学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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4回戦最終試合、比企谷小町VSネイトネフェル(前編)

『さあいよいよ本日最後の試合です!先ずは東ゲート!銃士てありながら圧倒的な体術で勝ち上がってきた星導館学園序列4位『神速銃士』比企谷小町選手ーっ!』

 

 

実況の声と共に東ゲートから小町が全力疾走で現れてステージに立つ。見る限り気圧されている様子はないな。

 

『続いて西ゲート!世界トップクラスの舞踏家で、無手の格闘戦なら今大会トップクラス!クインヴェール女学園序列2位『舞神』ネイトネフェルー!』

 

続いて西ゲートから長い髪と高貴な顔立ち、エキゾチックな褐色肌を持った美女ーーーネイトネフェルがゆっくりと西ゲートから現れる。

 

直で見るのは前回の王竜星武祭以来と久しぶりだが、歩いてるだけで魅力を感じてしまっている俺がいる。

 

「さてさて……本日2戦目の壁を越えた人間とそうでない人間の激突か……」

 

「私は生徒会長としてはネイトネフェルを、義理の姉としては小町ちゃんを応援したいんだよなぁ……」

 

「……別に応援したい方にすれば良いんじゃないかしら?ノエルは八幡と葉虫の試合で八幡を応援してたんだし」

 

「す、すみません……私はあの時生徒会としての立場より自分の気持ちを優先してしまいました……」

 

ノエルは真っ赤になりながらも申し訳なさそうな表情を浮かべる。しかし俺は怒っていない。可愛い弟子に応援されるのは嬉しいし、何よりそんな表情をされたら怒るに怒れない。

 

「…….気にしなくて良いじゃない。応援された程度であの葉虫が八幡に勝てるとは思えないのだから」

 

「え、えーっと……」

 

オーフェリアの身もふたもないフォローにノエルはどう反応したら良いのかわからないとばかりにオロオロし始める。この辺りはガラードワースの生徒らしいな。

 

(しかしオーフェリアの言ってる事も決して間違いじゃないんだよなぁ……)

 

漫画やアニメじゃ主人公がヒロインに応援されて覚醒するのは良くあるが、現実だと余り起こり得ない事だ。ノエルが葉山を応援しても覚醒するとは限らないし、言っちゃアレだが葉山が覚醒しても大して強くなってない気がする。

 

「そう言えば葉山で思い出したが、アイツ俺に負けてからまだ俺の事を学内でdisってるのか?」

 

ふと気になったのでノエルに尋ねてみる。別に雑魚が何百人来ても蹴散らせる自信はあるが面倒なものは面倒だ。闇討ちされない様に、ある程度情報を集めておくべきだろう。

 

「い、いえ……八幡さんが圧倒的な勝利を挙げてから葉山先輩のグループの人数は大きく減りました。朝の集会も無くなりましたし」

 

なるほどな……まあ客観的に見て俺と戦った時の葉山は無様だろう。イレーネなんて笑い過ぎて顎が外れて俺に八つ当たりしてきたし、それらを考えると葉山グループのメンバーが減るのも妥当だろう。

 

しかし今気になる発言があったな。

 

「ねぇノエルちゃん。朝の集会って何かな?」

 

シルヴィアが俺が疑問に思った事をノエルに聞く。確かに気になる。ノエルの言い方だと葉山が主導として朝の集会をしているように聞こえる。

 

「実は……葉山先輩は三浦先輩や戸部先輩など、葉山先輩のグループを主体として、毎日中庭で集会をやっていたんです」

 

言いながらノエルは珍しく不愉快そうな表情を浮かべる。こいつがそんな表情をするって事は相当酷い集会なのだろう。

 

「大方、俺の悪口を言ってからガラードワースを救うとか言ってんだろ?」

 

「は、はい……」

 

「え?冗談抜きで馬鹿じゃないの?」

 

「あの葉虫、随分とふざけた真似をしてくれるわね……!」

 

