「んっ……あっ……そこっ……」
家族露天風呂の室内ーーーシャワーがあるスペースにて、エルネスタ殿の嬌声が響き渡る。
「エルネスタ殿?背中を洗ってるだけで喘ぐのを止めてくれないか?」
我は今、エルネスタ殿の綺麗な背中を洗っているのだが、特に力を込めているわけではないにもかかわらず擦る度に喘いでくる。自宅ではそんな風に喘いだ事など殆どないのに。
「だって将軍ちゃんの手つきが前に比べて変わってるから」
「いや待て。いつも通りにやっているつもりなんだが」
「ううん。10年以上将軍ちゃんに身体を洗って貰ってるからわかる。最近になって将軍ちゃんの手つき、いやらしくなってるよ?」
マジで?最近なんかあったと言われたら結婚くらいだ。つまり結婚してから我の手つきはいやらしくなったということか?
我としては変えたつもりはないのだが、10年以上我に身体を洗われているエルネスタ殿がそう言うって事は、無意識のうちに変えているのかもしれん。
「す、済まん。そんなつもりは無かった」
とはいえエルネスタ殿を不快にさせたのなら申し訳ない。今後を気を付けていくべきだ。
「あ、別に怒ってるわけじゃないよ。これはこれで気持ち良いから続けて」
「……まあエルネスタ殿がそう言うなら」
「んっ……お願いね……あっ」
我はエルネスタ殿の背中を再度擦るとエルネスタ殿の口から嬌声が出てくるも、今度は気にせずに背中を洗う。いつものように、平常心で。平常心で……
(しかしエルネスタ殿の肌、本当に綺麗であるな……)
エルネスタ殿は特に手入れをしている訳ではないにもかかわらず、綺麗な肌を持っている。まるで美術品のようだ。
今更だが……性格は破天荒だが、天才的な頭脳てな圧倒的な美貌の持ち主であるエルネスタ殿と結婚するって、我の人生かなり波乱であるな。
そう思いながらもエルネスタ殿の肌を傷つけないように優しく擦り背中全体を洗う。
「後ろは終わったみたいだね。じゃあ前もお願いね?」
エルネスタ殿は我が丁度背中を洗いシャワーを浴びせようとしたタイミングでそんな事を言ってくる。
10年以上同棲したからかエルネスタは上や後ろーーー頭や背中だけでなく、前ーーー胸や腹を恥ずかしがらずに我に洗わせてくる。最初は恥ずかしくて出来なかったが、今の我からしたら特に問題ない。
「わかったわかった」
我は一度頷いてから手を擦り、泡を立ててから右手をエルネスタ殿の胸に、左手をエルネスタ殿の腹に回し……
「あぁんっ……!」
そのまま擦り始める。慣れというものは実に恐ろしいものだ。
5分後……
「これで良し……上半身は洗ったぞ」
エルネスタ殿の上半身ーーー頭に首、肩や腕や脇、胸に腹に背中を洗い終わった我はシャワーを止めながらエルネスタ殿に話しかける。
「ありがとう。じゃあ下半身洗うから先に温泉に行ってて」
「わかった。では先に失礼する」
我はエルネスタ殿に一礼してから外の露天風呂に向かう。下半身についてはエルネスタ殿が自分で洗っている。流石にそれはエルネスタ殿も恥ずかしいようだし、我自身も恥ずかしいから断っている。
露天風呂がある外に出ると満点の星空が見え、幻想的な空気を醸し出している。露天風呂は家族用に作られたものであって狭いが、この空間を独り占め出来るというのは悪くない。
そこまで考えていると脇に置いた端末が鳴り出した。誰かと思い見てみれば我の部下からだ。彼は確か今銀河本部に仕事に行っている筈だが……
(何?!八幡が万有天羅を倒しただと?!)
仕事以外にもそんな内容が記されていた。確か八幡が所属するクインヴェールは星導館とガラードワース、界龍と銀河の本部付近にて合同合宿をしていた。万有天羅が八幡に挑んだのは一目瞭然だ。彼女は八幡と戦いたいと常に公言していたのは有名だ。
だからアスタリスクの外で八幡に挑んだのだろう。その辺りについては理解出来る(理解したくはない)が、まさか八幡が勝つとは予想外だ。八幡も強いが万有天羅の実力は八幡以上だて思う。
そんなメールを見た我は思わず八幡に電話をかけてしまう。
『もしもし。どうした材木座?』
「八幡か。いやなに、貴様が万有天羅に勝ったというのは本当か?」
『……耳が早いな。まあ一応勝った』
どうやら本当に勝ったようだ。やはり八幡は人間ではなく怪物のようだ。
「しかし一応とは何だ?」
『いやな、校章は破壊したんだけど向こうも殆ど同時刻な上に、俺は満身創痍で向こうは普通に動けてんだよ』
つまり勝負に負けて試合で勝ったという事か?
