「いやー、色々回ったけど楽しかったねー」
「そうであるな。まあエルネスタ殿がはしゃぎ過ぎて疲れたが」
「あはは!ごめんごめん。だからラーメン食べて元気を出さないとね」
午後6時、我はエルネスタ殿と一緒にバスに乗りながらホテル……ではなく、飯屋向かっている。行く場所は京都屈指のラーメン激戦区にある天下一品総本店だ。全国チェーンされている店だが、直営店、それも総本山となれば一度食べてみたいのが本音だ。中学の時の修学旅行では色々あって食べに行けなかったからな。
「うむ。それと帰りに酒を買って良いか?」
「もちろん。一杯飲んでハイになろうね」
「貴様の場合、飲み過ぎるでないぞ?」
エルネスタは酔うと激しいスキンシップをしてくる。結婚する前にも激しいスキンシップを受けていたが、結婚した以上一線を越える可能性も充分にあり得るだろう。嫌ってわけではないが……
「善処するよ……ってもう着いたから降りよ?」
話し込んでいると目的地から1番近いバス停に到着したので我らは降りる。
そして暫く歩くとラーメン屋が大量に並んだ場所が目に入るので目的地の天下一品に入る。幸いな事に席には余裕がある。店員を見れば驚きの表情を浮かべているがいつもの事なので気にしない。
「ねぇねぇ将軍ちゃん。他の人のを見てる限り凄い脂っぽいんだけど」
テーブル席に着くと向かい側に座るエルネスタ殿は若干引き攣った笑みを浮かべながら他人が食べているラーメンを指差す。見る限り他の客はこってりを食べているが、確かにアレは女性にはキツイかもしれない。
「あっさりもあるから大丈夫であろう。それでも不安ならサイドメニューの炒飯辺りを頼んで、我のラーメンの一部をやる」
「じゃあそうしよっかな。私は炒飯で」
「では我はこってりで」
我らが注文すると店員は頷いて店の奥に向かう。観光中には余り間食をしてないので腹が減って仕方ない。
「ねぇ将軍ちゃん。今日は楽しかった?」
料理を待っているとエルネスタ殿がそんな質問をしてくる。何故いきなりそんな質問をしてくるのかは理解出来ないが……
「楽しかったであるぞ」
即答する。中学時代の修学旅行にて時間の都合上行けなかった場所に行けた事や、エルネスタ殿と色々な場所を回れた事、エルネスタ殿がはしゃぐ所を見れた事など、それら全てが楽しかった。
「なら良かった。私だけが楽しかったならどうしようって思ったからさ」
「エルネスタ殿が他人に気を遣うなんて……成長したなぁ」
我はエルネスタ殿は余り他人の気持ちを考えないタイプであると思っている。にもかかわらず我に気遣うとは結構嬉しい。
「にゃはは。将軍ちゃん辛辣だね。でも私は成長してないよ。私が気を遣う相手なんて将軍ちゃんとカミラくらいだしね」
「そうか。なら良かった」
「ん?何が?」
「いやなに、エルネスタ殿の中では我とカミラ殿は同等の立場みたいだから嬉しく思っただけだ」
学生時代の我ならエルネスタ殿にどう思われてようと特に気にしなかったと思うが、10年以上同棲して仲良くなって結婚してからはエルネスタ殿に良く思われていると嬉しい気持ちが浮かんでくる。
「っ……ま、まあ学生時代は敵だと思ってたよ。でも同棲しているうちに敵愾心は無くなって、いざ結婚って時にはカミラと同じくらい大切な人って思うようになってたね」
するとエルネスタ殿はほんのりと頬を染めながらそんな事を言ってくる。どうやらその辺りの考えも我と殆ど同じようで安心した。
「それにしても将軍ちゃん良く真顔で恥ずかしい事を言えるね」
エルネスタ殿は頬を染めたまま軽くジト目で見てくるが……
「既に結婚した以上、妻に隠し事をする必要はないからな。それに……」
「それに?」
「……厨二病を拗らせていた頃の我はもっと恥ずかしい事を言っておったからな」
今思えば当時の我、マジで痛過ぎる。思い出しただけで悶死してしまう。
「ぷっ……!確かに確かに!そりゃそうだね!当時の将軍ちゃんの発言に比べたら恥ずかしくないよね!」
