というか、アイテム手に入れにくくてしゃーない
そんな息抜きで1話どぞどぞ
剣突き立つ大地に、剣撃が鳴り響く。
セイバーの前に突き出していた虹色の刃の光が落ち着き、回転が収まる。彼女の背後にあった剣の砕けた残りカスが、魔力の粒子となり消えていく。既に放った宝具は何回目なのかさえわからない。聖杯による無尽蔵な魔力によって、彼女は宝具の使用回数に制限はない。それでも、
「まだ終わらないのか……いくつ破壊したかわからない。破壊しても尽きることのない剣……面倒だ。しかし、もう、勝てないのはわかっているだろう?」
静かに告げるセイバー。色鮮やかなその剣は、全く切れ味が落ちない。本人も無傷のまま、片手で剣を相手に向ける。
「確かにそうだな。だが、私には果たすべき役割があるのでね。それまでは倒れるわけにはいかないのだよ」
対する弓兵は片腕は血を流し、もう片方の手で肩を抑えている。既に打ち合って何十、何百、何千回。砕かれた剣は幾つあっただろうか。それでもアーチャーは動くほうの手で新しい剣を握る。
「まだまだ付き合ってもらうとしよう。私の身が果てるまではな」
ニヒルな笑みを浮かべながら、アーチャーが駆け出す。片手で握った剣を振り、セイバーに斬りかかる。
再び鳴り渡る剣撃。
弓兵はボロボロになりながらも、勝利の為にその剣を振るい続ける。
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宮殿内。
激しい爆発音に、響き渡る叫び声。
戦闘は激化の一途を辿る。
「ぐっ、がぁぁっ!?」
双剣を交差させ、守りの態勢を取っていたにも関わらず、その一撃は士郎を軽々と吹き飛ばした。両手に構えていた剣は砕け、魔力の粒子に戻っていく。
地面に背中をぶつけ、そのまま暫く勢いを殺せずに滑ってしまう。支給されたカルデアの制服は普通の服と比べても耐久力が高く、また、使用者を守るための身代わり効果の魔術を込められていたというのに、あちこちが擦り切れており、士郎の体にもダメージが着実に溜まってきている。
「先輩!大丈夫ですかっ!?」
士郎に迫る攻撃をなんとか全体重を盾に乗せることで弾きながら、マシュが士郎のそばにくる。彼女も既に息が上がっていて、肩で息をしている。
「ああ、っ!マシュは?」
「はい。なんとか。ですが、このままでは……」
二人が視線を向ける先では、まだ戦闘が続いている。サーヴァント11人、そこにネロと士郎を加えているというのに、攻めきれない。それどころか、手数はこちらの方が多いというのに、明らかに自分たちが劣勢なのが見てわかる。
魔神柱。恐ろしいまでの魔力量は伊達ではない。
どれほど攻撃を受けようと、とてもではないが効いているように見えないのだ。呂布とリリィが同時に魔神柱に斬りかかる。決して硬くはないその身体を二つの刃が容易く切り裂く。が、
「ダメです。また再生してます」
「なんなの、こいつ。不死身なの!?それにしたって面倒ね!」
ジャンヌのサポートで火力を上げたはずのリリィの攻撃でさえ、僅かに動きを止めることはできても、ダメージらしいものを与えるには至っていない。
「デタラメだな……あの狂ったキャスターの呼び出したものも相当だったが、これはそれを上回るぞ」
舌打ちをしながら士郎の元に来たのはロード・エルメロイII世。彼の防御と攻撃、両方のサポートをみんなが得てなお、押し切れない。それほどまでに、魔神柱は手強かった。
それにしてもかつての聖杯戦争の話だろうか。自分の起源でもあるあの十年前の聖杯戦争、それにロード・エルメロイII世は参加していたという。この前の特異点で彼らのであったキャスターも狂っていたが、偶然にも似たような相手に出会っていたのだろうか。
「なぁ、その時はどうやって倒したんだ?」
「その時のセイバーが対城宝具を持っていたからな。そいつの宝具で消し飛ばしてもらった」
やはりそうか……あの怪魔の集合体も同じような方法で、ようやく倒すことができたのだ。けれども、こいつはそれ以上の相手だ。同じ手が通じるだろうか。何より、
『無駄な足掻きを!』
「ふぎゃ!?」
「ぬぅお!?」
「くうっ」
無数の瞳が輝き、周囲が爆発に包まれる。まさに接近攻撃を仕掛けようとしていたタマモキャットとスパルタクスが爆風で飛ばされる。二人を守るためにブーディカが宝具を発動させていたにも関わらず、その防御をたやすく上回っている。
「こいつの攻撃、デタラメすぎる……!」
視界に入れば、任意の場所に爆発を起こせる。謎の煙で広範囲に攻撃をする。複数の目のうち常に一つは、一人一人を別々に補足しているため、死角からの奇襲も望めない。あの時のように、あの剣を投影しようにも、その隙を与えてくれそうにない。
「どうやら物理攻撃も、魔術攻撃もダメージを与えてはいるようだ。だが、再生が早すぎて追いつかない。通常この速度の再生なら魔力切れしてくれることが望ましいが、敵の手に聖杯がある以上、それもないか。わずかにでも動きを止められれば、あるいは……」
『見たか。たかだか数体のサーヴァントを従えたところで、私には勝てぬ。所詮それが、人間である貴様らの限界だ』
勝ち誇ったように笑うフラウロス。しかし、事実このままでは、間違いなく負ける。何か打開策が必要だ。だが何が?
