正義の味方の人理修復   作:トマト嫌い8マン

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対カエサル、ちょっと長くしようか悩んで、結局短くしました、すみません

それにしても、もう少しゆっくり書くための時間が欲しい


高速の剣技

二人の皇帝の戦いは、激しさを増していた。見た目と裏腹に、なかなか素早い動きをするカエサル。その剣技も見事なもので、なるほど皇帝と呼ばれるだけのことはある。

 

一方ネロもまた負けず劣らず、舞っている様にも見える剣技で攻める。気持ちの高ぶりに呼応しているのか、その剣の輝きもいつも以上になっている。

 

「貴様、ふくよかな割にはよく動く。流石の余も驚いたぞ」

「仮にも最優のサーヴァント、セイバーであるぞ。これしきのこと、当然だ。寧ろそちらこそ、人の身でありながらもサーヴァントと渡り合うとは。良いぞ、実に良い、益々良い!」

 

幾十回と繰り返しぶつかり合う二つの剣。徐々にネロの方に疲れが見え始める。人間とサーヴァントの差が出始める。

 

「ぬぅっ」

「ふむ、そろそろ終わりにするとしよう」

 

「私は来た!私は見た!ならば次は勝つだけのこと!」

 

黄金の剣が輝き始める。発動されるのは宝具、カエサルの至高の技。高速で剣が振られ、ネロ目掛けて襲いかかる。

 

黄の死(クロケア・モース)!」

 

幾たびも連続して切りつけるカエサル。しかしその手応えは硬かった。響くのは肉の裂ける音ではなく、鉄と鉄が打ち合う音。飛び散るのは真っ赤な血ではなく、激しく飛び散る火花。黒く、巨大な盾が、彼の高速の剣技を受け止めている。

 

「ネロさん、大丈夫ですか?」

「マシュか、助かる」

「ほぅ、向こうは片付いたということか……ぬぉっ!?」

 

感心したようにつぶやくカエサルが頭を下げる。丁度額のあった位置を鋭い矢が通り過ぎていく。双剣ではなく、黒い弓を手に、駆けつける士郎。ネロを庇うように前に立つ。

 

「やれやれ。マスターとは、サーヴァントと互角の力を持つものなのか?」

「互角だなんてとんでもない。俺なんかじゃまだまだだし、本来魔術師であるマスターが、サーヴァントと戦って勝てるはずがない」

「ふむ。貴様はどうにも例外のようにも見えるが、今度は貴様が私と斬り結ぶか?」

「遠慮しておくよ。それに……必要ないしな」

「?何を……!?」

 

ほとんどずっと余裕の表情を保っていたカエサルの顔に、初めて驚愕の表情が現れた。見下ろすは自身の左腕。そこには長い矢が、膝側から正面にかけて、彼を貫いていた。

 

「これは……」

「その矢は、一度捉えた獲物を、決して逃しはしない概念が込められてる。最初の軌道をかわせたとしても、その矢は自動でお前を狩るまで追い続ける」

 

本来は血の匂いを嗅ぎつけ、最適な攻撃を自ら行うという剣。その特性を矢として活かすべく、改良を施された魔剣。その名は赤原猟犬(フルンディング)、射手が健在であれば獲物を追い続ける追尾型の矢。その特性を見切ることができなかったカエサルは、まんまとその牙に喰らい付かれたのだ。

 

「ふむ……想像以上にできる……シロウとか言ったな。強いな。強い。実に強い。であればこちらも本気で相手をしなければならぬというもの」

「本気だと?」

 

みるみるうちにカエサルの魔力量が増えていく、まるで今まで抑え込んでいたものを解放するように。その左腕は、巨大なゴーレムのそれに酷似したものとなり、胴体にも防具のように、所々が覆われる。先ほどの矢による怪我もなかったかのように、軽々と腕を振るうカエサル。

 

「では、これをどう突破する?」

 

「マシュ!」

「はい!ネロさんは下がっていてください。ここは私たちが」

「ぬぅ、すまぬ。余は少し休ませてもらう」

 

頭痛がするのか、頭を抑えているネロを背に、士郎とマシュがカエサルと対峙する。カエサルが左腕を振るい、戦闘が開始される。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

激しい激突音が響く。巨大な腕は見た目に違わぬ強固さと、見た目に反する素早さで、士郎やマシュに襲いかかる。使い手が使い手なら武器も武器。見た目の詐欺感が半端じゃない。

 

「うっ」

「くっ」

 

横薙ぎに払われた腕を受け止めきれず、交代させられる二人。パワーは先ほどのゴーレム以上。スピードは比べ物にならない。中々に厄介な相手である。

 

