『さあいよいよ決勝戦です!2週間に渡って行われた激戦もこれで最後!勝って覇を勝ち取るのはどちらなのか?!先ずは東ゲート!世界最強の男にして世界最強の魔術師!レヴォルフ黒学院序列2位『影の魔術師』比企谷八幡ーっ!』
先に俺の名前が呼ばれたので俺がゲートをくぐり、ステージに繋がるブリッジを渡り始めるとこれまで以上の歓声が湧き上がる。
そんな中、俺の目に止まるのは……
「はちまーん!頑張れー!」
アルルカントの専用観戦席にて元気良く応援してくるレナティや……
『BOOOOOO!』
俺を嫌っているであろうからブーイングをするガラードワースの生徒らや……
「いっけーお兄ちゃん!ファイトー!」
星導館の専用観戦席にてエンフィールドらと一緒に居ながら応援してくる小町などだった。
(というか葉山グループの主要メンバーが捕まったのにブーイングされるとは思わなかったわ)
大方俺を嫌っているが実力行使をしないタイプの人間だろう。あの手の人間はウザいが実害がないから放置しても大丈夫だろう。
そんな事を考えながらもブリッジを歩くと、ガラードワースの専用観戦席にいるノエルや、観客席の最前列にて先程激励をしてくれたオーフェリアやチーム・赫夜の5人が手を振ってくるので振り返す。
というかノエルはともかく、何故オーフェリア達は普通の観客席にいるんだ?お前らの立場なら若宮の使っていた控え室や、レヴォルフの生徒会専用観戦席を使える筈だが……
(まあ本人らが選んだ場所ならどうこう言う必要はないな)
そう思いながら俺はブリッジからステージに降りて深呼吸をする。
すると……
『続いて西ゲート!今回は彼氏彼女のぶつかり合い!世界の歌姫にして世界で最も万能な魔女!クインヴェール女学園序列1位『戦律の魔女』シルヴィア・リューネハイム選手ーっ!』
俺の対戦相手の声が聞こえたかと思えば再度大歓声が沸き起こった。そして頭上のブリッジからは圧倒的な気配を感じる。彼女は今ステージに向けて歩いているのだろう。観客席の一角ではクインヴェールの生徒が集まってシルヴィを応援している。
そして……
「……こうしてステージで相対するのは3年ぶりだね、八幡君」
彼女ーーーシルヴィは懐かしそうな表情を浮かべながら俺に近寄ってくる。言われて俺も過去を振り返る。3年前の王竜星武祭準決勝、そこで俺はシリウスドームのステージにてシルヴィと出会ったのだ。そして俺はオーフェリアとお袋以外の人間に敗北を喫した。
「そうだな……」
「初めて八幡君と会った時は良いライバルになると思っていたけど、こうして恋人になった状態で再度相対するとは思わなかったよ」
「俺もだよ」
世界の歌姫と付き合うなんて未来誰も予想出来ないだろう。予知能力を持つ人間がそう言っても信じない自信があるし。
「シルヴィ」
「何かな?」
俺が話しかけるとシルヴィは聞き返す。色々と話したいことがあるが、1番言いたい事を言わせて貰う。
「よろしくな」
言いながら手を出す。もちろん全力で勝ちに行くが、シルヴィとは満足した試合をしたいからな。
「うん。こっちこそよろしくね」
対するシルヴィは笑いながら俺の出した手を握ってくる。その手からは温かさが伝わってくる。
暫くの間握手をした俺達は握手をやめて無言で開始地点に向かう。1番言いたい事は言った。後は戦いで語るだけだ。
『さあそろそろ開始時間です!世間からは史上最大と評価されたこの王竜星武祭で頂点に立つのは比企谷選手か?!はたまたリューネハイム選手か?!』
実況の声を聴きながら俺は息を一つ吐いて徒手空拳のまま構えを取る。対するシルヴィはフォールクヴァングを取り出して射撃モードにする。フォールクヴァングは昨日の準決勝で暁彗に壊されたが、ちゃんと予備を用意したようだ。
構えを取りながらシルヴィと見つめ合っていると観客席も静まる。多分固唾を飲んで見ているのだろう。
そんな風に沈黙が続く中、遂に……
『王竜星武祭決勝戦、試合開始!』
試合開始の合図がステージ全域に広がった。
同時に俺は自身の影に星辰力を込めて、シルヴィは息を吸って……
「羽ばたけーー影雛鳥の闇翼」
「ぼくらは壁を打ち崩す、限界の先に境界を越えて、傷を厭わずに、走れ、走れ」
