『ここでリューネハイム選手!雪ノ下選手とメスメル選手を倒した光の剣を矢として放ったぁ!なんて破壊力だ!』
プロキオンドームのシルヴィの控え室にて、備え付けのテレビには大爆発が生じて、実況の声が響く。
「あの剣を飛び道具として使うとはな……」
「破壊力は八幡の槍より低いけど、光の衣を纏った状態で使えるのは大きいわね」
俺と恋人の1人であるオーフェリアは現在、もう1人の恋人であるシルヴィの試合を見ながら語り合っている。確かにオーフェリアの言う通り俺の影狼神槍は単純な破壊力なら俺の技の中でも最強クラスだが、使用する際は影狼神槍以外の技を一切使えないという大きな欠点を持っている。そう考えたら飛び道具としては多少威力が低くてもシルヴィの方が便利だろう。
「だな。それより暁彗には効いたのか?試合が終わってないから校章は無事で意識を失ってない筈だが……」
今現在も光の剣によって生まれた爆風が漂っているが試合終了を告げられてないので暁彗はまだ負けてないのはわかるが、爆風から出てこないのは不気味極まりない。シルヴィもカウンターを警戒してか無理に攻めずに上空で待機している。
その時だった。爆風の中から十字の斬撃が煌めいたかと思えば、一気に爆風が吹き飛ばされて……
「おいおい……今のを受けてその程度かよ……」
若干左腕を焦がした暁彗が出てくる。全身に異様な質感の星辰力を纏っている事から、錬星術を使って防性星辰力を生み出し全身に纏わせながら左手を突き出して防御したのだろう。
結果左腕に纏った防性星辰力を突き破ったようだが、それ以上のダメージを与えられなかったようだ。
(しかも暁彗の奴、メチャクチャ楽しそうに笑ってるし……こりゃマジで厳しい戦いになるだろうな)
そう思いながら俺は試合を見るのを再開したのだった。
プロキオンドームのステージにて……
「今のは良い一撃だったぞ『戦律の魔女』。まさか防性星辰力を破られるとは思わなかった」
暁彗は楽しそうに笑いながらも、懐から呪符を取り出して再度四方八方にばら撒いたかと思えば、呪符を足場にしてシルヴィアに突撃を仕掛ける。
対するシルヴィアは再度光の剣を生み出しながら引き攣った笑みを浮かべる。
(アレを受けてあの程度のダメージなのね……錬星術だっけ?世界には私の知らない技がまだまだあるなぁ……)
そう思いながらもシルヴィアは背中に生えた12枚の翼を広げて暁彗に突撃する。光の衣を纏った状態で長期戦は危険だからだ。肉体に掛かる負荷は影神の終焉神装に比べたらマシだが、消費星辰力は影神の終焉神装を上回っている為、長期戦には向いてないのだ。
だからシルヴィアは暁彗との距離を詰めにかかろうとすると、暁彗が先程のように呪符に蹴りを入れて一気に距離を詰めてきて……
「はあっ!」
「光神の豪剣!」
シルヴィアの間近にある呪符に飛び移り、間髪入れずに攻性星辰力を込めた拳を放ってくるのでシルヴィアも負けじと圧倒的なオーラを纏わせた光の剣を振るう。
瞬間、拳と剣ぶつかり合う。
「ぐっ……!」
「ううっ!」
そしてその衝撃によって2人は反発するように吹き飛び、ステージの壁に激突する。しかしそれも一瞬で2人はすぐさま地面に着地して、お互いに向かっていき……
「うぉぉぉぉぉぉぉっ!」
「はぁぁぁぁぁっ!」
掛け声と共に再度拳と剣をぶつけ合う。それによって生まれる衝撃が地面に巨大なクレーターを作るが、今度は2人共踏ん張った事で吹き飛ぶ事はなく、攻め続ける。
