「全く!八幡さんは挑発のし過ぎですわ!」
クインヴェールの専用観戦室にて、俺は正座をしながらプリプリ怒っているフェアクロフ先輩から説教を受けている。
さっきガラードワースの面々と一悶着があった後、クインヴェールの専用観戦室に入るなりフェアクロフ先輩に正座しろと言われて気圧された俺は正座して……今に至る感じだ。
「いや、俺は事実を言っただけだし、向こうが先に喧嘩を「言い訳無用!」……はい」
余りの剣幕に俺は黙ってしまう。フェアクロフ先輩、普段はポンコツなのに怒ると怖いです。
ちなみに恋人2人とフェアクロフ先輩以外赫夜のメンバーは部屋の隅にて俺同様に気圧されながら俺達のやり取りを見ている。しかし6人とも助ける気がないのが薄情だと思います。
「先程も言いましたが、私は八幡さんやオーフェリアさんと一緒に居る事に対して悪い感情は抱いていませんわ。ですからエリオットの言葉は撤回させるつもりでしたし、撤回出来なくてもお2人と縁を切る事をするつもりはありませんわ」
「……はい」
「それなのにあそこまで挑発をしてどうするんですの?!場合によってはフォースター家が八幡さんに文句を言ってくるかもしれないのですわよ!」
「……はい。おっしゃる通りです」
確かに、あの時はオーフェリアがブチ切れるのを防ぐ事しか考えていなかったが、あそこまで酷い挑発だと余計にフェアクロフ先輩の名前に傷が付いてしまうかもしれない。
「全く……心配をかけた罰として私達7人にパフェを奢るように!」
「いや何でパフェ「何か言いましたか?!」何でもありません。奢らせていただきます」
ダメだ逆らえん。まるで俺から搾り取る時のオーフェリアとシルヴィの様な雰囲気を醸し出している。こうなったら7人にパフェを奢るのを甘んじて受けよう。
「宜しい。今回は向こうから喧嘩を売ってきたからこれ以上は言いませんが、今後は必要以上に敵を作る様な言動は取らないようにお願いしますわ……もう正座を崩して良いですわよ」
最後にフェアクロフ先輩は優しい笑顔でそう言ってくる。内心その笑顔にドキドキしながらも立ち上がるも……
「うっ……」
長時間の正座に足が痺れてよろめいて……
「は、八幡さん?!」
そのまま前方ーーーフェアクロフ先輩の方に倒れ込んでしまう。しかし今回はラッキースケベをして溜まるか。
そう思いながら俺はフェアクロフ先輩にぶつかる直前に両手を地面につける。こうすればフェアクロフ先輩の胸に顔を押し付けたり、頬にキスをしたりする事はないから安心だ。
そう思っていたが……
「は、八幡さん……」
両手を地面につけた事で俺は今フェアクロフ先輩相手に床ドンをしている状態になっていた。両手でフェアクロフ先輩の頭を挟み、俺の右膝はフェアクロフ先輩の足の間に挟まれる。
そして目の前では真っ赤になったフェアクロフ先輩が涙目で俺を見ていた。
(ヤバい、ボディタッチはしてないが、ボディタッチをした時よりもドキドキしてしまってる……!)
