なんだかこの二人だけで戦うのは久しぶりな気がする
「来たか」
その男は士郎たちを見るなり、退屈そうに座っていた椅子から立ち上がった。右手に持っているのは金色の剣。その特徴から、近接戦闘においてはかなりの脅威なのがわかる。幸運の判定で成功した分だけさらに連続攻撃を行う。アーチャーの幸運値を考えると、自分にとってかなり面倒な相手かもしれない。
男が立ち上がると同時に、その傍に黒い体を持つゴーレムが現れる。先ほどのゴーレムのグレードアップされたもののようで、ひとまわりは大きくなっている。
「しかし、退屈しすぎたかとも思ったが、待った甲斐はあったようだ。美しいな。そう、美しい。実に美しい。ローマを統べる者にふさわしき美しさだ。愛しきローマを継ぐものよ、名はなんという?」
ネロだけを見つめ、語りかける男。
「それとも、名を名乗ることもせずに私を斬るか?ローマの皇帝を名乗り、我らが土地を治める者が?」
「ふむ。貴様の言う通りだな。我が名はネロ。ローマの5代目皇帝、ネロ・クラウディウスである!」
「ネロ。良い名乗りだ。そう、良い。実に良い。そうでなくては面白くない。異国の客将、貴様らも名乗るがいい」
「士郎。衛宮士郎だ」
「マシュ・キリエライト。マスターである士郎先輩のサーヴァントです」
「そうか。それがサーヴァントとマスターというものか……まぁいい。いずれにせよ、私の敵だな。この黄金の剣、
剣を抜き構える男。しかし士郎は構える様子がない。
「どうした?今更怖気付いたとでもいうか?」
「……で、あんたは?」
「む?」
「こっちは全員名乗った。なら、あんたも名乗るのが筋だろ?」
「ふむ……確かにそうだな。そうだ。その通りだ。我が名は皇帝の起源、ユリウス・カエサルだ。覚えておくが良い」
胸……もとい腹を張って答えるカエサル。その答えを受けて、士郎とマシュの目が点になっている。
「?なんだ?どうかしたのか?」
「えっ、あっ、いえ。ただ少し、驚いただけで……」
「いや、まぁ、伝承とかってどう間違ってるかなんて、もう予想もつかないしな……男が女だったとか……な。カエサルが実際は、こう、ふくよかでもおかしくはないか」
「何やら不愉快な納得をしているようにも聞こえたが、まぁいいだろう。来るがいい、既に賽は投げられた。貴様らの探しているもの、求める答え、よく戦えば答えてやらんこともないぞ」
カエサルが戦闘態勢に入ると、ゴーレムも動き出し始めた。
「シロウ、マシュ。あの岩の怪物は頼むぞ。余は皇帝を名乗るあの男を!」
「気をつけろよ、ネロ」
「戦闘、入ります!」
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巨体から繰り出された拳を士郎は双剣で、マシュは盾で受け止める。しかし、やはりグレードアップされているようで、容易く後退させられる。
「先輩、気をつけてください。並みのサーヴァント以上の腕力はあるかと」
「あぁ。それに、身体を形成しているのも土じゃなくて、硬化させられている岩だ。多分、防御面でも、かなり強くなっているな。気を抜かずに行こう、マシュ」
「そうですね……あ……ふふっ」
「?マシュ?」
突然嬉しそうに笑うマシュに、士郎は疑問符を浮かべる。何か楽しいことでも思い出したのだろうか。
「いえ……その、こうして先輩と二人でというのも、なんだかずいぶん久しぶりな気がして」
「そういえば、リリィやジャンヌ、それに特異点で出会ったサーヴァントが基本は一緒だったもんな。冬木での戦い以来か?」
「そうかもしれません。そんなに前ではないはずなのに、もう既に懐かしく感じてしまいます」
「そうだな。じゃあ久しぶりのタッグだ、頼りにしてるぞ、マシュ」
「はい。行きましょう、マスター」
二人並んで強化ゴーレムを相手取る。通常の人間よりも強いとはいえ、サーヴァントほどの戦闘力はまだない。二人の敵ではない。ゴーレムの動きを上回る速度で二人は獲物を振るい、攻撃を叩き込む。しかし、
「先輩っ。攻撃を当てることはできますが、防御力がかなり高いです!これでは、決定打を与えられません」
「あぁ。しかも、地面からの砂利や土を使って、削れた部分を再構築してるみたいだな。これは、再生力を上回るダメージを与えないとダメってことか」
