真・恋姫†無双 北郷警備隊副長   作:残月

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第百八十四話

 

 

報告では、沙和達が怪しいと思っていた連中が夜に紛れて行動を起こしたとの事だ。そして風向きが変わった頃に火を放ち、魏の部隊を内側からかき乱そうとしたらしいが、俺達はその事を予想していたので対応が早く出来た。

そして暴れ始めた黄蓋さんの部隊も魏の兵士の鎧を着ていて混乱を招いたが、俺達は打ち合わせ通り、黄色い布を巻いていない兵士を重点的に攻撃した。

 

そして火を放たれて燃えている船に関しては俺や凪、大河が担当となっていた。それと言うのも……

 

 

「かめはめ……波ぁぁぁぁぁぁっ!」

「はぁぁぁぁぁぁっ!」

「魔閃光っ!」

 

 

気を使える俺達は、気弾で燃え盛る船や半壊した船を破壊しまくった。更に気弾の爆風で周囲の火も消した。

しかも真桜の特注鎖で簡単に船を繋いでいた鎖を外せるので、二次被害は起きない様になっている。

 

 

「くっ……く、くくく……はははははっ!」

 

 

その光景に唖然としていた黄蓋さんだったが突如、笑い始めた。

 

 

「まさか、ここまでとはな。曹操の……いや、魏の者共を侮っておったか。甘く見たつもりはなかったがな」

「……黄蓋さん」

 

 

自嘲気味に笑い飛ばしていた黄蓋さん。そしてその笑みは消え此方を睨む。

 

 

「曹孟徳、聞こえるか!我が計略、ここまで完璧に破られるとは思わなかったぞ、見事じゃ!」

「敵将でありながら、私の眼前まで現れた事は誉めてあげるわ。それにあれほどの大胆無比な作戦の事もね」

 

 

黄蓋さんの叫びに応えるかのように大将が姿を現す。おいおい、不用心だな。

 

 

「華琳様!」

「このような場所に……危のうございます、華琳様!」

 

 

突然、現れた大将に慌てる凪と桂花。俺も不用心とは思ったけど大将が護衛も無しに出てくるとは思わなかった。

 

 

「その呉の宿将も私の手のひらで踊っていただけに過ぎないのよ」

 

 

いやぁ……大将相手なら大概の人間は踊ると思うわ。

 

 

 

「敵将の前に姿を見せるか、曹孟徳。その余裕も……」

「余裕なんはウチが居るからや。それに此処には頼りになる将も天の御使いもおるんやで。これ以上に安全な所があるんか?」

 

 

そう言って黄蓋さんのセリフを遮ったのは霞だった。自分の事だけじゃなく周囲の者まで持ち上げるとは……テレるね。

 

 

「何をヒヨッコが……と言いたいが違うな。雛と見ていた者は皆、良き目付きになっておる」

 

 

そう言って黄蓋さんは俺達を見渡す。何一つ油断しないと言う鋭さを持った瞳だった。

 

 

「甘く見たつもりも、侮ったつもりもなかったが……ワシの目も曇っておったか」

 

 

そう言って黄蓋さんは弓を構えた。まだ戦うと言う意思だ。それを合図に再び戦いは始まるが多勢に無勢。いくら呉の精鋭であったとしても、歴戦の武将だとしてもいずれは力尽きる。

 

そして決着は着いた。苦戦はさせられたが黄蓋さんの部隊を殆ど壊滅させ、黄蓋さん自身も満身創痍の状態だ。

 

 

「黄蓋様、お逃げください!」

「我等が潰えても黄蓋様だけでも……ぐあっ!」

 

 

俺は聞こえてくる黄蓋さんの部隊の悲鳴を聞きながら、体の中でも気を溜めていた。これから起きる事の為にも必要だから。

 

 

「……大人しく降参なさい。あなたほどの名将、ここで散らせるのは惜しいわ」

「……ぬかせっ!我が身命の全てはこの江東、この孫呉、そして孫家の娘達の為にある!」

 

 

大将と黄蓋さんの話を聞きながら俺は屈伸をしていた。大将も俺をチラリと見て溜め息を吐いた。俺が何をする気なのか既にわかっているからだ。

 

 

「貴様らになど、我が髪の毛一房たりとも遺しはするものか!」

「黄蓋!」

 

 

叫ぶ黄蓋さんに名を呼ぶ春蘭。対峙しているとは言っても春蘭と黄蓋さんは少し繋がりがあった。だからこそ黄蓋さんが死ぬ事をなんとかしたいのだろう。

 

 

「黄蓋様……なりません、あなただけでも……」

「くそ……我等では……」

 

