学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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こうして鳳凰星武祭最終日が始まる(後編)

シリウスドームに着くと大歓声が上がっている。どうやら決勝戦は既に始まっているようだ。

 

俺は影の竜に指示を出すと竜は一度雄叫びをあげ、翼を羽ばたかせてゆっくりと地面に着地する。それと同時に俺とオーフェリアが飛び降りると竜は俺の影に戻る。

 

俺はオーフェリアと一緒に急いでいつもシルヴィと観戦しているVIP席に向かう。

 

会場を歩くと振動や歓声が響く。さっきから激しい振動が起こっているがアレだ。多分例の合体をしているのだろうな。アレは強いからな。いくら天霧が『黒炉の魔剣』を使えても厳しい戦いになるだろう。さてさて、どうなるやら……

 

そんな事を考えながらVIP席に入ると……

 

「あ、八幡君おかえり。オーフェリアさんもこんにちは」

 

シルヴィが笑顔で挨拶をしてきた。それは構わないが……

 

「シルヴィ1人か?他のお偉いさんは?」

 

いつもなら20人くらい統合企業財体のお偉いさんがいるが今日は1人もいないでこの部屋にいるのは俺とシルヴィ、オーフェリアの3人だけだ。

 

「うん。理由はわからないけど私が来た時には人一人いなかったんだよ」

 

シルヴィは不思議そうな表情を浮かべている。どうやらシルヴィも知らないようだ。

 

ちなみにお偉いさんがいない理由だが……昨日の準決勝でのシルヴィアとオーフェリアが原因である。2人は八幡が刀藤と沙々宮をナンパしたと勘違いしてドス黒いオーラを撒き散らし、それを浴びたお偉いさんは全員寝込んでしまったからだ。

 

「そうか。まあ誰もいないなら気兼ねなく過ごせるからいいけど」

 

そう言いながらシルヴィの隣に座る。オーフェリアもそれに続きシルヴィとは反対側の隣に座ってきた。ステージを見ると天霧と合体して本領発揮したアルディが、『黒炉の魔剣』と防御障壁を纏ったハンマー型煌式武装を打ち合わせていた。

 

「そうだね。そういえば『悪辣の王』との交渉はどうだったの?」

 

シルヴィがそう聞いてくる。まあ普通気になるよな。

 

「成功した。これでオーフェリアはもう自由だ」

 

「そうなんだ。良かったねオーフェリアさん」

 

シルヴィが笑顔でオーフェリアにそう言ってくる。それに対してオーフェリアは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そうね。これで問題なく八幡と結婚出来るわ」

 

爆弾を投下してきた。

 

瞬間シルヴィが凍りついた。笑顔のまま固まってしまった。全く動かなくて怖い。

 

つーか俺は顔が熱い。ハッキリと結婚出来るというのは勘弁して欲しい。マジで恥ずかしい。

 

恥ずかしがっているとシルヴィが再起動する。顔を見ると笑顔だが若干引き攣っていた。

 

「へ、ヘェ〜。八幡君の前でそう言うって事はオーフェリアさんも告白したんだね」

 

「ええ。貴女も八幡に告白したのは知っているわ。だから言っておくけど……八幡と結婚するのは私よ」

 

オーフェリアは悲しげな表情をしながらも強い目をしてシルヴィを見る。その視線を受けたシルヴィは笑みを消して真剣な表情を見せてくる。

 

「ううん。八幡君と結婚するのは私だよ。絶対に負けないから」

 

そう言ってオーフェリアと向き合う。2人からは圧倒的なオーラを感じる。色は特にドス黒いオーラではないが怖過ぎる。

 

つーかお前ら堂々と俺と結婚するって言わないでくれマジで恥ずかしいから。

 

内心突っ込んでいる中、ステージではリースフェルトの技の巨大な花が咲いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでね、八幡君って一緒にお風呂に入るのは嫌がるのにいざ入ると凄く見てくるんだ。まあ八幡君に裸を見られるの嫌じゃないから良いけど」

 

「……そう」

 

シルヴィが勝ち気な笑みを浮かべてオーフェリアがジト目で俺を見てくる。

 