「本気のカエサルさん、かなり手強いですね」

「私も聖杯を手に入れたいのだ。許せ」

「聖杯を?手に入れてどうするつもりだ」

「なに、そんな大層な願いではない。なんでも叶うというのであれば、使いたいというだけのことだ」

「……悪いがそれはできないな」

「何?」

「聖杯は、俺たちが手に入れる。俺たちが、手に入れなきゃいけないんだ」

 

膝をついていた状態から立ち上がる士郎。ひび割れていた干将・莫耶を補強し、構える。少し息は上がっているものの、その眼光は衰えるどころか、鋭さを増している。

 

「ならば、試してみるとするか?貴様と私、どちらが聖杯を手に入れるに値するのかを」

「何?」

「なに、簡単なことだ。どちらの剣が先に相手を捉えるか、それを競い合うだけのものだ」

 

所謂居合の試合のようなものをしようということのようだ。確かに手っ取り早く、一見イーブンな風にも思える。しかしカエサルの宝具が士郎の不利を告げている。自動で連続攻撃を高速で叩き込むという剣。いくら士郎が守りの剣が得意といっても、不利すぎる。そうマシュは判断した。

 

「先輩、ダメです。この勝負に乗るべきではありません。相手の宝具を考えると、危険すぎます」

『マシュの言う通りだ。あの連続攻撃はとてもじゃないけど見切れるものじゃない』

 

ロマニもマシュの意見に賛成する。しかし士郎は特に反応を示すことなく、カエサルのことを見ている。戸惑うマシュ。暫しの間の後、士郎が一歩前に進み出る。

 

「わかった」

「先輩!?」

『士郎君!?何を言ってるんだい?この勝負は危険すぎる』

 

驚愕し、引き留めようとする二人の声を受けながらも、士郎はカエサルの方へと歩いていく。感心したような表情のカエサル。

 

「ふむ、逃げぬのか?」

「逃げる理由がないしな。それに、負ける気もない」

「ふははっ、面白いな。面白い。実に面白い。では、始めるとするか。この石が地面に落ちた時が合図だ」

「わかった」

 

一呼吸して、士郎は干将・莫耶をしまう。そのまま右手を宙にかざした。

 

「獲物をしまうのか……なるほど、他のものを使うか。ならば、新しいものを出すまで待ってやろう。なんなら弓矢でも良いぞ」

「いや、いいさ。始めてくれ」

 

士郎の返事を受け、驚いた顔をした後、カエサルは肩をすくめる。大きめの石を手に取り、それを軽くトスする。石が落ちるまでの間に、カエサルは剣を構え、士郎は呪文を唱える。

 

「————投影、開始(トレース・オン)

 

何もない空中を右手が握る。魔力がそこに集中し、徐々に形作っていく。足に力を入れ、重みに備える。

 

「————投影、装填(トリガー・オフ)

全行程投影完了(セット)

 

呟くと同時に石が地面に落ちる。カエサルが士郎目掛け駆け出し、剣を振るう。高速の剣を持って、士郎を仕留めるために。

 

 

 

 

 

「————是、射殺す百頭(ナインライブズブレイドワークス)

 

 

 

 

 

交わるのは一瞬。響いたのは剣の落ちる音。信じられないという表情を浮かべるカエサルの手から黄金の剣が零れ落ちた。何が起きたのかわからないマシュにネロ。振り返った士郎の手の中には既に獲物はない。認識する間も無く、決着はついていたのだ。高速の剣を振るうはずのカエサル。それを士郎は、速さで上回った。

 

「な、んだ……今のは」

「俺の勝ちだな、カエサル」

 

崩れ落ちるように倒れるカエサル。その体は粒子状になり始めている。なんとか体勢を立て直すカエサル。その顔はまたしても余裕のある笑顔に戻っている。

 

「うむうむ。まさかこれ程までとはな……当代の正き皇帝、良い将を得たものだな。そもこの私を一兵卒として扱うこと自体が間違っているのだ。あのお方の考えはわからん」

「あのお方?」

「そうだ。連合首都にて、あのお方は貴様を待っているだろう。いかなる皇帝でさえ逆らうことのできぬ存在。私は厳密には違うがな。あのお方を見た時、貴様がどのような顔をするのか、楽しみだ。見られぬことが残念であるな……」

 

気になる情報を残し、カエサルは消滅した。驚くネロに、マシュが説明する間、士郎は自身の右腕を見下ろした。ゆっくりと顔の前まで腕を持ち上げ、拳を握り、開く。左手で指に触れてみて、士郎は右腕をそっと下ろした。その指先は、僅かに痙攣していた。




ちょっと士郎にハンディ付けちゃいました
ちょっと後々の展開のために、ね

余談ですけど最近ガチャも全然回してない……
お陰で呼符が溜まる溜まる

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