学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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比企谷八幡は抽選会で学園の長たちと関わる(後編)

 

 

 

 

「実は鳳凰星武祭に出場したうちの生徒で一回戦で棄権した人がいるんだ。それでうちの学園では君とミス・ランドルーフェンが悪いと噂されているんだが真実を聞かせてくれないかな?」

 

フェアクロフさんは俺にそんな事を聞いてきた。

 

俺はそれを聞いて納得した。確かに自身の学園の生徒が他所の、それも仲の悪い学園の生徒の所為で鳳凰星武祭を棄権したと噂されていたら当事者の1人に聞きたくなるのは当然の事だろう。

 

それは理解出来るし、俺も自分自身やオーフェリアが濡れ衣を着せられるのは嫌だから説明したい。説明はしたいが……

 

「ううっ……」

 

「比企谷君?大丈夫かい?」

 

フェアクロフさんは心配そうな表情をして頭を抱えて唸る俺を見てくる。

 

「いえ……大丈夫です。大丈夫なんですが……」

 

恥ずかしくて口にしにくい。

 

何せ葉山が気絶した理由はオーフェリアの殺気を受けたからだ。そしてオーフェリアが殺気を出した理由は俺が葉山にヒキタニ呼びされたからだ。しかもオーフェリアは途中、葉山が悪意を持って俺をヒキタニ呼びしたと思ったら更に殺気を出したくらいだ。

 

それを説明するのは……何というか……メチャクチャ恥ずかしいんですけど。

 

「話せないなら無理には聞かないよ?」

 

そう言われて一瞬そうしようと思った。しかし……

 

(……ダメだ。俺はともかくオーフェリアが悪く言われるのは我慢出来ん)

 

オーフェリアは俺の為に怒ってくれたんだ。やり過ぎだとは思ったが正直嬉しかった。

 

だから正直に話す事にした。

 

(……っと、その前に)

 

「いえ。話します。ですがその前に一つ良いですか?」

 

「何かな?」

 

「大した事ではないんですが……フェアクロフさんはこの事についてどう考えているんですか?」

 

この人に限ってないと思うが自身の学園を贔屓しているかもしれない。それが少し気になった。

 

フェアクロフさんはそれを聞いて一度まばたきしてから口を開ける。

 

「今の所は状況証拠しかないから何とも言えないかな。君は今話している限り悪い人じゃないと思うし、ミス・ランドルーフェンは余りに他人に関心を持たない人だ。余程の理由がある限りあんな事はしないと思うな」

 

……驚いた。予想はしていたが全く噂などに流されていない。ここまで公平な人とは思わなかった。

 

顔に驚きが出ていたのかフェアクロフさんは笑ってくる。

 

「僕の学園と君の学園は折り合いが悪いけど、それを理由にして贔屓とかはしないから安心していいよ」

 

その顔には嘘偽りがないのは直ぐにわかった。

 

(……なるほどな。『聖剣』に選ばれる訳だ)

 

『聖剣』の代償は使用者が常に高潔であり、私心を捨て、全ての行動において秩序と正義の代行者である事である。つまり持っているフェアクロフさんの意見は正しいという事になるだろう。

 

俺が持ったら間違いなく適合率はマイナスだ。そして『聖剣』が俺を殺しに来そうだな。

 

閑話休題……

 

とりあえずこの人には話しても良いだろう。それでフェアクロフさんが『お前が悪い』と言ったら俺が悪いんだし罰を受けよう。

 

「わかりました。説明はしますのでとりあえず最後まで聞いてください」

 

フェアクロフさんが頷いたので俺は口を開いて説明を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……って感じですね」

 

そう言って口を閉じる。

 

俺はフェアクロフさんにオーフェリアがキレた理由は葉山が俺をヒキタニ呼びして悪意があると思ったからだという事、葉山とは同じ中学だった事、その頃からヒキタニ呼びしていた事、本名はヒキタニじゃないのを知ってるにもかかわらずヒキタニ呼びしている事全てを話した。

 

フェアクロフさんは俺の話を全て聞いてから頷くと

 

「……そうか。比企谷君、うちの生徒が済まなかった」

 

そう言って頭を下げてきた。

 

「……え?!い、いや……俺は気にしてないので頭を上げてください」

 

いきなり頭を下げてきたのでついテンパってしまった俺は普通だと思う。何せ現アスタリスク最強の剣士が頭を下げてきたんだ。誰だってビビるだろう。

 

俺が慌ててそう言うとフェアクロフさんは頭を上げてくる。それを見て安堵の息を吐く。こんな偉い人に頭を下げられたら胃が痛くなりそうだし。

 