地獄だ。マジで地獄だ。

 

理由は簡単、始めは睨み合っていた2人だが暫くすると『俺とどんな事があったか』についてお互いに自慢し始めた。

 

それがマジで地獄だ。2人は今後の参考にとか言って今まであった事を全て話している。当事者である俺からすればナイフで臓腑を削られている気分でしかない。

 

始めは現実逃避気味に試合を見ていたが、途中から我慢出来なくなった。だって会話の内容が進むにつれて過激になってくるんだもん。

 

そう思っているとオーフェリアが反撃をする。

 

「……まあいいわ。私は八幡にキスして貰ったから」

 

オーフェリアが自慢気にそう言うとシルヴィの顔から余裕が消えた。

 

「え?!ど、どういう事?!」

 

「だから八幡にお願いしたらキスしてくれたの。八幡の意思で」

 

今度はオーフェリアが勝ち気な笑みを浮かべ、シルヴィがジト目で俺を見てくる。理不尽過ぎる……

 

「ふーん。私にはしてくれないのにオーフェリアさんにはするんだ?」

 

「いや、そのだな……」

 

「私の時は八幡君が無意識にしたものだからノーカウントだし……いいなぁ」

 

そう言ってシルヴィは俺との距離を詰めてくる。近い、近いからな!

 

「八幡君」

 

内心焦っているとシルヴィが捨てられた子犬みたいなウルウルした目で見てくる。その目止めろ!俺が悪い事をしてるみたいだからな!

 

「……何だよ?」

 

「お願いがあるんだけど」

 

「言いたい事はわかるか一応言ってみろ」

 

会話の流れからして多分俺の予想で間違いはないと思う。しかしそのお願いに応えられるかはわからないけど。

 

するとシルヴィは俺の予想に違わず……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……私にもキス、して?」

 

キスをしてくれと要求してきた。いやいやいや……

 

「いや、シルヴィ、それはだな……」

 

焦っているとシルヴィは詰め寄ってくる。近い近い近い!

 

「お願い……オーフェリアさんだけなんてずるいよ。私にもキスしてよ……」

 

シルヴィはそう言って顔を更に近付けてくる。俺の顔とシルヴィの顔の距離は約10センチ。少し動かせばキスしてしまう距離だ。

 

にしてもシルヴィにもキスか……シルヴィには1000回以上キスされたのでキスされるのは慣れたが、俺からキスするのはどうしても緊張してしまうので余り乗り気ではない。

 

しかし……

 

「……八幡君」

 

ダメだ。あんな目をされたら罪悪感で胃が死ぬ。捨てられた子犬のような目はマジで止めろ。普段しない奴がすると物凄い破壊力になるからな?

 

「……はぁ、わかったよ」

 

俺はため息を吐きながらも了承するとシルヴィは悲しそうな表情から一転、ひまわりのように眩しい笑みを見せてくる。

 

「本当?!」

 

そう言って抱きつきながら上目遣いで見てくる。可愛過ぎるだろ……

 

「……八幡」

 

反対側ではオーフェリアがジト目で俺を見てくる。その目は何か悪い事をしてるみたいだから止めてくれないか?

 

「……シルヴィアとキスしたら私にもして」

 

内心突っ込んでいるとオーフェリアはジト目のまま頬を染めてそう言ってくる。お前もかよ?!シリウスドームに来る時何度もしたのにまだ足りないのかよ?!

 

「……そうね。八幡には何度でもキスをされたいわ」

 

そして心を読むな。お前は瘴気を操る力だけでなく心を読む力もあるのかよ……?

 

「わかったわかった。後でしてやるよ」

 

「……そう。ありがとう」

 

「でも先ずは私からだよ?」

 

シルヴィは満足そうな表情でスリスリしてくる。はぁ……逃げ場はなさそうだな。

 

「じゃあ……するぞ」

 

「……うん。お願い」

 

シルヴィから了承を得たので俺は心に蓋をして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んんっ……」

 

シルヴィの唇にキスをする。

 

……ああ、遂にオーフェリアだけでなくシルヴィにも自分の意思でキスをしてしまった。これマジでいつか刺されそうだな。

 

「ちゅっ……八幡君…もっと……」

 

いやもっとって……つーか世界の歌姫とキスをしながら決勝戦を見ている俺って悪い意味で伝説だろ?

