金色と黄金が出会ってガチバトル

1 / 1
金色と黄金

そこにはただ輝きがあった。

 

何ものにも侵されることのない、純然たる光の発露。

 

互いを認め、尚且つ忌み嫌うかのように相克する光は、あらゆるものを手中に収めた者達だけが発する威光である。

 

まず見る者が目を奪われるのは数多の財。

 

この世全ての宝物(ほうもつ)を、逸話犇めく武具の数々を、たった一つの蔵へと敷き詰めた無数の境地。

 

財宝とは持つべき者が在ってこそ、真に無二の価値を得るのだと、そう宣って憚ることはない。

 

人は彼を英雄王と形容した。

 

かたや誰もが目を奪われることはない、否、目を背けざるを得ないそれは数多の魂。

 

この世総ての存在を、形而の上下にあるものを、たった一人で灰燼へと帰す破壊の境地。

 

その総てを愛しているのだから、その総てを破壊させろと、その渇望がやむことはない。

 

天は彼を愛すべからざる光と形容した。

 

 

桁外れな存在は、次元を超えた空間に在って、この世界を俯瞰する。

 

あるいは興が乗れば、世界への破滅的干渉を抑えることなど出来まい。

 

しかしいま超越の空間に、己とよく似て、かつ確実に異なる何かが紛れ込む。

 

いや、紛れ込んだのではない。土足で踏み荒らしたのだ。

 

存在するという事実だけで覇を唱うことと変わらず。

 

故に彼らは引き寄せられるように出会い、破壊の渦のみをこの世界にさえもたらす。

 

それは今まさに始まらんとする最悪の邂逅。

 

口火を切ったのは我らが王、人類最古の英霊『ギルガメッシュ』その人だった。

 

「おい貴様。いったい誰の許しを得てそこに在る? 誰の許しを得て王を名乗る? 我を差し置いて君臨するなど、その蛮行万死に値するぞ」

 

静かに檄するように、自らとは異なる黄金を睥睨しては、尊大な態度を誇示する。

 

所作だけで嚇怒の様相を訴えかけ、不快感を隠そうとしない。

 

そして王の逆鱗に触れてしまったもう一人の男はというと、まるで獣の様にぎらついた眼つきのままに、かの英雄王に呼応した。

 

「なに、そのようなことは実に些事であろう。なぜなら『この出会い』もまた、既知という名のゲットーに囚われた事象であるが故に」

 

まるで諦めたかのように、それでいて慈しむように見開かれたその眼孔は、相対する英雄王の怒りを助長するには十分だった。

 

「ふん。思いあがったな雑種。唯一無二という言葉の意味を知れ」

 

言うやたちまちギルガメッシュの背後から、一層まばゆい光の孔が滲むように瞬く。

 

即断即決、もはや傍若無人を通り越す彼の振る舞いは、一転して目前の無礼者を早急に排除せよと告げていた。

 

光の孔は驚異の速度で数を増し、凡そ視界を埋め尽くすのではないかという程の範囲で、無作為に展開されていた。

 

突然ゆるり、と一つの孔からナニカが這い出る。

 

二、三、四……その奇妙な現象はとどまることを知らず、むしろ進行度を増してゆく。

 

「君臨するとはこういうことよ!」

 

片頬をニヤリと侮蔑するように上げ、静から動へ、彼の背後だけが急転した。

 

王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)!!』

 

煌めきの群れはその怒号を待ち焦がれていたかのように、我先にと顔を覗かせた。

 

大小さまざまな形状で、一貫性のない不揃いな群体は、「暴力」というただ一つの共通点を以って、寸分違わず目的へ侵攻する。

 

光から溶け出したその群体は――宝具と呼ばれる神話の化身たちであった。

 

一度射出が済んだ孔からも、再びゆっくりと這い出るように姿を現したのち、やはり目的である黄金の男に向かって吐き出される。

 

絶世の名剣が、必殺の魔槍が、呪法の鎌が、名将の双戟が。

 

ただ秘めたる能力をぶつける為だけに。

 

果てなき空間を闊歩する。

 