「ぬぅ……こやつ、桁外れではないか」
「ん、もう!なんなのよ!これじゃいつまでたってもネロとデュエットするってお願い、叶えられないじゃないの!」
少し離れた場所でネロとエリザベートが共に戦っている。あの時のネロの叫びを自分も聞いていたこともあって、その願いを叶えられるようにしたいと士郎は思う。けれども、今この状況をどうにかしないと……
「ん?待てよ……そうだ!」
「先輩?何か思いついたのですか?」
「今はどんな策でも試してみる価値はあるかもしれないな。聞いてやろう」
「ああ。まず二人に……」
士郎の作戦を聞く二人。最初は興味深そうな表情だった二人の顔が、どこか引きつっている。マシュは真顔で、エルメロイII世は眉間にしわを寄せたまま、士郎を見る。
「正気か?」
「まぁ、それくらいやってみないとな」
「私は先輩の判断に従いますが……」
「二人は作戦を伝えながら、みんなにこれを配ってくれ。俺はあの二人に作戦を」
「わかりました。必ず届けます」
「やれやれ。これはまた、とんでもないことを思いつくマスターがいたものだ」
3人がそれぞれ別々の方向へ駆けていく。
『まだ足掻くか……無駄なことを』
勝者の余裕のつもりか、大技を発動させるわけでもなく、爆発を起こし続けるだけのフラウロス。その爆風を掻い潜り、士郎はネロとエリザベートの元にたどり着く。
「二人とも、頼みがある」
「ぬ?この状況への打開策が?良い、申してみよ」
「二人に、全力で歌って欲しいんだ」
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「は?えっ、子イヌ、あんた状況わかってるの?」
「わかってる。でも、この状況を打開するには、二人の歌が必要なんだ」
真剣な表情で語る士郎。二人は一瞬何言ってんだという顔をするが、周りからしたらもっとそうだろう。
エリザベートの歌はもはや凶器、攻撃宝具にまで昇華されているような代物だ。一応彼女の名誉のために説明すると、本来は音量・声量を上げ、その振動による攻撃だが、壊滅的なまでの音痴が、その力をより引き出していると言える。それに加えネロ、彼女もまた、エリザベートに勝るとも劣らない歌唱力の持ち主ということが判明している。マシュやエルメロイII世でなくとも顔がひきつるだろう。まぁ、もっとも、本人たちはそんな自覚はないわけなのだが。
「うむ。シロウがそこまで頼むのであれば、応えるしかないな。よいか、エリザベート?」
「まっ、
「助かる。なら、合図したら、エリザベートの宝具を頼む!」
「オッケー!」
士郎が辺りを見渡す。みんな作戦が伝わったらしく、視線が合うと頷いてくれている。呂布とスパルタクスは作戦を理解したのかわからないが、ブーディカと荊軻が頷いているのでなんとかなったのだろう。みんなにも渡した、小さなアイテム、所謂耳栓を耳に詰めながら、士郎が叫ぶ。
「今だ!」
「サーヴァント界最高のデュエット、聞かせてあげる!」
「豪華絢爛、風光明媚。赤金彩る晴れ舞台ぞ」
エリザベートが地面に槍を突き立て、ネロがその槍を持つ手に自身の手を重ねる。地面から湧き上がるのはエリザベートの魔城。しかしそのデザインが微妙に異なる。
所々に薔薇の意匠、そして黄金のライン。城の時計塔部分には、ネロの黄金劇場と同じ、三つの剣が描かれた盾。二人のそれぞれの宝具で顕現する建造物。それらが混じり合った奇跡のコラボ。
それはまさしく、二人のための特別ステージ。
『なんのつもりだ?』
心底何をしているのかわからないという感じで、呆れたような声を出すレフ。
「さぁ、ライトを向けなさい」
「余らの歌声に惚れ直すがよい」
「「
大きく息を吸う二人。士郎たちはすぐさま耳の上に手を置き、その衝撃に備える。
「「♩ボエ〜〜♪」」
一番近くにいた士郎は、後で感想を聞くとこう答えた。
『危うし命助けて俺、ただいまライブで大ピンチ……て感じだな』
実際シャレにならない。
二人の歌はそう、なんというか、とにかく凄まじいの一言である。
耳栓をしてなお、士郎もサーヴァントたちも耳から手を話すのをためらわれるほどのものだった。そしてそれを実感したのは彼らだけではなく、
『ぬぅぁぁぁぁあああっ!?なんだ!?なんだ、これはっ!?ぐぅぉぉぉおっ!?』
初めてあげる悲鳴にも似た声。なんの備えもしておらず、二人のデュエットの直撃を受けたフラウロスがもがき、苦しみ出す。先ほどまでの笑い声も、余裕の態度も消え、ただただ悲鳴をあげ、苦しんでいる。
(よしっ、次!)