 

しかもオーフェリアに見られながらキスをするってメチャクチャ恥ずかしい。ステージを見ると丁度今アルディがステージにエネルギーを放出して巨大なクレーターが出来ているがあの中に入りたいくらい恥ずかしい。

 

「んんっ……大好き……」

 

シルヴィはそう言ってくる。それを聞くと恥ずかしい気持ちと嬉しい気持ちと申し訳ない気持ちで一杯になる。

 

2人に告白されたのは本当に嬉しい。2人が嘘を吐いているとは考えられない。何せキスをせがんでくるからな。好きでもない男にせがむ筈がない。

 

しかし本当にどっちの告白を受け入れるべきか見当もつかない。正直に言うとどちらも振りたくない。それが何よりも傲慢である事は理解出来る。理解は出来るがそれとこれは別だ。

 

今の俺が持つ望みはオーフェリアとシルヴィが笑顔で過ごせる事……このままの状態が続けばいいのだが、俺の返答次第では……

 

俺はそんな事を考えながらシルヴィとのキスを済ませる。

 

「ぷはっ!ありがとう八幡君、気持ち良かった」

 

「……そうか」

 

「……八幡、次は私にお願い」

 

オーフェリアがそう言って制服の裾を引っ張ってくる。はぁ……マジでどうしよう?

 

そんな事を考えながら俺は自分の顔をオーフェリアの顔に近付ける。

 

するとオーフェリアは頬を染めながら俺と同じように顔を近付ける。

 

それが物凄く愛おしく感じる。シルヴィにしてもそうだ。一緒にいると幸せに感じる。出来る事なら3人でずっとこんな風に過ごしたい。

 

なのに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ、何で日本は重婚が出来ないんだよ。そうすりゃ悩まないで済むのに……」

 

2人は俺と結婚したいと言っている。俺としては構わないが、世間のルールでは1人しか選べない。何で1人なんだよ?納得出来ない。

 

「「………え?」」

 

そんな事を考えているとシルヴィとオーフェリアがキョトンとした顔をして俺を見てくる。何だよその顔は……

 

「……八幡君、今重婚って言ったの?」

 

ん?口に出していたか?まあ思っていたのは事実だから否定はしないが。

 

「まあ、な。そうすりゃ悩まずに済むが……って、どうした?」

 

俺が訪ねてみるも2人は何か考える素振りを見せてくる。いきなりどうしたんだ?

 

「(……シルヴィアと2人で八幡を愛する。本音を言うと八幡を独り占めしたいけど……シルヴィアが八幡を独り占めするという最悪の展開を確実に避けれるなら重婚は悪くない案ね)」

 

「(うーん。八幡君を独り占めしたい気持ちはあるけど八幡君に無理な選択をさせる事はしたくないし、オーフェリアさんが八幡君を独り占めする可能性もあるし……それだったらオーフェリアさんと2人で八幡君を愛すのもいいかも)」

 

何か2人がいきなりブツブツ言いだして怖いんだけど?何を考えてるんだ?

 

若干の恐怖を感じていると2人が顔を上げて俺を見てくる。ちょうど同じタイミングだった。マジで何なんだ?

 

「「八幡(君)」」

 

2人が話しかけてくる。

 

「……何だ?」

 

2人は真剣な表情で俺を見てくる。何か変な事を言ったか俺?

 

疑問符を浮かべている中2人は口を開けて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「八幡(君)が望むなら私とシルヴィア(オーフェリアさん)の2人と重婚してもいいわよ(いいよ)」」

 

 

……え?

 

いきなり何を言っているんだ?俺がシルヴィとオーフェリアと重婚だって?

 

いきなりの発言に呆気に取られている中、試合終了のブザーが鳴りステージは歓声に包まれているが、俺の耳には特に入る事はなかった。

 

 

 

 

 

 




次回のエピローグで鳳凰星武祭編終了です

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