学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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比企谷八幡は看病?される(シルヴィア編)

「……んんっ」

 

「あ、起きた?」

 

頭痛を感じて目を開けると可愛らしい声が聞こえてきた。誰だ?うちに女子がいるとは考えにくいし。

 

頭痛に耐えながら目を擦って辺りを見渡すとそこは自分の部屋だった。普段と違いがあるとしたらそこに可愛い女子がいる事くらいだ。

 

「……シルヴィ?」

 

そこには俺の数少ない友人のシルヴィア・リューネハイムがいた。

 

「そうだよ。体調は大丈夫?」

 

体調?……ああ、そういや俺は今日熱を出して寝込んでいたな。そんでオーフェリアとシルヴィが見舞いに来て……

 

(アレ?それから何があったんだっけ?)

 

見舞いに来てからシルヴィがお粥を作って、その間にオーフェリアが俺の体を拭いたのは覚えている。

 

しかしそれ以降の事は全く覚えていない。その事から体を拭かれた後に眠ってしまったのだろう。

 

「八幡君?」

 

思考に耽っているとシルヴィが心配そうな表情で俺の顔を見てくる。って、近い近い近い!!

 

シルヴィの顔が俺の顔から10センチくらいの所にあってつい見惚れてしまう。最近一緒にいるから忘れがちだがシルヴィは凄く可愛いんだった。歌姫云々を除いても凄く魅力的な女の子だ。そんな女の子がキス出来る距離にいて緊張するなというのが無理な話だ。

 

「あ、ああ。大丈夫だ」

 

「そう?ならいいけど。お粥は食べられる?」

 

シルヴィが指差した方向を見ると俺は机の上にあるお粥を見つけた。それを見ると腹が鳴ってしまった。いかん、美味そうだったからつい。

 

シルヴィは一瞬キョトンとした表情をしてから笑い出す。

 

「あははっ。直ぐに食べさせてあげるから待ってね」

 

そう言ってシルヴィは机の上にあるお粥を取る。対する俺は熱以外に恥ずかしさによって顔が熱くなるのを感じていた。

 

「はい。立てる?手を貸すよ」

 

シルヴィは空いている右手を差し出してくる。俺は1人では起き上がれる力が出ないのでシルヴィの手を握る。さっきも思ったが凄く柔らかいな……

 

ドキドキしながらシルヴィに体を起こされる。

 

「はい八幡君、あーん」

 

シルヴィはスプーンにお粥を取って俺に差し出してくる。普段なら恥ずかしいが病気である事と、オーフェリアにしょっちゅうあーんされていて慣れている事から大人しくあーんをされる。

 

口に入ったお粥は薄い生姜の味がして温かい。味は薄いが確かな味を感じて美味い。

 

「どう?美味しい?」

 

「……ああ。美味い」

 

「良かった。結構自信があったんだ」

 

マジか。歌も戦闘も料理も一流って……正に俺と正反対の人間だな。てかシルヴィに弱点ってあるのか?

 

疑問に思っているとシルヴィが再びスプーンにお粥を取って、

 

「あーん」

 

差し出してくるので再度口に入れる。うん、やっぱり美味いな。

 

「サンキューシルヴィ。ところでオーフェリアはいないのか?」

 

確かオーフェリアも見舞いに来て俺の体を拭いてくれた筈だが……さっきから姿が見あたらない。

 

「オーフェリアさん?オーフェリアさんなら八幡君の制服洗って、洗濯してる間に薬局に解熱剤とか色々買いに行ったよ。さっき戸棚見たけど薬とか全然なかったからちゃんと買っといた方がいいよ?」

 

ああ……まあ確かに薬とか殆ど買ってなかったな。一人暮らしだからその辺が疎かになっていたようだ。反省反省。

 

自身の行動に反省しながら俺はシルヴィにお粥を食べさせられる存在と化した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで八幡君、いきなりこんな熱が出た理由に心当たりはある?」

 

お粥を食べ終わり食器を机の上に置いたシルヴィがそんな事を聞いてきた。まあいきなり40度近い熱が出たからな。疑問に思うのは仕方ないかもしれない。

 

