学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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獅鷲星武祭初日、開会式前から面倒な事が起こる(後編)

「この馬鹿共が……怒る気持ちはわかるが、状況を考えろ。あそこで向こうの挑発に乗ってどうする?失格になって笑い話にするつもりか?」

 

「うぅ……」

 

シリウスドーム第二ゲートの入り口付近にて俺は思わず愚痴ってしまう。視界の先には去年から関係があるチーム・赫夜のメンバーが5人揃って申し訳なさそうな表情を浮かべている。

 

ついさっきまで赫夜のメンバーはレヴォルフが傭兵制を使って雇ったチーム・ヘリオンのメンバーと揉めたのだ。その際にヘリオンのメンバーの1人であるロヴェリカが『虚渇の邪剣』を使おうとして、ヤバイと判断した俺が止めたのだ。

 

幸い今の所運営委員からは失格云々の通達は来てないが、下手したら失格になっていた可能性もゼロではない。

 

 

「別に俺は気にしてないけどよ、フロックハートをチームに入れる為に色々やってくれたシルヴィの好意を無駄にすんなよ?」

 

シルヴィはフロックハートをチームに入れる為にペトラさんに大金を払ったからな。あそこまでお膳立てしたシルヴィの好意を無碍にするのは看過出来ない。

 

「そう、だよね……ごめん。ついカッとなっちゃったよ」

 

若宮は一瞬ハッとした表情を浮かべるも直ぐに反省したように頭を下げてくる。

 

「わかったならそれで良い。蓮城寺とフロックハートはくれぐれも3人を頼んだぞ」

 

「ちょっと待ってくださいまし!何故私が面倒を見られる側なのですの!」

 

俺がそう頼むとフェアクロフ先輩は心外とばかりに喚く。同時に彼女以外の赫夜のメンバー、そして俺とオーフェリアの6人は一斉にフェアクロフ先輩を見る。だって、ねぇ……

 

「さっきクロエとニーナちゃんと迷子になったのはソフィア先輩がりんご飴に興味を持ったからだし」

 

フェアクロフ先輩ってポンコツだからな。フェアクロフ先輩と関わりを持ってから1年、俺がフェアクロフ先輩に向けるイメージはブラコンとポンコツだ。それでありながら自覚してないし、まさにポンコツかわいいソフィア……略してPKSだな。

 

そんな事を考えていると制服を引っ張られたので見ると、隣に立っているオーフェリアがジト目を向けていた。何だその「この浮気野郎」って目は?心外極まりないな

 

「それを言ったら美奈兎さんだって移動販売のドーナツ屋さんに身を乗り出してたじゃないですの!」

 

「うっ、それは……」

 

「いやどっちもポンコツですからね?」

 

「毎回毎回ラッキースケベを起こしている比企谷さんに言われたくないですわ!」

 

呆れながらそう呟くとフェアクロフ先輩の矛先が俺に向けられる。くっ……そこを言われたら……

 

「あー、それは……」

 

「否定は出来ませんね……」

 

「え、えーっと……」

 

「そう考えたら貴方もポンコツね」

 

「……八幡のバカ」

 

赫夜のメンバーからは擁護はない。まあそれは仕方ないだろう。何せ5人全員にラッキースケベをやったんだし。

 

(てかオーフェリア!脇腹を抓るな!)

 

オーフェリアは目を鋭くしながら脇腹を抓ってくる。確かに悪いのは俺だが、わざとじゃないんだから許してくれ。

 

内心痛みに悶えている時だった。

 

 

「何をやってんだー?教え子5人に馬鹿息子に義理の娘ー?」

 

そんなノンビリとした声が聞こえてきたので振り向くと見知った顔、てかお袋がジャージ姿で酒瓶を片手にこっちにやって来る。昼間から酒を持ち歩くな。

 

「あ、比企谷先生。実はさっき私達が他所のチームと揉めてしまって、比企谷君に止めて貰った後に怒られてました」

 

蓮城寺が説明をするとお袋はケラケラ笑う。

 

「何だ何だ?試合前から揉めるなんてヤンチャだねー。私も良くやって相手を半殺しにしてヘルガに追っかけられたぜー」

 

いやお袋よ。星猟警備隊長に追っかけられたって……さっきまでの空気は雲散霧消して全員がドン引きしているし。

 