端から見たら俺がフェアクロフ先輩に迫っているように見えるだろう。これはマズい、変な気分になる前に離れないと「「八幡(君)?」」……一足遅かったようだ。顔を上げるとオーフェリアとシルヴィが絶対零度の眼差しを向けていた。
「いや待て。これはわざとじゃないんだ。正座をしたから足が痺れてだな……」
俺が必死になって言い訳をするとオーフェリアとシルヴィはうんうんと頷く。しかし俺にはわかる。2人の中にある怒りは微塵も衰えていない事を。
しかも若宮達4人は露骨に目を逸らしていて助けてくれる気配はない。薄情過ぎる……
内心ビクビクする中、オーフェリアとシルヴィは俺に近寄り両耳に顔を寄せて……
「「今夜……わかってるわよね(わかってるよね)?」」
この瞬間、俺は2日連続寝不足になる事を確信したのだった。
それから1時間後……
『さあ!次は第4試合!東ゲートから現れるのは優勝候補筆頭の聖ガラードワース学園のチーム・ランスロット!』
実況の声に続いて東ゲートからチーム・ランスロットの5人が出てきて、シリウスドームからは絶大な歓声が沸き上がる。
一方、クインヴェール専用の観戦室は静寂に包まれている。しかしこの場にいる全員の視線はステージに集中していて、尚且つ真剣な表情で食い入るように見ている。オーフェリアとシルヴィは5分前に漸く機嫌を直してくれて俺の両腕に抱きついて甘えてくる。怒ると怖い2人だが、普段はメチャクチャ可愛いんだよなぁ……
そんな事を考えていると解説の声が響く。
『大本命だけあって凄い歓声ですね。まあ5人の内4人が、前回の獅鷲星武祭に続いてチーム・ランスロットのメンバー、唯一新しく入ったガードナー選手は防御不能の純星煌式武装の聖杯こと『贖罪の錐角』の使い手ですからね。人気なのも納得ですよ』
『聖剣と聖杯、2つの純星煌式武装が揃ったチーム・ランスロットは過去の獅鷲星武祭で優勝を逃した事がないですからね』
解説と実況はチーム・ランスロットをベタ褒めしているが当然だろう。俺から見ても今回のチーム・ランスロットは今までのチーム・ランスロットに比べて一線を画しているし。
「しっかし敵チームは完全に萎縮してるな」
ステージではチーム・ランスロットとぶつかる星導館チームだが、遠目に見てもガチガチだ。特にチーム・ランスロットのリーダーのフェアクロフさんと握手しているチームリーダーなんて目が死んでるし。まあ1回戦から優勝候補筆頭と当たったんだし仕方ないが。
「当然でしょうね。私の予想じゃ1分以内決着がつくと思うわ」
フロックハートはそう言ってくるが、俺も同じ意見だ。無論チーム・ランスロットの勝利で。
「とりあえず『白濾の魔剣』と『贖罪の錘角』は見ておきたいな」
『白濾の魔剣』は任意の物だけをぶった斬り、それ以外の物をすり抜ける能力で『贖罪の錘角』は相手の精神にダメージを与え意識を吹き飛ばす防御不能の能力。どちらもデータでは見た事があるが、直で見ておきたい。
まあこの試合では『白濾の魔剣』はともかく『贖罪の錘角』の能力を見れる可能性は低いだろうけど。対戦相手のチームは弱いし。
内心チーム・ランスロットの相手チームに同情している中、試合開始のブザーが鳴る。
同時にチーム・ランスロットの前衛のフェアクロフさんとライオネルさんか走り出し、遊撃手のブランシャールが背中に星辰力を溜めたかと思いきや、背中から8本の光の翼を出して相手に放つ。
ブランシャールの光の翼は色以外は俺の影の鞭軍に良く似ている。まあ性質は全然違うけど。俺の影の鞭軍はパワーと耐久性に優れているが速度は遅く、ブランシャールの光の翼はスピード寄りのバランスタイプだからな。
しかしチーム戦ならブランシャールの光の翼の方が便利だろう。ステージを見るとブランシャールの光の翼は敵チームの後衛2人に降り注ぐ。
距離があるので当たりはしてないが、星導館チームの後衛2人は避けるので精一杯のようで、後衛の仕事である援護射撃をしていない。
そんな隙をチーム・ランスロットが逃す訳がなく、フェアクロフさんが『白濾の魔剣』を振るう。
対する星導館の剣士はクレイモア型煌式武装で防ごうとするが、途中でハッとした表情になり煌式武装を引こうとする。任意の物だけをぶった斬る『白濾の魔剣』相手に防御は意味がない事を思い出したのだろう。
しかし時既に遅く、『白濾の魔剣』はクレイモア型煌式武装をすり抜けて校章だけを斬り落とした。天霧の『黒炉の魔剣』もそうだが四色の魔剣って性能がぶっ飛び過ぎじゃね?
