ちなみに年齢もありますが、魔術師の中では一般人に近い考え方までは変わってない士郎さんのために「人間らしい」としてマシュからそう呼ばれてます
しばらく探索した士郎だったが、依然として誰にも出会わなかった。それも竜牙兵をカウントしなければの話だが。
「なんだってあんなに沢山街に?聖杯戦争とか魔術は隠匿されるものじゃなかったのかよ」
少なくとも自分の経験したあの戦いでは、できる限りの神秘の隠匿がされていたはずだ。この様子だと聖堂教会もその役割を果たせてはいなさそうだ。
もう一つ気がかりなことがある。それはいつの間にか彼の左手に現れたもの、令呪だった。聖杯戦争においてサーヴァントと契約したマスターの持つ絶対命令権。かつてマスターだったことのある士郎はそれに見覚えがある。だが今の彼はサーヴァントと契約していないはず。
「くそっ。どうなってるんだ?」
もう何度目かもわからない戦闘を終え、呼吸を整えるために瓦礫の上に座り込んだ。竜牙兵自体の戦闘能力は大したことはないが、これではきりが無い。ふと、悪寒を覚える。見られている、いや狙われている?どこから?パッと立ち上がり警戒態勢に入るも少し遅かった。既に矢は射られている。空から赤い閃光が迫る。
ギィン
響いたのは肉の裂ける音ではなく、金属がぶつかり合う音。矢と士郎の間に一つの影が入り込んだのだ。黒い鎧のような姿に薄い紫色の髪、そしてその手に持つ巨大な盾。その盾で彼女は士郎の命を救った。もう死ぬ寸前であったはずの彼女、彼があの管制室でずっと手を握り続けていた彼女。自分があの時助けたいと思った一人の少女。
「マシュ、なのか?」
「説明は後です。今は私の後ろに、マスター」
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矢による攻撃は止むことを知らないかのように降り注ぐ。しかし盾は崩れない。周囲の地面が抉り取られるほどの威力を持つ矢でも、その盾を貫くことはなかった。
突如として矢が止まる。追撃の様子もなかった。張り詰めていた気を緩め、マシュは構えていた盾から力を抜き、士郎と向き合った。
「ご無事でしたか、先輩?」
「あぁ、ありがとうマシュ。そっちも無事でよかった。ところで、その格好は?」
「はい、これはサーヴァントとしての私の戦闘形態です。とりあえず、よろしくお願いします、マスター」
「マスター?俺が、マシュの?」
驚く士郎。彼の知るマシュはとてもサーヴァントとは思えない少女だった。立ち居振る舞いからしても、お世辞にも運動神経が高いとは思えなかった。それが今は体ほどの大きさの盾を片手で持ち、今自分を助けてくれた。
「先輩?どうかしましたか?」
「あぁ、いや。マシュって元々サーヴァントだったのか?」
「いえ、私は元々はサーヴァントではありません。死の間際に、とある英霊がその力を私に譲渡してくださり、私と同化したのです。ですから私は、デミサーヴァントということになります」
「えぇと、」
正直士郎はその言葉をうまく理解できなかった。サーヴァントと融合という時点からしてわからない。霊体であるはずの彼らと一体化することができるのか?
「とりあえず、普通のサーヴァントと同じように扱ってくださって構いません。霊体化はできませんけど、基本的には同じです」
「まぁ、とりあえずそれで納得しておこう」
霊体化できないことをデメリットかと言われると正直士郎からしたらそうでもなかった。以前の聖杯戦争で彼が契約したセイバーもまた、霊体化ができなかったのだから。それは生きながらにしてサーヴァントとなった故である。マシュも同じなのだと一人納得した。
「ところでマシュ、ここってどこなんだ?カルデアからレイシフトしたことだけはわかったんだが」
「ここはファーストオーダーの舞台、2004年の冬木市。カルデアでは特異点Fと呼称しています」
「冬木だって?」
それが本当なら道理で見覚えがあるわけだ。ここは彼にとっての始まりの場所でもあるのだから。あの日、死の間際に助けられ、あの月の夜に夢を引き継ぎ、その後戦いに身を投じ、自分と向き合い答えを得た。それがあって、今こうしてカルデアへ来ていたのだから。
「私たちの任務はこの特異点発生の原因の確認、及び排除でした。おそらくですが、聖杯が関係しているのではないかと」
「聖杯が・・・」
自身が参加した聖杯戦争、遠坂に聞いた話では、あの時にセイバーの宝具で聖杯を跡形もなく消しとばしたらしい。それにより、ほとんど被害はなかった。しかしここではそうはならなかったようだ。
キャー
突然何処かから悲鳴が聞こえた。まだ誰か生きている人がいるのだろうか。マシュと顔を見合わせ、アイコンタクトを取る。頷くとともに二人で声のした方へ駆け出した。
ここの士郎さんは肉体的にも精神的にも成長してますからね〜
割と強いです、うん