学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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こうして合宿1日目が終わる

「まさかあの人工島を吹き飛ばすとは思いませんでしたよ」

 

迎えの小型ボートに乗って岸に戻ろうとしたら、開口一番に綺凛はそんな事を言ってくる。しかし綺凛の口調や性格を考慮した場合、嫌味で言っている訳ではないので安心した。

 

「済まんのう綺凛や。久しぶりの八幡との試合で興奮してしまった結果ああなってしまったわい」

 

星露は軽く笑いながら謝っている。まあ防御障壁をぶっ壊す『方天画戟』による一撃を人工島が耐えるってのは無理な話だろう。

 

「そういやあの人工島、弁償云々はあんのか?」

 

「いえ。元々使わなくなっていた人工島なので特にお咎めはないですよ」

 

良かった……人工島の値段は知らないが弁償するんだったら間違いなく莫大な金を要求されていただろうし。

 

内心安堵していると岸が近づいてきた。俺と星露の戦いの余波はないようで安心した……って、アレはノエルじゃねぇか。

 

見れば船着場にはノエルが立っていてこちらを見ている。そしてボートが船着場に到着すると走ってきてから……

 

「お疲れ様です!八幡さん!」

 

ボートに乗るなり俺に駆け寄って笑顔で俺を労ってくれる。そんなノエルを見ると不思議と疲れが取れていく。

 

内心ノエルに癒されていると、顔を赤くした綺凛と楽しそうに笑う星露が気を遣ってくれたのか一足先にステージの方に向かって行ってくれた。試合前にノエルにキスをされたこともあったので、2人きりにしてくれるのはありがたい。

「そしておめでとうございます!私、凄く嬉しいです……!」

 

ノエルは目をキラキラしながら俺を褒めるが俺は素直に喜べない。

 

「でもよ、俺が勝てたのは校章破損であって実戦なら負けてたぜ?」

 

正直言ってルールに則って勝利を得たのであって単純な実力ならまだ星露の方が上であるのは明白だろう。

 

しかしそんな俺の言葉に対してノエルは首を横に振る。

 

「確かに人によってはそう思うかもしれません。ですが星露さんと戦った事のある私からすれば、校章の破壊自体桁違いの難易度である事を知っています」

 

そう言ってノエルは俺の服が濡れているにもかかわらず俺を優しく抱きしめてくる。すると胸の内に温かさが生まれてくる。

 

「私だけでなく生徒達も八幡さんの勝利に文句を言っている人は居ませんでしたし、八幡さんは胸を張って良いと思います」

 

「……そうか」

 

そこまで言われたら少しくらい喜んでもバチは当たらないだろう。実際ノエルに言われて胸がスッとしたし。

 

「それに戦ってる時の八幡さんは、その……凄く格好良くて……ほ、惚れ直しちゃいました……」

 

ノエルは真っ赤になっておずおずしながらも自分の気持ちを口にしてくる。この馬鹿野郎……そこまで言われたら……!

 

「……馬鹿が。こっちも惚れ直しちまったじゃねぇか」

 

ちゅっ……

 

「んっ?!んんっ……ちゅっ……」

 

気が付けば俺はノエルの唇を奪っていた。触れるだけの優しいキスではなく、押し付けるような強引なキスをしていた。

 

対するノエルは顔を赤くしながらも俺の首に腕を絡めてキスを返してくる。それによってノエルの唇からは愛情が沢山伝わってきて幸せの奔流が流れてくる。

 

出来るならいつまでもこうしていたいが今は合宿中なので、俺は名残惜しく思いながらもノエルの唇から離れる。

 

「ぷはっ……ノエル。続きは今日の合宿が終わった後に部屋でな」

 

俺がそう言えばノエルは真っ赤になりながらも笑顔で頷く。

 

「わかりました。その時を楽しみにしています」

 

そう言って自分の腕を俺の腕に絡めてくるので、俺はノエルをエスコートする形でステージに向けて歩き出したのだった。

 

 

 

 

 

 

同時刻……

 

