学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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こうして抽選会が始まる

王竜星武祭8日目、今日は試合は無く抽選会である。観客は抽選会を見学して、本戦トーナメントの組み合わせを見て誰が優勝するかとか、こいつはどこまで勝ち上がるのかとか色々と考えるのだろう。

 

しかし選手からしたらそんな事を考えいる余裕はない。何せ初っ端から序列1位や相性が最悪の相手と当たる可能性があるのだから。

 

しかも俺の場合、生徒会長であるので自分の学園のクジを引かないといけないので責任重大である。

 

(可能なら全員バラバラにして、俺が運で勝ち上がってきた雑魚と、ロドルフォが初戦から天霧やネイトネフェルと当たれば最高なんだがな……)

 

ロドルフォは近距離において比喩ではなく無敵だから、天霧やネイトネフェルのように近接戦に特化した壁を越えた人間を潰して欲しいのが本音だ。

 

(ま、そんな都合良い展開があるはず無いか)

 

そんな事を考えながら俺はシリウスドームに入る。今は俺1人である。

 

シルヴィはペトラさんに呼ばれていて、オーフェリアは星武祭に出て本戦に出場する俺とイレーネの分の生徒会の仕事をしているので、今は俺1人だ。まあシルヴィはもう少ししたら会えるけど。

 

そう思いながらドームに入ってレヴォルフの生徒会専用ブースに向かう。クジを引くまでお偉いさんのつまらない話があるのでそれまでは「あ!八幡くーん!」……この声は、アイツか。

 

振り向くと俺と同じように本戦に出場した若宮が元気良くこちらに走ってくる。チーム・赫夜の4人はいないが1人で来ているのか?

 

「よう若宮。1日遅いが本戦出場おめでとさん」

 

「ありがとう!八幡君もおめでとう。昨日の試合凄かったよ!」

 

「そりゃどうも。っても結構疲れたけど」

 

黒騎士は冗談抜きで強かった。もしも俺と別ブロックなら余裕で本戦出場を果たしたいただろうし、組み合わせ次第ではベスト8以上になっていたかもしれない。勝ったからいいものの、そんな奴と当たった俺は間違いなく運が悪いだろう。

 

「まあそうかもね。ところでシルヴィアさんはクインヴェールの生徒会専用の観戦室に居ますけどオーフェリアさんは一緒じゃないの?」

 

「オーフェリアはレヴォルフの生徒会室で俺とイレーネの仕事をやってる。てかフロックハート達はシルヴィと一緒にいるのか?」

 

「うん!他にもヴァイオレットや雪乃さんもいるよ!八幡君も来る?」

 

 

若宮からそんな誘いが来る。行きたいのは山々だが……

 

「遠慮しておこう。一応俺達は敵同士だからな」

 

獅鷲星武祭の時は俺が参加してなかったからともかく、王竜星武祭では俺も参加している。そんな人間が他所の学園の専用観戦室に入るのは少々抵抗がある。

 

「そっか……まあそうかもね。ごめん」

 

「別に謝る必要はない。俺こそ誘って貰っておきながら悪かったな」

 

「ううん!私が考えてなかっただけだから八幡君は悪くないよ!じゃあ私は行くね」

 

「ああ。初戦で当たったら負けないからな?」

 

「それはこっちのセリフだよ!絶対に叶えたい夢があるんだから!じゃあね八幡君!」

 

若宮はそう言って去って行った。相変わらず不思議な雰囲気を持った元気少女だな。見ていて頬が緩んでしまうな。

 

俺は若宮が見えなくなるまで見送ると、再度レヴォルフの専用観戦室に向かって歩き出す。

 

そしてエレベーターに乗る為曲がり角を曲がろうとすると衝撃が走る。どうやら人にぶつかったようだ。

 

「す、すみません」

 

「いや、こちらこそ……って八幡ではないか?」

 

俺が先に謝ると聞いた声が聞こえてくる。この声は材木座か。おそらくこいつも抽選会を見に来たのだろう。

 

そう思いながら材木座を見ると……

 

「お前……それはどうしたんだ?」

 

見れば材木座の体にはガーゼが貼られてあったり、引っかき傷がついていた。見る限りそこまでのダメージはないようだが、喧嘩をしたように見える。

 

もしかして……

 

「まさかとは思うが、闇討ちされたとかじゃないよな?」

 

材木座はアルディを代理として出場しているので、試合には出ないので怪我をする事はない。

 

にもかかわらず怪我をしているという事は他校の生徒から闇討ちされた可能性が高い。材木座の代理のアルディは予選の3試合全て、防御障壁を飛ばす戦法をとって30秒以内に勝ち上がるなど圧倒的な戦績を叩き出している。

 

そんなアルディを代理として出場している材木座を危険視するのは必然だから闇討ちされていてもおかしくない。

 

そう思いながら材木座に話しかけるも、材木座は首を横に振る。

 

