学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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こうして高等部最後の学園祭が始まる

学園祭初日……

 

「いや〜いい天気。今日は晴れて良かったよ」

 

我が家のリビングにて、俺の恋人の1人であるシルヴィが満足そうに朝食を食べながらそう呟く。

 

しかし言ってる事には同意する。俺は恋人2人とデートをする為に学園祭の初日だけ何とか暇を作ったのだ。雨でも降ったりしたら最悪の一言だ。

 

「そうだな。それよりも1日しか遊べないんだし早く出ようぜ」

 

「そうね……午前は星導館、午後は界龍って感じで良いかしら?」

 

「それでいいんじゃない?」

 

俺と俺のもう1人の恋人のオーフェリアが話しながら朝食を平らげるとシルヴィも賛成する。

 

オーフェリアの言う通り俺達がデートする場所は星導館と界龍だ。流石に1日で6学園を回るのは無理だからな。

 

「ああ。んじゃ行くぞ」

 

俺がそう口にすると2人は頷いて立ち上がり俺に抱きついてくる。2人の温もりを感じながらも俺は家を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーおー、去年も思ったが星導館の学園祭はシンプルだなぁ」

 

30分後、星導館の校門に着いた俺は思わずそう呟く。レヴォルフはカジノ一色、クインヴェールは全体的に華やかで、ガラードワースはヨーロッパ風、アルルカントは研究色が強く、界龍は中華風のオリエントな学園祭だが、星導館の学園祭はシンプル極まりなくアスタリスク外部の高校の学園祭に似ている。

 

「そうかもね。じゃあまずは何処に行こっか?もう正体はバレてるし多少はっちゃけても大丈夫でしょ?」

 

去年は変装がバレないようにスポーツ競技系の出し物には参加しなかったが、今は変装しないで堂々と歩いているので特に制限はない。まあ注目を浴びている事については今更だけど。

 

「だな。なんか遊びたいのがあったらやってみようぜ。まあその前にあのアイス屋に行きたい」

 

指差す先にあるのは去年、MAXコーヒー味のアイスを売っていたアイス屋だ。去年食った時に来年も行くと決めたあのアイス屋だ。

 

「あはは……じゃあ食べよっか」

 

シルヴィが苦笑しながら引っ張るので俺とオーフェリアもそれに続く。すると前にいる人々は割れるように道を作るが、俺達はモーセかよ?

 

呆れながらもアイス屋に着いたのでMAXコーヒー味のアイスを注文する。シルヴィはチョコミント、オーフェリアはオレンジ味を注目する。

 

そして各々が頼んだアイスを持って食べようとした時だった。オーフェリアとシルヴィが自身らのアイスを乗せたスプーンを突き出してきて……

 

「「はい、あーん」」

 

「んっ、あーん」

 

あーんをしてくるので口を開けてアイスを口にする。同時に口の中で甘味が広がる。

 

周囲からは騒めきが生じるが気にしない。少し前の俺なら緊張していたかもしれないが今は問題ない。寧ろオーフェリアとシルヴィを狙おうとする虫共に対する虫除けをしたいと思っているくらいだ。

 

俺達3人の関係が世間に公表されてからはいつもこんなやり取りをしているが、これをずっと続けたら2人に手を出す奴らは居なくなるだろう。つーか出した奴が居たら俺の持てる全ての力を駆使して滅ぼしてやる。

 

そう思いながらも俺はスプーンで自分のアイスをすくって2人に突きつける。

 

「ほらよ、あーん」

 

「「あーん♡」」

 

すると2人は同時に俺のスプーンに食いついてMAXコーヒー味のアイスを食べる。一つのスプーンに2人の唇が乗る……まるで2人がキスをしているようにも見えて嫌でもドキドキしてしまう。

 

(いや、まあ……2人がキスをするのはよく見てるけどな……)

 

しかしそれは夜、情事をする時だけであって、それ以外の時ではどうしてもドキドキしてしまう。見れば他の男子もガン見してるし、男の性ってヤツだろう。

 

そう思っていると2人は俺があげたアイスを食べ終えて……

 

「「あーん」」

 