「比企谷ぁぁぁぁぁぁっ!」

 

琵琶湖の近くにあるホテルの一室にて、葉山隼人は怒り狂っていた。モニターには八幡とノエルがキスをしている光景が映されていた。

 

「あいつ……俺のノエルちゃんに手を出すなんて……万死に値するぞ!万有天羅との戦いでも卑怯な手を使ったに決まってる!」

 

言いながら机を殴りつける。葉山は自分の未来の妻(と思い込んでいる)ノエルに手を出し、卑怯な手を使って星露を倒した八幡に対して怒りを露わにする。

 

「作戦は万有天羅の所為で失敗するし……何とかして比企谷の洗脳を解かないといけないのに邪魔をするな!」

 

葉山は一度叫んでから通信を繋ぐ。通信先は自分のグループメンバー全員だ。

 

「とりあえず全員ホテルに戻ってくれ。作戦を練り直す」

 

『了解!』

 

メンバー全員から了承を得た葉山は通信を切ってから舌打ちをする。

 

「幸い爆弾の存在はバレてないから俺達の存在もバレてないだろう。やはりバレていない内に仕留めるしかない……」

 

言いながら葉山は空間ウィンドウを開きマップを展開する。

 

「深夜にホテルを爆破は銀河に目を付けられるし……いや、優美子達を騙して自爆テロをさせればいける……やっぱりダメだ。比企谷や優美子達は死んでも良いがノエルちゃんが傷つくのはダメだ。やはり比企谷が1人になった時に……待っててねノエルちゃん。直ぐに君を救ってあげるから」

 

それから葉山は殺意を滾らせながら1人作戦の立案に没頭するのだった。

 

 

 

 

 

 

星露との戦いが終わってから2時間、たった今俺の目の前で行われた界龍の男女ペアとガラードワースの女子ペアの試合がガラードワースの男女ペアの勝利で終了した。

 

「んじゃ総評行くぞ。先ず界龍側。基本的な連携はちゃんと詰め込んである点は評価するが掛け声は変えろ。馬鹿正直に突きだの袈裟斬りなんて言ったら作戦がバレるだろうが。格上に勝つ為には手の内を限界まで隠す事が重要なんだからな?」

 

『はいっ!』

 

「次にガラードワースペア。最初に片割れを潰す戦術を否定するつもりはないが露骨過ぎだ。バレてる状態で片割れを潰すのは難しいからそこんところ考えろ。それと作戦をミスしたら後悔は引き摺るな。試合が終わるまで忘れるのも技術の1つである事を常に意識しろ」

 

『はいっ!』

 

「なら良し。次の試合で同じミスをすんなよ?」

 

俺がそう言うと生徒4人は一礼して離れていったので記録をつける。今の所低評価なペアは少ないな……

 

現在俺は試合を観察して、戦ったペアにアドバイスをしている。ちなみにアドバイスをしている教員は俺と綺凛と虎峰で、ノエルとセシリーと星露は自ら学生ペアと戦い、実戦経験を積ませている。

 

本来俺は学生ペアと戦う担当だったが、星露との戦いによって体力を消耗し過ぎた故にノエルと役目を変わったのだ。

 

「そちらの調子はどうですか?」

 

俺が担当したペアの成績を確認していると綺凛が話しかけてくる。

 

「今の所特に酷いペアはないな。どのペアもある程度の実力はあるし、俺達の学生の頃なら本戦出場出来るペアが多いな」

 

「そうですか。私の所も似たような感じですが、クインヴェールのペアは大体高評価ですよ。どんな訓練をしたんですか?」

 

「あん?魎山泊で星露がやったように、白兵戦で俺と戦って反応速度をとにかく高めただけだ」

 

以前星露は壁を超えた人間とそうでない人間は反応速度の速さによって分けられていると言っていた。

 

そしてそれは厳然たる事実である。実際に序列1位や2位と戦った人間はマトモに反応する事が出来ずに敗北しているのだから。

 

「随分とハードな訓練ですね。心が折れた方とかはいないんですか?」

 

