倒し……

 

 

「ふん……中々やるようだが……私の敵ではないな」

「くっ……こんなに強いなんて……」

 

 

華雄が顔良を追い詰めていた。いやー……マジで俺、何もしてないよ。しっかし二重の意味で予想外だった。

大河は修行の効果が早くも出始めてる。俺と組手をした時よりも遥かに素早く、そして的確に相手を倒している。

そして華雄は顔良との戦いの最中でも兵士達に指示を出し、周囲を見ながら戦っていた。元々、猪武者と呼ばれていた華雄だけど、警備隊の仕事をさせて落ち着いて辺りを見る事を覚えさせたら、指揮官としての働きが凄い事になった。

俺……師匠や警備隊の副長として誇れる部分無くなってるなぁ……外は晴れてる筈なのに頬に雨の滴が流れそう。

 

 

「む、どうした秋月?取り敢えず顔良は気絶させて縛っておいたぞ」

「師匠、顔良さんの部隊の方々ある程度倒したら皆さん逃げてったッス」

 

 

ここまでくると、この涙は顔良宛の気がしてきた。袁紹の軍の練度が低いのは聞いてたけど、将軍置いて逃げるかね普通。

 

 

「わかった……大将の指示も聞かなきゃだから顔良は俺の天幕に運んどいて」

「副長、曹操様が来る前に手を出されるとお怒りを……痛っ!」

 

 

相も変わらず誤解されたままの種馬疑惑を信じる部下を殴った俺は間違っていない筈。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆side顔良◆◇

 

 

 

なんで文ちゃんは言うことを聞いてくれないんだろう……私や田豊ちゃんや軍師の皆さんが決めた戦術を無視して突撃。

全軍を石鎚のように固めて前進するって言ったのに『任せろ、アタイが全部、切り裂けばいいんだ』って言って突撃して行った。他の隊に援護を行かせようとしたら曹操軍の新兵器みたいな物から大岩が飛んできて戦線はボロボロ。

田豊ちゃんに麗羽様を任せて私は隊を引き連れて前に出ようとした。

そしたら曹操軍の夏候惇将軍や元董卓軍の呂布将軍が突撃してきて隊は離散した。今まで見たこともないくらいにアッサリと。

 

 

「顔将軍、指示を!」

「……あ、はい!部隊を固め、そして前進!文醜部隊と合流の後に撤退を!」

 

 

それでもなんとかしようと部下に指示を出し、せめて麗羽様の撤退する時間と文ちゃんを助けに行かなきゃ。

まずは助けてから、それから考えよう、今後のことを。

でも、私の考えは打ち砕かれる。

 

 

「顔将軍、部隊が散り散りになり、逃げ出す者達が!」

「袁紹様は真っ先に逃げてしまわれました!」

「袁術様の部隊と連絡が取れません!」

 

 

次々に飛んでくる報告に私は目眩がした。田豊ちゃんは麗羽様を押さえ切れなかったのかな?麗羽様は私達に全部押し付けて逃げちゃったのかな?袁術様はどうしたんだろう。きっと逃げちゃったんだね。

私がそれでも戦線を何とか一角でも切り崩そうと部隊を動かしたら、そこには元董卓軍の華雄将軍に……秋月さん。

 

 

「ほほぅ……後詰めで退屈していた所だ。私が相手をしよう」

 

 

そう告げた華雄将軍は大斧を私に向ける。その闘気は反董卓連合の時とは比べ物にならない程に高まっていた。

 

 

「華雄……顔良は……」

「ふっ……わかってるよ。出来る限り生け捕りにするさ」

 

 

秋月さんの問いに華雄将軍は私から視線を逸らさずに答えた。私を生け捕りにするって……いくらなんでも私を甘く見すぎです!

 

 

「はぁぁぁぁっ!」

「遅いっ!」

 

 

私は大槌を振りかざし、華雄将軍を押さえ付けようとしたけど叶わなかった。華雄将軍は大斧で私の大槌の軌道を変えると、そのまま大斧の柄で私を殴り飛ばす。

 

 

「かはっ……まだ!」

「遅いと言っただろう!」

 

 

一撃貰ったけど、この程度なら問題ない。私は大槌を横薙ぎに振るうが華雄将軍は無理に受け止めず、間合いを詰めて大槌が振り抜かれる前に私の胸に掌底を叩き込んできた。予想外の攻撃に私は勢いを殺せずに吹き飛ばされてしまった。

 

 

「その程度か?華雄隊は顔良の部隊を包囲しつつ、殲滅しろ。深追いはするなよ!」

「あ……ぐ……」

 

 

殴り飛ばされた私は大槌を杖代わりになんとか立ち上がるけど、華雄将軍の重い一撃に体は参っていた。そんな私を余所に華雄将軍は部下に指示を出している。反董卓連合の時とはもう別人かと思う。

そして秋月さんの近くにいる少年は凄い早さで私の部下を倒していく。もう……駄目なのかな……

 

 

「ふん……中々やるようだが……私の敵ではないな」

「くっ……こんなに強いなんて……」

 

 

私はもう……どうしたら良いのかわからなかった。文ちゃんは居ない。麗羽様は逃げちゃった。私はなんで戦ってるんだろう……そんな私の隙を突いて華雄将軍は私の腹部に拳を入れた。

 

 

「秋月からの頼まれ事でもあるからな命は取らん。少し眠れ」

 

 

華雄将軍は力の入らなくなった私の手を縛ると肩に担ぐ。朦朧としている意識の中で私は秋月さんと華雄将軍の会話を聞いていた。

 

 

「む、どうした秋月?取り敢えず顔良は気絶させて縛っておいたぞ」

「師匠、顔良さんの部隊の方々ある程度倒したら皆さん逃げてったッス」

 

 

華雄将軍とさっきの男の子かな?秋月さん、師匠って呼ばれてるんだ。

 

 

「わかった……大将の指示も聞かなきゃだから顔良は俺の天幕に運んどいて」

「副長、曹操様が来る前に手を出されるとお怒りを……痛っ!」

 

 

華雄将軍の肩で揺られながら話を聞いてるけど……秋月さんってやっぱり種馬のなのかな?噂は本当なんだ。

 

 

「ったく……今度、本格的に噂の出所を確かめるか。華雄、後詰めの指揮を頼む。俺は顔良を天幕で休ませてから大将の所に行くから」

「うむ、心得た」

 

 

華雄将軍は肩から私を下ろすと秋月さんに渡したみたい。クラクラする……もう意識が飛びそう……

 

 

「ったく……なんで、こんな疲れた顔してるんだか……大将の所に行くまで時間があるから少しでも休んでくれよ」

 

 

そう言って私の頬に手が添えられる。意識が朦朧としてるけど、それは秋月さんの手だとすぐにわかった。

 

 

なんだろう……秋月さんの手は暖かくて……心地好くて……

 

 

私の意識はそこで途絶えた。

 

 

 


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