俺は自身の足首に小さい影の翼を何枚も生やし、シルヴィは自身の歌声をステージに響かせる。するとシルヴィアの身体の奥から力が噴き上がりフォールクヴァングから光弾を放ちながら高速でこちらに詰めてくる。
対する俺は影の翼と脚部に星辰力を込めて爆発的な加速をしてシルヴィの放つ光弾の軌道から大きく距離を取る。
そしてシルヴィの後ろを取りながら蹴りを放つとシルヴィは俺に背を向けたまま回避してフォールクヴァングを斬撃モードに変えて斬りかかってくる。見る限り刀身の形状は変わってないので流星闘技ではない。
(ならば回避でなく防御を取る……)
俺は義手を突き出してシルヴィのフォールクヴァングを受け止める。それによって義手とフォールクヴァングからは火花が散る。しかし俺達は気にせずに……
「「はあっ!」」
互いに足を使って蹴りを放つ。そしてぶつかり身体に衝撃が走るが、直ぐに俺が押され始める。
当然だろう。俺自身近接戦の実力は大きく向上したが、身体強化の歌を歌ったシルヴィの近接戦の実力はアスタリスクでもトップクラスと実力差がある。
よって俺もこれ以上無駄なやり取りをするつもりはないので、そのまま足をズラしてシルヴィの蹴りを受け流す。そして完璧に受け流すと同時に影に星辰力を込めて影の刃を一気に数十本シルヴィに向けて放つ。
するとシルヴィはバックステップで回避するので……
「拐えーーー影波!」
影に星辰力を込めながらそう呟くと足元から高さ10メートル、幅30メートル程の黒い波が生まれてシルヴィに襲いかかる。同時に俺は走り出す。
影波は俺がシルヴィとの距離を縮めて奇襲をする為の囮だ。影波はあくまで目眩し系の技で攻撃性は低いし。
そう思いながら俺はシルヴィに詰め寄る影波の後に続いて前に進む。観客からしたら俺の目的は丸分かりだろうが、シルヴィからしたらそうは行かないだろう。
俺は即座に距離を詰めて腰にあるホルダーから『ダークリパルサー』を取り出してシルヴィに向かって袈裟斬りを放ちながら足に星辰力を込めて再度蹴りを放つ。
するとシルヴィは首をズラして『ダークリパルサー』を回避しながら、膝で俺の蹴りを受けとめるも……
「きゃぁっ!」
衝撃は打ち消せずに僅かに吹き飛ぶが予想通りだ。『ダークリパルサー』と威力だけの蹴り、どちらを回避するべきかと言ったら断然『ダークリパルサー』だからな。
だから俺は間髪入れずにシルヴィとの距離を詰めにかかる。そして義手による追撃の一撃を放つもフォールクヴァングで止められて火花が飛ぶ。
「やるねー、八幡君。3年前は防戦一方だったのに」
「当たり前だ。弱点を放置する訳ないだろうが」
3年前にシルヴィと戦った際、俺は接近戦に弱かったので最初はシルヴィに寄られて猛攻に晒されていた。そんで押し切られそうになったから影狼修羅鎧を使って押し返した。ま、その後は白銀の騎士鎧を纏ったシルヴィと激しい攻防を繰り広げて、負けたけど。
とにかく俺はあの日以降弱点であった近接戦は鍛錬によって弱点じゃなくした。
そんな事を考えているとシルヴィが一歩下がってからフォールクヴァングによる三連突きを放ってくる。対する俺は義手と右腕に星辰力を込めて何とか校章を防いだが、衝撃は打ち消せずに身体に響く。
守りに入ったら負けだし俺も攻めますか……
「纏え、影狼修羅鎧」
言いながら影に星辰力を注ぐと、影が俺の身体に纏わりついて、狼を模した西洋風の鎧と化す。幸いシルヴィは天霧の持つ『黒炉の魔剣』のようなチート武器は持ってないので今回は持てる全てを出す事が出来る。
鎧を纏った俺はシルヴィに詰め寄ろうとするが……
「来たね……だったら3年前と同じ戦い方をしようっと!」
シルヴィは言いながらフォールクヴァングの刀身を大きくして、そのまま俺の足元に流星闘技を叩き込む。すると俺の足元が崩壊してバランスを崩してしまう
直ぐに立て直すことは出来たが、既にシルヴィは俺から距離をとっていて……
「僕らは登る、天界の城にて力を得る為、ただただ登る、登る」
歌い出す。この歌は知っている。シルヴィの歌はどれも良い歌だが、この歌だけは好きになれない。
そんな事を考えているとシルヴィアの身体が光に包まれだし……
「得て僕らは動き出す、敵を討つべく、鮮やかに、軽やかに」
次の瞬間、シルヴィアの首から下の部分に白銀の騎士鎧を身に纏っていた。