「まあ程々にしとけよー。レヴォルフならともかくガラードワースのお利口さんやクインヴェールのお嬢さんが揉めたりしなら学園の評価に関わるからな」

 

「は、はい……」

 

「わかれば良し。それより早く行きな。ステージを見ておくのも作戦の1つだぞー」

 

「あ、はいわかりました!じゃあ比企谷君もオーフェリアちゃんもまたね!」

 

若宮が元気にそう言うと他の4人も俺達3人に会釈して去って行き、必然的この場にいる知り合いはお袋とオーフェリアだけになる。

 

「さて、私も席に行こうかね。あんた達も来るかい?」

 

「え?参加選手じゃない俺達は会場に入れないんじゃねぇの?」

 

今は参加選手がステージを見学する時間で、その間は選手以外の人間は入ることを禁止されている。

 

「ステージじゃなくてクインヴェールの生徒会用観戦室だよ。私は教師だから控え室には入れるし、私の同伴者になれば問題ねぇよ」

 

お袋にそう言われて俺達は顔を見渡す。俺としては控え室に行く方が良いと思っている。こんな混雑している場所で時間まで待つのは絶対に嫌だし。

 

そう思いながらオーフェリアを見ると、オーフェリアは俺の考えを理解しているかのように小さく頷く。

 

「じゃあお袋。連れてってくれや」

 

「はいよー」

 

それを聞いたお袋は軽く手を上げてシリウスドームに入ったので、俺とオーフェリアはそれに続いた。

 

 

 

 

 

 

生徒会用観戦室に入ると目にした物は2つあった。1つはステージの変化。鳳凰星武祭の時とは全然違っていた。ステージを濠のような深い溝が取り囲んでいて、溝にはジェルのようなものが満たされている。材木座に聞いたが、アレはアルルカントが開発した防護ジェルらしいが相当頑丈らしい。それに加えて前からあった防護フィールドもある。この2つを突破するのはオーフェリアでも厳しいだろう。(不可能とは言わない)

 

そしてもう1つは……

 

「おや、予想外の客が2人来ましたね」

 

バイザーを装着したスーツ姿の女性ーーークインヴェールの理事長のペトラさんだ。バイザーで目は見えないが鋭い目な気がする。まあ俺はペトラさんの反対を押し切ってシルヴィとオーフェリア相手に二股をかけているから当然っちゃ当然だろう。

 

しかしお袋は……

 

「よーっすペトラちゃん。私が呼んだんだけど良いだろ?」

 

そんなペトラさんに対して気にした素振りを見せず、ペトラさんの横に座ってニカッと笑みを浮かべながら持っていた酒を飲み始める。スーツ姿のペトラさんとジャージ姿のお袋が並んで座るのは何とも不思議な感じだら、

 

「貴女の場合却下しても追い返さないでしょう?好きにしてください。それとペトラちゃんと呼ぶのは止めてください」

 

ペトラさんは呆れた表情を浮かべながらも俺達の滞在を許可してくれた。それを聞いた俺とオーフェリアはお袋の隣に座る。

 

「はいよー。ところでペトラちゃんも酒を飲むかー?」

 

「私は勤務中ですからね?それと言ったそばからペトラちゃんと呼ぶのは止めてください」

 

言ってるそばからペトラちゃん呼びしてるよ。これにはペトラさんもため息を吐いてるし。それを見てると不安になってくる。

 

「なあお袋よ。お袋はクインヴェールでちゃんと教師をやってんのか?」

 

思わず質問をするとペトラさんがため息を吐きながら口を開ける。

 

「意外かもしれませんか仕事はしっかりとこなしていますよ。授業もわかりやすいと評判だし、模擬戦をした後のアドバイスも的確と生徒から人気がありますよ」

 

「だろ?どうだ馬鹿息子。適当にやってると思ってたのか?」

 

「ああ。思っていたたたたたっ!わ、悪かったからアイアンクローは!アイアンクローは止めろっ!」

 

「全く八幡よ〜、口は災いの元って言葉を知らないのか〜?」

 

馬鹿正直に思っていたと言おうとしたら笑顔でアイアンクローをぶちかましてきやがった!やっぱり比企谷家の首領はお袋だな。

 

「悪かったよ。でも生徒から人気ってのは予想外だわ。てっきり大半の生徒に決闘を挑まれてると思ったんだよ」

 

「まあ実際就任したばかりの頃は毎日沢山の生徒から挑まれていましたが、一度シルヴィアを倒してからは、大きく減って教えを乞うてくる生徒が増えたのですよ」

 

ペトラさんがそう言ってくるが、そういやシルヴィは前にお袋に負けて悔しがっていたな。しかし何で女子校なのに力でシめてんだよ?レヴォルフならともかく、女子校でやるか普通?