エルネスタは一種キョトンとした表情を浮かべるも直ぐに楽しそうな表情を浮かべてケラケラ笑う。余りに笑い過ぎて目尻に涙を浮かばせるほどに。
「そこまで笑うでない!我も恥ずかしいのだから」
「ごめんごめん……あー、笑った笑った。やっぱり将軍ちゃんと話すのは楽しいな」
「我は恥ずかしいがな……」
内心ため息を吐いてしまう。黒歴史というのは消えないから厄介だ。マジで死にたい。
そこまで考えていると注文したラーメンと炒飯がテーブルに置かれる。料理からは良い匂いがして食欲を増進される。
「「いただきます」」
2人で挨拶をして食べ始める。同時に箸には重量感がかかるが、これは麺をコーティングするかのように粘度たっぷりのスープが原因だろう。今まで沢山のラーメンを食べたが、ここまでこってりしたラーメンは数少ない。
口にすると濃厚な旨味が全身に渡り喜びを感じる。久しぶりに食べるがやはりラーメンは最高だ。
「将軍ちゃん、あーん」
ラーメンの味に感動していると、向かいに座っているエルネスタ殿がそんな事を言いながら炒飯を乗せた蓮華を突き出してくるので我は口を大きく開ける。同時に口の中に炒飯が入り咀嚼すると、これもまた旨味が湧いてくる。
「美味いな。そっちもラーメン食べるか?」
「じゃあ一口だけ……んっ」
するとエルネスタ殿は目を瞑って可愛らしい口を大きく開ける。これはアレか?あーんしろと?
我が絶句しているとエルネスタ殿は目を開けて口を指差してくる。どうやら本当にあーんしろと要求しているようだ。
(仕方ない。妻の要求に応じるのも夫の我の務めか……)
我は内心ため息を吐きながらも蓮華にラーメンとスープを乗せてエルネスタ殿に突き出す。
「ほれエルネスタ殿。あーん」
「あーん……おっ!凶暴な旨味だね!」
どうやらエルネスタ殿には好評のようであった。まあ濃厚だから当然だろう。
「将軍ちゃん将軍ちゃん。もう一口貰っても良いかな?」
「別に構わん」
エルネスタ殿はそう言ってくるが断る理由はない。
「ありがとう。じゃあ……んっ」
「ほれ、あーん」
エルネスタ殿は口を開けて当然のようにあーんをしてくるので、我は先程のようにラーメンとスープを乗せた蓮華をエルネスタ殿の口に運ぶ。
「あーん……ありがとう将軍ちゃん」
するとエルネスタ殿はいつもの天真爛漫な笑顔で礼を言ってくる。たったそれだけの事なのに我は凄く良い気分になっていた。
我はやはり結婚というのは人を大きく変えるものだという事を改めて理解しながらラーメンを食べるのだった。その時の時間はまさに至福の時間だったと断言出来るだろう。
それから30分、飯を食った我とエルネスタはコンビニで大量の酒を買ってからホテルに戻り部屋に戻った。
そして暫くテレビを見ながら寛いでいると、エルネスタ殿が唐突に話しかけてくる。
「ねぇねぇ将軍ちゃん。お風呂なんだけどさ……これ一緒に入らない?」
エルネスタ殿が見せてくるパンフレットを見ればそこには家族露天風呂と表記されている。概要を見てみると小さい露天風呂を貸し切れるようで恋人同士や新婚からは人気のようだ。
「別に構わないぞ」
既にエルネスタ殿とは何百回も一緒に風呂に入っているのだ。今更恥じらう気持ちなど全くない。
「決まり〜。じゃあ早速行こうか」
言うなりエルネスタ殿は自分の鞄から着替えを取り出すので、我も同じように自分の鞄から着替えの準備をする。そして着替えを持ってロビーに向かい、家族露天風呂の予約の有無を確認すると丁度空いているという事もあって直ぐに使う事が出来るようで安心した。
直ぐに申請した我とエルネスタ殿は脱衣所に入る。見れば家族ーーー少人数を想定しているからか脱衣所は狭かった。
「将軍ちゃん将軍ちゃん。脱がせてー」
そんな事を考えながら服を脱ごうとすると、エルネスタ殿がからかうようにそんな事を言ってくる。
「それはどっちの意味であるか?我がエルネスタ殿の服を脱がす意味か?それともエルネスタ殿が我の服を脱がすという意味か?」