俺が尋ねるとノエルは小さく頷く。それに対してシルヴィは心底呆れた表情を、オーフェリアは憤怒に染まった表情に変わる。俺はと言うと呆れた表情をしていると思う。

 

アイツマジで何をやってんだ?毎日中庭で俺の悪口を言ってガラードワースを救う発言だと?側から見たらカルト集団にしか見えねぇわ。

 

「というか風紀委員は止めないのか?」

 

「一応そんな話は何度も出たんですけど……実際の所犯罪行為をしている訳でもないですし、葉山先輩のグループの人数は王竜星武祭が始まるまでは全校生徒の4割近くを占めていたので揉め事は起こしたくないと、軽い注意で終わらせたみたいです」

 

「本当にカルト集団みたいだなオイ」

 

実際の所葉山グループは犯罪行為をしているわけでもなく、ただ中庭で俺の悪口を言っているだけだからな。それだけの為に学園の生徒4割を誇る葉山グループと敵対したくない風紀委員会の気持ちも分からなくはない。

 

「でも八幡君が勝ったから集会は無くなったんだよね?」

 

「はい。加えて葉山先輩の影響力が下がったので、お兄ちゃんの胃痛の原因の9割が無くなりました」

 

フォースターェ……胃痛の原因の9割が葉山グループって……マジですみません。1番悪いのは葉山だが、葉山に憎まれている俺も間接的にフォースターの胃を痛めている要因だろう。今後フォースターが胃痛に苛まわれていたら、俺が治療費を負担しよう。

 

そんな事を考えていると……

 

『さあいよいよ開始時間です!4回戦最後の試合!5回戦に上がるのは星導館かクインヴェールかぁっ?!』

 

実況のそんな声が聞こえてくる。しまった、葉山の馬鹿げた話をしている間にそんな時間が経過していたようだ。見れば小町もネイトネフェルも開始地点にいるので俺達4人は頭を切り替えてステージを見る。

 

そして……

 

『王竜星武祭4回戦第4試合、試合開始!』

 

試合開始の宣言が出された。

 

 

 

 

 

 

 

『王竜星武祭4回戦第4試合、試合開始!』

 

試合開始の宣言がされると同時に小町とネイトネフェルは互いに距離を詰めにかかる。小町は近接射撃戦を得意としているし、ネイトネフェルは能力者でもなく純星煌式武装や煌式武装すらも使わず己の肉体のみを武器としているので当然である。

 

小町の作戦はシンプルだ。自分自身がネイトネフェルの舞に魅了されるまえに仕留める短期決戦だ。ネイトネフェルは近接戦だけに特化した人間だが、壁を超えた人間だ。遠距離からドカドカ撃っただけで勝てるなら苦労しない。

 

「行くよーーー『迅雷装』」

 

小町は走りながら腕に装備している黄色の石ーーーウルム=マナダイトが埋まっているブレスレットーーー純星煌式武装『迅雷装』を起動する。

 

すると小町の全身から電磁波のようなものが現れて、背中には小さい翼が4枚生える。

 

 

(ルートはこれで……えいっ!)

 

小町が内心そう叫ぶと、背中に生えた4枚の翼が光り輝いたかと思えば上空に飛び上がり、即座に滑空してネイトネフェルに詰め寄る。

 

『迅雷装』の能力は発動前に移動コースを設定して、発動するとそのコースを高速移動する事を可能にする純星煌式武装である。さっき小町が設定したコースは一度上空してから直ぐに滑空してある程度進んだら空中で回り込むようにするコースだ。

 

同時に小町は右手に散弾型煌式武装を、左手にハンドガン型煌式武装を展開する。ネイトネフェルの後ろを取れたら発砲するつもりだ。

 

幾らネイトネフェルでも近距離から散弾を撃たれたら避けれないと判断した故に。仮に散弾を避けたら体術とハンドガンが攻めるつもりだ。

 

するとネイトネフェルが動きを変える。先程まで真っ直ぐに進まず、明らかな無駄な動きを時々する動きを見せ始める。

 