再度あーんをしてくるので俺は遠慮なく食べた。結局、最初から最後まであーんして食べさせあった。

 

よってMAXコーヒー味のアイスは半分くらいしか食べれなかったが、2人のあーんは普通にMAXコーヒー味のアイスを食べた時よりも俺を満足させたのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

それから1時間後……

 

「はーい、三等の学園祭チケット10000円分ね」

 

「どうもっす」

 

遊戯部で行われているダーツで景品を当てた俺達は遊戯部を後にする。これまでに演劇や落星工学研究会の発表を見たりしたが、まあまあ楽しめている。

 

「んじゃ次は何処に行く?校内の有名どころは大分回ったし、次は屋外のイベントに参加するか?」

 

「うーん……あ!じゃあアレに行かない?」

 

シルヴィが窓から外を指差したので見ると……

 

「ウォーターサバイバル……?」

 

屋内プールで開催されている『ウォーターサバイバル』というイベントだ。パンフレットを見る限り水泳部と射撃部の合同企画のようだ。プールを見れば、スク水を着た男女がプールに浮かぶ浮島を飛び回り水鉄砲を打ち合っていた。

 

「……私は別に良いわよ。八幡は?」

 

「俺も構わないが……シルヴィは参加するのか?」

 

「うーん……面白そうだし出てみようかな」

 

「何っ?!」

 

つ、つまりシルヴィがスク水を着るという事だ。ビキニ姿のシルヴィは何度も見たことがあるが、スク水を着るシルヴィは見たことがない。どうしよう。ハッキリ言ってメチャクチャ見たい。

 

しかし……

 

(他の男子には見せたくねぇな……)

 

シルヴィの刺激的な姿を他の男に見せたくない。シルヴィは何度か雑誌の撮影で水着姿を披露しているが、ぶっちゃた話アレだって凄く嫌なのだから。

 

そんな事を考えていると……

 

「大丈夫だよ八幡君。私は八幡君以外の男子には興味ないから」

 

いつものように俺の心を読んだシルヴィは手を握りながらそんな事を言ってくる。すると周りの男子が膝をついて項垂れるが気にしない。

 

しかしシルヴィがそう言ってるなら俺がシルヴィを束縛するわけにはいかないな。

 

「……わかった。じゃあ好きにしろ」

 

「うん。ちなみに八幡君は出る?」

 

「出るわけないだろ。俺が水着に着替えてみろ。客の殆どは嫌な気分になるからな?」

 

俺は週に一度星露と戦っているので全身に生傷がついている。加えて左腕は義碗だし客からしたら気分が悪くなるだろう。(人工皮膚は星露と戦うと毎回剥がれて、付け直すのが面倒なので付けていない)

 

「あっ……ごめん」

 

「気にするな。俺はお前らに否定されなければ辛くない」

 

シュンとなって落ち込むシルヴィの頭を撫でながらそう返す。これは事実だ。毎日風呂に入る際は俺の裸を見ているが、2人は特に変な目で見ることなく俺と一緒に入ってるし。

 

「だから俺のことは気にせず楽しんでこい。俺はお前のスクみ……頑張ってる所を見たいんだから」

 

「今スク水を見たいって言おうとしたよね?」

 

「気の所為だ」

 

「本当、八幡君はエッチだなぁ……まあいっか。折角だし楽しんでくるよ」

 

シルヴィは俺にジト目を向けながらも参加することを表明する。するとオーフェリアも小さく手を挙げて……

 

「……なら私も参加するわ」

 

「お?マジで?」

 

「……ええ。折角自由に、そして平和になったのだから楽しみたいわ」

 

オーフェリアはそう言いながらプールを見る。出会った当初に比べて本当に変わったな……正直言って凄く嬉しい。

 

「わかった。なら俺はしっかり見ておくから思い切り楽しんでこい」

 

「……ええ。行きましょうシルヴィア」

 

「うん。じゃあ八幡君、私達受付に行ってくるね」

 

言いながら2人は受付に向かった。ここからは別行動だが、2人の実力ならトラブルに巻き込まれることはないだろう。

 