前者だけなら同棲してからしょっちゅう脱がしているから問題ない。しかし後者は勘弁して欲しい。我自身、脱がされる経験は少ないので恥ずかしい。
一縷の望みをかけてエルネスタを見ると、エルネスタ殿は満面の笑みで……
「え?両方」
我の望みを粉砕してくる。うん、まあ予想はしていたがな……
「はぁ……わかったから万歳するが良い」
エルネスタ殿が一度言った以上意見を変える事はない。諦めて脱がされよう。
「はーい」
エルネスタ殿が万歳するので我は上着を脱がしてスカートのホックを外して降ろす。同時に紫色のセクシーな下着に包まれたエルネスタ殿が露わになるが……
「………」
「ん?どしたの将軍ちゃん?もしかして見惚れちゃった?」
エルネスタ殿がイタズラじみた笑みを浮かべてくる。確かにエルネスタ殿のセクシーな姿に見惚れたのは否定しないが、我が気付いたのは……
「エルネスタ殿。以前より贅肉が付いてないか?」
瞬間、エルネスタ殿はポカンとした表情になるも、直ぐに顔を真っ赤にしてプルプルと震えだす。あ、なんか地雷を踏んだ気がする……
内心我が戦慄しているとエルネスタ殿はキッと睨み……
「バカッ!」
「ぶふぅっ?!」
思い切りビンタをされてしまった。予想外の一撃に我は背中から地面に倒れると、エルネスタ殿は真っ赤になったまま馬乗りしてくる。
「将軍ちゃんデリカシーなさ過ぎ!今のはエルネスタ的にポイント低いよ!」
そして我に倒れ込む形で我の胸板をポカポカ叩いてくる。エルネスタ的に……まさか小町殿のネタを使用してくるとは予想外だが、存外可愛くて驚いた。元々エルネスタ殿は子供っぽい言動をする時が多いが、今回は一段と顕著な気がする。
とはいえ……
「済まん。今のは我が悪かった。謝罪する」
確かにデリカシーが足りなかっただろう。親しき仲にも礼儀ありというし、誠心誠意謝るべきだ。
「反省してる?」
「うむ」
「ふーん……じゃあキスして」
「承知……え?今何と?」
「だ〜か〜ら、私にキスしてって言ったの?基本的に私からで将軍ちゃんからする事は殆どないじゃん」
「いや、確かにそうだが……」
どうにも躊躇いが生じてしまう。されるのとするのは大きく違うと綾斗殿が言っていたがアレは紛れもない事実だ。どんな場所でも平然とディープキスをぶちかます八幡が異常なだけだ。
とはいえ……
「わ、わかった。するから離れてくれないか?」
現在我はエルネスタ殿に押し倒されている。そしてエルネスタ殿は我の上から抱きついている。加えて今のエルネスタ殿は下着姿で、我の胸板にはエルネスタ殿の豊満な胸が当たっていて形を崩している。客観的に見たらヤバい絵面である。
だから我はエルネスタ殿に離れるように頼んでみるも……
「却下」
即座に却下する。予想はしていたが断言されるとはな……
「……わかった」
だから我は了承する。こうなったエルネスタ殿に逆らうのは愚策だから。
「決まり〜。じゃあ宜しくね?」
エルネスタ殿がそう口にするので、我は首だけ起こしてエルネスタ殿の顔に近づき……
「んっ……」
そのまま一瞬触れるだけの口付けをする。同時に我の唇から全身に熱が生じるが仕方ないだろう。キスをされるのは慣れたが、キスをするのは慣れていないのだから。
「……これで文句はないな?」
「……うん。良いよ、許してあげる」
エルネスタ殿を見れば若干頬を染めているようだが、恥ずかしいならそんな提案をするでない。
「じゃあ続きといこうか。将軍ちゃん、私もそろそろ脱がすから将軍ちゃんも脱がしてね?」
言いながらエルネスタ殿は身体を起こして高速で我の服を脱がし始める。そういえば元々脱がし合いをする話だったな。
だから我はエルネスタ殿のブラジャーのホックを外してからショーツを下ろす。我が脱がし終えるとエルネスタ殿も我の上下の下着に手をかけて……
「じゃあ……入ろっか?」
一糸纏わぬ姿となったエルネスタ殿に引っ張られる形で家族露天風呂に入るのだった。今更だが……緊張してきた。