はて……どうして、こうなった?
俺と恋、一刀と春蘭が戦う事になってから30分程しか経過していないのに観客席から実況席まで出来上がってる。
警備隊の連中も警邏に出てる奴以外は全員揃って見に来てるみたいだし。いや、警備隊だけじゃなく、城の中の者が殆どギャラリーとして来ているな、この人数だと。
「さぁーて、これから始まります御前試合。実況は私、皆の妹事、地和がお送りします!解説は華琳様と桂花様!」
「よろしく、お願いするわ」
「どっちも死ねばいいのに」
地和は最近、実況が板に着いたな。大将は兎も角、桂花は単なる野次……と言うか罵倒だ。
「さぁて!今回皆様にお送りする対戦は……魏の大剣と名高い春蘭様!対するは魏の種馬、北郷一刀だー!」
「フハハハー!北郷など、一撃で倒して見せるわ!」
「いや、完全武装!?」
ノリノリの紹介に春蘭は乗り気な対応をしている。
と言うか春蘭、フル装備だよ。完全に戦に行く体勢だよアレ。
対して一刀は少々ボロい鎧に木刀。しかも、あの鎧って一刀が警備隊に入ったばかりの頃に先輩から貰ったお下がりって聞いてるし。
この状況……なんつーか、ライオンの前にチワワが居る錯覚が見えるんだが。
だが、俺も人の事は言ってられない。なんせ相手が……
「………………」
ポヤンとした顔で俺を上目使いに眺める少女。この子が天下の飛将軍などと誰が思うのだろうか。
いや、しかし油断など出来ない。俺は直接確かめた訳じゃないが恋は黄巾の本隊三万を一人で相手をしたと聞く。最初は『んな、バカな』等と笑ったが今は笑えない。
なんせ、さっき地和が顔を会わせた時に、めちゃくちゃビビってた。それは即ち、先程の話が偽りじゃないと確信を持つのには十分すぎる証拠だ。どうりで、このお祭り騒ぎに天和が騒がないわけだよ。怖がって萎縮してるんだもん。人和は冷や汗、流してたし。
まあ……今、冷や汗を流したいのは俺や一刀な訳だが。
一刀と春蘭の戦いが始まったか。まあ、予想通り、一刀が春蘭に追いかけ回されている。だが、なんやかんやで春蘭の太刀を避けているのだから大したもんだ。
明らかに一刀が不利な状況から、大将の発案でハンデが付いた。
それは『一刀は春蘭に一撃を与えたら勝ち。逆に春蘭は一刀を完全に倒さねば勝ちにはならない』とまあ、物凄いハンデだ。
だが、春蘭相手ではこのハンデも意味を成さないだろう。
「どうした、北郷!華琳様に出された条件なら私に勝てると思ったか!?」
「どわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
春蘭の大剣が一刀の頭上を掠める。頑張れ、一刀。生きて帰ったら今夜は俺が酒を奢ろう。
そして、決着の時は来た。
「あ、アレはなんだ!?」
「バカめ、そんな手に引っ掛かるか!」
一刀は春蘭の背後を指差しながら叫ぶ。流石の春蘭もそこまでバカじゃなかったか。
「あ、華琳が色っぽい姿に!」
「なんだとっ!?」
あ、今度はアッサリと引っ掛かった。大将が絡むと頭のネジが緩むな春蘭。
そして、その隙を突いて一刀の軽い一撃が春蘭に当たった。それは即ち、一刀の勝利を意味する。
その後、春蘭は今の戦いを抗議したが一度、決着した戦いに異論を挟むなと大将の鶴の一声で終わる。
さて……次は俺の番か。
「双方、前へ!」
「………ん」
「………応」
審判をしている霞の声で俺と恋は向かい合って互いを見る。
恋の右手には専用の武器の方天戟。さて、どうするか……いや、恋を相手に小細工は無用か。
「始め!」
霞の合図が出たと同時に俺は両手を既に腰元に構えていた。先手必勝!
「波ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「ちょ、いきなりかいなっ!?」
俺が溜め無しで放った、かめはめ波に霞は驚きながら数歩引いた。流石にあの距離では自らも巻き込まれると思ったのか良い判断だ。
「…………ん」
対する恋は迫るかめはめ波に左手を翳して……って、まさか!?
なんと恋は左手で俺のかめはめ波を受け止めると、そのまま左後方へと投げ飛ばしてしまった。
あまりの光景に俺は疎か、周囲のギャラリーでさえ静まり返ってしまっている。
「少し……痺れた」
「あ……そ、そう」
俺が不意打ちに近い状況で全力で放った、かめはめ波は恋の左手を少し痺れさせる効果しかなかった様だ。
これは俺のかめはめ波が弱いのか、恋の戦闘力が桁外れなのか……いや、考える暇は無さそうだ。
「次は……恋が行く」
方天戟を右手で構える恋に俺は『私の戦闘力は53万です』と何故か幻聴が聞こえた。