しかし余り理由は話したくない。多分理由は夜遅くまで歓楽街に出かけているからだ。そして歓楽街に行く理由は主にシルヴィの師匠のウルスラを探す為だ。

 

既にシルヴィは俺が協力している事を知っているが……余り知られたくない。だから適当に誤魔化す事にした。

 

「……まあアレだ。夜更かしをしてたからだろ」

 

色々な意味に取れる言い方をする。これなら何とか誤魔化せるだろう。

 

そう思いながらシルヴィを見るとシルヴィは俺の顔をジッと見ている。俺が目を逸らしてもシルヴィは一切逸らさない。マジで何だんだ?てかシルヴィの綺麗な瞳に見られると変な気分になるな。

 

シルヴィの綺麗な瞳にドキドキしていると……

 

 

 

 

「……ひょっとして夜遅くまでウルスラを探してる?」

 

いきなり核心を突いてきた。

 

は?!え?何でわかったの?顔に出ていたか?にしても一発で当たるか?

 

「……その仕草からして本当みたいだね」

 

内心自分に問いているとシルヴィはため息を吐きながらそう言ってくる。どうやらシルヴィに聞かれた際に動揺していたようだ。バレて以上は隠す必要はないし正直に話すか。

 

「あー……まあ、一応探してるな」

 

「やっぱり……ちなみに何時くらいまで探してるの?」

 

「……深夜の3時くらい。寝るのは4時前だな」

 

「はぁ……バカ」

 

いきなりバカ呼ばわりされた。そりゃまあ自分の体調管理も出来ないからな。バカ呼ばわりされても仕方ないだろう。

 

「あのね八幡君。そこまで本気で私に協力してくれるのは本当に嬉しい。でもね、八幡君が倒れたら本末転倒だよ。だから無茶はしないで」

 

「何というか……あのくらいなら無茶じゃないかと思ってな」

 

「無茶だからね?」

 

「……そうだな」

 

俺が適当に言い訳をしようとするもシルヴィはバッサリ斬り捨てる。実際倒れた人間としたら返す言葉がない。

 

「八幡君、協力するなら絶対に無理はしないで」

 

「……わかってる。次からは2時には寝るように「1時に寝なさい」………わかった」

 

シルヴィが詰め寄りながら俺の言葉を遮る。余りの剣幕に俺は首を縦に振る以外の選択肢が浮かばなかった。

 

「じゃあ手を出して」

 

「は?別に構わないが俺の手を斬り落としたりしないよな?」

 

「しないよ!」

 

軽い冗談を言ったら本気で怒られた。まあ今回は俺が悪かったな。

 

反省しながら手を出すとシルヴィは俺の小指に自分の小指を絡めてきた。え?いきなりどうしたの?

 

呆気にとられている中……

 

「指切りげんまん嘘ついたら針千本飲〜ます。指切った」

 

シルヴィはいきなり指切りげんまんをしてきた。てか子供っぽいシルヴィ凄く可愛いな。

 

そんな事を考えていると指が離れ、シルヴィは俺をベッドに寝かせる。

 

そしてシルヴィは俺の手を握りながら笑顔を見せてくる。

 

「……ありがとう八幡君。無理したのはダメだけど、こんなになるまで協力してくれて凄く嬉しいよ」

 

そう言って空いている手で頭を撫でてくる。シルヴィの手には魔力でもあるのか不思議と苦しさを感じなくなり心地が良くなってくる。

 

シルヴィの手の感触を感じていると眠気が襲ってくる。かなり強く逆らうのは難しそうだ。

 

「……シルヴィ。少し寝るわ」

 

「わかった。おやすみ、八幡君」

 

「……ああ」

 

俺はそう返事をして瞼を閉じて、シルヴィの温かい手の感触を感じながらゆっくりと意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んんっ……」

 

目が覚める。

 

目が覚めて先ず目に入ったのは白い壁……自分の部屋の天井だった。

 

確か俺は風邪を引いてて、オーフェリアとシルヴィに看病されて寝たんだったな。

 

それを認識するとある事に気が付いた。

 

(あれ?頭痛が全くしないぞ)

 

少なくとも気分は悪くない。もしかして寝てたら治ったのか?