そう、3年前の王竜星武祭で俺を破った鎧を纏っていたのだった。この歌を聴くとどうしても3年前にシルヴィにぶっ飛ばされた事が頭によぎってしまう。
ともあれ俺はあの時に比べて強くなったから負けるつもりはない。つーかあの白銀の騎士鎧を打ち破らなければ、光の衣を纏ったシルヴィに勝つのは絶対に無理だろうし。
そう思いながらも俺は一歩踏み出してシルヴィの鳩尾目掛けて殴りかかると、シルヴィは防御せずに俺の一撃を受ける。
「やるね……でも効かないよ!」
シルヴィは僅かに後退しただけで殆どダメージを受けていない。3年前は苦しそうな表情を浮かべていたってのに、予想はしていたがシルヴィも格段に強くなっているな……
とはいえ俺も負ける訳にはいかない。そう思いながら俺は追撃を仕掛けるべく再度シルヴィを殴りに掛かるが、シルヴィも何発も食らうほどお人好しじゃないので、軽いステップで俺のラッシュを全て回避する。
そして反撃とばかりに、フォールクヴァングによる多連突きや鎧を纏った脚による蹴りを放ってくる。
鎧越しに衝撃は来るも特に問題なく耐えられる。だったら多少リスクを覚悟しても攻めないとな。
そう思った次の瞬間、シルヴィは俺に蹴りを放ってくるので、俺は防御をしないでシルヴィの足を捕まえて……
「おらっ!」
「きゃあっ!」
軽く放ってからそのままシルヴィの腹を殴り、シルヴィを遠くへ吹き飛ばす。鎧越しとはいえ鳩尾に1発当てたのでそれなりのダメージになっただろう。
だが勝つまでは油断出来ない。俺は更にダメージを与えるべくシルヴィの元に走り出す。観客からしたら容赦ないかもしれないが、そこは見逃して欲しい。
その時だった。突如シルヴィは起き上がってら息を吸って、俺に射撃モードになったフォールクヴァングを向けると……
「光の矢は 人々の思いを束ね 闇へと駆けて 突き進む」
歌によって生み出された大量の光の矢と共に、フォールクヴァングの銃口から光弾が放たれて俺に向かってくる。
それらの攻撃は威力を重視したものでなく、速度と攻撃範囲を重視したものである。
よって……
「痛くはないが……ウゼェ……」
ダメージはチクチクする程度で殆どないが動き難いので攻撃範囲から逃れるのに時間がかかる。
どうしたものかと悩んだ時だった。シルヴィアは警戒しているからか、更に大きく距離をとってから、フォールクヴァングを放り投げてから両腕を俺に突き出してくる。
その技に見覚えがあった。何せ俺が以前シルヴィと戦った時に使った技なのだから。
(面倒だな……アレを回避するのは光の矢に縫い止められているので厳しい……仕方ない。真正面から迎撃するか)
そう判断した俺は左手の義手に星辰力を込めて……
「裁きの咆哮」
言葉と共に両掌から圧倒的な光が生まれて次第に大きくなっていく。頼むから間に合ってくれよ……
内心祈りながら義手に星辰力を込めていると、遂にシルヴィの両掌にある光が最高潮になって放たれる。光の奔流は圧倒的な高密度エネルギーであり、俺に向かって一直線に進んでいく。
それと同時に……
「はぁぁぁぁぁっ!」
俺の義手に星辰力が溜まりきったので迎撃するべく左拳を放つ。同時に影狼修羅鎧の黒い籠手から衝撃波が放たれてシルヴィの放った光の奔流とぶつかり合う。
それによって足元の床は剥がれて、鎧はギシギシと鳴りだす。正直言って結構ギリギリだ。
しかし……
(いくらお互いに本気を出していない探り合いの状況でも負ける訳にはいかないんでな……!)
そう思いながらも俺は左腕に力を込めて……
「ふんっ!」
そのまま光の奔流を地面に叩きつける。すると一拍遅れて着弾地点からステージ全体にヒビが入るが、俺はそこまでダメージを受けてないので問題ない。
(よし、これで3年前のシルヴィの最強の技は撃破出来た)
ここからが本番だ。今の一撃を凌げた以上、シルヴィは今出せる最強の技で来るだろう。こちらも最強の技を出さないと勝てないのは間違いない。
(全力で来いシルヴィ……そんなお前を倒して優勝するのは俺だ……)
内心更にやる気を出しながら俺は前方にいる目の前で楽しそうに、それでありながら不敵に笑うシルヴィを見るのだった。
今までの戦いは八幡とシルヴィアにとっては只の探り合いであり、全く本気を出していない。
しかしそんな間も無く、手加減抜きの本当の戦いが直ぐに幕を開けるのだった。