正義の味方の人理修復   作:トマト嫌い8マン

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長く置いておいたけど、やっと進むよ

今回のメインは……あの人だ

あぁ、先が長すぎて泣けるで


神祖、降臨

響き渡るのは剣の激突、雄叫び、叫び、そして悲鳴。

 

充満する血と鉄と土の匂い。

 

「うむ、要するに決戦である!」

 

敵兵を斬り伏せながら、ネロが声高々に胸を張る。

 

連合首都へと攻め込むことに決めたネロ達正規ローマ軍。最後の決戦ということもあり、兵もサーヴァントも戦いに気合がこもっている。

 

一刻も早く戦いに終止符を打つ為、そしてレフ・ライノールを倒す為、衛宮士郎もまた、剣を振るう。隣に並び立つマシュが、士郎への攻撃を防ぎ、その上から剣や矢が敵を仕留める。

 

「先輩、戦況はこちらが大分有利です」

「ああ。敵側ももうサーヴァントがそんなにいないようだな」

 

複数体送り込まれたシャドウサーヴァントも、正しく現界したサーヴァント達の敵ではなく、瞬く間に消滅させられていく。このまま一気に本拠地を叩ける。そう士郎達が確信したその時、その男は現れた。

 

遠くからでもわかる、あれはサーヴァントだと。それだけなら大して動じはしない。そう、それだけ(ただのサーヴァント)ならば。士郎が驚愕したのは、そのステータス。全てにおいて高いステータスを誇っている。受肉して数年経っていたとはいえ、それはかつて対峙したあの英雄王と比較しても遜色のない、まさにトップクラスのサーヴァント。

 

「……勇ましき者よ」

 

彼は叫びはしない。怒鳴りもしない。ただそっと、呟くように口を開いただけ。だというのに、それなりの距離が開いているはずの士郎の耳にも、その声は届いた。

 

「それでこそ、当代のローマを統べる者……ネロ……勇ましく同時に愛らしく、そして美しい」

 

「ぬ?」

 

ネロが身構えるように剣を握るが、急にその腕から力が抜けるかのように、剣の切っ先が地面を向く。瞳は見開かれ、驚愕や不安、様々な感情が入り乱れている。

 

「ネロ?」

「いや、まさか……あり得ぬ。いや、あり得て欲しくなかった……」

 

「おいで。全てのローマがお前を愛している。(ローマ)に帰るのだ」

 

「あれは……あの御方こそ……ローマだ」

「ローマ?」

「いつもは自分こそローマと胸を張っていたネロさんが?」

「……まさか、そういうことなのか?」

 

「わかっているのだろう、愛子よ。連合帝国なるものの首魁、それは(ローマ)だ。許す、お前の全てを許してみせよう。お前も連なるのだ」

 

「先輩?何かわかったのですか?」

「カエサル、そしてネロ。ローマの皇帝である二人があの御方とまで呼ぶ相手。そして奴がローマだと言うなら、それは紛れも無い建国の王。つまり、」

「うむ……あれは我らの、ローマの父……神祖、ロムルス!」

 

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神祖ロムルス。

 

連合ローマ帝国の最後にして最高。

 

歴代皇帝の最初にして最上。

 

ただそこに立ち、ネロに向けて手を差し伸べているだけだというのに、まるで気を抜けない。今までのサーヴァントとは別格。士郎は今まで以上に警戒している。

 

「余は……でも、あの御方が、呼ぶというのか……余を」

 

ローマ皇帝であれば誰であれ、この男には頭が上がらない。

 

例えるならば、ネロ達は枝だ。ローマを統治し、発展させ、木を大きく育てていく。だが彼は違う。彼は木そのものだ。全てを築き、全てを包み、全てを支える巨大な木。

 

その相手を目の前に、ネロは戸惑い、戦意が見られない。

 

「さぁ」

 

ロムルスの声がさらに響く。ローマ兵の中には、その様子や雰囲気から、その男の言葉に不思議な強制力を感じている者もいる。

 

ネロが剣を握っていない震える手を、そっとロムルスの方向へ元あげようとして、

 

突如、ロムルスの周囲を激しい炎が取り囲んだ。

 

ハッとするネロ。見覚えのある炎、それが湧き出た方向を見ると、5つの影がそこに立っている。一際目につくのは一人の掲げる旗。黒い竜が描かれた旗は、彼女の別称を強く表している。

 

「少し遅れただけで置いてけぼりですか。全く、私の扱いがなっていないんじゃないかしら?」

「まぁまぁジャンヌさん。シロウ達にだって事情があったのでしょうし」

「何はともあれ、合流できたことを喜ぶとしようではないか。幸い、無駄足というわけではないらしいしな」

 

唇を歪めた、ある意味彼女らしい笑顔のジャンヌ。その隣にはリリィと荊軻が立っている。5人で来たところを見ると、しっかりバーサーカー組を連れてくることには成功したらしい。もっとも、既にその二人は近くにいた敵兵めがけて攻撃を仕掛けに行ってしまったのだが。

 

「少し目を離したらこれか……私は二人につこう。そちらは任せる」

 

バーサーカー組を追いかける荊軻。ジャンヌとリリィが改めてロムルスと向き合う。

 

「あなたが連合のリーダー、のようですね」

「いかにも。(ローマ)こそ、ローマだ」

 

?とはてなマークがリリィの頭に浮かんでいる。ジャンヌはというと、

 

「またこの感じですか?ローマにはまともに喋るサーヴァントはいないのでしょうか?頭が痛くなってきますね」

 