「なるほどな……それにしても驚いたぞ八幡よ。まさかあの生きる伝説たる万有天羅に勝ち星を挙げるとはな」
実際我は本気で八幡を凄いと思った。万有天羅の校章を破壊出来たのはこれまでに八幡だけだ。他の面々は校章の破壊どころかマトモに勝負すら出来ないし。
『そりゃどうも。てか何でお前がそれを知ってんだよ?お前今エルネスタと新婚旅行に行ってるんじゃなかったのか?』
「いや、実は我の部下が煌式武装の取引で銀河本部に向かっていて、其奴に聞いたのだよ。まあ銀河本部のお膝元故に戦闘記録は持っていないが」
出来るなら戦闘記録は見てみたい。後で八幡か虎峰殿あたりに頼んでみるとしよう。
『なるほどな。それなら仕方ないな。てかお前、今温泉に入ってんのか?」
「うむ。今丁度旅館の家族露天風呂に「えーいっ!」え、エルネスタ殿!今電話中である!」
そこまで話していると身体を洗い終わったエルネスタ殿が可愛らしい掛け声と共に風呂にダイブして我の背中に抱きついてくる。同時に我の背中には豊満な柔らかい膨らみを、我の顔には水を感じてしまう。幸い鼻には入らなかったが結構ビビった。
「えへへー。ごめんごめん」
対するエルネスタ殿は子供がイタズラをした後に謝るような笑顔で謝ってくる。やはりエルネスタ殿は狡いな。実害はないのでそんな顔をされたら仕方ないと思ってしまう。
『悪い、取り込み中みたいだし明日連絡しろ。俺は疲れたから寝る』
すると八幡はそんな事を言って通話を切るが、奴は絶対に誤解している。だから我は慌てて再度電話をするも繋がらない。……明日以降に連絡をしておくか。
「それよりエルネスタ殿、そろそろ離れてくれい」
「はーい」
するとエルネスタ殿はそう返事をすると我の背中から離れて、我の横に移動する。肩と肩が触れ合い、我の首筋や肩にはエルネスタ殿の綺麗な髪が当たりくすぐってくる。
我は普段エルネスタ殿の身体を洗ったり抱きしめられたりしているが、いつもとシチュエーションが違うからか肩と肩が触れ合っているだけでドキドキしてしまっている我がいる。
「ところで将軍ちゃん。さっきは八幡ちゃんと電話してたみたいだけど、何について電話してたの?」
「ん?実はさっき銀河に出向している我の部下から、八幡が万有天羅に勝ったと報告が来たからその確認をしたのだよ」
「マジで?!八幡ちゃん、あの怪物に勝ったの?!」
するとエルネスタ殿は珍しく驚きを露わにしながら食い気味に尋ねてくる。まあ万有天羅の実力は世界最強と言われている。そんな彼女が負けたとなれば気になるのが人の性分だろう。
「詳しい情報は知らないがギリギリ勝ったらしい」
「ほぇ〜、凄いね〜」
エルネスタ殿は素直に八幡を褒める。
「そんな訳で確認の電話をしていたらエルネスタ殿が我に飛びついてきたという訳だ」
「にゃはは、ごめんごめん。将軍ちゃんを驚かそうと思ってさ」
楽しそうに笑いながら謝ってくるが、どうにも調子が狂ってしまう。
「次からは気をつけてくれよ……」
「はーい……えへへ〜」
エルネスタ殿はそう言って我の肩に頭を乗せてスリスリしてくる。同時に八幡が以前に『妻に甘えられると幸せ過ぎて死ぬかもしれない』と言っていた事を思い出す。当時はぶっちゃけ惚気話と苛々したが、エルネスタ殿と結婚した後は八幡の言った事を理解出来るようになった。
(エルネスタ殿がからかうのは慣れているが……エルネスタ殿が甘えてくるのはどうにも恥ずかしいな)
そこまで考えている時だった。
「ねぇねぇ将軍ちゃん」
「何である「えいっ」……か?」
エルネスタ殿が我を呼ぶので顔を向けようとしたらエルネスタ殿の指が我の頬に当たる。
「にひひー」
見ればイタズラ成功!、って感じの笑みを浮かべていた。それは魅力的な笑みだがぶっちゃけイラッときたので、両手を使ってエルネスタ殿の頬を引っ張る。
「ふぇっ?!ひょうひゅうひゅん、ひゃにゅにゅひゅへにゅにょ?!(え?将軍ちゃん、なにをしてるの?!)」
「我をからかったお仕置きである。ほれほれ、モチモチしてるな」
偶には我も仕返しをしないと気が済まん。
そう思いながらエルネスタ殿の頬を引っ張り続けていると……
