学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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こうしてクリスマスパーティーが始まる

「良し、そんじゃそろそろ行くぞ。準備は大丈夫か?」

 

12月24日、世間で言うところクリスマスイブ。俺は自宅の玄関にて恋人2人に話しかける。

 

「大丈夫だよ。プレゼントも確認したよ」

 

「……料理も衣装も持ったわ」

 

恋人2人ーーーオーフェリアとシルヴィがそう言ったので俺も改めて持ち物を確認する……良し、大丈夫だな。

 

「んじゃ行くか」

 

そう言いながら俺は2人の両手を掴み、影に星辰力を込める。同時に影が俺達を捕まえてゆっくりと地面に入れ始めた。

 

俺達が影に入ったのを確認するとゆっくり動き始めた。

 

 

目指す場所はクインヴェール女学園女子寮、若宮美奈兎の部屋兼クリスマスパーティーの会場だ。

 

 

 

 

 

それから30分後……

 

「今更だが、女子寮に入るのは余りないから緊張するな……」

 

影に入ってクインヴェールに入ったことは何度もあるが、殆どがトレーニングステージで女子寮(シルヴィの部屋)には数えるくらいしか入ってない。

 

「……入らないのが普通よ」

 

「だよな。俺もシルヴィに誘われた時しか入ってないよ……って、危ねぇ」

 

廊下を進んでいると前から人が確認されたので動きを止める。影の中にいれば誰からも干渉されないが、影を動かしている時に見られたら不気味な光景と思われてしまうし、俺が怪しまれる可能性もあるので注意が必要だ。

 

そんな事を考えていると頭上から声が聞こえて、そのまま徐々に小さくなっていった。人が来る度に一々止まるのは面倒だな……

 

(まあ影が動いているのを見られるよりはずっとマシだが……)

 

そんな事を考えながらも更に進むとシルヴィが肩を叩いてくる。

 

「ここが美奈兎ちゃんの部屋だよ」

 

「了解……」

 

言いながら端末を取り出して若宮に電話をする。

 

『もしもし八幡君?』

 

「俺だ若宮。今お前の部屋の前にいるんだが、入って良いか?」

 

万が一着替えでもしていたらオーフェリアとシルヴィにしばき倒されるし確認は大事だ。

 

すると……

 

『ごめん。後5分くらい待ってくれない?』

 

どうやら着替え中なのかもしれない。若宮がそんな事を言ってくる。電話していと良かった。

 

「わかった。じゃあ準備が終わったらメールを送信してくれ」

 

そう言って空間ウィンドウを閉じる。とりあえずラッキースケベを起こすことはないと思うが、何故に待つんだ?服を汚したりしたのか?

 

疑問に思いながらも待つこと3分、若宮から『入って大丈夫』とメールが来た。それを確認した俺は小さく頷いてから影を移動して若宮の部屋の中に入る。

 

そして玄関に着くと……

 

「ふぅ……」

 

影から出て玄関で靴を脱ぐ。オーフェリアとシルヴィも同じように靴を脱いだので廊下を歩く。

 

「おっ、良い匂いがするね」

 

シルヴィが満足そうに言う。今回のクリスマスパーティーの料理は各自で持ってくる予定なので向こうもちゃんと用意したようだ。

 

安心しながらもリビングに繋がるドアに到着する。匂いはドアの向こうからするので、この先が今回のパーティー会場だろう。

 

そして扉を開けると……

 

 

 

 

 

 

 

『プリキュア、スマイルチャージ!』

 

5人のプリキュアの格好をしてポーズを取っていた。

 

「「「…………」」」

 

予想外の光景に俺とシルヴィとオーフェリアは思わず無言で目を擦る。そして改めて前を見ると……

 

(やっぱりプリキュアがいるな……)

 

若宮が楽しそうに、蓮城寺が苦笑をしながら、フェアクロフ先輩とアッヘンヴァルがメチャクチャ恥ずかしそうに、フロックハートが憮然とした表情でポーズを取っていた。

 

若宮は持ち前の天真爛漫な雰囲気を醸し出していて見ていて元気が出る。

 

蓮城寺はいつもの優しくおしとやかな雰囲気を出していて、普段絶対に着ない服と合わさって妙に興奮してしまう。

 

フェアクロフ先輩は抜群のスタイルを持っていながら子供っぽい衣装を着ていて目のやり場に困る。

 