口調こそ丁寧っぽいが、もう士郎にはそれが爆発しそうな苛立ちをなんとか抑え、隠そうとしているのだとわかる。というか、青筋が浮かんでいることから見て、割と本気で苛立っているようだ。

 

「ネロを迎えに来たつもりだったが、まだ時間が必要なようだ。よい、(ローマ)は待つとしよう。決断したならば来るがいい、愛子ネロよ」

 

周囲を取り囲んでいた炎を打ち消すかのように、地面から城壁のようなものが湧き出る。炎が消え、城壁も役目を果たしたと言わんばかりに消えていくと、そこには既に、ロムルスの姿はなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「なるほど。敵がローマ神祖とはな」

 

ネロ用の部屋にて、ネロが椅子に腰掛けている。隣に立っているのはアーチャー。士郎達の持って来ていた紅茶を手早く用意し、ネロの前に差し出す。少し休みたいと士郎達に告げ、ネロは副将にして右腕のアーチャーだけを連れ、部屋にこもった。

 

「すまぬ」

「気にするな。私が勝手にしただけだ」

 

紅茶を一口飲んでから、小さく溜息をつくネロ。ローマ兵や他の客将の前では、とても見せられない疲れ果てたような姿。ただ、自分でもわからないが、アーチャーならば問題はない、そんな気がしていた。

 

ロムルスが一度撤退した後、連合ローマ帝国首都に最も近い町は、正規ローマ軍が攻め落とすことに成功した。敵の本拠地は既に目と鼻の先。本来喜ばしいことであるはずなのに、ネロの表情は明るいとはとても言えない。

 

「わかっていると思うが、ネロ。彼もまたこの時代に存在してはならない、召喚されてしまった招かれざる客だ。この時代の修復、ひいては人理救済の為には、例え誰であろうと倒さなければならない」

「アーチャーよ、心配せずともよい。余も、それはわかっておる……ただ、尊敬、いや敬愛していた相手と戦わなければならないというのは、中々に難しいことであるな」

「……そうだな」

 

なんとなく、アーチャーにはその気持ちがわかる。

 

かつてともに戦い、その強さに憧れた彼女。その相手と、よもや聖杯戦争で、それも敵同士として出会うことになるとは、夢にも思っていなかった。

 

本来サーヴァント同士は敵同士。彼女もそうやって、自分に攻撃を仕掛けて来た。皮肉にもあの少年が運命の出会いを果たしたその夜に、自分は運命の再会を、割と悪い方向で果たすこととなったのだ。

 

ただ……

 

「ネロ。私はこんなことを言えるほど大層な者では無いのだが、それでも君に言っておきたいことがある」

「む?……申してみよ」

「例えどれほどの者が君の前に敵として立とうと、今のローマを築いているのは君だ。例え君の叔父上だろうと、過去の大王だろうと、建国の皇帝だろうと。今の君を否定していいはずがない。自信を持て、ネロ・クラウディウス。今は君こそがローマなのだろう?」

 

「……アーチャー」

「何かね?」

「心が落ち着く。紅茶とやら、もう一杯もらえるか?」

「了解した」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ネロさん、大丈夫でしょうか?」

 

大きめの部屋、士郎達客将達が集まっていた。因みに、バーサーカー組は別室で待機してもらっているが、それでも総勢10名もいると、どこか狭く感じてしまう。

 

リリィが心配げに口を開くと、ジャンヌが鼻で笑う。

 

「心配するだけ無駄よ。結局戦う相手というだけのことなのだから。彼女にその覚悟がないとしても、他の誰かが始末すればいいだけのことでしょう?」

「確かにジャンヌさんの言う通りです。でも、ネロさんの気持ちを想像すると、とても辛いと思います。例えば、私が先輩と戦わないといけない、なんてことになったら……」

 

「うーん。このまま調子が乗らないと兵に影響が出ちゃうし、ネロの話を聞いてあげたいけど、」

「あの紅いアーチャーがいるんでしょ?なら大丈夫よ。あれはデリカシーないところもあるけど、タラシの気質があるから」

「ぐはっ!?」

「ぬ?どうしたのだご主人?もしや腹が減って動けないのか?」

「あ、いや、大丈夫だ。ちょっと思わぬ方向から飛び火して来ただけで」

 

「いずれにせよ、倒すしかないのであれば倒すだけ、そういうことなのだろう」

「うふふ。中々どうして、あの可愛い皇帝も見ていて飽きないわね。この運命に彼女がどう抗うのか、見ものね」

「あまり時間はないため、出来れば早く立ち直ってもらいたいものだな。でなければ、私の策も、早めに攻撃を仕掛けたことも、意味がなくなってしまう」

 

「うむ。ならば攻め続けるしか無いな!」

 

ドアをあけ放ち、ネロとアーチャーが部屋に入ってくる。先ほどまでの沈んだ様子と違い、いつもの、いやいつも以上に自信満々なネロからは、戦いへの不安や迷いは感じ取れない。

 

「ほら見なさい、あたしの言った通りでしょ?」

「先輩?どうかしましたか?」

「いや、なんでもない……うん」

「む、んん?」

 

乾いた笑みを浮かべている士郎に、何やら誇らしげなエリザベート。何やら自分のあずかり知らぬところで、酷い誤解を招かれているような気がするアーチャーだった。




因みにガチャで単発回してたらまたジャックちゃん来ちゃった
あと一人で5だよ5

あ、パールヴァティーは来てないよ
まあ、ストーリー追加ならいつかは来てくれるでしょ

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