それを見た小町は嫌な予感をしながらも滑空して、地表に近づくと同時にネイトネフェルの後ろに回り込むような動きをする。

 

そしてネイトネフェルの後ろを取った瞬間、彼女は同時に後ろを向いて……

 

「はあっ!」

 

そのまま装飾品を付けた腕を振るって散弾銃を跳ね上がる。それによって散弾銃の銃口は上に向けられた。

 

しかし小町もこの程度の事は予想していたので、即座に散弾銃を叩き落すようにネイトネフェルに投げつける。当たらない銃など価値はないと判断した故に。

 

それに対してネイトネフェルは首を軽く動かして簡単に避けたので、小町はハンドガン型煌式武装の引き金を引いて光弾を3発放つ。光弾はネイトネフェルの胸の校章、頭、首と、当たれば一気に主導権を握れる場所である。

 

一瞬で狙いを定めて校章に向けて正確に発砲する小町。小町の単純な射撃技術は先天的な才能に加えて魎山泊での鍛錬もあって、シルヴィアを始め沙久 々宮紗夜やパーシヴァル・ガードナーなどアスタリスクトップクラスの銃使いよりも上回っている。

 

しかし相手は壁を越えた怪物。それも近接戦に特化した怪物故に圧倒的な反応速度で全て回避する。勝ち残っている選手の中で、圧倒的な近距離で頭と首の胸に狙った光弾三発を躱せる選手はネイトネフェルを含めても殆ど居ないだろう。

 

しかし小町は焦ってはいなかった。確かにネイトネフェルは怪物だが、小町は魎山泊の人間。週に一度ネイトネフェルが可愛く思える怪物と戦っていたので、全然焦ることなく……

 

「たあっ!」

 

腕に星辰力を込めてネイトネフェルの校章に向けて突きを放つ。対するネイトネフェルはその突きさえも回避しようとするが……

 

「ちいっ……!」

 

光弾三発を回避した状態で小町の突きを回避する事は出来ずに、小町の突きがネイトネフェルの肩を裂く。それによって僅かだが血が流れる。先制を取ったのは小町だった。

 

しかし小町は……

 

「まだまだぁっ!」

 

即座に追撃を仕掛ける。1秒でも油断したら即座に逆転される事を知っているからだ。

 

そんな小町の回し蹴りに対してネイトネフェルは……

 

「ふっ!」

 

回し蹴りで迎え討つ。しかし小町のそれと違って洗練された美しい蹴りであった。

 

2人の蹴りがぶつかり、辺りに衝撃が生まれるも地力の差から小町が押され始める。

 

それを確認した小町が押し切られるのは防ぐ為、腰から新しい散弾銃を取り出してネイトネフェルに向けて即座に放つ。

 

しかしネイトネフェルの方が一歩早い。無理に押し切るのを止めて距離を取って散弾銃の攻撃範囲から逃れる。

 

(うわー、星露ちゃんの言ってた通り壁を越えた人間の反応速度は尋常じゃないなー)

 

小町は引き攣った笑みを浮かべながらため息を吐く。実際小町がネイトネフェルの立場なら出来ないと思っている。

 

すると今度はネイトネフェルが動き出す。対して小町は迎撃の為に散弾銃とハンドガンを撃ちまくるが全て回避される。速さはそこまで早くないが、ネイトネフェルの動きが独特過ぎて先読みが出来ない状態となっているのだ。

 

小町は先読みして相手に正確な射撃を浴びせるのが得意だが、ネイトネフェルの動きは明らかに無駄な動きも含まれていて先読みがしづらいのだ。

 

(だったらこっちも距離を詰めにかかる……!)