アッヘンヴァルは小動物のような雰囲気を出しなから恥じらって、保護欲を駆り立ててくる。

 

フロックハートはプリキュアとしてはあるまじき表情だが、普段のフロックハートの性格とのギャップを感じて嗜虐心が生まれてくる。

 

それを認識した俺は端末を取り出して……

 

パシャ

 

写真を撮っていた。見ればシルヴィとオーフェリアも端末を構えていた。

 

すると……

 

「ちょっと待ってくださいの!写真を撮るのはやめて欲しいですの!」

 

フェアクロフ先輩が真っ赤になりながら詰め寄ってくる。どうしよう、メチャクチャ可愛い。

 

「あ、すみません。ところで何故全員着てるんですか?元々はフェアクロフ先輩とシルヴィとオーフェリアの3人の予定だった筈ですが……」

 

今はシルヴィとオーフェリアは私服だが、後で着替える予定だ。しかしフェアクロフ先輩以外のチーム・赫夜のメンバー4人もプリキュアの格好をするとは予想外だ。

 

「ええ!私達を獅鷲星武祭準優勝まで導いてくれた八幡さんに御礼をしようと、八幡さんの好みの格好をしたのですわ!」

 

フェアクロフ先輩が自身の大きな胸を張ってそう答えるが、俺にはそれが嘘だとわかった。

 

何故ならアッヘンヴァルとフロックハートがジト目で、若宮と蓮城寺が苦笑をしながらフェアクロフ先輩を見ているから。

 

「で?蓮城寺よ。本当は?」

 

「ソフィア先輩が『恥ずかしいので皆も着てください』と言ったので着ました」

 

うん、大体予想通りだな。やっぱりフェアクロフ先輩ってポンコツな気がする。

 

「じゃあ私達もプリキュアになろっか、オーフェリア?」

 

「そうね……美奈兎、洗面所を借りて良いかしら?」

 

「良いよー」

 

若宮が許可を出すと2人は持ってきた料理をキッチンに置いて、そのまま洗面所に向かった。プリキュアが7人……うん、ここはまさに天国だな。

 

「それにしてもフロックハートが参加するとは思わなかったぞ」

 

これはマジで予想外だった。見るからに不機嫌だけど僅かに見える恥じらいが凄く可愛い。

 

「私も最初はする気はなかったわよ。だけど他の3人が着たし……それに一応貴方には感謝してるから」

 

フロックハートはプイッとそっぽを向く。少し前までは殆ど無表情だったのに随分と変わったな。

 

「そりゃどうも。でも似合ってるぞ」

 

「殴るわよ?」

 

「馬鹿野郎。プリキュアが殴るなんて言葉を使うな……ってマジで殴ってきたぞ」

 

フロックハートが拳を突き出してきたので俺を左手の義手で受け止める。昔に比べてフロックハートの体術は大幅に向上しているが、マナダイトを大量に仕込んだ俺の義手を突破するのは厳しいようだ。

 

「まあまあクロエ落ち着きなよ。私も凄く似合ってると思うよ?」

 

「……それは褒めてるの?」

 

「もちろん!ねぇ皆?」

 

「はい。可愛いと思います」

 

「ポーズの練習をしている時は凄く良かったですわよ」

 

「わ、私も良いと思う……」

 

「そう……」

 

フロックハートは僅かに頬を染めてそっぽを向く。こういった仕草の破壊力が凄いな。

 

そこまで考えていると洗面所の方から足音が聞こえてきたのでそちらの方向を見ると……

 

 

 

 

 

 

 

「「ハートキャッチ、プリキュア!」」

 

恋人2人が、俺だけのプリキュアとなって決めポーズを見せてくる。最高だ。プリキュア7人に囲まれてのクリスマスパーティー。マジで天国かもしれない。

 

(しかしこの光景を誰かに見られたらガチで俺は社会的に死ぬな……)

 

側から見たら女子7人を侍らせて、プリキュアのコスプレをさせているように見えるだろう。これはガチで他人に知られる訳にはいかないな。

 

そんな事を考えていると……

 

「じゃあ全員揃ったし始めよっか。先ずは写真でも取らない?」

 

若宮がそんな提案をしてくる。まあ妥当な選択だな。アスタリスクに来る前の俺に集合写真なんて縁がなかったけど。何せとにかく目立たないようにと心掛けていたくらいだ。

 

しかし今回は……

 