 

そう思いながら起きようとすると手が動かないのを認識したので自分の手を見ると……

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んんっ」

 

「すーっ……すーっ」

 

オーフェリアとシルヴィが俺の横で眠っていた。そしてシルヴィの手が俺の手を握っていた。なるほどな。そういやシルヴィの手を握ったまま寝ていたな。

 

そしてオーフェリアの横には熱さまシートの箱があり、俺の頭に貼られている事に気が付いた。俺は熱さまシートを買った記憶がないのでオーフェリアが買ってきたのだろう。

 

「……2人とも、ありがとな」

 

寝ている2人に偽りない感謝の気持ちを口にする。わざわざ俺なんかの為にここまでしてくれたんだ。申し訳ないという気持ちもあるがそれ以上に嬉しいという気持ちもある。

 

その事に深く感謝しながら頭を下げているとオーフェリアが起きる。

 

「……んっ、八幡?」

 

「ようオーフェリア」

 

俺がそう返すとオーフェリアは可愛く目を擦る。暫くその仕草を続けているといつものオーフェリアに戻る。

 

「……もう大丈夫なの?」

 

「今起きたばかりだから何とも言えないが、気分は悪くないな」

 

「……なら良かったわ」

 

「ああ。看病してくれてありがとな」

 

俺がそう返すとオーフェリアは少し申し訳なさそうな表情を見せてくる。いきなりどうしたんだ?

 

「……別に気にしなくていいわ。それより八幡は私に怒ってないの?」

 

は?何で俺がオーフェリアに怒らなくちゃいけないんだよ?感謝はしてるが怒りは感じてないぞ?

 

「は?いや別に怒ってないぞ」

 

オーフェリアは若干驚いた表情で俺を見てくる。

 

「……覚えていないの?」

 

「は?何を?」

 

もしかして風邪の影響で何かを忘れてしまったのか?

 

「……覚えていないならいいわ。忘れて」

 

するとオーフェリアは頬を染めながら目を逸らしてくる。何があったか気になるが………

 

(何か特大の地雷がありそうだから聞くのは止めておこう)

 

理由はない、理由はないが聞いてはいけない感じがするので聞かないでおこう。

 

「んんっ……」

 

これ以上の詮索をしないと決めたらシルヴィも目を覚ます。眠そうに瞼を擦っている。

 

暫く擦るとシルヴィは俺に気付いて笑顔を見せてくる。

 

「八幡君も起きたんだね」

 

「まあな。看病ありがとな」

 

「気にしないで。それより体調は大丈夫?」

 

「気分は悪くないな」

 

「そっか。今は……5時半か。ご飯作るけど食べられる?」

 

「ん?ああ。多分大丈夫だ」

 

脂っこいのは無理だが普通の料理なら大丈夫だろう。

 

「わかった。じゃあオーフェリアさん、ご飯作りに行こ?」

 

シルヴィはオーフェリアに話しかける。オーフェリアはいつもの表情で頷きながら俺を見る。

 

「……ええ。じゃあ八幡、私とシルヴィアが来るまで横になってて」

 

そう言って2人は部屋から出て行って1人になる。いつも1人で過ごす部屋なのに妙に寂しく感じてしまう。何というか……オーフェリアとシルヴィにいて欲しい。

 

寂しい気分になっているとベッドの端に携帯端末が鳴り出す。見るとエンフィールドからのメールだ。

 

見ると内容は天霧がディルクとコンタクトを取る為イレーネに連絡をしたという内容だった。

 

つーかエンフィールドの奴はどこでその情報を仕入れたんだ?まさかとは思うが天霧の部屋に盗聴器でも仕掛けてんのか?

 

まあ今はどうでもいいな。とりあえずディルクが天霧と接触するとしたら試合がない明日の調整日だろう。

 

俺はエンフィールドに了解の返事をする。さて……明日の体調次第だが朝一で星導館に行って天霧を監視するか。そんで影に潜ってディルクとの会話を聞かせてもらうとするか。

 

そう思いながら端末の空間ウィンドウを閉じようとしたが……

 

「そうだ。今日の試合はどうだったんだ?」

 

今日は一日中寝ていたので試合結果を知らないんだったな。小町達は大丈夫か?