「ん?これは違うぞ。エルネスタ殿と喧嘩してついた傷であって、闇討ちされて出来た傷ではないぞ」

 

エルネスタ?ああ、そういや学園祭のダンスパーティーで踊ったな。確かアルルカントの『彫刻派』の長で擬形体の生みの親で……

 

「お前の友達だっけ?」

 

「違うわ!」

 

すると材木座は即座に否定する。その反応の速さ尋常じゃないくらい速くて驚いた。

 

「八幡よ、我とエルネスタ殿は友人ではない。敵同士である。どんな場所でも喧嘩になるからな」

 

「そうなのか?見たところそこまで喧嘩をするタイプには見えないんだが」

 

俺がエルネスタに持つ印象は頭のネジが何本か外れている電波女だ。狂っているとは思うが喧嘩っ早い印象はないのが本音だ。

 

そう思う中、材木座は首を横に振る。

 

「甘いな八幡。我とエルネスタ殿は一緒に煌式武装の開発をする時も、一緒に飯を食う時も、一緒に学園祭を回った時も、一緒にプールに行った時も、仕事で一緒にアスタリスクの外に行った時にも、ありとあらゆる場所で喧嘩をする位仲が悪い……って、何故そこで我を馬鹿を見る目で見てくる?」

 

「別に……」

 

どこが敵なんだよ?一緒に学園祭を回ったり、一緒にプールに行ってる時点で絶対に仲が良いだろ?

 

「……このリア充が。死ねよ」

 

普通にリア充じゃねぇか。性格や本性はともかく、エルネスタの見た目は普通に可愛いし、そんな女子とプールや学園祭に行った時点でリア充だろう。こいつらは喧嘩するほど仲が良いを地で行っているようだ。

 

「何故そこで我が罵倒されるのだ?!それ以前に世界の歌姫と世界最強の魔女の2人と付き合っている貴様にリア充呼びされる筋合いはないわ!」

 

「そこを言われたら返す言葉はないな……」

 

自分で言うのもアレだが、俺は間違いなくリア充だろう。恋人2人と過ごす時間はこの上なく幸せだし。

 

「まあ良いわ。我も左近殿に用事があるからこれで失礼するが、八幡よ。貴様に2つ言わねばならんことがある!」

 

「何だよ!」

 

「1つ!この王竜星武祭を制するのは我とアルディ殿である!2つ!我とエルネスタ殿は友人関係ではない!」

 

材木座はそう言って去って行った。前者の宣戦布告についてはしっかりと受け取った。アルディは強敵だが当たったら俺も全力で相手をしよう。

 

しかし2つ目については嘘だろう。話を聞いただけで直接2人のやり取りについては殆ど見てないが絶対に仲が良いと思う。

 

何故なら……

 

(材木座の奴、エルネスタの事に文句を言いながらも口元が笑っていたし)

 

材木座は口では敵と言っていたが、心の底ではエルネスタとの喧嘩を楽しんでいるだろう。やっぱりアイツはリア充だ。

 

 

内心呆れながらも俺はエレベーターの元に向かい、乗るとレヴォルフの専用観戦室がある階を指定する。

 

そして指定した階に着いたのでエレベーターから降りて、観戦席に向かおうとした時だった。

 

「あ……八幡さん……!」

 

少し歩くと横から声が聞こえたので見ると、飲み物や軽食が売られているラウンジの席にノエルが居て、笑顔で手を振ってくる。癒しだなぁ……

 

「ようノエル。本戦出場おめでとさん」

 

昨日の試合は見たが圧勝していた。予想はしていたとはいえ弟子が勝ったとなると嬉しい気持ちがある。

 

「あ、ありがとうございます。八幡さんも昨日はおめでとうございます。見ましたけど、見事な戦術で、その……か、か、か、格好良かったです!」

 

真っ赤にしながらそんな事を言ってくる。

 

「お、おう」

 

思わずキョドッてしまうが仕方ないだろう。マジでなんなのこの子?恥じらいながら褒めてくるだけの行為なのにメチャクチャ可愛いんですけど?もしも恋人が居なかったら即座に告白してしまうくらい可愛いんですけど?

 

「そ、そいつはサンキューな。でもなノエル、流石に俺……レヴォルフの生徒がガラードワースの選手を倒して本戦に勝ち上がった事を祝うのは止めとけ」

 

万が一にも葉山グループにでも聞かれたりしたら面倒な事になる。幸い誰も聞いてなかったようだが、ここがもしガラードワースなら暴動が起こる可能性も0ではないからな。

 

「あ……そ、そうでした。ごめんなさい」

 

ノエルは慌てながら頭を下げてくるが、俺は別に怒っているわけではないんだが……

 

「気にするな。次から気をつければ良い。てかフォースターは一緒じゃないのか?」

 

「お兄ちゃんならE=Pの幹部の人と話しています」

 

「お前は行かないのか?」

 

