とりあえず大体の組み合わせは決まりました。
しかし八幡VSヒルダや八幡VS綾斗と並んで八幡VS葉山が多いのは予想外でした。
八幡がシルヴィやヒルダや綾斗、ロドルフォや暁彗や陽乃あたりの強敵と戦うなら1万文字を超えるかもしれないですが、葉山だと500文字もしないで終わりそうですね……
まあとりあえず八幡VS葉山もやるかもしれないですがよろしくお願いします
……いっそ小町と葉山を戦わせるのもありじゃね?
準決勝開始2時間前……
「え?!ちょっともう一回言ってくれませんか?!」
チーム・赫夜の控え室にてソフィアの驚きの声が響く。視線の先には控え室にいる唯一の男性である八幡がいる。
「はい。チーム・ランスロットに勝つ作戦として……パーシヴァルが『贖罪の錘角』を放とうとしたらフェアクロフさんに抱きついて道連れを狙う……1発限りの博打戦術ですね」
八幡がそう口にすると八幡の隣に立つクロエは納得するように頷く。
「なるほどね……確かにソフィア先輩はアーネスト・フェアクロフはチームリーダーだから道連れはこちらの勝ちを意味するわね。加えて『贖罪の錘角』は精神を削る技で肉体には影響がないから明日の決勝戦でも支障無く戦えるわ」
「まあサクリファイス戦術だからアレだけどな。ともあれ決めるのはフェアクロフさんと戦うソフィア……フェアクロフ先輩です。先輩が嫌ならこの作戦は使わなくて大丈夫ですよ」
八幡がそう言ってソフィアを見ると、この場にいる全員がソフィアに視線を向ける。作戦としては至極合理的だが、サクリファイス戦術は基本的に良い感情を持たれないのは紛れもない事実だ。
対するソフィアは少しだけ考える素振りを見せてから口を開ける。
「そうですわね……私がお兄様相手にどれだけやれるかで判断しますわ。一方的に負けそうであったり拮抗しているなら、私の校章が破壊される前に実行しますわ」
それを聞いた八幡はソフィアをじっと見てから頷く。
「……わかりました。んじゃフロックハートはフェアクロフ先輩が抱きついたらフォローをお願いな」
「……わかったわ。じゃあ博打戦術の話はこれで終わり。次に『ダークリパルサー』を利用した勝ち方をーーー」
ステージにて……
「ーーー汝らに、慈悲と贖罪の輪光を」
「道連れですわ!一緒に気絶しましょう!お兄様っ!」
「何っ?!」
パーシヴァルの右手が振り下ろされて、ソフィアがアーネストを力強く抱きしめた。そしてソフィアは八幡の体術をトレースして『白濾の魔剣』を持つアーネストの腕を掴んで動けないようにする。
まさかアーネストも道連れ覚悟で抱きついてくるとは思わなかったようで驚きを露わにする。
そんな中、パーシヴァルは特に表情を変えず、右手を振り下ろすと同時に手を払うような動きを見せる。
するとパーシヴァルの頭上にある『贖罪の錘角』から黄金色の光が溢れさせ、ステージを薙ぎ払うかのように光の本流が迸る。その太さは丸々人を飲み込んで余りあるほど太かった。
相手の精神力だけを削り、一瞬で意識を刈り取る光の帯は一直線に進んでいき……
「なっ?!」
ソフィアとアーネストがいる場所スレスレを通った。その距離僅か5センチ。しかしソフィアからしたらそれは絶望的な距離である。
パーシヴァルは極めて鋭い観察眼を持っている。それは人の本質や真実を見通す目でもあり、彼女はソフィアの動きから道連れ狙いだという事を察知して、アーネストとソフィアだけに当たらないように『贖罪の錘角』を放ったのだ。
しかしソフィアやチーム・赫夜、チーム・赫夜に協力した八幡らにとっては知らない事で作戦の1つを潰されたのである。
作戦の失敗に一瞬だけ頭の中が真っ白になるソフィアだったが……
『ソフィア先輩、早く離れてください!』
頭の中にクロエの声が響くと同時にソフィアは現状を理解する。現在ソフィアはアーネストに抱きついているが、いつまでもこの状況でいる訳にはいかない。
それはアーネストもわかっているようで……
「ふっ!」
「きゃあっ!」
全身から星辰力を噴き出して半ば強引にソフィアの拘束から逃れる。それによってソフィアは吹き飛び、地面に倒れ伏す。
同時にアーネストはソフィアに追撃を仕掛けようとするが、ソフィアの後ろにいるクロエの援護射撃に足を止める。その間にソフィアは起き上がりサーベルを手に持ち構えを見せるが、内心では悔しい気持ちで一杯だ。
(想定はしていましたが失敗すると悔しいですわね。とりあえず博打戦術が失敗した以上、試合は美奈兎さん達の動きが重要ですから任せましたわよ……!)
