セイレムを駆け抜け終えました、エイトマンです
いやぁ、中々楽しかったけど、うんまぁ、ね
彼女の存在は空虚である。
彼女の言葉は無感情である。
彼女の行動は機械的である。
しかしながらその攻撃は、類を見ない激しさを誇る。
「■■■■■■■■■■■―――!?」
「ぬぅおお!?」
その細身から繰り出されているとは到底思えない威力。鞭のようにしなり、伸びるその剣の一撃を受け、遥かに体格で勝るバーサーカー二人が吹っ飛ばされる。三国志最強の英雄も、ローマの叛逆の勇者も、彼女の前では赤子のように扱われる。
それだけの力を込めた攻撃ならば、隙の一つでも生まれそうなものだが、彼女にはそれさえもない。直後に斬りかかる荊軻の短刀を腕を掴むことで抑え、そのまま荊軻を振り回し、接近しようとしていたブーディカ目掛けて投げつける。
たった一人の敵、それも圧倒的な巨体を誇っているわけでもなく、他と同じように召喚されたサーヴァントだというのに、彼女は圧倒的だった。
「くっ。こちらの守りをこうもあっさりと上回るか」
「聖杯を取り込んだことで、攻撃力が上がっているようです」
防御に専念しているマシュとエルメロイII世。二人のスキルによって、全員が防御力が上がっているはずなのに、それでもアルテラの攻撃は容赦ないダメージを与えてくる。
「これが、聖杯を手にしたサーヴァントの力……より座の本体に近づいているのか?」
サーヴァントの召喚、それは確かに英霊を使い魔として現世に呼ぶことを可能としている。だがそれは英霊のすべての力を発揮させることができるわけではない。クラスという枠に英霊を押し込め、現界させているため、その力には制限がかかる。
マスターの魔力やクラスなどに影響され、サーヴァントはステータスが定まる。スキルや令呪の補佐、狂化などによってそれも変動するが、そのステータスにサーヴァントは縛られてしまう。クラスという縛りによって、生前保有していた武器や能力が使えなくなるケースもある。
本来、サーヴァントはそういうものなのだ。
ジャンヌの操る黒い槍が、アルテラの動きを封じるべく、その周囲に突き刺さる。しかし、彼女は———
「どけ」
———それでは、彼女を止めることができない。
円を描くように、剣を伸ばし、しならせながら振るう。それによって、同時に多数の方向から攻撃を仕掛けようとしていたサーヴァントたちが弾かれる。
サーヴァントたちが束になっても敵わない、それほどの脅威に、彼女はなっていた。
「てぁあっ!」
「たぁっ!」
飛び上がり、真上からネロと士郎が剣を振り下ろす。視線を上に向けぬまま、アルテラが剣を振るい、全体重を乗せたはずの攻撃を容易くあしらう。地面に倒れる二人を庇うように、サーヴァントたちが集まる。
「シロウ、大丈夫ですか?」
「あぁ。なんとかな……」
「ネロ、あんたは?」
「ぐぬぅ。こやつ、桁が違う。全く攻撃が届かんぞ」
ゆっくりと視線を彼らに向けるアルテラ。
これほどまで圧倒的な力を示しながらも、彼女には油断も余裕も全く見られない。
「もういい。お前たちも破壊する」
アルテラが今まで片手で振るっていた剣を両手で握る。先程宮殿を吹き飛ばした時のと同じように、魔力が凝縮され、三色の刀身が回転を始める。
「まずいっ!」
「またあの攻撃が来ます!」
やっとの思いで防いだあの威力。もう一度それを防ぐことが出来たとしても、満足に戦うことができるかどうか。
「人は呼ぶ。それを破壊の一撃と。受けろ、そして消えろ」
選択肢は何か考える。
防御は?駄目だ。それでは先ほどと変わらない。
回避は?駄目だ。それが出来るほど威力は絞られていない。
何もしない?駄目だ。ここで諦めること、それこそ絶対にしてはならないことだ。
であれば出来ることはもはや一つ。
迎撃し、そして打ち勝つことだけ。
「一か八か……やるしかない!マシュ、ブーディカさん、念のために宝具の準備をしといてくれ!孔明も、防御スキルの用意を!」
「!はい!」
「了解したよ」
「いいだろう」
両手の夫婦剣を消し、弓に持ち替える士郎。
「
光を放ち、回転するアルテラの剣。
対して士郎が用意したのは、今はまだ名もなき一振りの剣。剣を弓につがえ、狙いを定める。
「受けて立つ気か?」
