私とキリト君の出会いの物語   作:SAO映画記念

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私の友達

私はナーブギアを頭から外して病院に向かうための仕度を始めた。引きこもりなんてやっているけど一応社長令嬢なのだ。上下スウェットで行くわけにも行かない。

 

「はぁ。めんどくさい」

 

自分が気になって聞いた結果なのだが、内心行かなくても良いかななんて考えていた。今の私の頭には仮想現実空間VRMMORPGのゲーム。通称『ユグドラシル』の事しかなかった。

 

だけど気になることが1つだけあった。私が行かないと決めきれていない理由。それはお父さんの態度だった。まさか電話に出てくれるなんて思いもしなかったし、まともに受け答えしてくれるとは思ってなかった。

 

時間は刻々と過ぎていき自分の服装も段々と表を歩けるようになってきた。薄着に白いロングのワンピースを着て、下はショートパンツ。この格好白いロングのワンピースしか殆ど見えないから着るのに凄く楽なので重宝している。髪の毛もアイロンで整える。と言っても紫外線に当たらない、室内にいるせいか髪は全然痛んでいないのでアイロンをかける必要がないほどサラサラなのだが。

 

準備は整った。財布には数枚の札束とカード。そして携帯を持って家の前に停まってある黒塗りのベンツに乗り込んだ。

 

「お嬢様、お久し振りでございます」

 

この人は黒川。うちの専属の執事をやってくれている人で基本的に.....黒い。何もかもが。まぁでも悪い人ではない。たぶん....きっと。

 

「黒川。何が言いたいの?ハッキリ言っても良いよ」

 

「それでは僭越ながら。お嬢様がお部屋でニーT....いえ失礼。引きこもっておいでになってる間、暇で暇で仕方なかったものですから。つい」

 

ニートって良いかけたよね?この執事。というか引きこもりって言い直してるけど変わらなくない?

 

「そう。なら私なんかに付かなくて、お父さんや母に付けば良いじゃない。貴方ほどの腕前なら直接お父さんに直談判くらい簡単でしょ?」

 

黒川は性格(私だけ)に難があるが、あまりに優秀で何をやらせても何でもできてしまう。なのでお父さんからの信用も有ると聞いたことがある。だからこそ分からない。何故私なんかの執事なんかやっているのか。

 

「後戯れを....。私程度ではお嬢様の御世話が精一杯でございます」

 

「あのさ、前から思ってたんだけど。あんたの敬語。私にだけ変じゃない?」

 

「左様でございますか?これはこれは.....私も勉強不足でした。まさかお嬢様は敬語も御理解頂けていなかったとは」

 

「いやいや違うから、ねえ知ってる?」

 

「何でございますか?豆芝でございましょうか?」

 

この問いに答えられるなんて流石何でもできる執事黒川だ。

 

「敬語の敬ってうやまうって書くんだよ?貴方は私にうやまいを持ってる?」

 

「・・・はっ!」

 

何を考えていたのか一瞬フリーズしたかと思えば急に再起動した黒川に驚く。

 

「な、なによ....ビックリするじゃない」

 

「まさか、お嬢様に言い負かされてしまう日が来てしまうとは....この黒川。一生の不覚でございます」

 

うん、つまりあれか?私に敬いの心はないと?もうやっぱりこいつ嫌いだ!

 

「はぁ...疲れるからもう....」

 

「でも.......お慕い申しております」

 

「っ........」

 

突然のこの言葉はずるいと思う。ほんとこう言うところが苦手だ。

 

「あれー?お嬢様、もしかして照れてますか?」

 

「うるさい!」

 

やっぱり嫌い、かも。

 

 

 

 

 

 

 

「んーーー。今日は楽しかったなぁ。kanaお姉さんと友達になれたし」

 

「あら、紺野さん。今日は随分と嬉しそうだけど何かあったのかしら?」

 

「狩野さん!あのねっ、あのねっ!ゲームの中ですっごく優しい人にあったの!もう!ほんとに楽しかったなぁ」

 

狩野さんはナースの仕事を始めてから15年立つというベテランさん。なのにまだ20代に見える容姿を兼ね備えた非の打ち所がないような人で現在ある病気を抱えたボクの担当ナースだ。

 

「そう。それは良かったわね。さあて、それじゃあ元気に献血といきましょうか?」

 

