ゴッドイーター、改め死神   作:ユウレスカ

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ep.20「彼の友」

 ギルバート・マクレインは色々な意味で有名人だった。

 まず、護廷十三隊の中でも唯一と言っていい、横文字の名前だということ。日本人ばかりの死神の中で、彼だけが西洋出身の死神だった。

 次に、その容姿。左頬を走る大きな傷跡、鋭さを秘めたアイスブルーの瞳に、セミロングの黒髪。一見するとその筋の人間に見えなくもない容姿は、それだけで注目されると同時に、避けられる要因を含んでいた。荒くれ者ばかりの十一番隊にいたのなら特に何も思われなかっただろうが、彼が所属しているのは規律を重んじる朽木 銀嶺率いる六番隊。そのちぐはぐさもあって、よく知らない人間は彼を避けたがる。

 だが、その性格は生真面目で世話焼き。後輩の隊員の面倒もきちんと見て、異論がある場合は上司であっても進言する。そのギャップも相まってか、密かに人気を集めている――らしい。

 本人にとっては、人気云々は興味の範疇にはない。ただひたすらに虚を屠り、力をつける。それが、彼が自身に課した使命だった。

 そんなギルも今日は非番。久しぶりに流魂街を散策することにした。生憎井塚や海燕は仕事らしく、今日は一人だ。

 特に目的もなく、潤林安地区を歩く。第一地区というだけあって活気にあふれ、子どもも大人も関係なくあちこちに行きかっている。方々から売り子の声が聞こえ、土の匂いや出来立ての料理の香りが漂っている。耳と鼻、そして目で、恵まれたこの街を堪能する。それだけで、ギルは満たされた。

 しかしそれと同時に、この光景を他の仲間たちも見られているのだろうかと考える。もしくは、現世にいる可能性はないかと。無論、十三隊の仲間の事ではなく、生前の仲間――神機使いの仲間である。井塚と再会して以来も暇さえあれば探しているが、未だに誰とも再会することは叶っていない。尸魂界内だけでもかなりの広さがあるのだ、見つかる可能性が低いとは分かっているが、それでも納得は出来なかった。

――ミクイさんがいるのだから、他の仲間だって

 そう考えてしまうのは、ごく自然なことではなかろうか。人間、一つあれば次は二つ、三つと欲してしまう生き物だ。ギルだって、井塚だってそういう人間だ。

 ギルは、彼女もまた未だに過去に縋っていることを知っている。いや、察している。結局は、自分も彼女も、けじめをつけられずにずるずると生きているのだと。

 だからこそ、自分達二人はもし生前に関することが起きてしまえば、恐らくは簡単に尸魂界を裏切れるのだろうとも推測する。あの時、海燕に忠告したのはそういうことだ。自分たちにとって、最優先は生前の仲間なのだと。

「きゃっ」

「おっと」

 どうにも、踏ん切りがつけられないのは情けないな、とギルが思っていると、前方を見ていなかったのだろう。どん、と一人の子どもがぶつかってきた。尻もちをつきそうになるその子を、背中に手をまわして支える。

「大丈夫か?前はきちんと見て歩け」

「あはは……ごめんごめん」

 照れ臭そうに頭を掻いているのは橙色の髪をした少女。この地区に住む人間にしては、やけに粗末な布を使った服をしている。出稼ぎにでも来たのだろうか。顔だちはいいから、成長すればかなりの美人になるだろうとギルは思った。

 一方、少女は気さくにギルにねーねーと話しかけてくる。

「なんだ?」

「ギンって男の子、知らない?銀のかみで、狐みたいな顔の」

「ギンって」

 特徴も名前も、思いつく人間は一人しかいない。市丸 ギン三席だ。三番隊に入って、今は射場副隊長に思い切りこき使われている頃だろう。

 さすがに所属まで詳しく言っていいか分からず、死神にそれらしき容姿の同名の人物がいることを話す。

「ギン、死神になるって言ってたけど、本当にもうなってるなんて……ねぇ、今から会いに行って大丈夫だと思う?」

「今からって……難しいと思うが。今日は非番ではないから、仕事で忙しいだろうし」

「そうなの?そっかぁ……」

 はぁ、とため息を吐く少女。わざわざ遠くから足を運んできたのだろうか。そう思って懐から取り出したのは金平糖の袋。

「見た感じ、遠くから来たんだろ。ほら」

「え、これもらっていいの!?」

 ああ、とギルが頷く前に、ありがとー!と言って袋を掴む少女。黙っていれば美少女なのだが、どうやら中身はそうじゃないらしい。これは周りが振り回されるタイプだな。

「お前どこから来たんだ。見た感じ潤林安の子じゃないだろ」

「ん?花枯(かがらし)から来たの」

「花枯ってお前、ずいぶん遠くから来たな、六十二地区じゃねぇか」

 あの場所から潤林安までの距離を考えると、一人でやってきた彼女の行動力はすさまじい。親御さんはどうしたと聞きたいが、大概の流魂街の住人よろしく、身よりはないのだろう。