「ふはははッ! 良い開幕だ! 貴様の無礼はこの我が許さん! 死に物狂いで耐えて見せろよ――!」

 

そうしてかつてまで男が鎮座していた空間は、無数の武具によって破壊に満たされた。

 

我こそは王であり、天に仰ぎ見るべき存在であるぞ。

 

故に同じ地に立ち、ましてや反抗の意を示すなど許さない。

 

しからば相手を地に伏せてしまえば良いだけの事。

 

顎先のみの挙動で得た蹂躙の満足を、いや慢心を隠そうともしない笑みは――すぐに消え失せることとなった。

 

何故ならばそれは。

 

「ああ、素晴らしい」

 

砂埃煙る空間を意にも介さず。

 

「見事だ、バビロニアの王」

 

響き渡る明朗な産声。

 

たったそれだけのこと。

 

しかし英雄王の顔から笑みを消すには充分過ぎた。

 

それはようやくこの「既知」から抜け出し、新たなる世界へ生まれ出でた無辜の魂。

 

本来ならば骸が横たわっているべき場所から、黄金の鬣を持った一つの「修羅」が舞い降りる。

 

かの既知が払拭されうる可能性を秘めた因子であると認識し、その声は喜びに満ちていた。

 

「卿の言う通りだ。では、いよいよ始めようか」

 

そこには傷ひとつない破壊者が、数手遅れての開始を、ついぞ示した。

 

ここで反面、喜びなどという感情とは相反する念を放つ男が一人。

 

無論のこと、一人の男――ギルガメッシュは、彼のように上機嫌ではいられない。

 

「雑種如きがッ!!」

 

頭に血を上らせたギルガメッシュは、彼の言など聞く余裕すら持たない。

 

己の財宝がまるで効果を発揮しないという有り得ない現実に、ただ怒りと焦りを見せていた。

 

そして無意味とも取れる宝具の射出を繰り返す。

 

しかしそれは彼に届くことはなく――

 

「Yetzirah――」

 

 聖約・運命の神槍 (ロンギヌスランゼ・テスタメント)

 

厳しく糾され、ひとつ余さず燃え去り消える。

 

そして男は告げる。

 

「私は総てを愛している。故に総てを破壊する」

 

その言は、人類最古の英雄王から「慢心」を取り去るには十分だった。

 

「そうか……! ならば我に平伏せッ!貴様に破壊し尽くせないモノがここにある!」

 

たちまちギルガメッシュの背後が揺らぐ。

 

そして放たれた次なる宝具は、武具の類ではなかった。

 

それは真に神をも縛る桁違いの枷。

 

「頭を垂れよ、裁定の時だ!」

 

天の鎖(エルキドゥ)』!

 

彼が何かを発すれば、宝物庫の鍵が開く。

 

新たに出現した複数の光の孔からは、先程とは違い、純然たる暴力の遂行ではなかった。

 

縛り、封じ、自由を咎めるもの。

 

四方八方から放たれた「鎖」が獣を縛り付け、その身動きを封じる。

 

その鎖は彼のように神性の高い者こそを封じ込める、史上最高度の神殺し。

 

「貴様の様な雑種は、鎖で繋ががれた番犬風情がお似合いだ」

 

だがその言葉とは裏腹に、ギルガメッシュの表情は不快感を消し去ろうとはしない。

 

先程までと違い迎撃の構えを一切取らなかった男に、言い知れぬ底気味の悪さを感じていたのだ。

 

慢心をひけらかす彼にとっては異物だ。しかしその違和感は間違いではなかった。

 

何故ならば、神をも縛る最強の枷が、軋むように音を上げて歪み始めたからだ。

 

だがそれだけならば何もおかしくはない。この鎖は身動きを取れば取ろうとするだけ、より強靭な神縛能力を見せる。

 

しかし現在起きている事象は前述の通りではない。

 

まるで強度が限界を迎え始めているような――。

 

「愚かな男よ! 一度はヘラクレスを封じた天の鎖にッ!」

 

そんな彼の言葉や戦経験など微塵も考慮せず、ただ軋みあげる音だけが絶えず増してゆく。

 

そして何処からか、終ぞ地の底から響くような声が、破壊の序章を告げた。

 

