学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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比企谷八幡は恋人2人と共に歩む為に死力を尽くす

「やれやれ……ここまで吹き飛ばされたのは初めてだよ」

 

アスタリスク中央区、治療院のすぐ近くにある自然公園にて処刑刀は首をコキコキと鳴らしながらそう呟く。しかしそれでありながら『赤霞の魔剣』を持った手は油断なく構えている。

 

「安心しな。直ぐにまた吹き飛ばしてやるよ」

 

薄い鎧を纏った俺はそう言いながら構えを見せる。俺と処刑刀はつい先程まで天霧とヴァルダの4人で治療院の中庭に居たが、俺が自身の中切り札たる影神の終焉神装を展開して処刑刀を治療院の外部まで吹き飛ばしたのだ。

 

ヴァルダの人払いが発動しているか夜遅くだからか知らないが、幸いにも自然公園には俺と処刑刀以外の人間はいない。これなら多少暴れても大丈夫だろう。

 

「それは勘弁して欲しいな。それにしても……あの鎧を極限まで凝縮するなんて無茶をするね」

 

処刑刀からは若干の呆れの色を感じるが言っている事は間違っていない。

 

影神の終焉神装は影狼修羅鎧の分厚い鎧を極限まで凝縮して、その後に高速機動戦を可能にする翼を生やす技である。

 

影狼修羅鎧の厚さは30センチ位だが、影神の終焉神装の厚さは僅か2センチ。しかしその2センチの鎧は影狼修羅鎧の力を圧縮して生み出された鎧である。

 

当然の事ながら攻撃力と防御力は桁違いである。攻撃に使用すれば星露を吹き飛ばせるし、防御に転じれば星露の攻撃でも破壊された事はない。(ただし衝撃を完全に相殺するのは無理で何度か衝撃によってゲロの経験がある)

 

加えて機動戦の為に生み出した翼を使用すればアスタリスク最速で俺に追いつける人間はいないだろう。

 

しかし処刑刀の言うようにこの技はかなり無茶をする。何せ影狼修羅鎧を凝縮した鎧を纏って高速機動戦をするのだ。身体に掛かる負担は同じく機動力に特化した影狼夜叉衣の負担が可愛く思える程にヤバい。

 

結論を言うと可能な限り使いたくない技だが……

 

 

 

 

 

 

 

「お前が相手なら無茶をしないと勝てないだろうからな……マディアス・メサ?」

 

俺がそう言った瞬間、処刑刀ーーーマディアス・メサからは先程以上のプレッシャーを襲ってくる。俺は若干気圧されながらも意識を張り巡らせて構えを見せる。

 

「やれやれ……ヴァルダと距離を離れさせたのはこの為かい?」

 

俺の言葉を否定しないどころかそんな事を聞いてくるという事はビンゴだ。蝕武祭の専任闘技者である処刑刀の正体は星武祭運営委員長のマディアス・メサだ。

 

ヴァルダの認識干渉の範囲外に行って、もしやとは思ってカマをかけてみたが、事実とはな。

 

「偶然だよ偶然。で?星武祭の運営委員長さんが何を考えてこんな事をしてんだよ?」

 

マディアスの在り方は不気味で仕方ない。蝕武祭で専任闘技者をやったり、星導館のOBにもかかわらずレヴォルフが所有する『赤霞の魔剣』を持っていたり、星武祭の最中に俺や天霧を襲ったりと、やる行動が規格外で不気味極まりない……ってのが俺の本心だ。

 

そこまで考えていると……

 

「これから死ぬ君がそれを知る必要はない……ね!」

 

「……っ!」

 

マディアスは足に星辰力を込めて爆発的に噴き出して瞬時に距離を詰める。速い……!

 

対する俺は迎撃するべく右拳を振りかぶりマディアスの付けている仮面を破壊しようとするが、その前に俺の拳の前に『赤霞の魔剣』が振るわれて……

 

「「………っ!」」

 

轟音と共に辺りに衝撃が走り、俺達2人の間から周囲に半径5メートル近くのクレーターが生まれる。しかし俺とマディアスはそれを気にせずに拳と『赤霞の魔剣』をぶつけ合う。

 

星露にダメージを与えられるこの拳でも圧倒的な強者が持つ四色の魔剣が相手ではそう簡単に壊すことは出来ないようだ。目を凝らして見れば『赤霞の魔剣』からはギリギリと鈍い音と火花が生まれ小さく刃毀れをしているが、戦闘には全く支障のないレベルだ。

 

しかしこのまま鍔迫り合いをしても不利なのはマディアスも分かっているようだ。即座に鍔迫り合いを止めて僅かに距離を置いてから、間髪入れずに『赤霞の魔剣』を4度振るってくる。

 

しかし……

 

「無駄だ」

 

4度放たれた斬撃は鎧の肩、膝、腹、頭に当たるも、俺自身の身体に多少衝撃が走っただけで鎧を壊すには至らない。先程治療院の中庭で使ったら流星闘技ならともかく、その程度の攻撃で俺の最強の技を打ち破るのは不可能だ。

 

「どうやらそうみたいだね……なら」

 

マディアスもそれを認める。しかし直ぐに一歩下がり『赤霞の魔剣』による突きを放ってくる。今度の狙いは……

 

(ちいっ!関節を狙いに来たか!)