「そうだね。じゃあ八幡君は中心ね?」

 

違うようだ。オーフェリアとシルヴィはいち早く俺の両隣に動いて、腕に抱きついてくる。

 

そして比較的小柄な若宮とアッヘンヴァルが俺の前に立って若干身を屈め、身長の高いフェアクロフ先輩と蓮城寺が俺の後ろに立って肩に触れてくる。

 

そしてフロックハートが一度俺達の前に立って空間ウィンドウを開き、カメラモードにしてからタイマーをセットし、すぐに若宮の隣な配置して……

 

 

パシャ

 

フラッシュが焚かれた。眩しさに目を細めるも無事に撮れたようだ。

 

同時にフロックハートが空間ウィンドウの元に歩き、なにかを操作するとフロックハート以外の7人の端末から音が鳴る。どうやらメールで写真を送ったようだ。

 

俺達は同時に端末を取り出して空間ウィンドウを開くと……

 

 

「おぉ……」

 

予想外に良い写真だった。俺と中列の中心にいて、恋人2人は俺の両隣にいて腕に抱きついて、若宮とアッヘンヴァルとフロックハートは俺の前にいて俺が覆いかぶさっているように、それでありながらすっぽりと収まっているように見える。

 

そして後列のフェアクロフ先輩と蓮城寺は若干身を屈めている俺の両肩に触れて俺に覆いかぶさっているようにも見える。

 

特に激しいボディタッチをしているわけではないが、写真では凄く密着しているように撮れている。俺的には最高の写真だ。今の待ち受けはオーフェリアとシルヴィのプリキュア姿だが、暫くはこれにしておくか。

 

しかし……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「改めて写真を見ると俺の趣味ってヤバくない?」

 

『それは今更』

 

プリキュア姿の7人から総ツッコミが入ったが、今回については否定出来ないので総ツッコミを受け入れるつもりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

10分後……

 

「じゃあ飲み物も行き渡った所で……乾杯!」

 

『乾杯!』

 

シルヴィがカップを持ち上げて乾杯の音頭をとるので俺達もそれに合わせてカップを持ち上げてぶつけ合う。

 

そして料理を食べ始めるか……どれも美味い。加えて周囲の7人は未だにプリキュアの姿だしマジで最高だ。ここは天国か?

 

「美味し〜い!何かこうしてパーティをしていると1年間を思い出すな〜」

 

「そうね……と、言っても大半が修行だったけど」

 

若宮の呟きにフロックハートが同意する。まあ今年の初めから10月末までは獅鷲星武祭及びそれに備えての訓練だったからな。

 

「ですわよね。何度も何度も八幡さんや比企谷先生、星露さんにボコボコにされて……よく無事でしたわね」

 

「いやいや、ちゃんと加減はしましたからね?」

 

影狼修羅鎧は使ったが、夜叉衣は殆ど使ってないし、影狼神槍と終焉神装は一度も使ってないし、本気は出していない。それはお袋や星露もだろう。ぶっちゃけ全力を出したら修行どころじゃない。

 

「でも結局一対一じゃ手も足も出なかったからなぁ……だから王竜星武祭までに強くなって八幡君に勝ちたいな」

 

若宮は手に握り拳を作りそんな事を言ってくる。葉山と言っている事は同じなのに、若宮の言葉は葉山のそれより重みを感じる。

 

(ま、当然か。チーム・赫夜のメンバーの中で若宮は俺に挑んだ回数が多いからな)

 

「そうか……ならその時を楽しみにしている。だから本番までに魎山泊で強くなっとけ」

 

「勿論……そういえば八幡君は星露ちゃんのアシスタントをしてるんだよね?」

 

「まあな。と仕事は能力者に実戦経験を積ませる事と星露と戦う事だな……っと、済まんが若宮よ、飲み物のお代わりを頼む」

 

「はーい」

 

言いながら若宮は冷蔵庫に行き、新しいボトルを持ってくる。なんかお袋がクリスマスパーティの為に大量のお菓子と飲み物を差し入れてくれたらしい。お袋にしちゃ気が利いている。

 

まあ当の本人は舎弟を連れて歓楽街で暴れているようだが

 

「前者はともかく、後者はアシスタントの仕事とは思えないですけど、星露さんならあり得ますわね」

 

蓮城寺の言う通り、能力者に実戦経験を積ませるのはともかく、星露と戦うのは絶対にアシスタントの仕事じゃないが気にしたら負けだ。だって星露だし言っても聞かないだろう。