 

そんな事を考えていると、ブザーの音が聞こえたのでステージを見るとステージにいた選手が各学園ごとに並び始める。どうやら開会式が始まるようだ。

 

それを認識した俺は意識を切り替えてステージに注目し始めたのだった。

 

 

 

 

「ーーー以上のような理由から、既存のステージ設備のままでは近い将来、星武祭の進化について行けなくなるだろうと判断した。そこで今回ーーー」

 

開会式の壇上では運営委員長のマディアス・メサが演説をしている。マディアス・メサの話は他の役員の話に比べたら有意義な話なので耳には入れているが、俺の意識は割と選手ーーー有力候補のチームに向けられていた。

 

星導館のチーム・エンフィールド

 

界龍のチーム・黄龍

 

アルルカントのチーム・アンドロクレス

 

ガラードワースのチーム・ランスロットとチーム・トリスタン

 

レヴォルフのチーム・ヘリオン

 

そして何かと縁があるクインヴェールからは……

 

「さーて、チーム・ルサールカにチーム・メルヴェイユ、チーム・赫夜はどれだけやれるかねぇ?」

 

お袋の口にした3チームが有力チームだ。チーム・メルヴェイユとは接点がないが他の2チーム、特にチーム・赫夜は俺やオーフェリアも協力したチームだ。

 

「個人的には赫夜が優勝して欲しいな」

 

「……同感ね。厳しいとは思うけど頑張って欲しいわ」

 

「ほーん。じゃあ八幡はチーム・赫夜に賭けたのか?」

 

さも当然のようにお袋は聞いてくるが……

 

「ああ。赫夜の優勝に100万賭けた。勝てば大体900万だな」

 

獅鷲星武祭で何処が優勝するかについて当然賭けが行われているが、俺は若宮達が勝つ事を信じて赫夜に賭けた。実際本命ではないが大穴と言う程弱くないし。

 

ちなみに俺が参加した賭けで有力チームのオッズは低い順に……

 

チーム・ランスロット 1.008倍

 

チーム・エンフィールド 1.52倍

 

チーム・黄龍 1.56倍

 

チーム・トリスタン 2.06倍

 

チーム・ルサールカ 2.96倍

 

チーム・ヘリオン 3.03倍

 

チーム・アンドロクレス 8.68倍

 

チーム・赫夜 9.12倍

 

チーム・メルヴェイユ 9.24倍

 

その他のチーム 500倍

 

って感じだ。まあ多少博打だが、偶には悪くないだろう。

 

「ほー、赫夜のメンバーを相当高く買ってんだな」

 

「まあな。ちなみにお袋は何処に幾ら賭けたんだ?」

 

「チーム・エンフィールドに2億」

 

……随分と大金を賭けたな。確かにお袋は過去に星武祭で2回優勝したから金は腐るほど持ってるけど。つまりチーム・エンフィールドが優勝したならお袋は3億近く金が入るってことだ。てか教師なら可能性が低くても自分の学校に……いや、それ以前に教師が賭けをするな。

 

呆れながらもステージに目を向けると、丁度シルヴィと目が合ってウィンクをしてくる。本当に可愛いなぁ。久々に会ったが、益々可愛くなっている。開会式が終わったらチーム・赫夜の試合を見る前に会いたいものだな。

 

俺は小さく頷きながらシルヴィを見る。隣に座るオーフェリアもシルヴィのウィンクに気付いたようで可愛らしく手を振りだす。

 

そしてそれはお袋も気が付いたようでニヤニヤ笑いを浮かべてくる。

 

「おーおー。こんな距離でも目を合わせるなんて、相変わらず3人はラブラブだなー」

 

「……ええ。私達3人はラブラブよ。誰にも侵されない繋がりを持っているわ」

 

