学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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比企谷八幡は会場に向かう

 

 

 

pipipi……

 

そんな音が聞こえると同時に俺は目を覚まして携帯端末のアラームを止める。時計は午前7時を回っていた。

 

「……んっ。もう朝?」

 

俺の体に抱きつきながらそんな声を出してくるのはオーフェリアだ。

 

昨日オーフェリアに泊まりに来てくれと言われ断り切れず、一緒のベッドで寝た。

 

しかしベッドに入ってからがヤバかった。

 

オーフェリアはベッドに入るなり俺に抱きつき、胸板に顔を埋めスリスリしてきたり、『……八幡といると幸せになるわ』とか『貴方に会えて良かった』とか俺が悶えまくるような事をガンガン言ってきた。

 

ようやく眠ったかと思ったら無意識に胸を押し付けてきたり、耳にエロい寝息を吹きかけてきたり、終いには頬にキスをしてきてガチで理性が保つか不安だった。

 

しかし目が覚めた時に俺とオーフェリア共に裸ではなかったので理性が保ったのだろう。良かった良かった。

 

「ああ。もう朝だから起きろ」

 

「……んっ。おはよう、八幡」

 

目を擦りながら顔を俺に近づけてきて、挨拶をしてくる。くそっ……可愛すぎるだろ。文句が言えなくなっちまった。

 

「ああ。おはようオーフェリア」

 

息を吐いて俺も挨拶を返す。

 

「……うん」

 

オーフェリアは1つ頷いてからギュッと抱きついてくる。こいつ俺に依存し過ぎだろ。このままで本当にいいのか?

 

そう思っていると、

 

「んっ……八幡……八幡」

 

そう言って更に強く抱きついてくる。あー、やっぱりオーフェリアには逆らえん。

 

俺はオーフェリアを引き離す事を諦めて抱きつかれ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

30分後……

 

「……それでいつ頃家を出るの?」

 

起きた俺達はオーフェリアの寮のリビングにて、朝食を食べているとオーフェリアにそんな事を聞かれる。

 

「そうだな……これ食ったら直ぐに出ようぜ。席取りが面倒だし早く行きたい」

 

今日はシルヴィがいないからVIP室は使えない。よって六学園の生徒専用の席を取らないといけない。一応小町から控え室使用許可証を貰っているが、もしもオーフェリアとリースフェルトが鉢合わせしたら面倒な事になりそうだから使う気はない。

 

「……だったらうちの学園の生徒会専用のブースに行かない?」

 

「え、やだ。もしディルクと会ったら面倒だし」

 

会ったら間違いなく喧嘩売ってくるだろうし。頭が痛くなるのが簡単に理解できる。

 

そう思っているとオーフェリアが首を横に振る。

 

「……大丈夫。彼は基本的に生徒会長室でしか見てないからいないと思うわ」

 

ふーん。ディルクの最強の切り札のオーフェリアがそう言っているなら間違いないのだろう。

 

「わかった。じゃあ後で許可証をくれ」

 

「わかったわ。それより八幡……ご飯は美味しい?」

 

オーフェリアは不安そうに聞いてくる。……何でこんな時に自信のない表情をしてんだよ?

 

「普通に美味いけど?」

 

「そう……良かった。じゃあこれも食べて」

 

そう言ってフォークをベーコンに刺して俺の口に近づけてくる。え?またですか?

 

「いや、あの……オーフェリア?そのだな……」

 

しどろもどろになっているとオーフェリアは

 

 

 

「……あーん」

 

そう言って更に近づけてくる。ダメだ、逆らえん。

 

「んっ」

 

俺は諦めて口を開けると口の中にベーコンが入る。オーフェリアがフォークを抜くと同時にベーコンを噛み始める。

 

くそっ……美味すぎだろ。

 

オーフェリアが微笑んでいるのを見て、負けたような悔しい気持ちになりながらも朝食は進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから1時間後……

 

俺達は今シリウスドームの正面ゲートの前にいる。周りを見ると鳳凰星武祭初日にオーフェリアがブチ切れた痕跡はなくなっていた。剥がれたアスファルトは既に修復されていた。運営委員や統合企業財体有能過ぎだろ?

 

「第一試合開始まで後40分……先に荷物を置いてから飲み物を買おうぜ」

 

小町と戸塚の試合は第一試合とはいえ時間に余裕もあるので先に荷物を置いてから飲み物と軽食を買っても問題ないだろう。

 

「そうね」

 

 

 

 

 

 

オーフェリアが頷いたのでシリウスドームに入る。

 

中に入ると沢山の観客がいて賑わっていた。

 

各学園の生徒会専用の席がある場所に歩いていると周りからは『どっちが勝つ?』みたいなこれから始まる本戦一回戦の話が聞こえてくる。

 

やっぱり本戦になると桁違いの人気だというのを改めて理解した。そんな中、小町達は大丈夫か?