 

「だろ……おかげで俺は毎週満身創痍さ……」

 

何であいつの拳は痛いんだろうか?身体は純星煌式武装で出来ていてもおかしくないだろう。

 

「ま、まあ!今日は楽しんで疲れを取りなよ。はい八幡君、あーん」

 

シルヴィ2人が食べ物を突き出してくるので有り難く頂く。やっぱり恋人によって食べさせられると美味いな……

 

そんな事を考えていると……

 

「おかわりをお願いしますわ!」

 

「……私も貰うわ」

 

「私も……!」

 

「……私も」

 

フェアクロフ先輩とフロックハートとアッヘンヴァルとオーフェリアがコップを片手にジュースをドバドバと注ぐ。そして一気に飲んだかと思えば、再度ジュースを注ぐ。

 

(あれだけ飲むなら相当上手いんだろうな……)

 

そう思いながら俺も3人がボトルから手を離したのを確認してコップに注ぐ。

 

そして口につけようとした瞬間違和感を感じた。

 

(ん?この匂い……)

 

嫌な予感がしたので一口飲むと……

 

「酒じゃねぇか!」

 

思わず叫んでしまう。これは絶対にただのジュースじゃない。アルコールの混じったジュースだ。

 

「え?!これお酒?!私のは問題ないよ」

 

シルヴィがそう言ってくる。どうやら普通のジュースもあるようだ。お袋の奴……差し入れに酒を混ぜてんじゃねぇよ!

 

わざとでは無いだろう。多分酒に酔った状態で差し入れを用意して、その時に酒も入れたのだろう。

 

「と、とりあえずあのジュースは回収しよう!」

 

状況を知った若宮が酒の入ったボトルを回収しようとしたが……

 

「ちょっと美奈兎さん!おかわりを飲むので取らないでくださいまし!」

 

「は、はい!」

 

フェアクロフ先輩の剣幕に若宮は思わず下がってしまう。その隙を突いてフェアクロフ先輩はボトルを奪い、酔っているであろうオーフェリア、フロックハート、アッヘンヴァルのコップにボトルを向ける。

 

(これ以上は不味そうだな……)

 

そう判断した俺はコップに注がれる直前にボトルを引ったくる。

 

「八幡さん!返してくださいまし!」

 

「そうよ。私達が喉が渇いているのよ……」

 

「身体も熱いし……!」

 

「八幡、返して……」

 

4人はそう言って俺にボトルを返すように言ってくる。4人の顔は真っ赤になって鼻息も荒い。完全に酔ってるな……

 

オーフェリアのおねだりに一瞬返してやろうかと思ったが、直前に踏み留まる。

 

「いやいや、これ以上は飲むのは良くないこと「ラッキースケベを起こす八幡さんにお説教を受けたくありませんわ!」……ぐっ」

 

フェアクロフ先輩の言葉に思わず黙ってしまう。確かに俺から説教を受けたくないだろう。

 

「そうね……寧ろ私達が八幡に説教をしないとね……!」

 

「ラッキースケベは良くないし……」

 

「私も八幡が他の女にデレデレする事を言いたいわ……」

 

フェアクロフ先輩に続いて酔っている3人も俺に詰め寄ってくる。余りの剣幕に俺は思わず気圧されてしまう。

 

(お袋ーーー!パーティが終わったら絶対にぶっ殺してやるからなぁ……)

 

そんな中、俺はお袋に呪詛の言葉を内心で呟く事しか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、歓楽街にて……

 

 

「くしゅん……!あー、誰かが私に殺意を向けてるなー?」

 

「大丈夫ですか姐さん、風邪なら無理しないで帰った方が「バカヤロウ匡子、夜はここからじゃん。運動もひと段落ついて資金も手に入ったし次の店行くぞー」は、はい!」

 

『了解!』

 

「次はウォッカ飲みてーな、日本酒はさっき飲み過ぎたし」

 

元レヴォルフ黒学院序列一位『狼王』比企谷涼子はそう言ってから、元レヴォルフ黒学院序列二位『釘絶の魔女』谷津崎匡子を始めとした舎弟を数十人を連れて次の酒場に向かった。

 

彼女らの通った道には彼女らを倒して名を上げようと闇討ちをしてきたマフィア100人が地に伏していた。そして彼らの懐から財布が消えていた。


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