正義の味方の人理修復   作:トマト嫌い8マン

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前以て言っておきますと、今回は色々と試行錯誤してみたところもあります
主に戦闘時の描写で、色々と

まぁ、ZERO組はやっぱり燃えるなぁ……


大王と皇帝

ダレイオスIII世の剛腕により振るわれる巨大な斧による一撃を、士郎は双剣を使い、軌道をそらす。地面にめり込んだその斧に全体重を乗せ、武器を振り上げられないようにする。

 

自分とは比べるまでもないパワー。圧倒的なまでの巨体。自分の記憶が確かなら、あのヘラクレスよりも大きいかもしれない。本当に元人間なのだろうかと疑ってしまう。

 

真正面から受け止めようものならいくら防いでもダメージを負いかねない。ならば防ぐのではなく逸らせばいい。

 

バーサーカーということもあり、敵の攻撃は読みやすい。何より、特異点での戦闘経験を積んで来た士郎の心眼は、サーヴァントのそれにも引けを取らない。

 

「つぁっ!」

 

攻撃を逸らされ、態勢を崩した相手に向けて、士郎が双剣を振るう。顔面めがけたその攻撃を、狂化されながらも、本能的に腕を振り上げて防ぐダレイオス。大きな音を立て、ダレイオスの武器が地面に落ちる。腕が裂け、鮮血が士郎の顔を濡らし、視界を奪う。

 

「しまっ、がっ!?」

 

咄嗟に腕で血を拭おうとする士郎。その隙を逃さず、ダレイオスの反対の腕による拳が、士郎の腹部に決まり、その体を大きく弾く。士郎の手から白と黒の双剣が離れ、宙を舞う。

 

「っ!」

 

口の中に鉄の味が広がる。どうやら口のどこかを切ってしまったようだ。あの時念のために体全体の硬度を高める強化をしていなければ、即死していたかもしれない。

 

立ち上がり、口の端から垂れる血を、士郎が手の甲で拭う。

 

「ゴォォォオ!」

 

ダレイオスが吠えて突撃してくる。片腕は使えず、武器も手放した。それでもなお、この男は危険すぎる。士郎が、本気で、それも死ぬつもりで戦わなければならないほど。でも、

 

士郎は、一人で戦ってはいない。

 

 

「やぁぁあっ!」

 

振り抜かれた拳が鳴らすのは鋼の音。ダレイオスと士郎との間に、マシュが飛び込んでくる。巨体から繰り出されたその一撃を、盾を地面に突き立てることで正面から受け止めることを、マシュはやってのける。

 

動きが止まるダレイオスの背を駆け上り、盾の上を飛び越えて、片手剣を振り下ろしてくるアレキサンダー。それに対しマシュの隣に駆けつけたネロが、剣を振り上げるようにし攻撃を弾く。弾かれた反動で後退し、アレキサンダーがダレイオスの肩の上に乗る。

 

「へぇ。まさかここまでサーヴァント相手に立ち回れるなんて。さすがは現代の皇帝に、人類最後のマスターってところかな」

 

アレキサンダーの背後から、先ほど士郎の手放していた干将・莫耶が迫る。今にも斬りかからんとする双剣を、空中から落下した岩が弾く。弾き飛ばされた双剣はそのまま士郎の両手に戻り、ダレイオスがアレキサンダーを乗せたまま距離を取る。

 

呼吸を整えるかのように対峙したまま動かない両チーム。アレキサンダーのさらに後方、エルメロイII世が扇のようなものを手に、士郎を睨みつける。

 

「その剣、単なる剣ではないな。おそらく互いに引き寄せあう性質を持っていると見た。それにこの強度。宝具か?」

「流石は時計塔の名物教師だな。今ので倒れてくれればこちらとしては楽だったんだけど」

「それを私がさせると思うか?私の役目はそいつを勝たせることだ。その障害になるのなら、それをどうにかするのが仕事だ。貴様の奇妙な剣の魔術、そう簡単に通ると思うな」

「参ったな。ただの後方支援型だと思ってたけど、あんたも大概だな」

「物理で殴るだけが戦いではない、そういうことだ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「それにしても、酷くやられたみたいだね、ダレイオス。君、本当に人間?」

