学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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なんだかんだ比企谷八幡はチョコを貰う(前編)

「あ、八幡さん。バレンタインチョコをどうぞ」

 

「ほらよ」

 

「ど、どうぞ!」

 

2月14日、世間で言うところのバレンタイン当日。いつものように生徒会長の仕事をしようと生徒会室に入ると、プリシラとイレーネと樫丸の3人がチョコを渡してくる。

 

「サンキュー……にしてもイレーネから貰えるとは思わなかったわ」

 

プリシラからは毎年貰っているが、イレーネから貰ったのは初めてだ。

 

「あー……まあアレだ。ディルクの奴から解放してくれたからな、その礼だ」

 

「解放っても俺に借金はしてるだろ?」

 

俺はディルクから権力だけでなく手駒を奪うべく、イレーネとプリシラの借金を立て替えた。しかしイレーネ達からしたら返済先が変わっただけで礼を言われる筋合いはない。

 

「アンタの場合、ディルクの時と違って星武祭の賞金や序列入りの特権の報奨金も返済に当てて良いと待遇がいいからな」

 

当たり前だ。俺はあのカスと違ってこいつらをどうこうしようとは考えてないからな。

 

「そうかい。とりあえずありがたく貰っておく」

 

「おう。ところでオーフェリアはいねぇのか?お前らいつも仲良く2人で来てるけどよ、風邪で休みか?」

 

「いや、バレンタインチョコの準備がどうとか言って先に帰った」

 

俺としてはオーフェリアとシルヴィのチョコを早く食べたいのだが、今回は連絡をするまで帰ってこないで欲しいとか言ってきたし。何を企んでいるんだ?

 

そこまで考えていると……

 

pipipi……

 

ポケットにある端末が鳴り出すので、取り出すと若宮から電話が来ていた。

 

何事かと思いながら空間ウィンドウを開いて通話ボタンを押す。

 

「もしもし、どうかしたか?」

 

『あ、八幡君?今日バレンタインだから八幡君にチョコをあげたいんだけど、時間はあるかな?』

 

そういや去年も若宮達チーム・赫夜の5人からチョコを貰ったな。会いに行きたいのは山々だが、今年は去年と違って生徒会の仕事があるからなぁ……

 

「別に行ってきても良いですよ」

 

返答に悩んでいるとプリシラがそう言ってくる。

 

「良いのか?」

 

「はい。今日は特に急ぎの仕事がないですから。ね、お姉ちゃん、ころなちゃん?」

 

「ああ。つーかお前はいつも真面目に働いてんだし、偶には羽目を外せよ」

 

「か、会長が居なくても頑張ります!」

 

どうやら3人は俺が休んでも良いと考えているようだ。それなら好意に甘えさせて貰うとしよう。

 

「わかった……んじゃ若宮。今時間も作れたから会えるわ」

 

『そう?じゃあ……クリスマスパーティーをした場所に来てくれない?』

 

クリスマスパーティーをした場所……つまりクインヴェールの女子寮の若宮の部屋か。女子寮とハッキリ言ったらイレーネ達にバレて面倒な事になると判断したからだろう。

 

それはそれでありがたいが何故女子寮?渡すなら適当に学校前とかでも良い気かする。

 

ともあれ若宮がそう言っているなら行くか。影に潜って行けば誰にも見つからずに若宮の部屋に行けるし。

 

「わかった。じゃあ今から行くわ」

 

『うん。それと来る時にもう一度連絡をお願い、またね!』

 

若宮はそう言うと通話が切れたので空間ウィンドウを閉じて端末をポケットにしまう。

 

「んじゃ今日は任せたわ。今度なんか奢るわ」

 

俺は3人に軽く一礼をしてから生徒会室を後にした。去り際にイレーネが「じゃあA5の肉で!」とか言ったが少しは遠慮しろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから30分後……

 

「うおっと、ルサールカが来たか……」

 

クインヴェールの女子寮にて、俺が影に潜り若宮の部屋に進んでいると前方からルサールカの5人がやって来たので動くのをやめて、その場に留まる。影が動いているのがバレたらまず俺だと疑われるだろうし。

 

そう思いながらジッとしていると頭上から声が聞こえる。

 