ソフィアは内心そう呟きながら横を見ると、どうにか『贖罪の錘角』による一撃をやり過ごした美奈兎がライオネルと対峙していた。2人の後ろからはニーナとケヴィンが走ってきている。
今のところは作戦通りに行っているが、長期戦になるとチームの練度差によりチーム・赫夜が不利になる。
ステージの中央で美奈兎とニーナが試合の主導権を握るべく動き出した。
「ちっ!失敗か……」
クインヴェールの専用の観戦室にて、俺はパーシヴァルの放った『贖罪の錘角』の生み出す光の帯が抱き合っているフェアクロフ兄妹だけ当てない光景を見て舌打ちを漏らす。失敗する事も視野に入れていたとはいえ、悔しいものは悔しいな。
「なるほど……防御不能の純星煌式武装を逆手にとってサクリファイス作戦ですか。確かに失敗したのは痛いですね」
クインヴェールの理事長のペトラさんは納得しながら小さく頷く。
「で、馬鹿息子よ。次はどうすんだー?」
ペトラさんの隣に座るお袋はジャージ姿で日本酒をコップを使わずにグビグビ飲みながら尋ねてくる。スーツ姿で紅茶を飲むペトラさんとは対称的だな……
「元々この博打戦術は失敗覚悟だったからな。とりあえず若宮かアッヘンヴァルがライオネルさんかケヴィンさんを倒さないと勝ち目はないな」
「そんで片方を倒したら複数でアーネストちゃんを叩くと?」
「そんな所だな。さて……」
チラッとステージを見ると若宮とアッヘンヴァルはパーシヴァルの放った『贖罪の錘角』の生み出す光の帯を身を屈めたり、横に大きくジャンプをして回避している。
同時にブランシャールの光の翼に乗って『贖罪の錘角』をやり過ごしたライオネルさんとケヴィンさんが2人との距離を詰めにかかる。
ガラードワース最強の槍使いのライオネルさんとガラードワーストップの堅牢さを誇るケヴィンさん。俺でも倒すのに梃子摺るであろう相手だ。今の若宮とアッヘンヴァルには荷が重い相手だ。
が、決勝に行くには重要なチェックポイントである。若宮達が2人を倒すのは必須で、逆に若宮達が負けたらチーム・赫夜全体の負けを意味する大事な戦いだ。
(ここまで来たんだ。負けんじゃねぇぞ……)
「やあっ!」
内心八幡が祈る中、ステージにいる美奈兎はナックル型煌式武装に星辰力を込めてライオネルの鳩尾に拳を放つ。
「ふんっ!」
対するライオネルはパルチザン型煌式武装を盾のように構えて美奈兎の拳を防ぐ。巨大な煌式武装に加えてライオネルの巨体は屈強であり、美奈兎の一撃ではライオネルの隙を作れない。
そしてライオネル返す刀でパルチザンで薙ぎ払いをする。対して美奈兎は後ろに跳んで回避しようとするが……
『後ろに跳ばないで!翼が来ているわ!』
頭の中にクロエの声が響くの見ればレティシアの翼が美奈兎の方に向かっていた。美奈兎を倒す為ではなく、美奈兎の逃げ道を防いでライオネルの薙ぎ払いを通す為に。
それを見た美奈兎は跳ぶ寸前に思い留まりライオネルの薙ぎ払いをナックルで受ける。しかし制圧力の高いライオネルの薙ぎ払いの威力は桁違いで……
「きゃあっ!」
美奈兎は防ぎ切れずに吹き飛んでしまう。2回地面を跳ねた所で漸く起き上がるダメージは軽くない。
「美奈兎、大丈夫?!」
吹き飛んだ先にはニーナが居て心配そうに話しかけてくる。それを見た美奈兎は返事をする前に嫌な汗が出るのを理解する。ニーナの近くに吹き飛んだという事は……
「おいおい。女子を吹き飛ばすなんて、レオはレディの扱いがなってないなぁ」
ニーナと相対しているケヴィンがいるという事である。陽気な表情を浮かべているが、目は決して笑っておらず長剣と黒い盾をしっかりと構えている。
「お前こそ試合中位、軽口を止めたらどうだ?」