「お兄ちゃんは生徒会としてではなくフォースター家の嫡男として話しているので」

 

なるほどな。フォースター家はE=P創立者の1人であるし、フォースターも卒業後はE=Pに入ることが殆ど確定しているし挨拶をしているのだろう。

 

「そういやお前は卒業後はどうすんだ?メスメルの家を継ぐのか?それともE=Pに入るのか?」

 

「両親は好きにしろと言ってます。E=Pに入ってお兄ちゃんの手伝いをしたい気持ちもありますが、最近は教師をしてみたいと思うようになりましたね」

 

「教師?」

 

「はい。私が八幡さんから習ったように、今度は私が能力を教えてみたいと思うようになりました」

 

「なるほどな……ま、良いんじゃね?お前は優しいし良い教師になるだろ」

 

レヴォルフの教師なんて授業は適当だし、授業中に酒を飲むしロクデナシ教師が多いが、ノエルの場合生徒に優しい良い教師になるだろう。

 

「あ、ありがとうございます……ちなみに八幡さんは卒業後の予定は決まっているのですか?」

 

「ん?俺は決まってるぞ。レヴォルフ卒業後はW=Wに就職が決まってる」

 

「W=W……もしかしてシルヴィアさんと交際する為の条件ですか?」

 

「まあそんな所だ」

 

先の獅鷲星武祭でチーム・赫夜が準決勝でチーム・ランスロットを倒したおかげで交際に干渉はされなくなった。

 

そしてチーム・赫夜が優勝すれば特に条件無くシルヴィとの交際が認められて、準優勝の場合はレヴォルフ卒業後にW=Wに就職することでシルヴィとの交際を認める約束だった。

 

結果は惜しくも準優勝だったので俺とオーフェリアはシルヴィと一緒に過ごしたい故に、卒業後にW=Wに就職する契約を交わしたのだ。

 

「……本当にシルヴィアさんの事が好きなのですね」

 

「まあな。シルヴィにしろオーフェリアにしろ本当に愛して……どうした?」

 

見ればノエルは頬を膨らませて俺を見ていた。何だその仕草は?予想外過ぎて驚きなんだが。てか可愛過ぎる。

 

「……なんでもないですから気にしないでください」

 

俺が尋ねてもノエルは首を振って答える様子を見せない。マジでどうしたんだこの子?

 

「……なら、もう少しはや……と会って……ておけば……」

 

疑問符を浮かべているとノエルはボソボソと何かを呟く。余程小さい声だったのでゴニョゴニョ言っているようにしか聞こえず、何を言っているのかわからなかった。

 

どうやら理由は知らないが俺の所為で怒らせてしまったようだ。これは悪い事をしたな。

 

しかしノエルを見る限り、不貞腐れた時のオーフェリアに良く似ている。そんな時に機嫌をとる方法としては……

 

 

「わにゃっ?!は、八幡さん?!」

 

いきなりノエルの声が聞こえたので考え事を中断して顔を上げると……俺の右手がノエルの顎を撫でていた。

 

(ま、マズイ!オーフェリアとシルヴィにやる癖が出ちまった!)

 

「わ、悪い!」

 

「あっ……」

 

俺は慌ててノエルの顎から手を離す。俺の馬鹿野郎!完全に変態じゃねぇか!思わず周りを見渡すも誰にも見られていないようだ。良かった……前に似たような状況になった時にフェアクロフ先輩の顎を撫でていたら恋人2人に見られて、その夜手錠で両手足を拘束されながら搾り取られたし。

 

「わ、悪かったノエル。ついオーフェリアとシルヴィにやる癖で……本当に済まん。なんか詫びをする」

 

もしもノエルが本戦で俺と当たったら棄権しろと言われても従うことは吝かではない。

 

「い、いえ。別に怒って……ちょっと待ってください。癖でと言いましたが、オーフェリアさんとシルヴィアさんにはやっているんですか?」

 

「そうだが?」

 

それがどうかしたか?、と思いながらノエルを見ると、ノエルは何か考える素振りを見せる。もしかして相当恐ろしい罰を要求してくるのか?

 

「で、では八幡さん。お詫びをすると言うのでしたら、抽選会が始まるまでさっきのを続けてください」

 

するとノエルは再度頬を膨らませながらそんな要求をしてくる。さっきのをって……

 

「顎を撫でることか?」

 

俺が尋ねるとノエルは小さく頷く。え?マジで?まさか要求されるとは思わなかったわ。オーフェリアとシルヴィは俺が顎を撫でると絶対にもっとやれと要求するが、そんなに顎を撫でるのが人気なのか?

 

「いや、でもだな……」

 

さっきは無意識だから出来たのだが、改めてやるとなると……

 

俺が悩んでいると……

 

「八幡さん……ダメ、ですか……?」

 

ノエルが涙目+上目遣いで俺を見てくる。

 

気がつけば俺の右手はノエルの顎に伸びていた。


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