 

アレキサンダーがダレイオスのだらりと垂れ下がった片腕を眺め、士郎に問いかける。笑顔のままであるため、どこまで本気で聞いているのかわからない。

 

「そういえば聞いていなかったね、君の戦う理由」

「何?」

「君はどうして戦うんだい?どうして身を削ってまででも、人類史の救済なんて、途方も無いことをしようと思ったんだい?別に君でなくても良かったんじゃ無いのかな?全てをサーヴァントに任せて、君は安全なところから見ていてもいい。なのに、どうしてわざわざ自ら戦うのか、聞かせてくれないかな?」

 

普通の少年のような笑みで問いかけるアレキサンダー。普通の少年が相手なら、気軽に答えることも出来ただろう。だが、彼を相手にしているのであれば、それは間違いだ。

 

見た目や言動こそ若く年相応なところがあるが、サーヴァントである以上、彼は自分の最後までの記憶を保有している。精神的には大人、かのアレキサンダー大王なのだ。故に士郎は言葉を選ぶ。

 

自分を試しているのであろう大王に対し、自分の答えを示すために。

 

「そうだな……馬鹿げていると思うかもしれないけど、俺はなりたいんだ。誰もが幸せでいられるようにする、正義の味方ってやつに」

「正義の味方?」

「あぁ。ある男が俺に言ったよ。その願いも、理想も、どうしようもなく偽物で、借り物で、偽善だって。それでも、俺はそう生きたいと思った」

「どうして?どう聞いても君には分不相応な願い、子供の夢物語にしか聞こえないけど?」

「そうかもしれない。でも、誰かが幸せであってほしいという願いは、決して間違いじゃ無いはずだ」

 

アレキサンダーの顔から笑みは消えている。それでも彼は士郎の言葉を一言一句、聴き漏らさぬように集中している。

 

「だから俺は、少しずつ始めようと思った。戦争を止め、苦しんでいる人に手を差し伸べ、誰もが幸福になれるようにって。そんな時に、人理焼却なんて、とてつもないほど大きな事件が起きた」

 

カルデアスに守られているカルデア、そこ以外の全ての場所、全ての人類が、その存在を亡き者にされてしまった。

 

「師匠も、大切に思っている人たちみんなも、消えた。でも、この事件を解決すれば、あいつらだけじゃない、世界中の人たちを助けることができる。そして、今それができるのは、マスターの資格を持っている俺だけだ」

「それって、ただの使命感じゃないのかな?」

「……それもあるのは否定しない。正義の味方の夢を、人類史の救済を、俺は二人の人に託されたからな。でも、それだけじゃない」

 

正面からアレキサンダーを見据え、力のこもった眼差しを持ち、士郎は語りかける。

 

「俺自身が、そうしたいと思った。大切に思う人たちを、世界中の人たちを、この手で助けたいと。だから誰に止められようと、俺は進むのをやめない。みんなを救う、それが今の俺の、たった一つの願いだから!」

 

 

「願い……か。叶えられるかどうかはわからないような、途方も無いものを、君は持っているね……馬鹿げているとまで思える。でも、どうやら僕が笑っていいものでもなさそうだ」

 

ダレイオスの肩から降り、剣の切っ先を士郎たちに向けるアレキサンダー。

 

「なら、示してみてよ。君たちの願いを、生き方を」

「言われるまでも無いさ。行くぞ、マシュ、ネロ!」

「はい!」

「うむ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

武器を構えながら、士郎は冷静に現状を確認する。

 

ダレイオスに殴られた部分がまだ少し痛むが、強化のおかげで動けないほどではなさそうだ。ネロとマシュも、まだまだ動けそうだ。

 

対する相手は、アレキサンダーとエルメロイII世が余裕がある。さらにダレイオスの片腕は既に治療されている。そのための魔力がどこから来ているのかがわかれば良かったのだが、残念ながらマスターらしき影は近くにいない。頭を振り、士郎は意識を目の前の敵に向ける。