ライオネルは渋い表情を浮かべながらもパルチザンを構えてやってくるが、それは美奈兎達にとって悪い状況だ。
ライオネルとケヴィンのコンビネーションは桁違いである。制圧力の高いライオネルと一撃離脱をメインとしたスタイルのケヴィンが組むと攻守の隙が殆ど無くなるのだ。
試合前のミーティングでも八幡とクロエが2人を組ませるなと口を酸っぱく言っていたが、合流を許してしまった。
美奈兎とニーナの内心に焦りが生まれる中、2人の頭にクロエの声が響く。
『マズい状態になったわ……作戦変更。私がソフィア先輩や八幡の技術を伝達するからガンガン使って。必要なら『ダークリパルサー』も使用して良いわ。戦闘が終わったら直ぐにソフィア先輩の援護をして』
確実に2人を倒す道を選んだクロエ。それを聞いた2人は小さく頷くと武器を変える。美奈兎は右手のナックル型煌式武装を外してサーベル型煌式武装を持ち、ニーナは両足に鋼靴型煌式武装を起動して右手にサーベル型煌式武装を持つ。
すると相対する2人の目が細まる。
「礼のコピー能力か」
ライオネルはそう呟く。ライオネルの発言通り、2人はクロエの伝達能力で技術を伝達されるつもりだ。
美奈兎はナックル型煌式武装とサーベル型煌式武装を持ち自分とソフィアのスタイルを、ニーナは鋼靴型煌式武装とサーベル型煌式武装を装備して八幡とソフィアのスタイルを使用する算段だ。
伝達の力を多用すると明日の決勝に支障が出るかもしれないがそうは言っていられない状況である。
「行くよニーナちゃん!」
「……うんっ!」
2人は小さく頷くとライオネルとケヴィンに向けて突撃を仕掛けた。
「ははっ!勇ましいねー!俺達も行こうぜ!」
「言われるまでもないな」
対するライオネルとケヴィンも同じように突撃を仕掛け、数秒後に美奈兎のサーベルがライオネルのパルチザンと、ニーナの鋼靴を纏った足による蹴りがケヴィンの長剣とぶつかり合い轟音がステージに響いた。
(今の所、ケヴィン・ホルストとライオネル・カーシュが合流したのを除けば概ね順調……いえ、ソフィア先輩は若干押されているわね。試合が長引くと徐々に差が広がって不利だから急がないと……)
ステージの端の方にいるクロエはレティシアの光の翼を避けながらハンドガン型煌式武装でレティシアの顔面を狙い続ける。放たれた光弾は全て光の翼で防がれるが問題ない。それによってレティシアの集中力は乱れ……
「そこです……!」
柚陽が光の翼を悉く撃ち落としてくれている故に。おかげでレティシアに一度に3、4枚の翼でしか攻撃出来ない状況になっている。
この試合においてクロエの仕事は3つある。
1つ目は今のようにレティシアの集中力を乱して、美奈兎達の戦いに茶々を入れるのを妨げること。
2つ目は自身の能力を使ってチームメイトに指示をしたり、能力を伝達すること。
そして3つ目は……
『第二波が来るわ!注意して!』
パーシヴァルーーー正確に言うと彼女が持つ純星煌式武装『贖罪の錘角』を常に監視して発動タイミングを伝えること。防御不能の光の帯を放つ『贖罪の錘角』は絶対に受けてはいけない攻撃だからだ。
「汝らに、慈悲と贖罪の輪光を」
クロエがチームメイトの頭にそう叫ぶと同時に『贖罪の錘角』が二度目の黄金色の閃光を放った。
幸い前衛の美奈兎達は特に苦労する事なく回避して、それぞれの相手と戦うのを再開する。前衛については問題ない。問題なのはクロエと柚陽がいる後衛だ。
『贖罪の錘角』のチャージ時間はデータから算出した結果、約100秒。つまり今から100秒は『贖罪の錘角』を気にしなくて良いが……
「今の内に叩かせていただきますわよ!」
レティシアがそう言うと光の翼は12枚生み出して放つ。今度は前衛3人ではなく、クロエと柚陽ーーーチーム・赫夜の後衛を叩く為に。