 

小町は負けじと距離を詰めにかかる。どうせ遠距離から攻めても回避されるのが目に見える。星辰力の無駄である。

 

そして距離を5メートルまで縮めるとお互いが動きだす。ネイトネフェルは身体を回転させながら右手で突きを放ってくるので小町は散弾銃で受け流す。

 

それによって二丁目の散弾銃も地面に落ちるが、小町は気にせずハンドガンを向けてネイトネフェルの顔面に躊躇いなく放ちながら、蹴りを放つ。

 

しかし……

 

「えっ……?」

 

小町の蹴りは胸を狙った筈だが、僅かにズレて脇腹に向かっていた。しかもそこには空いたネイトネフェルの左腕があるにもかかわらずに、だ。

 

小町が戸惑う中、ネイトネフェルは小町の蹴りが脇腹に当たる直前に掴み……

 

「ふんっ!」

 

そのまま投げ飛ばす。それによって小町は地面に叩きつけられる。星辰力を身体に纏ったからそこまでダメージはない。

 

しかしこのまま受け手に回っていれば負けると判断した小町は急いで起き上がるも……

 

「あれ……いない……はっ!」

 

目の前にネイトネフェルが居なかったので、一瞬だけ戸惑うも直ぐにネイトネフェルの居場所を理解して上を見ると……

 

「やっぱり上空か……!」

 

上空にもかかわらず身体を回転しながら距離を詰めてくる。対して小町はハンドガンで迎撃するも全て両手両足で光弾を弾き飛ばす。

 

そして……

 

「はあっ!」

 

掛け声と共に踵落としを放ってくるので小町は『迅雷装』を起動してネイトネフェルの後ろに回るようにコースを設定して動きだす。

 

ネイトネフェルの踵落としが小町の頭に当たる直前に背中の翼が光り、踵落としを回避してネイトネフェルの後ろに向かう。

 

しかし向こうも予想をしていたようでゆっくりと、それでありながら蠱惑的に振り向く。ネイトネフェルが振り向く中、小町は既に攻撃体制に入っていて、正拳突きを放つ。

 

ネイトネフェルは落ち着いて正拳突きを受け流し、反対の手にある銃が自分に向けられる前に掴んで狙いを定める邪魔をする。

 

そして小町が銃を手放しながら蹴りを放とうとするもその前に……

 

「遅いっ!」

 

「うっ!」

 

その前にネイトネフェルは手に持つ銃を小町の顔面に投げつける。モロに食らった小町は大きな隙を作ってしまう。

 

そしてそんな隙をネイトネフェルが逃すはずもなく……

 

「はあっ!」

 

お返しとばかりに小町の校章に向かって正拳突きを放つ。対する小町は校章を守る為に、星辰力を込めた腕でガードするも……

 

「きゃぁぁぁっ!」

 

衝撃だけは打ち消せずに後ろに吹き飛んだ。何とか起き上がるも全身から鈍い痛みを感じる。

 

(強い……!でもそれ以上に、あの舞が美し過ぎて厄介だなぁ……!)

 

小町は内心舌打ちしながらネイトネフェルを睨む。確かに小町とネイトネフェルの間には差があるか、単純な戦闘力なら魎山泊で鍛えた小町とネイトネフェルには絶対的な差はない。少なくともここまで一方的にやられる程ではない。

 

にもかかわらず小町が一方的にやられているのは、小町自身無意識のうちにネイトネフェルの美しい舞に気を取られているからだ。

 

舞によって正拳突きや蹴りの放つタイミングはいつもよりズレているし、パフォーマンスの質も悪い。

 

(舞に流されちゃいけないのは知ってたけど、ここまでとは思わなかったよ……!)

 

小町自身、データや母と兄から聞かされていたが相対するとここまで恐ろしいものとは思っていなかった。惑わされてはダメだとわかっていても身体の反応が鈍くなっている。

 

そんな中、ネイトネフェルは……

 

「大分わらわの舞に惑わされているな。そろそろお前もわらわの舞の虜にしてみせようぞ……!」

 

ゆっくりと、それでありながら蠱惑的に小町の元に向かってきていた。

 

そこには壁を越えた人間らしき圧倒的な風格が漂っていた。


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