干将・莫耶やマシュの盾は、確かにダメージを与えることには成功している。だが、その攻撃はせいぜい体表のごく一部分を削り取ることはできても、大きなダメージを与えているようには見えない。
次第に防戦に回る二人。いくらダメージを与えても、再生してしまうのでは、こちらの体力を消耗するだけ。策を考える間、二人はゴーレムの攻撃をしのぐことに徹していた。
「ゴーレムの再生力を上回るには、強力な一撃を一点に集中させることが有効かと思います。それなら、あの強固な身体を貫くことも可能になるのではないでしょうか」
「一点に……よしっ、マシュ。数秒間、あいつを引きつけてくれ。あいつの防御を切り崩す!」
「!了解です」
バックステップし距離を取る士郎と、前に出てゴーレムの攻撃を迎え撃つマシュ。一切の迷いなしに、マシュは士郎の頼みを実行する。それは士郎に対する、絶対ともいえる信頼。そしてその期待に応えるべく、士郎は魔力を集中させる。
「
「———
両手の干将・莫耶を握り、二刀を投げる士郎。ゴーレムの体表で弾かれるだけのなんの変哲も無い攻撃。攻撃の出どころである士郎へと向かおうとしたゴーレムの前に、マシュが立ち塞がり、再び自分へと意識を向けさせる。
「———
「———
すぐ様同じ剣を投影する士郎。先ほどと同様に、二刀をゴーレムに向けて投げつける。交差するように、先ほどの二刀と合わせた合計四刀がゴーレムに当たり、また弾かれる。
もはやその攻撃を気にもかけずにマシュを攻撃するゴーレムに対し、マシュは堅実な守りでダメージを受けずにいる。士郎が策を発動させるまで、自分のすべきことは彼を守ること。必ず成し遂げてみせる。
そして士郎の手に握られる三対目の夫婦剣。これは投げずに、士郎は更に魔力を込める。
「———
夫婦剣が変化する。より長く、より鋭く。まるで広げられた翼のように、二刀は進化を遂げる。これで、準備は全て整った。
「———
「———
「マシュ!」
「はい!」
名前を呼ばれたマシュは、盾でゴーレムの攻撃を弾く。その反動で後退するゴーレム。止まった場所は、丁度士郎の真正面に当たる。士郎との間には他に何もなく、まさしく絶好のポイント。
「うぉぉぉぉおおおっ!」
駆け出しながら、士郎が吠える。夫婦剣を握る腕を振りかぶりながら、狙いを定める。士郎をターゲットと認識したゴーレムが近づいてくる。巨体が腕を士郎へと伸ばす。
けれども、届きはしない。届くはずもない。その程度の速度では、追いつけやしない。
一刀一刀が必中、それが合わせて6つ。
近接戦における、彼とあの英雄の絶技。
更に、その強化版。
故に、その技は、止められはしない。
「———鶴翼三連!」
全く同時にゴーレムの体を、6つの刃が切り裂いた。1つ1つでは無理だったこと、その強固な鎧のような体を、この技は容易く切り裂いたのだ。
しかし、これで終わったわけではなかった。
僅かな岩で繋がっている胴体。しかし、それだけでもゴーレムは活動を停止することがなかった。ボロボロになりつつある腕を高く上げ、士郎に振り下ろそうとする。
「マシュ!」
「やあぁぁっ!」
士郎の呼びかける前に、マシュは既にゴーレムのすぐ後ろに回っていた。横薙ぎに振られる盾は、ゴーレムの体を両断し、完全に砕いた。崩れ落ちる岩は、二人の足元で動かなくなった。
「ナイスフォロー、マシュ」
「いえ、先輩こそ、お疲れ様です」
「それにしても、よくあのタイミングでゴーレムの後ろに回ってたな」
「先輩の言っていたことを思い返したら、どうするのかがわかったんです。先輩は防御を切り崩すと言いました。それはつまり完全に倒しきるのではない。だからとどめは私が、という意味だったんですよね?」
「正解。って、今思うと、よくわかったな、マシュ。自分で言うのもなんだが、あれだけじゃ結構わかりにくかっただろ?」
「いえ。私は、先輩のサーヴァントですから。今はまだ無理でも、将来的にはアイコンタクトだけでどんな指示も理解してみせます」
「……そっか。頼もしいな」
「あ、ありがとうございます」
お疲れ様の意を込めて、マシュの頭を撫でる士郎。くすぐったそうに、でも嬉しそうに、マシュはその手を受け入れる。呼吸を整えた二人は、直ぐさまネロの戦っている方へと向かった。
あれだけ間空けてこの長さかよって、自分でも思いますけど、すみません、忙しくて( ; _ ; )/~~~
次はネロとカエサルかぁ〜
うーん、このネロってまだ人間なんだよなぁ、一応