そんな風に信頼しながらも俺は学園祭に備えて作ったと思える特設観覧席に向かって歩き出した。

 

そして適当な席を探していると……

 

「あら、八幡じゃない」

 

いきなり声をかけられたので振り向くとそこにはチーム・赫夜のフロックハートと蓮城寺、アッヘンヴァルの3人がいた。

 

若宮とフェアクロフ先輩はいないが、ひょっとして……

 

「もしかして若宮とフェアクロフ先輩は参加するのか?」

 

「ええ。そして貴方が1人ということはシルヴィアとオーフェリアが参加するのね」

 

「まあな……っと、それよりも座ろうぜ」

 

今のステージを見る限りもうすぐ終わるが、次の試合ーーーシルヴィ達が出てくるであろう試合を立ち見で見るのは嫌だしな。

 

「そうね。じゃああそこに座りましょう」

 

フロックハートが指差した場所は最前列の席だった。

 

その意見に従った俺達が席に着く。同時にステージを見れば男女2人しか残っておらず、男子の方が女子の顔面に水鉄砲を放ち、女子をプールに落とすことで試合が終わった。

 

『ここで試合終了ー!激戦を制したのは界龍第七学院のーーー』

 

実況の声が流れると同時に歓声が上がる。学園祭はアスタリスクでは星武祭と並んで人気のイベントだ。盛り上がるのも必然と言える。

 

「しっかし、若宮とフェアクロフ先輩が参加するのかよ。多分2人は面白そうだから参加したんだろうが……」

 

「2人には致命的に向かない競技ですね」

 

蓮城寺の言う通りだ。若宮にしろフェアクロフ先輩にしろ近接戦に特化した戦闘スタイルで遠距離戦は大の苦手だ。言っちゃ悪いが真っ先に脱落するだろう。

 

「(まあ当人らが面白そうだから参加したんで、2人が楽しければ問題ないか。寧ろ……)フロックハートは出なかったのか?」

 

フロックハートの射撃能力は割と高い。先の獅鷲星武祭ではブランシャールの顔面を躊躇なく狙って動きを制限したくらいだし。

 

「一応美奈兎には誘われたけど余り気分じゃなかったのよ……水着は恥ずかしいし」

 

まあフロックハートがこう言ったイベントに進んで参加するとは思えない。アイドルとしては活躍しているが、元々積極的な性格じゃないし。

 

そんな事を考えていると……

 

 

『さあ続いて第四ゲームの開幕だぁっ!今回の参加選手は桁違いの大物だらけ!目ん玉見開いて見ておけよおっ!』

 

テンションの高い実況の声が響くと同時に次のゲームに参加するであろう選手がゲートからやってくるのが見えてくる。

 

『最初に現れたのは我が星導館が誇る冒頭の十二人の一角!今シーズンの鳳凰星武祭ベスト8にして先日の序列戦で4位の座を手に入れた『神速銃士』比企谷小町選手っー!』

 

実況の声に伴って俺の妹がステージに上がって歓声が起こる。まさか小町も参加しているとはな……

 

「そういえば八幡、貴方の妹の試合記録を見たけど、彼女も魎山泊のメンバーでしょ?」

 

フロックハートがそう言ってくる。流石に星露の教えを受けた人間なら簡単にわかるか。

 

「ビンゴ。多分シルヴィでもキツい相手だと思うぞ」

 

シルヴィの射撃技術も高いが、小町のそれはシルヴィよりワンランク上だ。ウォーターサバイバルでは能力の使用や相手に直接攻撃するのを禁止されているのでシルヴィが不利だろう。

 

そんな事を考えながらステージを見るとぞろぞろ人が入ってきて……

 

『おおっと!ここで現れたのは昨年の獅鷲星武祭でチーム・ランスロットを撃破して、我が星導館が誇るチーム・エンフィールドを後一歩まで追い詰めた2人!クインヴェール女学園の若宮美奈兎選手とソフィア・フェアクロフ選手の登場だー!』

 

実況の声に更に歓声が上がる。

 

「美奈兎、ソフィア先輩、頑張れー!」

 

気弱なアッヘンヴァルが珍しく大きな声を出して応援すると若宮とフェアクロフ先輩は笑顔で手を振ってくる。

 