「いやいや、流石にこの訓練を全員にやらせてる訳じゃねぇよ。事前に募集したメンバーだけにしか施してないからな」

 

「あ、やっぱりそうなんですか」

 

綺凛は納得したように頷くが当然だ。学生によっては星武祭を諦めたり、興味のない人間もいる。そんな生徒にやらせる訓練じゃないので、今俺が提示した訓練は事前に説明会を開いて、それを聞いて尚申請してくる人間にしか施していない。

 

「当たり前だ。しっかしお前んところの学園はキッチリ連携を取れてるな」

 

「ありがとうございます」

 

星導館の既に10ペア近く見ているが、全ペア中々の連携を取れていた。それこそ場合によっては格上も食える程のレベルの連携を。

 

「やっぱり合宿は成功だな。他所の学園には他所の学園の長所があって刺激になっている」

 

「そうですね。鳳凰星武祭の結果次第では獅鷲星武祭前にも合宿をやってみませんか?」

 

「悪くない話だ」

 

獅鷲星武祭は5人でチームを組んで戦うチーム戦だ。5人1組のチームを作る事自体難しいので、基礎的な訓練は出来ても練習試合を碌に出来ない事もある。それによって優秀な選手が多いチームなのに経験不足で早く負けるって事も少なくないので獅鷲星武祭に備えて他校との合宿をするのは悪くない話である。

 

……まあ今回の合宿の結果次第では統合企業財体が却下する可能性もあるが。

 

俺は綺凛と共に模擬戦をしているペア相手にアドバイスをする仕事を再開するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

5時間後……

 

「あー、やっぱり温泉は最高だわ。身体の疲れが癒されるわー」

 

今日のカリキュラムを終えて俺は今温泉に入っている。この温泉は体力回復促進効果があるようで疲れが取れている。

 

「口調が年寄りみたいですよ」

 

すると一緒に風呂に入っている虎峰がそう言ってくるが……

 

「実際年寄りだからな。つーか虎峰、お前バスタオル巻け。刺激が強過ぎる」

 

「僕は男ですよ!女扱いするのは止めてください!」

 

いや、そうは言ってもな……顔つきはモロ女だし、肌も綺麗だし、手足もスラっとしているし、普通に女にしか見えず、バスタオルを巻いてない虎峰を見ると罪悪感が半端無い。

 

ぶっちゃけると、虎峰が女湯に入って俺の嫁3人の裸を見たとしても俺は怒らない気がする。

 

「悪いが無理だ」

 

「即答しないでください!」

 

「いやだって俺、学生時代にお前に関する星武祭グッズを店で見たけど購入したファン殆ど男だぜ」

 

星武祭に関するグッズは基本的に男向けと女向けに分けられているが、虎峰のグッズは男向けの方に売られていた。その事から虎峰は男の娘として男性から人気である事は簡単に推測出来る。

 

しかも獅鷲星武祭で活躍してから暫くの間はシルヴィア、オーフェリア、ユリスに次いだ売り上げを出したらしいし。

 

「何故そこで知りたく無い事実をカミングアウトするんですか?!」

 

「いや現実を知って貰おうと……いっそ取ったらどうだ?」

 

「取るって何をですか?!」

 

「何って……ナニだろ?」

 

そうすりゃ俺達男は温泉などに入った時に罪悪感で苦しむ事はない。女子についても虎峰の容姿を見れば文句を言ってくる奴は少ないだろうし、ウィンウィンの関係だ。

 

そう思っている時だった。

 

「絶対に取りません!」

 

虎峰は顔を真っ赤にして温泉から上半身を出そうとしてくるので、慌てて顔を伏せる。

 

「わ、悪い!見てないからな!」

 

「何故女子の裸を見るような態度を取るんですか?!」

 

「女子みたいだからだよ!」

 

「いい加減女扱いするのは止めてください!」

 

いや無理だから。単純なルックスなら下手な女子どころか大半の女子より上回ってるし。

 