 

内心舌打ちをしながら俺はバックステップで回避する。いくら影神の終焉神装の防御力が桁違いと言っても、関節部分は身体を動かす為に比較的装甲が薄い。それでも高い防御力はあるが、四色の魔剣クラスの武器が相手なら簡単に斬れるだろう。

 

対するマディアスは一度引いたかと思えば3連突きを放ってくる。それは全て関節部分の脆い箇所を狙ったものだった。

 

俺は腕や足を動かして関節部分以外の場所で『赤霞の魔剣』を受け止めるも内心冷や汗ダラダラだ。今の所マディアスの攻撃は的確に関節を狙ってきている。俺が防御でミスをしたら即座に向こうが主導権を握るだろう。

 

(てかこいつ、やっぱりガキの頃から本気を出してなかったな)

 

俺は以前マディアスが参加した鳳凰星武祭の試合の記録を見た。その時にマディアスは本気を出してないと思っていたが、それはビンゴだ。いくら卒業後に蝕武祭で殺し合いをやっていてもここまで強いとなると、学生時代から本気を出してないのが丸わかりだ。

 

マディアスは間違いなく強い。それこそお袋やヘルガ・リンドヴァル隊長の様に、普通の人間とは異なる存在である星露やオーフェリアに限りなく近い領域にいる人間だ。

 

本当……アスタリスクに来てから幸せを手に入れたのは事実だが、厄介な事に巻き込まれまくりだな!

 

内心舌打ちをしながらも俺はマディアスの斬撃を凌ぎながら足を振り上げて……

 

「あら……よっと!」

 

そのまま地面に叩きつける。

 

「おっと」

 

すると足から衝撃が地面に伝わり、地面を割り砕きマディアスは前のめりにつんのめる。一撃でも決まれば俺が有利になる以上、環境を作るのは必須だからな。

 

そう思いながら俺はマディアスに向けて右ストレートを放つ。狙いは顔面だ。その仮面をぶっ壊してやるよ……

 

しかし……

 

「甘い!」

 

その直前にマディアスは『赤霞の魔剣』を俺の足元の地面に叩きつける。するとさっき俺がやったように地面は割れて、俺もマディアス同様にバランスを崩して前のめりになってしまう。

 

まあだからと言って攻撃しないのは愚策ゆえ、俺はバランスを崩しながらも拳を放つ。狙いは顔面ではなく鳩尾だが仕方ない。

 

しかしマディアスも食らってはマズい事を理解しているのでバランスを崩しながらも『赤霞の魔剣』で拳を防ぎ、拳と『赤霞の魔剣』による衝突によって地面に衝撃が走り新しいクレーターが出来上がる。

 

その衝撃によって俺達は吹き飛ぶような形で距離を取る。本来ならこの程度の衝撃で吹き飛ぶことは無いが、バランスを崩していたから仕方ないだろう。

 

(とりあえず……奴との力量差についてはある程度理解出来た)

 

パワーは俺の方が若干上、防御力は俺の圧勝、スピードは最高速度は俺の方が上だが最高速度までの到達時間は向こうの方が速い。

 

だがテクニックとバトルセンスは向こうの方が上だ。まあこれについては仕方ない。向こうは命がかかっている蝕武祭で専任闘技者として戦っていたのだ。経験値が違い過ぎる。

 

(向こうに一撃でも当てればこっちが有利……とはいえ無理に攻めたら一瞬で形勢が決まるし、この距離なら流星闘技が来る)

 

いくら影神の終焉神装でも『赤霞の魔剣』による流星闘技を食らったら一溜まりもないだろう。だから俺としては距離を詰めながら堅実な攻めをすれば良い話だ。

 

そう判断した俺は翼に星辰力を込めてから地面を蹴ると、次の瞬間にはマディアスの懐に入る。

 

するとマディアスは予想していたようで紙一重で回避するや否や『赤霞の魔剣』を振るってくるので俺は左肘で受け止める。関節部分ではないので問題ない。

 

「なら……これはどうかな!」

 

するとマディアスは『赤霞の魔剣』を俺にぶつけながらも、『赤霞の魔剣』に星辰力を込め『赤霞の魔剣』の刀身を大きくしてくる。それは徐々に大きくなり、先程天霧がマディアスの流星闘技を防ぐ際に準備した『黒炉の魔剣』と似たような形となり……

 

「はっ!」

 

「ちっ…」

 

そのまま振り抜いて俺の影神の終焉神装の腕の部分を僅かに破壊する。それによって僅かに血が飛び散る。

 

「やってくるじゃねぇ……か!」

 

「ぐっっっっ……!」

 