「それにしてもシルヴィアさん気合い入ってたよねー」

 

「だなー。あれなら比企谷の奴も喜ぶんじゃね?」

 

「本当、あの3人はバカップルだよねー」

 

「毎日惚気話を聞かされるこっちは溜まったものじゃないわ」

 

「まあまあ、ですがシルヴィアさんのチョコは食べたいですよね」

 

5人の会話を聞くと嬉しい気持ちが湧き上がる。どうやらシルヴィは相当気合いを入れて美味いチョコを用意しているようだ。これは期待が出来そうだ。

 

そう思いながら再度影を動かしていると、若宮の部屋に到着したので到着したとメールを送る。すると1分もしないで若宮から入って良いよ、とメールが来たので、ドアの隙間を縫って部屋の中に入る。

 

そして玄関で影から上がって靴を脱ぎ、リビングに向かう。にしてもわざわざ女子寮に呼んでまでチョコを渡すとはな……

 

そんな事を考えながらリビングに繋がるドアを開けると……

 

 

 

 

 

『プリキュア、スマイルチャージ!八幡(さん)(君)、ハッピーバレンタイン!』

 

チーム・赫夜の5人がクリスマスパーティーの時と同様にプリキュア の格好をしてバレンタインチョコを俺に突き出してくる。

 

そんな風にチョコを突きつけられた俺はというと……

 

 

(ここはまさに地上の楽園だ……!)

 

ただそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3分後……

 

「では次は……私の番ですね」

 

オレンジ色の派手な衣装を着た蓮城寺がほんの少しだけ恥ずかしそうにしながら俺の手を握って横に並ぶ。柔らけぇな……

 

そんな事を考えていると正面にいる若宮がカメラをかざして……

 

「じゃあ行くよー……はいチーズ!」

 

カシャ……

 

カメラ音が鳴り響く。そして蓮城寺が手を離すと……

 

「はい八幡さん、ハッピーバレンタイン、です」

 

柔らかい笑みを浮かべてバレンタインチョコを渡すので俺が受け取ると、再度カメラ音が鳴る。

 

「ありがとな」

 

俺は礼を言って鞄にチョコをしまう。

 

今回はバレンタインという事で俺は、クリスマスパーティーの日に集合写真を撮るよう頼んだ時みたいに、ツーショット写真を撮るように頼んだ。

 

その結果5人は承諾してくれて、俺と一緒に2人で並んだ写真とチョコを渡す写真を撮らせてくれている。

 

初めに若宮と写真を撮り、フロックハート、アッヘンヴァル、蓮城寺の順に撮り……

 

「で、では最後に私が……!」

 

最後のフェアクロフ先輩が恥ずかしそうにしながらも俺の横に立って腕に抱きついてくる。

 

それによって俺の胸中には少なからず驚きの感情が生まれる。腕に抱きつかれた事を驚いているのではない。若宮にも腕に抱きつかれたし、蓮城寺やアッヘンヴァル、フロックハートとは手を繋いで撮影をしたし。

 

しかしフェアクロフ先輩は誰よりも緊張しているのか物凄く強く抱きついてくる。よってフェアクロフ先輩の持つチーム・赫夜一のバストが俺の腕に押し付けられて、腕にはこの世のものとは思えない至高な感触が伝わってくる。

 

「あ、あのフェアクロフせんぱ「では美奈兎さん!お願いしますわ!」……」

 

ダメだ。既に俺の花笹を最後まで聞かずに若宮を促してるし、間違いなくポンコツが発揮したな。こうなったフェアクロフ先輩を止めるのは至難の技だ。

 

 

「じゃ、じゃあ行くよ…はいチーズ!」

 

カシャ……

 

カメラ音が鳴り響く。1枚目の写真は終わったので……

 

「で、では次にチョコを……」

 

フェアクロフ先輩は焦りながらも俺から離れ……

 

「八幡さん!ハッピーバレンタッ………インッ?!」

 

俺と向き合ってバレンタインチョコを渡そうとする直前、右足で左足を踏んで俺の方に倒れてくる。

 

予想以上のポンコツの発揮ぶりに思わず呆けてしまうと……

 

「うおぃっ!」

 

「きゃあっ!」

 