するとオーフェリアはお袋の冷やかしに対して真面目に答える。お袋は照れさすつもりだったようで、オーフェリアの馬鹿正直な発言によってポカンとした表情を浮かべる。

 

お袋がそんな表情を浮かべるなんて正直驚いた。オーフェリアやるな。そしてハッキリと俺達の関係をラブラブと言ってくれるとは……うん、嬉しいな

 

「かー、全く羨ましいなー。さっさと結婚して子供作って孫を抱かせろよ」

 

お袋はニヤニヤしながらオーフェリアの肩をバシバシ叩き、オーフェリアは小さく頷く。

 

「……卒業したら直ぐに子供を作るからそれまで待ってて」

 

「……私としてはそこまで早く子作りをして欲しくないんですがね」

 

ペトラさんは俺達をバイザー越しに睨みながら愚痴ってくる。まあシルヴィに子供が出来たら即引退だろうしな。いつかシルヴィは引退するが出来るだけ長い間アイドルを続けて欲しい……ってのが、ペトラさんの考えだろう。

 

俺としては卒業して以降ならオーフェリアとシルヴィに従うつもりだ。2人が25を過ぎてからと言ったら25を過ぎてから子作りをするつもりだし、卒業して直ぐと言ったら直ぐに子作りをするつもりだ。

 

まあ周りの状況とかによっては考えるかもしれないが。

 

そんな事を考えながらもステージを見るとマディアス・メサの演説は佳境を迎えて……

 

「それではーーー只今をもって、第二十四回獅鷲星武祭の開幕を宣言する!」

 

開幕が宣言される。瞬間、ステージにいる選手と観客席にいる一般客からは圧倒的な歓声が上がる。それはあたかも音の兵器で俺達の耳にもつん裂いた。

 

さて、これから2週間。平和に過ごせますように

 

そんな淡い期待を抱きながらステージに向けて小さく拍手をし続けた。




おまけ

八幡の日記

◯月△日

今日はリースフェルトとトレーニングの日だ。俺はリースフェルトに相手の嫌がる行動をしまくれと教えたが、生粋のお嬢様だけあって中々苦労していた。環境というのは思ったよりも重要なようだ。とりあえず俺自身も色々とアドバイスをしてみたが、今後に期待したい。

尚、トレーニングが終わった際に天霧達の様子を見たら、天霧がフェアクロフ先輩の胸を鷲掴みにしていた。それを見たリースフェルトは周囲に星辰力を噴き出していたが、天霧もラッキースケベの才能があると思った。


△月×日

今日オーフェリアとシルヴィはルサールカとチーム・赫夜のメンバーと女子会に参加したので珍しく1人で過ごした。2人が家に居らず暇だったので歓楽街に遊びに行ったら、歓楽街に巣食うマフィアのオモ・ネロと江湖幇の下っ端同士抗争が行われていた。

面倒な事になる前に退散しようとしたら流れ弾を1発食らってムカついたので両陣営の人間全員を半殺しにしてから磔にした。

ムシャクシャしたのでカジノで遊んでいたら、オモ・ネロのリーダーのロドルフォが迷惑かけた詫びとか言ってヤバそうな媚薬をくれた。

別れ際に「これを使えば『孤毒の魔女』も雌犬に出来るぜ!」と言われたので夜、オーフェリアとシルヴィに事情を話して使って良いかと聞いてみたら2人は了承したので使ってみた。


結果、物凄いエロい2匹の雌犬がメチャクチャ甘えてきた。マジでありがとうございますロドルフォさん。

しかし勢いに任せて生でやったのは反省。2人とも安全日だったから良かったが、今後は気を付けたい。


×月□日

今日はチーム・赫夜のメンバーの連携訓練だ。最近は5人とも徐々に成長している。特に若宮の成長は著しく本番には冒頭の十二人クラスになると思った。

しかし若宮は小町に似て天真爛漫なので思わず小町にやるように頭を撫でてしまった。怒られると思ったが、特に怒られずにもう少し撫でてくれと言われた。

それによって俺は再度撫でようとしたが、その時にオーフェリアとシルヴィがやって来てジト目で見られた。幸い未遂と思われて軽い注意で済まされたが、既に撫でていることを知ったら搾り取られると思うので注意していきたいと思う。



×月◯日

昨日、若宮の頭を撫でたのがバレて干涸びるまで搾り取られた。

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