呆れる中、ライオネルさんがパルチザン型煌式武装を使って星導館チームのもう1人の前衛を吹き飛ばす。吹き飛ばされた前衛は轟音と共に星導館チームのチームリーダーである遊撃手にぶつかる。
ライオネルさんの1番の強みはケヴィンさんとの連携だが、制圧力もあるようだ。見れば2人まとめて地面を転がっている。
そしてブランシャールが止めとばかりに背中から翼を4本増やして……
『試合終了!勝者、チーム・ランスロット!』
星導館チームのリーダーの校章を破壊する。試合が始まってから1分弱。今大会最速の記録だろう。しかもケヴィンさんとガードナーが動く前の状態で。
『ここで試合終了!チーム・ランスロット、ディフェンディング・チャンピオンに相応しく圧倒的な勝利を収めた!』
『いやはや凄いですね。遊撃手のブランシャール選手が後衛2人の足止めを、前衛のフェアクロフ選手とカーシュ選手が同じ前衛を撃破。やってる事はシンプルですが、洗練度が恐ろしい程高いですね』
そう。チーム・ランスロットの恐ろしい所はそれだ。基本に忠実、それでありながら練度を限界まで高める事によって、別種の存在となっているのだ。ああいうタイプのチームは奇策で崩すのは難しいからな。
「やっぱり改めて見ると凄いわね……」
フロックハートが唸るようにこの場にいる全員の考えを代弁する。まあ選手からしたら当然の反応だろう。
「確かに凄いよ……でも諦めるつもりはない」
若宮の言葉に全員の視線が彼女に向けられる。しかし彼女は気圧される事なく言葉を続ける。
「5人で優勝するって誓ったんだし、願いを叶える為に頑張ろうよ!」
こいつは本当に主人公みたいな存在だな。馬鹿正直でお人好しで……
そんな若宮の言葉に全員が苦笑に近い表情を浮かべる。
「全く……本当に貴女は恐れを知らないのね」
「ですが、それでこそ美奈兎さんでしょう」
「そうですわね。私自身の願いを叶える為にも……!」
「わ、私も頑張る……!」
若宮のチームメイト4人はチーム・ランスロットによって失われた士気を取り戻す。瞳には恐れが無くなっていた。
「いやー、やっぱり私は美奈兎ちゃんのファンだね」
「……そうね。私としても頑張って欲しいわ」
俺の恋人2人も優しい笑顔を浮かべて5人を見守っていた。こんな光景を見ていると本当に勝っちまいそうだし、何処か応援したくなる。
そんな事を考えていると……
「比企谷君!」
若宮が話しかけてくる。このタイミングで俺に話す事があるのか?まあ無視する訳にはいかないし返事はするけど。
「何だよ?」
「本戦に上がったら忙しから無理だけど、予選の間も模擬戦に付き合ってくれないかな?」
「何だそんな事か?別に構わないぞ」
星武祭中は星露の鍛錬もないし、こいつらの実力を少しでも上げるのは悪くない選択だろう。
「どうもありがとう!早速だけど今夜は空いてる?」
おいコラ。その言い方は止めろ。お前にその気がないのを理解しても勘違いしてしまいそうだ。てかオーフェリアとシルヴィはジト目で俺を見るな。
「大丈夫だ。俺は基本的に暇だから」
俺が恋人2人の手を握りながら了解の返事をすると、オーフェリアとシルヴィはジト目を消して艶のある表情を浮かべて手を握り返してくる。チョロい、助かったぜ。
内心そう思いながら嬉しそうにはしゃぐ若宮を見て口元を緩めてしまう。チーム・赫夜と関わってから1年弱。こいつらとはオーフェリアやシルヴィとは別の繋がりが出来たからな。優勝するには厳しいが、出来るように最善を尽くしたいものだ。
俺は恋人2人の手を繋ぎながらも今後のトレーニング内容について考え始めたのだった。
尚、夜に2人に搾り取られたのは言うまでもないだろう。
それから5日後、獅鷲星武祭7日目
『試合終了!勝者、チーム・赫夜!』
プロキオンステージにて勝利を告げるアナウンスが流れる。
『ここで試合終了!チーム・赫夜、本戦出場1番乗りです!』
『全員落ち着いて各自の仕事をこなしてますね。まだまだ余力を残しているので本戦でも良い試合が見れるかもしれませんね』
実況と解説の声が聞きながら俺は息を吐く。とりあえず予選ではフロックハートの感覚伝達能力や材木座特製のダークリパルサーを使用しないで勝ち進んだので最高の結果だ。可能ならチーム・ランスロットなどの優勝候補と戦うまではバレないと良いんだが……
「問題は明日の組み合わせか……」
言いながらシルヴィを見る。明日は完全休養日だが生徒会長は本戦の組み合わせのクジを引かないといけない。
「任せて……と、言っても私が引くのは最後だけどね」
シルヴィは苦笑を浮かべる。クジを引く順番は前シーズンの総合順位の高い順番ーーーガラードワース、アルルカント、界龍、レヴォルフ、星導館、クインヴェールの順。
つまりシルヴィは最後に引くのだが、頼むから1回戦からチーム・ランスロットを引かないでくれよ。
アレ?これってフラグじゃね?