シルヴィアが剣や拳を振るえば暁彗は校章を始め頭や首、金的などの急所のみ躱してそれ以外の攻撃は防性星辰力を見に纏わせて防ぎ、暁彗が反撃とばかりに拳を振るえばシルヴィアは光の剣で防いだり受け流して、僅かに隙が出来たら射撃モードにしたフォールクヴァングから光弾を放つ。
シルヴィアの光の剣と衣、フォールクヴァングから放たれる光弾と暁彗が纏う攻性星辰力と防性星辰力がぶつかり合い、激しい戦いの中に確かな美しさが生まれ観客達を魅了する。
そんな中、ステージで激しく、それでありながら美しい光景を生み出す2人は観客など眼中にないようぶつかり続ける。
「ふははははっ!流石は比企谷八幡の伴侶だ!」
「どうもありがとう!貴方こそ昔に比べて随分と表情が豊かになったね!」
2人は攻撃を交わしながら言葉も交わす。暁彗の一撃必殺の拳とシルヴィアの大天使の一撃がぶつかり合い辺りに衝撃が起こり、昨日の八幡とレナティの試合のようにステージの崩壊が始まる。
「だろうな!昔は師父の為だけに戦っていたが、今は強い相手と戦う事が何よりも楽しい!だから……!」
暁彗が笑いながら防性星辰力を身に纏い、左拳でシルヴィアの光の剣による横薙ぎの一撃を掴み……
「楽しみながらお前を倒し、決勝で比企谷八幡との戦いを楽しませて貰うぞ!」
攻性星辰力を纏った右拳をシルヴィアの鳩尾に叩き込む。瞬間、光の衣越しに衝撃が走り……
「きゃぁぁぁぁっ!」
そのままステージの壁に向かって吹き飛ぶ。暫くするとステージの壁にぶつかり、背中に衝撃が走った事によって口から血が出るものの、シルヴィアはそれを無視して壊れた光の衣を修復して暁彗を見据える。
(痛いなぁ……そして強いなぁ……)
シルヴィアは口元の血を拭いながらも光の剣を構えて突撃してくる暁彗を迎え撃つ。光の剣で袈裟斬りをすると暁彗は身を屈めて躱しながら低い体勢で掌打を放ってくるので12枚の翼の内8枚でそれを防ぐ。
翼と拳がぶつかると1秒で翼が吹き飛んだが、1秒あれば簡単に回避出来る。シルヴィアは残り4枚の翼を羽ばたかせて一瞬で暁彗の後ろに回り……
「光神の撃剣!」
光の剣を暁彗の背中に叩き込む。するとそこから血が噴き出るも、暁彗は意に介さずにシルヴィアに背を向けたまま、光の剣を掴み……
「むんっ!」
「うわわわわっ!」
そのまま思い切り振り回す。同時にシルヴィアは空高くに飛ばされて、暁彗は呪符を足場にシルヴィアに突撃を仕掛ける。
暁彗の攻撃を受けたら一気に不利になるのはシルヴィアも知っているので、無理矢理投げ飛ばされた事によって生まれた頭痛を無視する。
そして先程破壊された事によって失った翼8枚を生み出して、計12枚の翼を羽ばたかせて空中で体勢を立て直して、光の剣を構えながら暁彗に突撃して……
「はぁぁぁぁぁっ!」
「おぉぉぉぉぉっ!」
試合が始まって何度目かわからない衝突が生まれる。暁彗の拳とシルヴィアの光剣は壁を越えた人間でも大ダメージを与える程の破壊力だ。互いの身体に直撃しなくても其処から生まれる衝撃は2人の身体に充分に伝わってくる。
しかし身体スペックでは暁彗がシルヴィアを上回っているので真っ向からぶつかると暁彗に分がある。
だからシルヴィアは暁彗とぶつかる時に必ず途中で受け流すような形で暁彗の拳の威力を殺すのだが……
(くっ……!流石に向こうも修正してくるよね……!)
暁彗の武の才に恵まれた人間。最初は拳の威力を殺されていたが、試合が進むにつれて腕を捻ったり途中で引いたりして、受け流しの難易度を上げながら攻める。
よってシルヴィアは少しずつ、しかしそれでありながら確実に押されているのを嫌でも理解してしまう。
(仕方ない……本当は八幡君との戦いまで使いたくなかったけど、この際そんな事は言ってられないよね……!)