序章というのはあまりも荒々しい破壊は、ゆっくりと、静かに開闢の鐘を鳴らす。

 

〈その男は墓に住み あらゆる者も あらゆる鎖も あらゆる全てをもってしても繋ぎ止めることが出来ない〉

 

より一層に鎖が強く軋む。

 

それはまるで使用者の叫びにも似た咆哮だった。

 

〈彼は縛鎖を千切り 枷を壊し 狂い泣き叫ぶ墓の王〉

 

そうして、来るべき破壊の衝動が上昇を開始し、いとも容易くその宝具を鉄塊に帰した。

 

「き、さま――」

 

〈この世のありとあらゆるモノ総て 彼を抑える力を持たない〉

 

砕け散った天の鎖は、まるで消滅してしまったかのように跡形もなく消え失せる。

 

初めから存在がなかったかのように、無に帰すように。

 

〈ゆえ 神は問われた 貴様は何者か〉

 

「き、さまはァァァァァァ!」

 

宝具(とも)を破壊され、加えてかつて経験したことのない惨めさが、憤怒を掻き立て怒髪天を衝く。

 

「答えよッ!貴様は何者だ!」

 

〈愚問なり 無知蒙昧 知らぬならば答えよう〉

 

この時点で英雄王に出来ることは、ただただ疑問をぶつけることだけだった。

 

「答えよォォ!!」

 

〈我が名は レギオン――〉

 

黄金の獣――ラインハルト・ハイドリヒが全力を出せる無二の"場"

 

「Briah――」

 

声がした。

 

至高天(グラズヘイム・)黄金冠す(グランカムビ・)第五(フュンフト・)宇宙(ベルトール)

 

そこには、ひとつの修羅道(せかい)があった。

 

 

 

 

宇宙が広がりを見せる。かつての世界が塗りつぶされるように姿を消す。

 

そこまで来て、ようやく状況を理解したギルガメッシュは、先程とは打って変わって冷静な口調で述べた。

 

「ほう、貴様が宇宙の理を作り出すと?そのような出鱈目は我が認めん」

 

静かに、ただ静かに。

 

此度はたった一つの光の孔が、ギルガメッシュに控えるように、その傍らに生じる。

 

終ぞいでるは絶対の不可侵領域に眠る、どの武具にも該当しない異形のはじまり。

 

彼の宝物庫の原初、対界宝具とよばれるそれは、この世と乖離した「ナニカ」となってその姿を現す。

 

「これは世界そのものを相手取るに相応しい」

 

まさに創世の場にこそ本質を見せる。

 

これぞ真を識るモノ。

 

「我は『エア』と呼んでいる」

 

こうして携えられた『エア』は、次第に呻りを上げる。

 

それはまるで使用者の歓喜にも似た咆哮だった。

 

しかしここにあって、ラインハルト・ハイドリヒという「悪魔」は、ただ絶えず歓喜を呼応させるだけだ。

 

彼の愛は破壊の情。

 

求めしものは全霊の境地。

 

ああ――なぜだ。なぜ耐えられぬ。

 

抱擁どころか柔肌を撫でただけでなぜ砕け散る。

 

何たる、無情――。

 

森羅万象、この世は総じて繊細にすぎるから。

 

愛でるために――まずは壊そう。

 

故に。

 

 死を想え (メメント・モリ)――。

 

「断崖の果てを飛翔しろ、私は総てを愛している」

 

よってここに勝敗は決した。

 

 

 

 

 

金色(こんじき)の男は、最高潮を迎えた宝具を天に掲げた。

 

黄金の男は、とどまることの知らない修羅の世界で神槍を掲げた。

 

「ゆくぞ雑種」

 

その神話が、いまこそ再び世界を砕く。

 

「ああ来たまえ」

 

その破壊が、いまこそ遂に世界を紡ぐ。

 

「Atziluth――」

 

その神言は。

 

天地乖離す(エヌマ)』――

 

混沌より溢れよ(ドゥゾルスト)】――

 

その呪言は。

 

開闢の星(エリシュ)』!

 

怒りの日(ディエス・イレ)】!

 

流出する――。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。