 

そう思いながら目的地の階層に行こうとした時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん?比企谷君にミス・ランドルーフェン?」

 

後ろから爽やかな声が聞こえてくる。こんな爽やかな声を出す人は1人しか知らないな。

 

後ろを向いて頭を下げる。

 

「どうもっすフェアクロフさん」

 

後ろには予想通りガラードワースの生徒会長のアーネスト・フェアクロフさんがいた。周りを見る限り他の生徒会のメンバー、つまりチーム・ランスロットの面々はいないみたいだ。

 

「ごきげんよう。比企谷君。ミス・ランドルーフェンも鳳凰星武祭初日にはうちの生徒が迷惑をかけて済まなかったね」

 

そう言ってオーフェリアにも頭を下げてくる。

 

オーフェリアは一瞬、まばたきをしてから口を開ける。

 

「……その事は八幡から聞いたわ。八幡が許した以上何も言わないけど……次はないわ」

 

オーフェリアに殺気が纏われる。

 

「わざわざそんな事を言うなバカ」

 

俺は呆れながらオーフェリアの頭にチョップをする。こいつはわざわざ喧嘩売るな。

 

「……痛いわ」

 

「黙れ。もし次あんな事があったら俺が対処するからお前は何もするな」

 

お前がキレたらヤバいじゃ済まないからな。俺が適当に対処した方がいいだろう。

 

「……でも」

 

「でももへったくれもない。いいから何もするな」

 

「……わかったわ」

 

オーフェリアは渋々と言った表情を浮かべているが頷いた。

 

「なら良し。……という事なんで次回からは棄権する選手は出ないと思います」

 

視線をフェアクロフさんに向けてそう話す。

 

「こちらも2度とあんな事がないように尽力するよ。ところで君達はこれから誰かと待ち合わせをしているのかな?」

 

「は?いえ、別に誰とも待ち合わせはしてませんが」

 

シルヴィは仕事があるし、小町達は試合前だから邪魔したくないので待ち合わせはしていない。フェアクロフさんはどういう意図でそんな事を聞いてくるんだ?

 

「もし君達さえ良ければうちの生徒会専用の席で一緒に見ないかい?先日のお詫びという事でお茶とお菓子を振る舞うよ」

 

「……正気ですか?俺とオーフェリアはレヴォルフの人間ですよ?」

 

いくら俺やオーフェリアがガラードワースを嫌ってなくても、ガラードワースの面々は俺やオーフェリアを嫌っているだろう。そんな場所に行っても揉めるのが目に見えている。

 

俺がそう返すとフェアクロフは笑顔で首を横に振る。

 

「大丈夫だと思うよ。学園ではまだ噂が広まっているけど、生徒会の皆は既にこちらに非があるのを理解してるし」

 

そうは言っているが……

 

「オーフェリアはどうする?」

 

とりあえずもう1人の当事者にも話を聞いてみる。

 

「……八幡の好きにしていいわ」

 

オーフェリアは特に表情を変えずに言ってくる。俺かよ……

 

さて……

 

普段の俺なら断っているがどうにも即答出来ん。フェアクロフさんを見ると穏やかな表情をしているがどうも奇妙な感じがする。まるで俺の心の内を見抜こうとしている気がする。

 

しかし……

 

「わかりました。それでは同行してもよろしいですか?」

 

誘いを受ける事にした。俺自身、一端でも良いのでフェアクロフさんの心の内を読み取ってみたくなった。一緒にいればそれが叶うかもしれないし。

 

「ああ。わかったよ」

 

「どうもっす。オーフェリアもそれでいいか?」

 

「構わないわ」

 

「決まったみたいだね。それじゃあ付いてきてくれないか?」

 

フェアクロフさんは踵を返し歩き出すので俺とオーフェリアもそれに続いた。

 

エレベーターに乗ると目的の階層に向かって上り始めた。

 

「そういえば他の生徒会メンバーはいないんすか?」

 

「レティシア達なら先に行っているよ。僕は挨拶回りをしていて終わった所で君達に会ったんだ」

 

生徒会長ってのは面倒だな。てかフェアクロフさんやエンフィールドあたりはともかく、ディルクが挨拶回りしている所とか想像出来ん。つーかしたら吐きそうだ。

 

「随分大変そうですね」

 

「慣れてしまえばそうでもないよ。それより今日の試合はよろしく頼むよ。とは言っても戦うのは僕達じゃないけど」

 

まあ今日の第一試合は俺の妹とフェアクロフさんの仲間がぶつかるからな。つーか俺がフェアクロフさんと戦ったら厳しいだろうな。

 

「そっすね。まあ勝つのは小町達ですけど」

 

「ほぉ、君の妹さん達も強いけどうちのドロテオとエリオットも強いよ?」

 

「それは百も承知っすよ」

 

そんな事を話しているとガラードワースの校章である光輪のマークがついた扉があった。

 

「ここがガラードワースの生徒会専用の部屋だよ。入って」

 

フェアクロフさんがそう言うと扉が開く。

 

3人で中に入ると……

 

「おかえりなさいアーネスト。挨拶回りは終わ……」

 

金髪の女子が俺達がいる方向にやってきて……途中で動きを止めた。完全にポカンとしている。

 

その他にもこの部屋にいる3人も俺達に気付いたようだ。赤髪の青年は面白そうな顔で口笛を吹き、真面目そうな男は若干目を細めて俺とオーフェリアを見ていて、男装をしている女子は感情の読めない瞳を向けてくる。

 

そんな中、フェアクロフさんは口を開ける。

 

「ただいまレティシア。ああ、比企谷君とミス・ランドルーフェンはこの前のお詫びという事で僕が招待したんだ」

 

フェアクロフさんがそう言って俺を見てくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

瞬間、金髪の女子、ガラードワース序列2位にして生徒会副会長の『光翼の魔女』レティシア・ブランシャールは大声を出した。

 

 

 

 

 

 


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