学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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比企谷八幡は襲撃される(前編)

『フローラ!無事か?!』

 

「あい!沙々宮様と刀藤様と比企谷様に助けて貰って無事です!」

 

『良かった……!』

 

星導館学園敷地内、フローラは準決勝に勝利したユリスと連絡を取っていた。

 

『紗夜も綺凛も済まない。比企谷は見えないがどうかしたのか?』

 

「比企谷先輩なら私達を逃がす為に誘拐犯と戦っています」

 

『そうか……まああの男なら負けないだろう。認めるのは癪だがあいつの強さは次元が違うしな』

 

ユリスだけでなく紗夜も綺凛も比企谷が負けるという考えは一切抱いていない。アスタリスクで比企谷を確実に倒せる人間はオーフェリア以外にはいないというのが世間からの評価であり、ここにいる3人もそう思っている。

 

「……多分大丈夫。私達は今学園にいるからユリス達も直ぐに来て」

 

『ああ、直ぐに向かう』

 

ユリスはそう言って通話を終了するのでフローラは端末をポケットにしまう。

 

それと同時に紗夜は比企谷に連絡しようとするが……

 

「……電話に出ない」

 

「え?本当ですか?!」

 

綺凛は驚きの声を出す。比企谷と別れてから30分、もう決着はついていると思って連絡したが電話に出ない。

 

そうなると考えられるのは……

 

「まだ決着がついていないか……」

 

「比企谷先輩が負けた、という事ですか?」

 

不安な空気が流れ出す。負けたという事は死んだという可能性も……

 

嫌な空気が漂いだした頃紗夜の端末が鳴り出す。紗夜は端末を見ると安堵の息を吐く。

 

「比企谷からメールが来た」

 

それを聞いた綺凛は安堵の息を吐く。となると無事であるという事だろう。

 

「……ん?」

 

するとメールを見た紗夜が変な声を出す。

 

「どうかしたんですか?」

 

それを聞いた綺凛が不思議そうな声を出してくるので紗夜が端末を綺凛に見せる。

 

そこには……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『俺は無事だ。済まんが犯人には逃げられた。後、鳳凰星武祭が終わるまでは俺に連絡するな』

 

そう表記されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻……

 

「これでよし」

 

俺は自身の端末をポケットにしまう。いきなり沙々宮から電話が来た。おそらく安否確認だと思うが今は忙しいのでメールで返信しておいた。

 

「さて、んじゃ話の続きと行こうぜ」

 

俺は黒猫機関専用の端末を持ちながらそう言う。

 

『……一応聞いとくぜ。てめぇさっき何て言った?』

 

すると電話の相手のディルク・エーベルヴァインが怒りに満ちた声音で確認をしてくる。何だ?少し前に聞いた事を忘れるって認知症か?

 

まあ冗談は置いておくとして……

 

「だから……オーフェリアを自由にしろって言ったんだよ。学生なのに認知症か?」

 

『……あの化け物を人間として扱うなんて本当にイカレてやがるな』

 

それを聞いた俺はキレそうになるが何とか堪える。俺はそう思っていないがディルクはそう思っている。価値観の違う奴に文句を言っても仕方ない。

 

冗談抜きでブチ殺したいが心に蓋をして堪える。

 

「イカレていて結構。それより交渉に移るぞ。明日の決勝戦が始まる1時間前にレヴォルフの校門前に集合だ。その時にてめぇの答えを聞く。拒否した場合はそのまま誘拐犯と音声データを警備隊に突き出す」

 

『てめぇ!』

 

「時間はあるんだ。ゆっくり考えな。切り札であるオーフェリアを手放して今の環境に居座るか、オーフェリアを手放さず犯罪者として今の環境を捨てるか好きな方を選びな」

 

ディルクの怒号を切り捨てて電話を切り、端末の電源もそのまま切って誘拐犯のポケットに入れる。

 

「さて、結果はどうであれ……ディルクは大損をするからな」

 

交渉に応じれば最強のカードのオーフェリアが自由になる。交渉が決裂したとしてもディルクは犯罪者として世間に晒される。そうすれば警備隊もレヴォルフにガサ入れする事が出来てディルクが起こした他の違法行為も晒されるだろう。

 

まあ出来ることなら交渉に応じて欲しい。俺としてはディルクが裁かれるよりオーフェリアの自由が欲しいしな。

 

そう考えながら俺は星辰力を込めて誘拐犯に目を向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてさて、今度はお前が人質になって貰うぜ」

 

そう言うと俺の影が誘拐犯を呑み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ああ。わかったよ。……ふぅ」

 

ある一室にて1人の男が空間ウィンドウを閉じてため息を吐く。

 

「どうした?」

 

男に話しかけるのは1人の女だった。しかし普通の女とは言い難い。彫りの深い中々の美人ではあるが瞳は空虚で何も映しておらず、首から下げたネックレスに付いてある巨大な宝石は不気味な光を煌々と放っている。