カシャ……

 

「あっ、撮れちゃった」

 

カメラ音と若宮の声をBGMにフェアクロフ先輩が俺ごと地面に倒れる。背中に痛みが走ると同時に……

 

ちゅっ……

 

頬から小さいリップ音が耳に入る。背中に感じる痛みに顔を顰めながらも、上を見るとフェアクロフ先輩が俺に覆い被さって頬にキスをしていた。

 

なんなんだこれは?今回ばかりは俺に過失はないよな?だって今回は俺ではなくフェアクロフ先輩が転んだし、転んだ理由も自分で自分の足を踏んだからで俺は関係ないし。

 

てか若宮達よ、そんな風に『またか……』って苦笑しながら見ないでくれ。今回は俺は悪くないからな?

 

「あっ……!こ、これは違いますの!」

 

事態に気付いたフェアクロフ先輩は真っ赤になりながら俺の顔から離れる。同時に俺の頬にあった柔らかい感触が消える。何度か事故でフェアクロフ先輩に頬にキスをされた事はあるが、オーフェリアやシルヴィとは違った柔らかさで気持ちが良い『pipipi……』メールだ。この流れで来るメールなんて誰から来たのか容易に想像出来る。

 

 

内心ため息を吐きながらメールを開くと……

 

 

 

 

『fromオーフェリア 八幡、今ソフィアにキスをされたでしょ?今夜搾り取るから』

 

『fromシルヴィ 八幡君さ、今ソフィア先輩にキスをされたよね?今夜搾り取るから』

 

予想通り2人からメールが来た。というかマジで何で俺の行動が読めてるんだよ?

 

既に何十回も思った事を改めて考えてしまった俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから20分後……

 

「じゃあ俺はもう行く。チョコ、ありがとな」

 

チーム・赫夜の協力も加えて恋人2人に何とか弁明した後に、他愛のない雑談をした俺は帰るべく別れの挨拶をする。まだオーフェリア達から帰って来いとメールが来てないが、先程小町からチョコを渡したいとメールが来たので今から星導館に行かないといけない。

 

「どういたしまして!次に会うときに感想を聞かせてよ!」

 

若宮が笑顔で手を振りながら言ってくる。5人からのチョコは本当に嬉しいが、一番初めに食べるのはオーフェリアとシルヴィのチョコと決めている。

 

「わかってる。じゃあまたな。オーフェリア達に弁護してくれたのはマジで助かった」

 

最後に礼を言ってから俺は影に入る。とりあえず搾り取られる事は免除して貰ったからな。嫌という訳ではないが、翌日は寝不足で辛い。

 

内心安堵しながらも寮を出てクインヴェールの校門に向かおうとした時だった。

 

 

pipipi……

 

いきなり端末が鳴り出した。誰だ?まさかとは思うが、オーフェリア達が前言を撤回して搾り取るって話か?

 

ポケットから端末を取り出して確認するも、そこに表示された名前はオーフェリア・ランドルーフェンでもシルヴィア・リューネハイムでもなく、ヴァイオレット・ワインバーグだった。

 

「(何故にワインバーグ?今日は魎山泊は無いし……次の魎山泊に備えて話し合いか?)……もしもし」

 

『もしもし比企谷さんですの?今時間はありますの?』

 

「あるにはあるがそこまで余裕がある訳では無い。何か用か?」

 

『バレンタインチョコを作ったのであげようと考えていますの。時間があるのでしたらクインヴェールの校門近くにあるカフェに来てくださいの、待ってますので。そ・れ・と!あくまで義理ですので!ぎ・り!』

 

その言葉を最後に通話が切れるのて端末をしまう。別に何度も言わなくても勘違いはしないんだがな……

 

そんな事を考えながら再度影を動かして女子寮を出て、クインヴェールの校門を出る。クインヴェールの近くにあるカフェは何度か言ったことがあるから場所については問題ない。

 

 

暫く進むと集合場所に着いたので俺はカフェの裏に回ってから影から出る。目の前でいきなり現れたら通行人の心臓に悪いと考慮したからだ。

 

そして俺は入り口に回ってカフェに入ると、呼び出したワインバーグが椅子に座って紅茶を飲んでいた。普段喧しいワインバーグが紅茶を飲んでいるのは凄く違和感を感じるな……