士郎がアイコンタクトで合図を出すと、エルメロイII世が孔明の宝具を発動させる。
「これぞ大軍師の究極陣地。
空から降り注ぐ柱が、フラウロスを取り囲む。その上から落ちてきた八卦遁甲板がまるで蓋をするかのようにフラウロスを押しつぶす。
地理把握・地形利用・情報処理・天候予測・人心掌握の五重操作。それは敵の進行も撤退をも拒む、まさしく究極陣地。フラウロスといえども、その動きを止めるのには十分だった。
『なんだ、これはっ!?動けぬっ、だと!?』
「貴様の動きは全て封じた。これで詰めだ」
与えるべきなのは強烈な攻撃。再生を封じている今しか、倒すチャンスはない。鳴り続ける歌を背に受けながら、士郎とリリィ、呂布にジャンヌ・オルタがフラウロスの前に並ぶ。
敵の能力は驚異的な回復力、圧倒的なほどの不死。倒すにはそれを突破しなければならない。
「
手に取るのは鎌にも似た剣。生前、あのライダーを殺したという不死殺しの剣。ただ、正確にはその原典。同じ特性を持つ、あの黄金のサーヴァントが保有していた神剣、その特性を纏わせ、チューニングされし剣。それを矢に変え、弓につがえる。
「これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮…」
「選定の剣よ、力を。邪悪を絶て!」
「
「
「■■■■■■■■■■■―――!」
白と黒、同時に放たれた宝具がフラウロスに直撃する。炎が体を蝕み、槍と閃光が身体を抉る。直後に三国志最強の男の放った矢が命中し穴を広げる。それでも再生しようとするフラウロス。その身体の穴を狙い、士郎の矢が放たれる。
「
飛びこんできたその剣は、フラウロスの体内深くに突き刺さる。その一撃が与える傷は治癒不可能。残り続ける呪いといえる。しかしそれだけではなく、
「
傷口を塞ごうとした矢先に起こる強烈な爆発。不死殺しの神秘が体内を抉り、隅々まで行き渡る。癒えない傷の痛みに、フラウロスが悶え苦しみ、叫び狂う。
『がぁっ!?ば、馬鹿な。この私が、下等な人間如きにぃぃぃぃいっ!』
魔神柱の身体がどんどん弾け、消えていく。もがき苦しみながらも、その姿を保つことを出来ない。
「当然ね。正真正銘の女神だった駄目ドゥーサさえもを殺してみせた武器だもの。あなたには抗えないわ」
ステンノが微笑を浮かべながら魔力弾を放つ。既に消えかけだった魔神柱の身体の崩壊が早まる。暫くして、そこに残されたのは、膝をつき、苦しげに顔を歪めるレフの姿だった。
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「巨大魔力反応消失。どうやら、力を使い果たしたようです」
「くっ……そうか。神殿から離れて幾分か経つ。既に身体が壊死し始めていたということか……そうでなければ、人間如きに敗北など、ありえん」
何やら一人でブツブツ言っているレフが、その場から一歩退がる。まさにその時、荊軻の短刀が、レフの首のあった辺りを通り過ぎる。
「ほぅ、まだ動けたか。これで終わりにしてやろうと思ったのだが」
感心したようにつぶやきながらも、荊軻の目はレフを捉え逃さない。
「くっ……くはは、くはははっ」
「?何がおかしい?」
まさ突然笑い出したレフを訝しげに見つめながら、士郎が問いかける。再び狂気に顔を染めながら、レフが勝ち誇るように立ち上がる。
「ふっ。確かにここでは敗れたが、まだ終わりではないぞ。いや、貴様らにとっては終わりだ。見ろ、タイムアップだ」
その言葉を言い終わるかどうか、部屋に光が溢れ、二つの影が現れた。一つはヴェールを被り、虹色の剣を持ち佇む女性、そしてもう一人は、血を流しながら、地面に倒れ伏している赤い外套の男。
「アーチャーさん!」
近くにいたリリィが駆け寄ると、アーチャーが僅かに身じろぎする。片腕は血を流し、服はあちこちが破られている。士郎たちが駆け寄る様子を、感情の無い空虚な瞳で、敵のセイバーは見ている。
「しっかりしてください!」
「アーチャー」
「……どうやら、時間稼ぎは十分だったようだな……衛宮、士郎……後は、任せる……」
最後にしっかりと士郎を見てから、アーチャーの身体が粒子へと還り、消えていった。
ちゅーわけで、ジョイント・リサイタル、開催しちゃいましたね〜
あの士郎の名言、マジでライブ(のせい)で大ピンチ、になっちゃってるけど、使ってみたかったんです!
え?駆け足気味だって?
そんなこと言ったって、しょうがないじゃないか〜
そしてついに最終決戦が……