「生憎と、昔から諦めが悪いって言われて来たからな。例えお前が何者だとしても、破壊されるわけにはいかない」
「そうか……あの威力を見てまだそう言えるか」
ほんの少しだけ、アルテラが感心しているようにも聞こえる。これまで見せなかった僅かな変化。けれども、それはすぐさま消え去り、元の空虚へと還る。
「貴様が破壊を恐れぬのはわかった。だが、私のすることは何も変わらない」
光を纏いながら、アルテラの剣の回転が早まる。対して士郎は軽く息を吐き、魔力をさらに込める。
「
「
まるで放電するかのように剣の周囲を魔力がほとばしる。矢として打ち出せるようにチューニングを施したその剣に、さらに手を加えていく士郎。
纏わせるのは複数の属性。
一つ、あらゆるものを焼き尽くす、熱と光をもたらした人類発展の始まりの「火」。
一つ、命の始まり、ものを清め、洗い流していく恵みの「水」。
一つ、命に必要不可欠な空気、形を変え、どこまでも吹きゆく「風」。
一つ、自然のすべてのものの土台、人々を常に支える基盤となる「地」。
一つ、天上の要素、変形しない永遠。天界を満たすエーテル、またの名、「空」。
それらの特性を司るもの、ゆかりのある伝承を持つもの。己が記録したありとあらゆる武具の中から、必死にその性質を引っ張り出し、それら要素を組み込んでいく。
かつての師、
「この文明を破壊する。
「ふっ!」
剣を突き出すアルテラに、矢を放つ士郎。ほぼ同時に放たれた攻撃が激突する。
直後、アルテラの目が僅かに見開かれる。
破壊の一撃は
遠坂凛による五大元素の教えの一つ、自身の戦闘スタイルからして最も気をつけなければならないと言われたトラップ。不活性状態の五大元素は、あらゆる魔術、魔力を無力化し飲み込む、まるで底なし沼のように。
生み出された特徴は「無」。
何物にも染まらず、何物にもならない。
士郎のそれは、魔力や魔術に限らず、魔力を使用し発動するもの、例えば宝具や英霊の力を封じ込めるものとなる。
剣自体の神秘が低く、爆発したとて効果は一時的なものに過ぎず、使用者への負担も大きい。聖杯を取り込んだアルテラの攻撃ともなれば、一瞬止めることができる程度。
けれども、その一瞬こそが、彼らには必要だった。
「ネロ、ブーディカさん!」
「うむ、行くぞ!
「
二人の剣から繰り出される斬撃に魔力塊。流石のアルテラも宝具クラスの攻撃を無視する事はできず、なぎ払うように剣を振るう。
「リリィ、行くぞ!」
「はい!」
剣を構え、魔力を集めるリリィ。その隣で士郎が悲鳴をあげそうな体に鞭打ち魔術を行使する。この旅の中で何度も見せてもらった黄金の輝き、それを手繰り寄せるべく魔力を回す。
「
「選定の剣よ!汝の力、示し給え!」
体の奥が熱い。しかし同時に激痛が和らぐ。先ほどよりもはっきりとした頭でイメージを固定する。士郎の手に握られる剣。それはリリィの構えるものと同じ。二人が同時に剣を突き出す。瓜二つのその黄金の輝きは、真贋入り混じってなお美しい。
何処かの並行世界で、二人で一つを振るう事で大英雄をも仕留めた一撃。
それが二つ。今はその時を上回る。
その名が示す通り、この剣の前に敵はいない。
「「
「くっ!」
混じり合う二つの黄金の輝きは、防御のために振るわれた三色の刀身をも弾き飛ばし、アルテラの身を貫く。一つとなり、天に向かって伸びる閃光は、戦場にいるものすべての目に届き、その美しさに誰もが何もかもを忘れた。
その閃光が消え、静寂が訪れる。
肩で息をするサーヴァントたち。思わず膝をつく士郎。その戦いの中心に立つアルテラ。その胸には、大穴が開けられ、陽が地平線の向こうへ沈む様子が、そこから覗いている。気がつけば辺りが薄暗くなってきている。
ちらほらと星が輝き始める中、アルテラの手から剣が離れ、地面に突き刺さった。
戦闘シーンってさ、アニメがない奴とかターン制の奴とか、目無茶苦茶むずい!
いや、想像膨らませても、どうやって一人でこの数を相手にできたのか、全くわからない!
あ、ちなみにネロの一撃は本来黄金劇場がないと使えないらしいですが、そこは生前の特権という事で納得してください。
そこ、御都合主義とか言わないの、わかってるから
そんなこと言ったら今回の士郎も滅茶苦茶だしね笑
ではでは、ようやく次回でセプテムが終わりかな?
楽しみだなぁ……次の特異点が笑