 

「ようワインバーグ。待たせて悪かったな」

 

そんな事を考えながらワインバーグの対面に座る。

 

「別に構いませんわ!そ・れ・よ・り!レディの許しを得る前に座るのは紳士としてどうかと思いますわよ!」

 

「レヴォルフの男にそんなもんを求めるな。つーかお前がレディ……はっ」

 

「きぃぃぃぃぃぃっ!何ですの馬鹿にしたしたような笑い方は!」

 

いやだって負けたら地団駄を踏みまくって喚きまくる人間をレディ扱いするのは俺には無理だ。

 

「悪かったよレディ(笑)」

 

「最後に余計な一言を付けるなですの!」

 

いや、お前も付けるなですのと、明らかに間違った言葉遣いを直せよ。俺は気にしないが側からしたら割と変だぞ?

 

「悪かったよ、紅茶をやるから落ち着けよ」

 

言いながらテーブルに置かれた紅茶を渡す。ワインバーグの紅茶を。

 

「あ、わざわざありが……って!これは私が頼んだ紅茶じゃないですの!貴方があげる以前の話で元々私のですわよ!」

 

やはりこいつもからかい甲斐があって良いな。怒り方はブランシャールに似ているが、雰囲気が違うのでブランシャールとはまた別の面白さがある。

 

「わかったわかった。クッキー奢るから許せ」

 

「そこはパフェにしてくださいですの!あ、店員さん、スペシャルジャンボパフェ一つお願いしますの!」

 

「……おい。じゃあ俺は牛乳で」

 

まだ小町と会う時間まで少しあるし一杯やる位は大丈夫だろう。

 

「はーい。少々お待ちください」

 

この野郎、俺が了承する前に頼みやがったよ。これのどこがレディなんだよ。まあ良いけどさ……

 

「ふふん!ではご馳走になりますの!」

 

ドヤ顔するな。次の魎山泊の鍛錬で影神の終焉神装を使いたくなってしまうからな?

 

「へいへい。なんでチョコを貰うはずがパフェを奢ってんだよ?」

 

「あ、貴方が私を辱めたからではないですの!」

 

言い方に注意しろ。からかったのは否定しないが辱めたのは否定させて貰うぞ。

 

「まあ良いですの……それよりも!」

 

ワインバーグは顔を赤くしながらもカバンから綺麗にラッピングされた箱を取り出してくる。

 

「一応魎山泊で鍛えて貰っていますのでそのお礼ですの!言っておきますけど、義理ですので!そこんところを勘違いするなですの!」

 

真っ赤になりながらそう言ってくるが……

 

 

「安心しろ。そんな事は百も承知だし、仮に本命だとしても俺はオーフェリアとシルヴィだけを愛すると誓ってるいるからな」

 

「そこで惚気るのは止めてくださいですの!」

 

いや、事実を言っただけで惚気てるつもりはないんだがな……

 

そう思うも口にしない。ワインバーグの性格上、口にするとより面倒な事になるのが目に見えるし。

 

ともあれ……

 

「悪かったよ。ともあれチョコはありがたく貰う。サンキューな」

 

貰ったのだから礼を言うのは筋だろう。その位は常識的なつもりだ。

 

 

 

「なっ……!ど、どういたしましてですの!自信を持って作ったのでしっかり味わって食べるのですの!」

 

対するワインバーグはしどろもどろになりながらもそう言ってくる。口調は変だがそのつもりだ。

 

 

そう思っていると、店員さんが俺達のテーブルにやってきたのて牛乳を受け取って飲み始める。

 

その際にワインバーグからお袋にボコボコにされた愚痴を聞かされまくった。その際は騒がしいと思いながらもそこまで嫌な気分にならなかったのは不思議だと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オーフェリア、こっちの下ごしらえは終わったよ」

 

「……こっちはもう少しで終わるわ。シルヴィアはアレの準備をしておいてくれるかしら?」

 

「わかったよ。今年は去年以上に八幡君を喜ばせるように頑張ろうね」

 

「……ええ。それと寝る前に使うアレも準備万端よ。一緒に八幡をメロメロにしてあげないと」


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