 

「彼がピンチのようだ」

 

男は1つ区切り女に説明をする。女はそれを聞くと無表情ながら呆れた雰囲気を醸し出す。

 

「やれやれ……それでどうする?その交渉を聞く限りではどう転んでも我々には不利に運ぶぞ」

 

「もちろん何とかするさ。とはいえ彼を相手にする場合はオーフェリア嬢は使えないし……」

 

「どういう事だ?」

 

「何でもオーフェリア嬢は彼に恋をしているようでね。彼に関する命令は聞くつもりがないらしい」

 

それを聞いた女は意外そうな表情を浮かべる。

 

「ほう……オーフェリア・ランドルーフェンをそこまで変えるとはな…….」

 

男も同じ様な気持ちではあるが両者共に楽観はしていない。

 

2人ともオーフェリアはディルクに逆らわない従順な人間だと思っていたからだ。もしも彼女に比企谷八幡を潰せと命令したら自身らを裏切る可能性がある為動かす事は出来ない。

 

そうなると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「仕方がない。私が行こう。君も結界を張る為に付いてきてくれ」

 

男はそう言って机の上に置いてある仮面と待機状態の煌式武装を手に取って部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「毎度ー」

 

ディルクと交渉をしてから1時間、時刻は既に夜11時を回っている。

 

そんな中、俺は歓楽街の奥の方に行き麻酔などを買った。理由はシンプル。人質である誘拐犯が暴れない為だ。一応影の中に閉じ込めているが念には念を入れておくべきだろう。

 

歓楽街を出て再開発エリアのメインストリートから離れた場所に着いた俺は影の中から誘拐犯を出す。様子を見ると既に目覚めていた。

 

「よう。目覚めたみたいだな」

 

俺が気楽に言う中誘拐犯は感情のない瞳で俺を見てくる。

 

「……俺をどうするつもりだ?」

 

「ん?安心しろ。殺すつもりはない。ちょっと眠ってくれ」

 

俺がそう言いながら誘拐犯に麻酔を注射する。やり方は以前使った事もあるし大丈夫だろう。

 

「……これは、麻酔か?」

 

「そうそう。もう直ぐ眠くなるから頑張れ」

 

俺は誘拐犯の返事を聞く前に再び影の中に閉じ込める。影の中に閉じ込めた上、麻酔を注射したんだ。明日の交渉まで誘拐犯が逃げる事はないだろう。

 

そんな事を考えながらメインストリートに出ようとした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「比企谷八幡だな?」

 

いきなり後ろから声をかけられた。

 

その声を聞いて寒気を感じた俺は咄嗟に振り向きながら煌式武装を起動する。

 

そこには目深にローブを被った人間がいた。胸の部分には膨らみが見れる事から女だろう。

 

しかし俺の直感が告げている。この女は危険だと。ローブを被っているから口元しか見えないが危険な匂いがする。

 

とりあえず俺が狙いなら不意打ちをしてくる筈だ。話しかけてくるという事は何か話があるのだろう。

 

ここは話を聞いてみるとするか。

 

「確かに俺が比企谷八幡だが……お前は誰だ?俺に用があるならまずは名乗ってくれないか?」

 

「本来なら名乗る筋合いはないが……まあいい。我はヴァルダだ」

 

ヴァルダ……聞いた事ないな。何者か知らないが警戒は必要だろう。

 

「そうか。それでヴァルダ、俺に何の用だ?」

 

先ずは奴の目的を聞く。このタイミングからしておそらくディルクの関係者だろう。

 

ヴァルダが口を開けようとするとーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「正確には彼女ではなく私が君に用があるんだよ。比企谷八幡君」

 

ヴァルダの後ろにある林道からカツカツと靴の音が聞こえてくる。

 

目を凝らして林道を見ると俺は絶句してしまった。

 

林道から出てきたのは仮面をつけた男だった。その声にしろ、姿にしろ何処かで見た気がする。

 

しかし何故が思い出せない。何処かで見た事があるのに、もやがかかったように合致しない。

 

しかし俺が驚いているのは奴の顔ではなく奴の手にある物だった。

 

奴の手にあるのは刀だった。しかしただの刀ではない。刃が深紅の色をしていて不気味に輝いていた。

 

俺はこの武器を知っている。あの武器は……

 

「………『赤霞の魔剣』だと?てめぇ、何者だ?」

 

そこには『四色の魔剣』と称される純星煌式武装の一振りである『赤霞の魔剣』があった。アレは確か現在封印されている筈だが……何故こいつが持っているんだ?

 

疑問に思っていると仮面の男が口を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自己紹介をしておこうか。この仮面を付けている時は『処刑刀』と名乗っている」

 

そう言って『赤霞の魔剣』を手の中で遊ばせている処刑刀は不気味に見えた。


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