「葉山君とは話をしておくし、君とミス・ランドルーフェンの悪評についてはこちらで消しておくよ」

 

「はぁ……じゃあよろしくお願いします」

 

「わかった。それともう一つ聞きたいんだけど、ミス・ランドルーフェンの怒りを鎮めたのは比企谷君でいいんだよね?」

 

「え?あ、はいそうです」

 

「今回はこちらに非があるけど、もしまた同じような事があったらミス・ランドルーフェンが怒りを露わにする前に止めてくれないかな?」

 

「もちろんです」

 

俺は即答する。いくら葉山が悪いとはいえオーフェリアのアレはヤバ過ぎる。当事者である俺はともかく、そこらへんにいた野次馬からしたらオーフェリアが悪いと思われても仕方ないかもしれん。

 

「そうか。それなら良かったよ」

 

「それぐらいなら構いません。それで話はこれで終わりですか?」

 

「うん。もういいよ。時間を取らせて済まなかった」

 

「いえ。それでは失礼します」

 

俺は頭を下げてこの場を後にした。とりあえず特に咎められずに済んだので良かったな。

 

安堵の息を吐きながら小町達がいる場所に向かって走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目的の場所に向かって走っていると、少し先に4人の女子……間違えた、3人の女子と1人の男の娘が楽しそうに談笑していた。

 

向こうも俺に気付いて手を振ってくる。意外にもオーフェリアも小さくだけど手を振ってきた。

 

「あ!お兄ちゃん遅い!」

 

小町がプリプリ怒ってくる。うん、俺の妹可愛過ぎるな。

 

「悪い悪い。ちょっと用事があったんだよ」

 

「え?お兄ちゃんに用事なんてあるの?」

 

小町が心底意外であるという態度を取ってくる。これには戸塚やシルヴィも苦笑いしてるし。

 

「あったんだよ。正直疲れた」

 

俺がそう言って戸塚の隣の席に座ると小町が何か閃いたように手をポンと叩く。

 

「あ!もしかして可愛い女の子をナンパでもしたの?」

 

んな訳ないだろ。俺がナンパなんてするか。

 

てか何でオーフェリアはジト目で見るんだよ?俺ってそんな軽薄な男って思われてるの?

 

「違う違う。ディルクのカスとフェアクロフさんに捕まっただけだよ」

 

色々と誤解されると面倒なので正直に話す。

 

すると小町と戸塚は驚きの表情を浮かべ、オーフェリアとシルヴィは近寄ってくる。

 

「……彼に何か言われたの?」

 

「『悪辣の王』が八幡君に?八幡君この短時間で何があったの?」

 

2人が詰め寄って聞いてくる。特にオーフェリアは有無を言わさない雰囲気を出して俺を見てくる。

 

俺は息を吐いてさっきまでにあった事を話した。

 

全部話すとオーフェリアは無表情のまま携帯端末を取り出し空間ウィンドウを開く。そして何処かに電話し始める。

 

暫くすると繋がりさっきまで見た顔が映る。

 

『何だオーフェリア?俺は今忙しいから手短に済ませろ』

 

そこに映っていたのはディルクの顔だった。それを認識した瞬間、緊張が走る。俺やオーフェリア、シルヴィはアスタリスクの裏をそこそこ知っているから特にビビらないが小町と戸塚はビビっている。

 

つーか前から思っていたがディルクの奴、顔に贅肉付きすぎだろ?今は関係ないけど。

 

「……わかったわ。じゃあ言うわ。貴方さっき八幡に私と関わるなと言ったみたいだけど余計な事を八幡に言わないで」

 

オーフェリアはハッキリとそう言った。するとディルクは目つきを鋭くする。

 

『……何だと?』

 

「……私は八幡と過ごす時間が好きなの。だから余計な事は止めて」

 

『てめぇ、俺の言う事が聞けないってのか?』

 

「八幡に関する事ならそのつもりよ。貴方に逆らう事も躊躇わないわ」

 

オーフェリアはそう言ってディルクの返事を聞かずに空間ウィンドウを閉じて端末をポケットにしまった。

 

「……オーフェリア」

 

俺は不安の余りついオーフェリアに尋ねてしまう。

 

「……八幡は気にしないで。私、今言った事後悔してないわ。……でも、八幡が私と関わりたくないなら関わらないから……」

 

そう言いながら不安そうな表情で俺を見てくる。そんな捨てられた犬みたいな表情で見んなよ……

 

「……別にお前と過ごす時間は嫌いじゃねぇから気にすんな」

 

視線から逃れながらそう返事をする。

 

視線をオーフェリアから外すとシルヴィと小町が若干ニヤニヤしながら俺を見てくる。

 

「……何だよその目は?」

 

「別に。八幡君も素直じゃないって思っただけだよ。嫌いじゃないじゃなくて大好きって言わないと」

 

「そうだよねー。お兄ちゃんこの前小町と電話した時に『オーフェリアと過ごす時間は本当に楽しい』って言ったのにさ」

 

シルヴィィィィィィィ!小町ぃぃぃぃぃぃぃ!!!余計な事を言ってんじゃねぇよ!!