「うへぇ....ボクそれ嫌いだよ。チクって痛いから」

 

「でも大切なことなのよ?」

 

「それは分かってるんだけどさあ...。痛いのは苦手なんだよ」

 

「誰だって苦手です。ほらなるべく痛くしないように頑張るから、ね?」

 

「前から思ってたんだけど狩野さんって何歳なんですか?」

 

「それは秘密です」

 

「ええーっ。じゃあ、好きな人とかっていn」

 

「いないわよ?」

 

最後まで聞く前に言われてしまった。怖いっ!怖すぎるよ!でもこんなにモテそうなのにどうして浮いた話とか聞かないんだろう。

 

「さあ。右手を出してね」

 

「はーい」

 

「ほら震えないの。手元が狂うでしょ」

 

「狩野さん....それは冗談にしても」

 

「あらそう?気が紛れると思ったんだけど」

 

「はあ...嫌だなぁ....て、あれ?」

 

「はい、終わり。お疲れさまでした」

 

「痛くなかった....どうして?」

 

「何年この仕事やってると思ってるのよ」

 

「15年だっけ?」

 

「そうそう月日が立つのは早くて早くて...ううっ」

 

「ああ!ごめんごめん!狩野さん、まだまだ若いから大丈夫だよ!元気だしてっ!」

 

「そうかしら?」

 

「うん!ボクが保証するよ!」

 

「それなら安心ね。あっ、それより今日紺野さんに会いたいって子が来るらしくてね」

 

「え、ボクに?」

 

「なんでも紺野さんと同い年の女の子みたいなんだけどどうする?体調が優れないって言えば会わなくてすむけど」

 

「うーん.....。うん!その子と会ってみるよ!」

 

「でも、良いの?色々聞かれるかも知れないのよ?」

 

「ボクに会いたいって他に理由ないもんね。でも、同い年の女の子と話す機会なんて滅多にないから少し楽しみなんだ」

 

「そう。それなら後で病院長の方に連絡をいれておくわね。確かお昼頃に来ると思うわ」

 

狩野さんは、病院長に知らせにいくために病室から出ていきボク一人になる。

一人になった病室は静かで時折廊下から聞こえてくる話し声と足音に耳を傾けて雲ひとつ無い空を見上げた。

 

「ボクと同い年の女の子かぁ....。仲良くなれたらいいな」

 

緊張と不安と期待が入り交じった感情で喉が渇いたボクは休憩室にある自動販売機で飲み物を買おうとベットから立ち上がり自分の病室を出た。

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢様着きました」

 

「うん」

 

予想してたより大きな病院で今更ながら緊張してしまう。そもそも私はここに来てどうすれば良いか聞かされていない。手配してくれたと言ってたからここで働いている人に聞けば良いのかな....。でも私が初めての人見て聞けるわけないし。

 

「ね、ねえ?黒川」

 

「何でございましょうか?」

 

「そ、その....一緒に来てはくれないの?」

 

私が車から降りて病院の入り口に向けて歩こうとしても黒川は車から離れようとしない。ただ此方に向かって頭を下げているだけ。私が聞くとゆっくり黒川は頭をあげて笑みを浮かべて言ってくる。

 

「着いてきてほしいのでしょうか?」

 

私の頭の中で何かが切れる音がした。分かっててこう言うこと言ってくるから本当にたちが悪い。

 

「べ、別に着いてきてほしいなんて....思ってないんだから!」

 

「お嬢様。ツンデレは非常に萌えますがここで使われてもあまり意味をなしません。使うべき場所をどうかお間違いにならないようお気を付けてください」

 

「もうっ!煩いわよ!馬鹿っ!」

 

緊張より恥ずかしさが上回った私は、病院の中に速足で入り受付に向けてあるきだした。

 

「お嬢様。どうか頑張って下さい」

 

 

 

 

 

私は病院の中に入ってただいま絶賛迷子中であった。入って5分で迷子とか泣けてくる.....。

 

「はぁ....どうしよう。というかここは何処なの?なんかエレベーター乗ったら余計分からないところに来ちゃったし」

 

私こんなに方向音痴だったっけ?とか考えながら歩いていると一人のナースのお姉さんに話しかけられた。

 

「こんにちは。初めて見るけど誰かの御見舞いですか?」

 

大人っぽくてとても綺麗な人という印象だった。でも、コミュ力0の私にそんなこといきなり言われても困るわけで。

 

「え、えと....その.......」

 

「どうかしましたか?」

 

「え、えーと.....。ごめんなさい!!」

 

私は思わず走り出して逃げてしまいました。逃げている最中に後ろから声が聞こえてきたけどそんなこと関係ない!会話無理!これ絶対!