 

不安に思う中新しい空間ウィンドウを開いて今日の速報を見ると……

 

「よし。勝ってるな」

 

ガッツポーズをする。小町達は序盤押されたが後半に巻き返したようだ。これでベスト8入りか。

 

準々決勝の相手は予想通り雪ノ下と由比ヶ浜のペアか。今の所全試合圧勝している強敵だ。どっちが勝つかは予想がつかない。

 

他にも天霧、リースフェルトペアや界龍の双子ペア、刀藤、沙々宮ペア、アルルカントの擬形体ペアなどがベスト8入りしている。

 

にしても封印がバレた上、力を制限された天霧達がベスト8入りするとはな……これについては完全に予想外だった。結果は知っているがどんな試合かはまだ見てないので見てみるか。

 

俺はネットを開いて試合を見ようとした時だった。

 

 

 

 

 

『八幡君、ご飯できたよ』

 

シルヴィがノックしてくるので俺は空間ウィンドウを閉じて端末をベッドの端に置く。

 

「ああ。すまん」

 

そう返すとシルヴィとオーフェリアが入ってきた。オーフェリアの手にはおにぎりと温野菜などが置いてあるお盆があった。

 

「起こすよ」

 

シルヴィは俺の手を掴んで優しく引っ張る。そして俺が起きると両手を俺の腰に当てて俺が倒れないように支えてくれる。ヤバい、くすぐったい。シルヴィの手が凄く気持ちが良い。

 

シルヴィは真面目に看病してるのに煩悩が現れてしまう。いかんいかん!

 

舌を軽く噛んで煩悩を断ち切ろうとしているとオーフェリアがおにぎりを差し出してくる。

 

「……八幡、あーん」

 

そう言っておにぎりを口に運んでくるので俺はシルヴィの手の感触から逃げるように口を開けて食べる。幸いあーんについてはオーフェリアやシルヴィによくされているから慣れてるので問題ない。

 

口の中におにぎりが入るのでそれを味わう。塩の味付けも薄く特に問題なく食べられる。作った2人の気遣いを感じて凄く美味い。

 

俺は満足しながら2人の料理を堪能した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごちそうさま」

 

それから10分、食べ終わった俺は食後の挨拶をする。

 

「お粗末様」

 

「……食器洗いとお風呂洗いは私がやっておくわ。シルヴィアは八幡の看病をお願い」

 

「うん。わかった」

 

オーフェリアはそう言って出て行った。ん?風呂洗い?

 

「じゃあ八幡君、熱さまシートの取り替えと薬の準備をするね」

 

「あ、いや。それはいいんだが流石に風呂には入れないと思うんだが」

 

いくらある程度体調が良くなったとはいえ完治している訳ではない。そんな状態で風呂に入るのはダメだろう。

 

俺がそう返すとシルヴィは予想外の返答をしてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、うん。それは私達が今日泊まるからお風呂の準備をしてるんだよ」

 

……はい?今なんて言った?

 

「え?シルヴィ、今なんて言った?」

 

「ん?だから私とオーフェリアさんは今日八幡君の家に泊まるつもりだよ?」

 

再度言われてシルヴィの言った事を理解した。

 

そして脳のキャパがオーバーした。

 

はぃぃぃぃぃぃぃぃぃ?!シルヴィとオーフェリアが泊まる?!俺の家に?!

 

「な、何で?」

 

先ず始めに思った疑問を口にする。

 

「何でって……八幡君治った訳じゃないでしょ?だからもし夜中に再発したら大変だから私とオーフェリアさんは八幡君の家に泊まろうって話になったんだよ」

 

なるほど……事情は理解した。だか納得は出来ん。

 

「いや、まあそうだけど……男の家に泊まるってのは……危ないぞ?」

 

「八幡君はそんな事をする人じゃないでしょ?それにオーフェリアさんからは何度も八幡君と一緒に寝たって聞いたから問題ないと思うな」

 

オーフェリアァァァァ!!てめぇ余計な事を言ってんじゃねぇよ!お前マジで空気読めよ!!

 

内心オーフェリアにブチ切れているとシルヴィは軽く笑いながら口を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあそんな訳だから………よろしくね」

 

……どうやらチェックメイトのようだ。

 

「………ああ」

 

俺はただ頷くことしか出来なかった。


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