 

「それじゃあ、全力で行くとしようか。ね、先生?」

「ふん」

 

エルメロイが指を鳴らす。それを合図に何らかの魔術が発動したのか、アレキサンダーとダレイオスの体がわずかに光を帯びる。

 

「何だ?」

「私に力を渡した英霊のスキルだ。『軍師の忠言』に『軍師の指揮』。どちらも味方、正確には自軍を大幅に強化することができる、まさしく指揮官にとっては必要不可欠な力だ。極東でも有名なこの英霊にかかれば、どんな兵も一騎当千の力を持てる。果たしてお前に乗り越えられるか?」

 

大きく吠えながら接近するダレイオス。その拳を間一髪でかわす士郎は、その攻撃が地面に当たるのをみて、確信した。パワーもスピードも、そしておそらく耐久力も、先程とは比べものにならないと。現に拳の当たった地面は、まるで隕石が激突したかのように、クレーターが生じている。

 

先程まででほぼ互角、しかし今では敵がパワーアップしてしまっている。更に先ほどまでのダメージも癒えている。状況的に、かなり最悪な方向に向かっている。

 

「くっ!」

 

振り上げられた拳を転がることで何とか避ける士郎。追撃を飛び込んできたマシュの盾が弾く。

 

「ネロさん!」

「はぁぁあっ!」

 

攻撃を逸らされ、態勢を崩したダレイオスの首を狙い、ネロの剣が振るわれる。しかしその剣が届くより前に、別の剣が行く手を阻む。

 

「それじゃダメだよ。越えられない」

 

片手でネロの剣を防ぎながら、両手で振るわれるマシュの盾をもう片方の手で受け止める。不敵な笑みを浮かべるアレキサンダーに、マシュは少しばかりの焦りを感じる。

 

「こんなに強くなるなんて……」

「そりゃそうだよ。何てったって、僕自慢の臣下だからね」

 

「避けろ!」

 

その声にハッとして飛び退くアレキサンダー。彼の頭のあったあたりを、赤い閃光とともに矢が通り抜け、背後の地面に突き刺さる。飛んできた方向を見ると、士郎が黒い弓を構え、新たな矢をつがえている。先とは違う捻れた矢。

 

アレキサンダーが見つめる中、士郎めがけてダレイオスが走る。先ほど拾った自身の武器を振りかざし、咆哮とともに振り下ろさんとする。その一撃をバックステップでかわす士郎。武器を踏み台にし、ダレイオスの顔の前まで飛び上がる。

 

投影、重装(トレース・フラクタクル)

I am the bone of my sword(我が骨子は捻れ狂う)

 

ダレイオスが士郎に手を伸ばすが既に遅い。

 

「“偽・螺旋剣(カラドボルグII)”!」

 

空間をもえぐり取るその矢は、ダレイオスの腕を粉砕し、その心臓を貫いた。体に大きな穴が空き、ダレイオスの動きが止まる。

 

着地した士郎がその姿を見上げると、ダレイオスがもう一方の手で士郎の頭を掴もうとして……

 

 

そのまま消えていった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「やられちゃったか……でも、まだ僕がいるし、なんとかなるかな」

 

ダレイオスが消えたにも関わらず、アレキサンダーはまだ余裕の笑みを浮かべている。士郎の元へマシュとネロが辿り着く。

 

「形勢は逆転した。貴様らの方が不利だと言うのに、まだ笑うか」

「笑うよ。だってまだ、僕はとっておきを見せていないしね。ここまで来たら、出し惜しみする方が失礼みたいだし、やるとしますか」

 

アレキサンダーの背後の空間が揺らめく。聞こえてくるのは嗎と、強く大地を踏みしめる蹄の音。揺らめきの中から、見事な馬が飛び出し、アレキサンダーの隣に並ぶ。

 

「さぁ、これをどう切り抜ける?僕の逸話の、その第一幕を!」

 