お返しとばかりにマディアスの鳩尾に蹴りを放つ。対するマディアスは星辰力を込めて防御したものの完全に防ぐことは出来なかったようで、腹からミシミシと音が鳴り、口からは血を流しながら吹き飛ぶ。

 

追撃を仕掛けようとするも、マディアスは吹き飛びながらも巨大な『赤霞の魔剣』を振るってくるので、追撃は諦めて斬られた箇所を修復する。

 

「ぐっ………流星闘技を使ってこれだけしかダメージを与えられないとはね、はっ……つくづく規格外の技だね」

 

マディアスはそう言って褒めてくるが……

 

「よく言うぜ。全く焦ってない以上策があるんだろ?」

 

マディアスの口調からは一切の焦りはない。寧ろ余裕があるように見える。

 

「ああ。確かにあるな」

 

マディアスがそう『赤霞の魔剣』を見せてくる。刀身を見れば……

 

「欠けている……?」

 

一部の箇所が僅かに欠けているのだ。刀身を見る限り、欠けたのは豆粒くらいの大きさだろう。

 

「ああ。そして欠けた破片は君の体内にある」

 

マディアスがそう言った瞬間……

 

「がっ……!」

 

突如、俺の腕ーーー正確に言うとさっきマディアスの『赤霞の魔剣』が切った箇所から激痛が走る。まるで俺の体内をかき乱すかのように。

 

そしてその痛む場所は徐々に動いていき次第には肩の方に向かっている。

 

(マズい……心臓に移動されたら詰む……!)

 

そう判断した俺は左手の部分だけ鎧を解除して……

 

「ぐぅぅぅぅぅっ!」

 

そのまま右手を手刀の形にして左肩から先全てを斬り落とす。それによって気を失いそうになるほどの激痛が走るが我慢だ。今気絶したら間違いなく死ぬ。

 

「惜しいな。あと少し遅かったら君の胴体に潜らせて詰めたんだがな」

 

マディアスがそう言って『赤霞の魔剣』を振るうと、さっき俺が斬り落とした左手から破片が飛び出て『赤霞の魔剣』本体に戻る。

 

危なかった……胴体に破片が移動したら取れなくてマディアスの言う通り死んでいただろう。しかしその前に腕を斬り落としたので死は免れた。

 

内心安堵の息を吐きながらも俺は影の義手を作り出し止血をしながら、その上に鎧を纏わせる。

 

「今のは危なかったぜ……が、テメェも深いダメージを受けているだろうが」

 

さっきマディアスの鳩尾に放った一撃、星辰力である程度はダメージを削られたが、星露を殴り飛ばせる一撃なんだ。奴も相当ダメージを受けている筈だ。

 

「否定はしないよ。正直言って呼吸をするのも大変だし、そろそろ決着がつけさせて貰うとしよう。長引くと警備隊が来そうだしね」

 

マディアスがそう口にすると先程のように『赤霞の魔剣』の刀身が細かい無数の破片となり、マディアスの手には柄だけとなる。

 

(さっきの流星闘技か!天霧は居ないし受けて立つしかないな……!)

 

避けれない事はないが、俺の後ろには会社などがある。避けたら無関係の人を巻き込むことになるだろう。

 

だから俺は左手を失った事によって生まれた痛みを無視して、無事な右腕に残りの星辰力の大半を張り巡らせる。

 

そして……

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

「ぐぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

互いに怒号をあげ、マディアスは『赤霞の魔剣』の柄を振り下ろし、俺は大地を揺らす程の一歩を踏み出してから右ストレートを放つ。

 

同時に赤い光の筋と漆黒の剛腕がぶつかる。それによって周囲に衝撃が走り自然公園の木々や時計台、噴水が吹き飛ぶが今は気にしている余裕はない。

 

今は目の前の絶対的な一撃以外のことを考えては死ぬ。

 

(クソッ……!流石に四色の魔剣の流星闘技はマジでヤバイな……!)

 

オーフェリアや星露の一撃に匹敵していて、流星闘技を受けている右手から全身に痛みが伝わってくる。加えて左手を失った痛みもあって今にも気絶してしまいそうだ。

 

が……

 

(負けてたまるか……!俺はオーフェリアとシルヴィとずっと一緒に居るって決めたんだから……!)

 

最愛の2人を思いながら右手に力を込めて、赤い光を受け止める。2人とはずっと一緒に居たいし、2人との幸せな時間を壊そうとする連中に負けるわけにはいかない。

 

そう思いながら更に右手に星辰力を込めようとすると……

 

 

 

 

 

 

 

 

「塵と化せ」

 

「光の矢は 人々の思いを束ね 闇へと駆けて 突き進む」

 

俺の後ろから紫色の巨大な腕と、大量の光の矢が現れて赤い光の筋にぶつかり、やがて赤い光を打ち消す。

 

(この力は……)

 

力の正体について理解すると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「こんなに無茶して………遅くなってごめんなさい(ごめんね)。八幡(君)」」

 

俺の最愛の恋人のオーフェリアとシルヴィが目から涙を流しながらも、怒りを露わにして俺の横に並んだ。


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