そんな事もありながら俺は頑なに虎峰の裸を見ないようにしながら虎峰の文句を適当にやり過ごしたのだった。

 

そしてそれと同時に明日は温泉に入らず、部屋のシャワーだけで済ませる事を決意したのだった。

 

 

尚、最後に虎峰の裸を見てドキドキしてしまった。済まん、シルヴィ、オーフェリア、ノエルよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

『それにしても驚いたぞ八幡よ。まさかあの生きる伝説たる万有天羅に勝ち星を挙げるとはな』

 

騒がしい入浴が終わった後、自室で寛いでいたら材木座から電話きたので応対しているが……

 

「そりゃどうも……てか何でお前がそれを知ってんだよ?お前今エルネスタと新婚旅行に行ってるんじゃなかったのか?」

 

俺の記憶が正しければ材木座は今、エルネスタと一緒に京都に新婚旅行に行っている。大津と京都は近いからか?

 

『いや、実は我の部下が煌式武装の取引で銀河本部に向かっていて、其奴に聞いたのだよ。まあ銀河本部のお膝元故に戦闘記録は持っていないが』

 

「なるほどな。それなら仕方ないな。てかお前、今温泉に入ってんのか?」

 

空間ウィンドウを見れば材木座の周囲には湯気が上がっている。その事から温泉もしくはサウナあたりにいるのだと推測出来る。

 

『うむ。今丁度旅館の家族露天風呂に『えーいっ!』え、エルネスタ殿!今電話中である!』

 

『えへへー。ごめんごめん』

 

いきなり空間ウィンドウに映る材木座が倒れたかと思えばエルネスタの顔がチラッと見えて、水飛沫が上がる。

 

その事から察するに……

 

「(エルネスタが温泉に浸かっている材木座に飛びついたな……)悪い、取り込み中みたいだし明日連絡しろ。俺は疲れたから寝る」

 

最後に一言だけ詫びて通話を切った。夫婦のやり取り中に話すのは野暮って奴だろう。てかアイツら普通にバカップル過ぎだろ?大爆発とかしないかな?

 

内心そんな事を考えていると……

 

「あ、八幡さんはもう帰ってきたんですね」

 

浴衣を着たノエルが部屋に入ってくる。湯上がり姿のノエルは色っぽく見える。

 

「ああ。それと俺は疲れたからもう横になる。テレビとか見たいなら構わないが、音量はそこまで大きくしないでくれると助かる」

 

「いえ。それよりも昼の約束を、その、お願いしても良いですか?」

 

「昼……キスの続きだな」

 

「……はい。八幡さんと2人きりになるのは久しぶりですから……もう我慢が出来なくて……」

 

言いながらノエルはそのまま俺のベッドに上がってきて俺に身体を寄せてくる。艶のある瞳は俺を見据えて逸らさない。

 

確かにノエル、というか妻の内の1人と2人きりになるのは久しぶりだ。基本的に4人一緒が殆どだし。

 

「ノエル……」

 

「それに……今日は八幡さん、凄く頑張りましたから……八幡さんを癒したいです」

 

「……頼んで良いか?」

 

「もちろんです。一生懸命ご奉仕しますね」

 

ノエルは優しい笑みを浮かべて俺に顔を寄せてくるので、俺はノエルの肩を掴んでゆっくりと抱き寄せて……

 

ちゅっ……

 

そっと唇を重ねる。ノエルの唇から愛情が伝わってくるので俺も負けじと愛情を送り返す。

 

「ノエル……脱がすぞ?」

 

「……どうぞ」

 

一旦キスを止めてから俺がノエルに確認をすると、ノエルは顔を赤らめながらも了承するので、俺はノエルの浴衣の帯を緩めてそのまま脱がす。

 

 

「あっ……八幡、さん……んっ……」

 

すると薄ピンク色の下着に包まれたノエルが目に入る。同時に俺はノエルを抱き寄せてキスを降らしたのだった。

 

 

 

 

 

久しぶりの2人きりの時間はまだ始まったばかりである。


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