 

後ろを見て追いかけてこない事を確認して安堵の息をもらしながら壁に寄りかかる。

荒くなった息を整えながら周りを見渡すと休憩スペースなのか、自動販売機が設置してあり簡単ではあるがくつろげるスペースなどが設けられていた。

 

「はぁ....。取り合えずジュースでも買おう」

 

私がジュースを買おうと自動販売機に千円札を入れると入れたはずの千円札は戻ってきて代わりにお釣り不足という文字が書かれていた。

この自動販売機嫌いだ!とか言っても仕方ないので溜め息をつきながらどうしようか困っていると後ろから私を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「どうしたの?」

 

「えっ?えーと....」

 

私は何も言えないまま頭を俯かせて右手で持っている千円札を見ながらここに来たことを後悔していた。

 

「ん?あー。お釣りが無くてお札で買えなかったのか。うん、あるある。この病院、施設はいいんだけどこういうところが行き届いて無いんだよねー」

 

私と同じくらいの女の子だろうか?一人で納得したように言って自動販売機に硬貨だろうか、チャリん、チャリんと何枚か入れて、ごとん、ごとんと2つ何かを買ったようだ。買ったのでここを立ち去ってくれると思った私は、早く何処かに言ってくれと思うだけでずっと頭を下にさげて俯いていた。

 

「はいっ!これあげる!」

 

「え?」

 

私は女の子の声に驚いて顔をあげるとそこにはオレンジジュースが目の前にあった。

 

「あちゃー。ごめんね、飲みたいのこれじゃなかった?」

 

「い、いや違うの。その....どうして?」

 

「ん?どうしてか.......うーん。分からないや」

 

女の子は本当に分からないのか笑顔で笑っている。私にはその笑顔がとても眩しく見えていた。私には絶対こんな純粋で綺麗な笑顔は出来ないと思ったから。

 

「クス」

 

「あー!やっと笑ってくれたっ!良かったぁ。なんか元気無さそうだったから心配したよ」

 

「心配....?」

 

不思議だった。今あったばかりの相手の心配をするなんて考えたことすらなかった私には到底わからない感情だった。

 

「うんっ!あ、そうだ!この後誰かが私を訪ねてくるんだった!ごめんねっ!もうちょっと話したいけど、またねっ!」

 

このしゃべり方....何処かで聞いたことがあるような気がした。何処か最近話したことがあるような.....。

 

「あ、あのっ!」

 

私は声を張り上げていた。女の子が行ってしまう前に聞きたいことがあったから。

 

「んー?どうしたの?」

 

「びょ、病院長のいる場所って分かりますか?」

 

「病院長?」

 

「うん」

 

「病院長なら、少ししたらボクの病室に来ると思うから良かったら一緒に来る?」

 

「良いの?」

 

「もっちろん!まだ話したいことは、ボクもあったしね!そうと決まれば早く行こうよっ!」

 

「え!あ、う、うん!」

 

私は女の子に手を引かれる状態で女の子の病室に行くことになった。

 

 

 

 

 

「ささ入って入って!」

 

「お、お邪魔します....」

 

病室の前まで来た私は緊張しながらも女の子が病室に入るように促してくる。入る前に紺野 木綿季と書かれていたのでこの女の子の名前だと分かったが漢字の苦手な私には読むことは出来なかった。

 

「こんの....きわたき?.....うん違うな。絶対違う気がする」

 

「どうしたの?」

 

「う、ううん!何でもないよ。それにしても一人部屋なんだね」

 

部屋に入ると広々とした空間で冷蔵庫やテレビなども配備されており病室とは思えないほど生活感があった。その中で私の目を一際引いたものがテーブルの上に置かれていた。

 

 

-------------------ナーブギア。

 

病室には不釣り合いなんじゃないかと思うくらいここの空間では異彩を放っている。

 