馬の背に飛び乗るアレキサンダー。大きな嗎をし、馬が全速力で駆けて来る。

 

始まりの蹂躙制覇(ブケファラス)!」

 

通常の馬よりも一回りも大きいアレキサンダーの愛馬。その蹄による攻撃は、並みの相手であれば難なく踏み潰す。その後幾度となく行われた遠征、蹂躙。その始まりを名乗る逸話の宝具。

 

しかし侮ることなかれ。

 

ここにいるのは人間として規格外の存在。

 

「マシュ!」

「はい!宝具、展開します!」

 

真正面から受けて立つ姿勢のマシュ。地面に盾を打ち付け、アレキサンダーの攻撃に備える。大きく広がる壁としてではなく、壁としてではなく、一点に集中させたその守りは、ブケファラスの強力な蹄の一撃にも耐えている。

 

投影、開始(トレース・オン)

 

続いて動く士郎。手に持ったのは先ほどと同じ矢。拮抗状態にあるマシュとアレキサンダーに向かい、矢を向ける。

 

「赤原を走れ、緋色の猟犬!赤原猟犬(フルンディング)!」

 

狙いすました一撃が、正確にアレキサンダーめがけて走る。高速で打ち出されたそれであったが、魔力の壁によって軌道が外れてしまう。

 

「貴様が狙撃することぐらいお見通しだ。私が許すはずもないことを、学習しなかったのか?」

 

やや呆れたような視線をエルメロイII世が士郎に向ける。対する士郎はフッと息を吐き、挑戦的な笑みを浮かべる。

 

「どうかな?」

「何だと?」

 

軌道を逸らされ、あとは地面に突き刺さるだけのはずの矢が、向きを変え、アレキサンダーの方へと向かっていく。途中で軌道が変わる矢など、普通の矢ではありえない。思わず動揺するエルメロイII世だったが、すぐさまアレキサンダーを守るための魔力の壁を張る。

 

「これで、「そっちじゃないんだ。俺の狙いは」?っ、まさか!ライダー!」

 

気付いた時にはもう遅かった。響いたのは肉が裂ける音、そして獣のうめき声。ブケファラスの足が、獣に食いちぎられたかのように、士郎の矢によって抉り取られていた。

 

バランスを崩し、宝具の発動も終わる。マシュが盾で押し返すと、ブケファラスは地面に倒れ消えていく。投げ出されたアレキサンダーは、頭を打ったのか、しきりに頭を横に振り、意識を覚醒しようとしている。

 

「ぐぅっ、まさかこんな風に僕の愛馬がやられるなんて……でも、まだ戦いは終わってないよ」

「否。もう終わりである」

 

振り返りながら立ち上がったアレキサンダーの前に、既に近づいていたネロ。振り下ろした炎の剣が、アレキサンダーの体を一閃する。

 

アレキサンダーが膝をついた。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「僕の負けかぁ……思ってたよりもずっと悔しいなぁ」

 

粒子になり始めている自分の体を見つめ、感慨深げにアレキサンダーが呟く。彼の正面に立ったネロが、その様子を見下ろしている。

 

「頼もしい仲間だね。これも君の、唯一無二の皇帝のカリスマって奴なのかな?まぁ、最後に一つだけ言い残すとしよう。咲き誇る花のような気高さと誇り高さ、それは間違いなく美しいものだ。でも、危険なものでもある。だから……でも、彼らがいるなら、大丈夫かな?」

 

そう言って、アレキサンダーの姿も消えていった。最後に残ったのはエルメロイII世。

 

「で、あんたはどうする?戦うっていうなら、付き合うけど?」

「いや、私にはもう戦う理由はない。手を引くとしよう。来い。ブーディカの元に案内する」

 

踵を返し、砦の裏にあるテントへと向かうエルメロイII世。士郎たちは顔を見合わせてから、周囲に気を張りながらもそのあとを追った。




燃えるとは言ったけど、もっとカッコよく描くことができたらよかったなぁ

アレキ、エルメ、そしてダレイオスファンの方、申し訳ないです

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