「ふむぅっ!えいっ!」
「ぬおっ!」
エルネスタ殿は無理矢理我の拘束を解いたかと思えば我に抱きついて、そのまま首筋に舌を這わせてくる。それによって今までに感じた事のない快感が押し寄せてくる。
「え、エルネスタ殿?!それは勘弁!うおぃっ!」
「やーだね。私をからかった罰は重いんだから。んっ……ちゅっ……」
今度は首筋にキスをしてくる。さっきの舌とはまた別の快感がやって来て、我はエルネスタ殿に対して徐々に抵抗が出来なくなっているのを理解する。
(いや、結婚してもエルネスタ殿に負けるつもりはない。こうなったら……)
我はそのままエルネスタ殿の耳に顔を寄せて、耳を甘噛みする。
「ひゃあっ!しょ、将軍ちゃん?!」
するとエルネスタ殿は我の首筋に舌を這わせるのをやめてビクンと跳ねながら喘ぎだす。その反応は今まで見たどの反応よりインパクトがある事から、エルネスタ殿は耳が弱いのを理解する。
偶にはエルネスタ殿相手に主導権を握りたいは我は夢中になってエルネスタ殿の耳をはむはむする。
「んんっ!将軍ちゃんっ!謝るからんあっ!耳だけはやぁっ!耳だけは止めて……あんっ!」
我が甘噛みを続けるとエルネスタ殿は涙目で止めるように懇願しながら逃げようとする。そこには普段の飄々としたエルネスタ殿は居なかった。少々やり過ぎたようだ。
「済まん。少し調子に乗った」
我が慌ててエルネスタ殿の耳から距離を取ると、エルネスタ殿は真っ赤になりながら涙目で我を見ていた。普段見せる事はないエルネスタ殿の表情に我の中の理性の壁にヒビが入る。
「……最初にイタズラをしたのは私だから謝るけど、耳だけは勘弁して欲しいな。昔から耳は弱くて……多分私の性感帯は耳だと思うの」
「そうだったのか?済まん、軽率だった。次からは耳はやらん」
もう一度エルネスタ殿のあの顔は見たいのは山々だが、エルネスタ殿を見る限り本気で勘弁して欲しいようなので止めておく。
「うん……ごめんね」
「エルネスタ殿が謝る事ではない。いつものように不敵な笑みで居てくれ。我はエルネスタ殿の笑顔が好きであるからな」
さっきの表情も好きだが、1番は不敵に、それでありながら楽しそうに笑っている表情だ。
「なっ?!い、いきなり変な事言わないでよ!将軍ちゃんのバカ!」
「我は事実を言っただけだ。変な事を言ったつもりはない」
「〜〜〜っ!」
エルネスタ殿は真っ赤になって俯く。さっき一度主導権を握ったからか、今の我には余裕を持っていて羞恥心が薄れているようだ。
そんな事を考えながらエルネスタ殿を見ると、エルネスタ殿は顔を上げる。顔を見れば赤みは残っていて我をジト目で見ている。
「全く将軍ちゃんは……デリカシーが無かったり、偶に鬼畜になったり、いきなり変な事を言ってきたりして、不意打ちで私をドキドキさせてきて……」
言うなりエルネスタ殿は我の首に腕を絡めて睨んでくる。目を見れば怒りや羞恥、歓喜など様々な感情が見える。
「本当に将軍ちゃんなんか……」
エルネスタ殿は真っ赤になりながらも顔を寄せて……
「……愛してるよ、バーカ」
ちゅっ……
そのまま我の唇に自分の唇を重ねてくる。既にエルネスタ殿とは何度もキスをしているが、今回のキスは今までしたキスよりも愛を感じる。
しかも一瞬触れるだけのキスではなく、ずっとキスをし続けている。ここまで長時間キスをされると我もその気になってくる。
「我もだよ、バーカ」
我もそう返してエルネスタ殿の首に腕を絡めてキスを返す。同棲していた頃は無意識のうちに除外していたが、実際我は相当前からエルネスタ殿の事を好いていたのだろう。
そんな事を考えながらも我達はキスを続ける。我らは結婚してからも愛してるなんて言葉をハッキリと口にした事はなかったが、今回お互いにハッキリと口にしたからか、我の中で遠慮という存在は無くなった。
今ならハッキリと認められる。我はエルネスタ・キューネを愛していると。
それは多分エルネスタ殿もだろう。いつもより積極的で激しいキスをしてくる。
だから我はエルネスタ殿に応えるかのようにキスを続けるのだった。
結局我とエルネスタ殿は20分以上唇を重ねていた。