 

俺は怒りの余り2人の顔面を掴む。指の間からは2人の驚きの表情が見える。

 

「え?!ちょっと八幡君?!それは止めーー!」

 

「お兄ちゃん?!小町達が悪かったから助けーーー!」

 

 

観客席には悶絶したような声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……じゃあ抽選会行ってくるね。痛たっ」

 

シルヴィが反省したような表情をしながらそう言ってくる。

 

「……あー、まあ、さっきは悪かったな」

 

流石にアイアンクローはやり過ぎたか?つーか世界の歌姫にアイアンクローをした俺って……

 

「ううん。私もからかい過ぎだし」

 

シルヴィは笑いながらステージに向かって行った。本当にすみませんでした。

 

「お兄ちゃん本気でやり過ぎだよ……」

 

逆に小町はジト目で俺を見ているがお前は少し反省しろ。おかげで凄い恥をかいたぞ。

 

「……八幡。貴方も私と同じ様に思ってくれて嬉しいわ」

 

オーフェリアはそう言って手を握ってくるが、もうその事は言わないでくれ。さっきから言われまくってマジで悶死しそうだからな?

 

「まあまあ。恥ずかしいのはわかるけど女子にアイアンクローはよくないよ」

 

戸塚は俺の唇に指を立てて注意をしてくる。可愛いなぁ……

 

戸塚に見惚れていると歓声が上がったのでステージを見ると六学園の生徒会長がステージにいた。いよいよ抽選が始まるのか。

 

小町と戸塚はそれを認識するとさっきまでの雰囲気は無くなり真剣な表情でステージを凝視している。

 

10万人を超える観客がステージを凝視する中、前シーズンで総合優勝をしたガラードワースの生徒会長のフェアクロフさんがくじを引き歓声が再度上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから10分……

 

『次に星導館学園の本戦出場者の抽選を行います』

 

ガラードワース、アルルカント、界龍、レヴォルフの四校がくじを引き終え、遂に星導館の番だ。

 

「お願いだからハズレは来ないで……!」

 

小町は真剣な表情で祈っている。戸塚も似た様な表情をしている。

 

 

まあ気持ちはよくわかる。埋まってない枠は後六つ。

 

しかしその内の三つは外れの中の外れだ。そのペアは……

 

アルルカントアカデミー、アルディとリムシィの擬形体ペア

 

レヴォルフ黒学院、イレーネ・ウルサイスとプリシラ・ウルサイスの姉妹ペア

 

聖ガラードワース学園、ドロテオ・レムスとエリオット・フォースターの銀翼騎士団ペア

 

と大外れだ。頼むからその3つには当たらないでくれ。

 

内心祈っていると……

 

 

 

『天霧綾斗&ユリス=アレクシア・フォン・リースフェルトペア、15番!』

 

アナウンスが流れて歓声が上がる。天霧達の相手は……

 

(……いきなりイレーネ達かよ。ディルクにとっては待ち侘びていた展開になりやがったな)

 

何とかしたいのは山々だが星武祭で邪魔するのは不可能だ。俺が出来るのは祈る事しかない。頼むからヤバい事にならないでくれよ。

 

 

 

 

『刀藤綺凛&沙々宮紗夜ペア、30番!』

 

そんな事を考えている内に次の組み合わせも決まったが……

 

(……ちっ。対戦相手は雑魚の当たりかよ)

 

2人が当てたのは最も良いと思える枠だった。出来ればそこには小町達が当たって欲しかった。見る限り準決勝で当たると思えるアルルカントのアルディ、リムシィを除いてそこまで強くないだろうし。

 

 

そんな中、遂に小町達の番となる。頼むから外れは来るな。

 

目を瞑って祈っていると……

 

『比企谷小町&戸塚彩加ペア、2番!』

 

アナウンスが流れたので目を開けて見てみると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『比企谷小町&戸塚彩加 VS ドロテオ・レムス&エリオット・フォースター』

 

と巨大スクリーンに表示されていた。

 

それを見て俺は思った。

 

エンフィールド外れ引いてんじゃねぇよ。





星露は出そうと思いましたが出すと長くなりそうなので学園祭編にまわす事にしました。ご了承ください

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