しかし若宮にはスク水が凄く似合ってるが、フェアクロフ先輩がスク水を着てると凄くエロく見える。金髪のナイスバディの美人のスク水姿は観覧席にいる男を興奮させる。一部の男子なんてはぁはぁ言っていてキモいくらいだ。

 

『そしてそしてー!我が星導館が誇るチーム・エンフィールドのメンバーの1人!鳳凰星武祭ベスト4、獅鷲星武祭で優勝を果たした沙々宮紗夜選手だー!昨年の学園祭でもこのウォーターサバイバルで無双をした彼女の動きに注目しろよー!』

 

そんな声と共に沙々宮がいつものように眠そうにヨタヨタと歩く。しかしこいつの場合、試合が始まると別人のようにキビキビ動くからな。

 

「そういや蓮城寺よ。お前天霧の奴と昔馴染みだったよな?て事は沙々宮とも面識があるのか?」

 

「いえ。私が通っていた道場は天霧辰明流の分家筋にあたる道場です。綾斗さんが私の道場に来る事はあってもその逆は無いので沙々宮さんとは面識は無かったです」

 

「なるほどな……沙々宮っていつも巨大な煌式武装を使うイメージだから小型拳銃の腕前は知らないんだよなぁ」

 

だから天霧と昔馴染みの蓮城寺なら知っていると思ったが、沙々宮とは面識がなかったので得られた情報はない。

 

「まあ実況が昨年の学園祭で無双したとか言ったし相当の腕はあるでしょ」

 

だろうな。前の試合を見る限り序列入り出来る実力の者もいた。おそらく毎ゲームにそんな奴がいるだろう。そのゲームで無双出来るというなら沙々宮の腕前はフロックハートの言う通り相当高いと思える。

 

すると……

 

 

『そしてそしてー!トリを務めるのは……まさかのこの2人!現アスタリスク2トップの魔女にして、前シーズン王竜星武祭優勝準優勝ペア!』

 

実況の声に観覧席のボルテージが一段と上がる。当の2人はまだ出てきてないが凄い騒ぎだ。

 

『恋人であるレヴォルフ黒学院序列2位『影の魔術師』比企谷八幡に対して抱きつくのは当たり前!関係が公表されてからは人前でも平気でディープキスをぶちかます世界最強のバカップル!レヴォルフ黒学院序列1位『孤毒の魔女』オーフェリア・ランドルーフェンにクインヴェール女学院序列1位『戦律の魔女』シルヴィア・リューネハイムだぁぁぁぁぁぁっ!』

 

同時にスク水を着た俺の最愛の恋人2人がステージに現れて先程以上の大歓声が沸き起こる。まあ最強の魔女であるオーフェリアと世界の歌姫のシルヴィが出るなら当然だ。

 

しかし……

 

「あの実況、随分と言ってくれるじゃねぇか……!」

 

ぶっちゃけイラッときた。言っていることは間違っちゃいないが、ハッキリと実況されたら結構苛立つ。

 

「フロックハート、お前の伝達能力を使ってくれ。あの実況の頭の中に呪詛を唱えまくってやる」

 

「……嫌よ。貴方の場合、実況の精神を壊しそうだし」

 

フロックハートが俺の頼みを一蹴する。失礼な奴だな、壊れる一歩手前で止めるからな?

 

『さあ!いよいよ開始時間!長年ウォーターサバイバルの実況を務める身としてはこれほどのメンバーの参加は初めてなのでワクワクするなぁ!観客もめいいっぱい楽しめよぉっ!』

 

そこまで考えると観覧席は更に盛り上がっている。……とりあえず実況をしばき倒すのは後にして俺も楽しむか。

 

そう思いながら俺はカメラを取り出してオーフェリアとシルヴィのスク水姿を写真に収める。スタイル抜群の2人のスク水姿は俺の中の理性をゴリゴリと削り出す。

 

俺が2人の写真を20枚ほど取ると、ステージにあるランプが点灯して………

 

 

 

 

『Start of the Game!』

 

試合開始が告げられた。さてさて、誰が優勝するんだか……


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