そう判断したシルヴィアは一度深呼吸してから暁彗から距離を取り、自身の光の剣を見て……
「裁きの光剣よ、我が翔ける翼を贄に捧げて、必滅の神槍に昇華せよ」
そう呟くとシルヴィアの背中に生えた12枚の翼が切り離されて、光剣の周囲を周り、最終的に剣に纏わりつき、1メートル程の槍となる。大きさそのものは剣の時と殆ど変わらないが神々しさが増していた。
それを見た暁彗は危険と判断した。原理についてはわからないがあの槍は間違いなく一撃必殺の技と確信を抱いていた。
普通なら避けるのが最善と判断するが暁彗は違った。自身の右腕に錬星術によって生み出した攻撃性に特化した星辰力を纏わせて迎え討つ体勢になる。
暁彗は星露の一番弟子として相手の切り札を避けるという考えはなく、それ以上にあの技を打ち破りたいという気持ちを抱いていた。
すると右腕に纏われた攻性星辰力が更に濃くなりだす。詳しい理由はわからないが強くなるならそれで構わないと暁彗は判断した。
そして両者の右腕に槍と拳という圧倒的な力が感じる中、シルヴィアは苦笑を浮かべる。
「なんか……昨日の八幡君とレナティちゃんの試合に似てるね」
言われて暁彗も昨日の八幡とレナティの試合を思い出す。確かに試合の終盤にて2人は最強の一撃をぶつけ合っていた。
「確かに似ているな。だが俺は運によって勝ちを決めるのは御免だな」
「あはは……まあ八幡君のアレは私も予想外だったよ」
そう話しながらも2人は笑顔(ただし瞳はお互いにギラギラしている)で構えを取り……
「おぉぉぉぉぉっ!」
「はぁぁぁぁぁっ!」
互いに雄叫びを上げながら一瞬で距離を詰めて必殺の一撃を放つ。攻性星辰力の赤と光の槍の白がぶつかり合い……
ゴッッッッッッ……
2人の足元から爆発が生じて、ステージの床の破片が四方八方に飛び散り防護フィールドに当たり甲高い音をあげる。
しかしシルヴィアも暁彗も爆発を一切気にせず、目の前の敵を見据える。今の所は拮抗しているが……
(此処で決着をつける!)
シルヴィアは空いている左手にフォールクヴァングを持ち射撃モードにする。同時に暁彗も同じ事を考えていたのか左拳に星辰力を構える。
そして互いに互いの右手に向けて攻撃を放つも……
「やあっ!」
僅かにシルヴィアの放った光弾が暁彗の右腕に当たる。今の暁彗の右腕には攻性星辰力だけ纏われていて防性星辰力を纏われていないので充分なダメージとなる。
それによって暁彗に僅か、ほんの僅かだけ隙が生まれたのでシルヴィアはその隙を逃さずに光の槍で暁彗を貫いた。
「ぐうっ……!」
これには暁彗も大ダメージのようだ。刺さった箇所からは夥しいほどの血が流れだす。
「これで終わりだよ!」
それを見たシルヴィアはフォールクヴァングを斬撃モードに変えてトドメを刺すべく校章に振るう。
しかし……
「はははは!まだまだだ!」
「なっ?!」
左腕でフォールクヴァングを掴み、血だらけの右腕に刺さった光の槍を掴んで砕いた。これにはシルヴィアも驚き、暁彗を見れば執念に燃えた瞳をシルヴィアに向けていた。
「俺は武暁彗!界龍第七学院の序列2位にして『万有天羅』范星露の一番弟子!この程度でやられる程ヤワではない!」
暁彗はそう言いながら左腕を振ってフォールクヴァングを跳ね上げると……
「噴っ!」
「ぐぅぅぅぅっ!」
血だらけの右腕でシルヴィアの鳩尾を殴る。ボロボロな右腕で放った一撃はこれまで以上の破壊力で遂にシルヴィアの光の衣を粉砕する。
それによってクインヴェールの制服が露わになり、口からは血を流すがシルヴィアはそれを無視して……
「(まだまだ……!)ぼくらは壁を打ち崩す、限界の先に境界を越えて、傷を厭わずに、走れ、走れ」
一度息を吸ってステージに歌声を響かせる。身体強化の歌を歌ったシルヴィアの身体の奥から力が噴き上がり、それを確認するや否やフォールクヴァングを構えて暁彗に突撃をする。
対する暁彗も決着が近いからか両腕に攻性星辰力を込めてシルヴィアに襲いかかる。
「破ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「想いだけでは追いつけないから!願うだけでは超えられないから!」
暁彗は叫びながらシルヴィアは歌いながらぶつかり合う。暁彗が左の拳を振るうとシルヴィアはフォールクヴァングによる流星闘技を放つ。
同時にフォールクヴァングは粉々になる。シルヴィアは長い間使っていた武器が壊れて胸に痛みが生まれるも、一旦意識から外して左手で暁彗の左肘を殴って暁彗の一撃の軌道を逸らす。
それと同時に……
「力の限り、その先へ!」
シルヴィアがサビを歌い上げるとシルヴィアと暁彗の右拳が互いの校章に向かい、両者の校章が破壊される。
すると一拍置いて……
『武暁彗、校章破損』
『試合終了!勝者シルヴィア・リューネハイム!』
シルヴィアの方がコンマ数秒早く暁彗の校章を破壊して準決勝の幕を下りたのだった。