「というか、お前そいつがどこにいるかも知らないで来たのか?」

「まぁね。死神になるって言ったきり行方知れずでさ、我慢できなくて探しに来た、って感じ?」

 金平糖を頬張りながらそう口にする少女。はぁ、とギルは額を抑えた。厄介な子どもと関わってしまったらしい。

「あいつは忙しいだろうし、瀞霊廷にはおいそれと入れないぞ。それこそ、死神になるかしないと……」

「じゃあ、死神になるにはどうしたらいいの?」

「……お前、なんでそんなにあの人に執着するんだ」

 この少女と、市丸の間にある繋がりを、ギルは知らない。だが、数年たっても何の便りもない相手を、遠い旅路を一人歩いてまで探す胆力を、この年の少女が持っていること。それが心底不思議だった。

 ギルの問いかけに、少女はむす、とする。

「あいつさ、急にいなくなったんだ。私を助けて、色んなものくれた癖に、何の断りもなくいなくなって」

 どこへ行ったのかも、何のために行ったのかも分からなかった。いつか帰ってきてくれる、だなんて、あの性格からは到底考えられず、でももしかしたらと考えて家で待ち続けたのは数年前。

 だが、いい加減我慢の限界だった。だから、彼が言い残していた「死神になる」という言葉を手掛かりに瀞霊廷までの旅を始めたのだ。

「あいつに会ったら、まず一発ぶちこんでやるの!勝手に置いていくなって!」

「――はは、そりゃあいい。アイツ、懲りなさそうだから、思いっきり叩いてやれ」

 なんだ、お前にもいるじゃないか。家族。

 いつも何を考えているか分からない、何かを抱えている天才児を思い浮かべる。もしかしたら彼は、この少女の為に一人で頑張っているのかもしれない。自分が彼女を死神の道に誘うことを、彼はよしとしないかもしれない。が、そんなことはこちらの知ったことではない。

 知らせてもらえなかった側の悲しみと怒りは、ちゃんと受け止めとけよ、市丸さん。

 全部秘密にして抱え込んでいったら、きっと一人で彼は死んでしまう。そんなのを見るのは、生前のジュリウスだけで十分だ。

 だから、ギルは敢えて彼女を危険な道へと誘う。

「だが、死神になるのは険しい道だ。六年に及ぶ勉強に、卒業試験。全部乗り越えてやっと、死神になれる。

――ついてこれるか?」

「当たり前じゃない!」

「いい返事だ。じゃあ、入学試験までは俺が勉強の基礎部分を教えよう。この地区の宿を借りれば問題ないな」

「えっ、そこまでしてくれるの?」

 どうして、と首を傾げる。そんな少女に、ギルは何をいまさら、と苦笑する。

「そこまで話されたら放っておけるわけないだろう。ここは治安がいいとはいえ、子ども一人で生活していけるわけじゃない」

 何より、自分もまた見知らぬ人間だった志波の人たちに助けられた身の上。同じように誰かを助けたいという気持ちが無かったわけではない。

「それに、市丸三席にはいつも世話になってるからな。彼の友人だというなら、無下には扱えない」

「え、何ギンのやつもうそんなお偉い地位にいるの?」

「ああ、隊の中で三番目に偉い位置にいるぞ」

「追いつくの大変そうだなあ……」

 うへぇ、と肩を落とす少女に、ギルはじゃあ諦めるか?としたり顔で問いかけると、返ってきたのは予想通り、まさか!という言葉。それくらいで諦めるのならば、第一ここにはいないだろう。

「それじゃ、これから俺の休みの日は勉強、それ以外は日稼ぎだ。俺は死神になる前はこのあたりで働いていたから、ある程度融通はきく」

「え、あ、はい。何から何まで、ありがとう……」

「いいって、俺が勝手にしてることだからな」

 そこまで言って、そう言えば少女の名前を聞いていない事、そして自分の名前すらも言っていないことに気づいた。

「そう言えば、自己紹介がまだだったな。俺はギルバート・マクレイン、六番隊の十席だ。気軽にギルと呼んでくれ」

「私は松本 乱菊。よろしくね、ギル!」

 そう言って、少女――乱菊とギルは硬い握手を交わした。

 

 

 

 

「あ、今ギルが楽しいこと始めた予感がした」

「なんだそれ」

 

 

 

 




松本さんがいつ入隊したか分かんないんですよね……出身地区だけは知ってるんですが

とりあえずギルに会わせてみました、次はもう少し時代を飛ばすかどうか……

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