現在チーム・赫夜とチーム・ランスロットの陣形は本来中衛のケヴィンが前に出ている事によって同じ陣形となっている。
そうなると重要なのは必然的に援護となる。それはレティシアもわかっているようでクロエと柚陽に攻撃を仕掛ける
(おそらく向こうの狙いは私と柚陽を倒して援護を、より正確に言うと『贖罪の錘角』の攻撃タイミングを告げるのを妨げる事ね)
もしもクロエか柚陽が落ちたら負けに繋がる。柚陽が落ちたらレティシアの攻撃を妨げる者は居なくなり、レティシアの援護によって美奈兎達前衛は一気に崩れて負けるだろう。クロエに至ってはチームリーダーなのでクロエ自身が落ちたらチーム全体の負けだ。だからレティシアは早い内に後衛を潰す予定とクロエは判断した。
そこまで考えているとクロエの後ろから矢が放たれて光の翼を6枚破壊する。柚陽が一度に撃ち抜ける光の翼の枚数は最高で6枚。それを考えると最高の結果である。
クロエの射撃でレティシアの集中力を乱しても3、4枚は残る。
そう判断したクロエはいつものように光弾をレティシアの顔面に放ち集中力を僅かに乱すと同時に、腰からサーベル型煌式武装を抜き……
「はあっ!」
ソフィアの剣技をトレースして残った3枚の翼を全て斬り払った。
「やはりその剣技……ソフィアさんの……!」
ソフィアの幼馴染でソフィアの剣技を知っているレティシアは険しい顔をしてクロエを見る。そんなレティシアに対してクロエはいつものようにクールな雰囲気を漂わせて落ち着いている。
サーベルを持ちながら左手にナックル型煌式武装を装着する。クロエは美奈兎とソフィアの技術を使う算段だ。
「柚陽、このままだとジリ貧になる可能性が高いから勝負に出るわ。今から私は『贖罪の錘角』のチャージが完了する10秒前まで前に出るから、貴女は光の翼を破壊するのを続けて。ただしパーシヴァル・ガードナーの普通の射撃もあるから少し後ろに下がって、ね?」
「わかりました。ご武運を」
柚陽が笑顔で頷きながら後ろに下がると、クロエは小さく微笑みソフィアの元に向かう。
するとレティシアは行かせないとばかりに光の翼を10枚放つも、内5枚は柚陽の射撃で撃ち抜かれ、残り全てをクロエが斬り払う。
同時にソフィアの剣技を使った反動で身体に鈍い痛みが生じるもクロエは無視して走り続け……
「はあっ!」
掛け声と共にアーネストの真横から斬りかかる。対するアーネストは予想していたのかバックステップで回避する。それに対してアーネストと対峙していたソフィアは追撃を仕掛けようとするも、アーネストとの戦いで疲弊していて反応が遅れた。
『ソフィア先輩、無理をせずに一度下がってください』
『ええ、申し訳ありませんわ』
クロエの能力を使って頭の中でやり取りしながらもソフィアは後ろに下がる。同時にクロエがソフィアの横に並ぶと同時にアーネストが『白濾の魔剣』を無造作に持ちながらゆっくりと歩いてくる。
「まさか君が前衛に出るとは思わなかったよ」
アーネストの指摘は間違っていない。幾らソフィアや美奈兎や八幡の技術の恩恵を受けれるとはいえ、本来クロエはW=Wに買われた特殊工作員で戦闘タイプではない。実際にチームメイトの技術を使える時間も他の4人に比べて一段と短いのだから。
しかし……
「貴方達相手にリスク無しでは勝てないので」
クロエは美奈兎達と出会う前には絶対に見せないであろう不敵な笑みを浮かべてソフィアと共に走り出した。
試合が始まってから5分。この時点では両チーム1人も脱落していない。
しかし試合を見ている強者達はなんとなくだが理解している。決着の時が近いという事を。
そしてその直感は間違っていない。