 

そして黄蓋さんの乗っている船では、傷付いた呉の兵士達が黄蓋さんだけでも逃がそうと考えている会話をしている。

 

 

「……孫策が来たか」

 

 

大将の呟きと視線の先には呉の船団が迫ってきていた。本来なら火計が上手くいって、このタイミングで黄蓋さんを助けるつもりだったんだろうけど、俺達の対応が早かったから出遅れたんだな。

 

 

「祭!」

「黄蓋殿!」

「おお、冥琳か!策殿も!」

 

 

その呉の船団から孫策と周瑜が顔を出す。

 

 

「こ……祭殿、ご無事か!?」

「無事なものか……お主と知恵を絞って考えた苦肉の計略も曹操に面白いように見抜かれたわ」

 

 

黄蓋さんは笑っていた。その会話を楽しむ様に。

 

 

「しかし……無事なら何よりです!早く、お戻り下さい!」

「それは……ちと難しいの」

 

 

周瑜は黄蓋さんに脱出を促すが、黄蓋さんの船と孫策達の船では距離が開きすぎている。普通なら脱出は無理だろう。

 

 

「大将」

「言った筈よ。約束は守りなさい」

 

 

俺が大将に歩み寄り声を掛けたら、振り向きもせずに返事を返された。んじゃ、約束を守る範囲で無茶をしますかね。

俺が大将と話している間に、黄蓋さんは呉の各人と別れのような言葉を交わしていた。

 

 

「小蓮様にも黄蓋秘伝の手練手管をご教授したかったのじゃがな……」

「そんなの、これから教えてくれればいいんじゃない!祭より、ずっといい女になってやるんだから……ちゃんと教えなさいよぉ……ぐすっ……教えてよぉ……」

 

 

黄蓋さんと話をしているのは多分、孫家の末娘の孫尚香なのだろう。既に大粒の涙を流している。

 

 

「皆、祭を助けるわよ!総員……」

「来るなっ!ぐうっ……」

 

 

孫策が黄蓋さんを助けようと号令を掛けようとしたが、黄蓋さんがそれを遮った。

 

 

「聞けぃ!愛しき孫呉の若者達よ!聞け、そして目に焼き付けよ!我が身、我が血、我が魂魄!その全てを我が愛する孫呉の為に捧げよう!この老躯、孫呉の礎となろう!我が人生に何の後悔があろうか!」

 

 

黄蓋さんの叫びに俺は思わず止まってしまう。本当にこれで良いのかと。

 

 

「純一、事を成すなら躊躇いは禁物よ。でないと……機を逃すわ」

「そうだな……」

 

 

大将の言葉にハッと意識を取り戻す。よし、覚悟完了。後は駆けるのみ!

 

 

「呉を背負う若者よ!孫文台の立てた時代の呉はワシの死で終わる!じゃが、これからはお主らの望む呉を築いていくのだ思うがままに、皆の力で」

 

 

俺は黄蓋さんの言葉を聞きながら上着を脱いでYシャツになると、上着を桂花に投げ渡した。

 

 

「え、ちょっと秋月!?」

「少し、行ってくるわ」

 

 

俺は驚く桂花を尻目に船の縁に足を掛けた。そして気を足に込めて一気に解き放ちジャンプした。目指すは黄蓋さんの船!

 

 

「しかし、忘れるな!お主らの足元には、呉の礎となった無数の英霊達が眠っている事を!そしてお主らを常に見守っている事を!我も今より、英霊の末席を穢すことになる!」

 

 

黄蓋さんはもう既に満身創痍。だったら今の俺にも可能な筈!

 

 

「夏候淵、ワシを討て!そしてワシの愚かな失策を戦場で死んだという誉れで……」

「着地!」

 

 

俺は黄蓋さんの言葉を遮る様に黄蓋さんの船に着地した。気を込めた大ジャンプってやっぱり怖いな!

 

 

「なっ……お主!?」

「大人しくしてもらおうか黄蓋さん」

 

 

突如乱入してきた俺に黄蓋さんは警戒するが、満身創痍の状態じゃ抵抗できまい。

 

 

「ふっ……そうか、無理にでも曹操の所へと引き連れるつもりか?」

「貴女が行く場所は……決まってんだろ」

 

 

俺は弓を杖の様に支えて立っていた黄蓋さんを抱きしめると、足を払って横抱きの体勢にする。

 

 

「ま、待て!何をする気じゃ!?」

「行くぞ!」

 

 

俺は黄蓋さんを抱き抱えたまま走り出す。目指すは……孫策の船だ。

 


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