「へへへ。でも一人部屋って良いことばかりじゃないんだよ。話し相手もいないし」

 

「ご、ごめん...」

 

「ううん。それに全くいないってわけじゃないんだ。ナースの人とかはよく話し相手になってくれるし、寂しくはないから....」

 

「そ、その友達とかは」

 

「...................」

 

静寂。

先程まで元気だった目の前の女の子が私の問いになにも返さないで窓から空だけを眺めている。それだけで伝わってしまう。

 

私はなんて事を聞いてしまったのだろうか。

 

今更後悔しても遅い。

もう目の前の女の子に言ってしまったのだから。

 

「ボクね」

 

静寂の中不意に言葉を発したのは目の前の女の子だった。

その声音からは、先程までの元気な声ではない。どこか恐れているという感覚さえ伝わってしまう。

 

「-----------------HIV感染者なんだ」

 

「........えっ..............」

 

私は目の前の女の子が何を言ったのか最初分からなかった。

HIV。それは私でも知っている有名な病気。

 

「あはは.....ごめんね。やっぱりこんな病気の子と一緒になんていたくない、よね.....」

 

私の脳はようやく理解した。先程の静寂の意味を。

言うべきか悩んでいたのだ、嫌われるかもしれないから。この病気は意味嫌われているのを知っているから....でも私に話そうって決意してくれたんだ。

 

自分が嫌われるかもしれないのに。

 

私は先程の自分が言った言葉が頭から離れなかった。

【そ、その友達とかは】

この言葉が私の頭から離れない。

呼吸が少しずつ辛くなっていく。喉が急激に乾いていく。

 

私は女の子から目を離すことも出来ず指先1つ動かせないまま呆然と立ち尽くしていた。

 

「本当にごめんね....もう少し早く言えば良かったよね......。同い年くらいの女の子ってゲームの中でしかここ3年くらい話せてなくて、楽しくて......」

 

私と同い年くらいなのにどうしてこんなにも強いんだろう。この年でどれ程の痛みを抱えて生きてきたんだろう....私には想像もつかなかった。

 

私は......弱いな。

 

私は少しずつ近付いていき...ぎゅっと優しくハグをした。

 

「っ!.....」

 

「ごめんね....私の方こそごめんね....」

 

「どうして謝るの?」

 

「私はあなたを傷付けてしまったから.....」

 

「ボクは別に傷付いてなんてないよ....馴れてるから」

 

私は肩を掴んで女の子と目を合わせる。

 

「それは違うよ」

 

「えっ」

 

「傷付いてないなんて嘘。馴れてるなんてもっと嘘っ!」

 

「嘘なんて....」

 

「ならどうして泣いてるの?」

 

「えっ....ボクが、泣くなんて.......ち、違うよ....これは....」

 

「ねえ。名前教えてくれない?」

 

「え?」

 

「名前だよ。なまえ、病室入るときに見たんだけど読めなくて、こんのさんって所は読めたんだけど、良かったら教えてくれないかな?」

 

「.....ゆうき。ボクの名前は紺野 木綿季」

 

「そっか。ねえ 木綿季って呼んでもいい?」

 

「うん....」

 

「木綿季はさ、もう少し甘えても良いんだと思うよ。怒ってもいいと思う」

 

「ボク甘えてるよ....甘えてばっかりだよ......いろんな人に迷惑かけっぱなしで」

 

「もう....」

 

私は木綿季の額にデコピンをした。

 

「ううっ.....痛いよ」

 

「木綿季は、まだ子供なんだから迷惑をかけるのは当たり前なんだよ。当たり前なんだから迷惑をかけなくちゃ。周りも遠慮しちゃうでしょ?」

 

「で、でも....」

 

「はーい。でも禁止ね」

 

「そんなぁ......」

 

私は、木綿季の頭に手をのせて優しく頭を撫でながら木綿季をもう一度自分に抱き寄せる。

 

「誰かに頼れないなら私に頼ればいいよ。私に出来ることなんてたかが知れてるけど。涙を流す時に一緒にいてあげることくらいは出来るから」

 

「ううっ....ぐすっ.....甘えても良いのかな」

 

「勿論」

 

木綿季は、暫く私の腕のなかで泣いていた。今までの辛かった事や悲しかった事を吐き捨てるように。

 

 


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