学戦都市でぼっちは動く   作:ユンケ

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比企谷八幡に安息の地は存在するのは疑問である

『試合終了!勝者、チーム・赫夜!』

 

機械音声が決着を告げる。これが公式序列戦や星武祭のステージならこの機械音声と共に大歓声が上がるが、試合が行われているのは地下の特別訓練場である為、歓声は上がらない。

 

モニタールームからステージを見ると、チーム・赫夜とルサールカ双方のメンバーほぼ全員が唖然とした表情で動きを止めていた。完全に予想外の結末だったからか、思考が停止しているのだろう。

 

最もそれはモニタールームにいるペトラさんも同じようで驚いているのがバイザー越しでも理解出来た。

 

しかし統合企業財体の幹部であるからか、ペトラさんは直ぐに再起動して息を吐く。

 

「まさか勝てるとは……完全に予想外でしたね」

 

それでも口調には驚きの成分が含まれている。まあ当然だろう。俺がペトラさんの立場なら同じようになっていただろうし。

 

「そりゃそうでしょ。それよりもあいつらはルサールカに勝ったんですから約束は守ってくださいよ?」

 

俺がそう言うとペトラさんは僅かに鼻白むが、

 

「……ええ。約束は約束です。クロエの獅鷲星武祭への参加は認めますよ」

 

約束を守る事を肯定した。うん、あいつらが獅鷲星武祭への参加資格が手に入って良かったぜ。

 

「そいつはどうも。それにしても……」

 

俺がモニターからステージを見ると若宮が意識を失っていた。あいつは暫くの間動けないだろう。何せフェアクロフ先輩の力を使って身体に負荷がかかり過ぎただろうし。あいつは無茶をし過ぎだな。

 

だが……あんな馬鹿は嫌いじゃない。初めはシルヴィに頼まれたから鍛えてやったが……

 

(あいつらが何処まで行けるか楽しみだな)

 

そう思いながら改めてステージを見ると、赫夜のメンバーはフェアクロフ先輩とアッヘンヴァルが半泣きしながらはしゃいで、それを見ているフロックハートが呆れて、蓮城寺が4人を楽しそうに眺めていた。

 

一方、ルサールカのメンバーはトゥーリアとパイヴィが悔しそうに地団駄を踏んでいて、『ダークリパルサー』を食らったミルシェとモニカは苦しそうに床に寝転び、マフレナが2人の看病をするなど対称的だった。

 

 

そんなカオスな光景を見ていると不思議と笑いが込み上がってしまい、俺はつい笑ってしまった。

 

そして暫くの間、笑いが止まる事はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1ヶ月後……

 

 

『試合終了、勝者比企谷八幡!』

 

そんなアナウンスが流れると同時に俺は影狼修羅鎧を解除した。

 

「んじゃ、今日はここまでだが……ほらよ」

 

俺は近くで尻餅をついている若宮に手を差し出す。

 

「うぅ……ありがとう」

 

礼を言って俺の手を掴んだので引き起こした。正面では若宮以外の面々も疲労困憊の状態だった。

 

ルサールカとの試合が終わってから1ヶ月経過した。本来俺はルサールカとの試合までとシルヴィに頼まれていたが、赫夜のメンバーに頼まれたり俺自身が暇だって事もあり、今でも訓練に付き合っている。

 

そして今赫夜のメンバーは本気の俺と模擬戦をしていたのだ。チーム・赫夜は影狼修羅鎧を纏った俺と既に何度か戦っているが今の所、一度も勝てていない。

 

とりあえず年度が変わるまでに本気の俺を倒せないなら優勝は無理だろう。何せ今回獅鷲星武祭に参加するであろうフェアクロフさんと『覇軍星君』武暁彗は俺と互角かそれに近い実力を持っているのだから。

 

「悪いな。影狼修羅鎧は加減が難しいんだよ。痛いなら次回は無しでやるぞ?」

 

「ううん。私は大丈夫。強くならないといけないんだし、明日もよろしく」

 

「まあ構わないが……」

 

今更だが、いくら星脈世代とはいえ女子を殴るのはヤバくね?

 

そんな事を考えていると、

 

「……お疲れ様」

 

後ろからチーム・赫夜のマネージャー兼俺のラッキースケベ防止役であるオーフェリアがスポーツドリンクを持ってきた。

 

オーフェリアも俺と一緒にクインヴェールに来てサポートをしてくれる。自由になったオーフェリアはかなり気配りが出来るので、今では赫夜のメンバーとも仲良く過ごしている。

 

まあ俺が偶にラッキースケベをしたら阿修羅となってビビらせているけど。

 

「ありがとうオーフェリアちゃん!んー!美味しい!」

 

若宮の奴……俺に吹き飛ばされといて元気になるの速いな。毎回粘ってる癖にやるじゃねぇか。

 

「……はい、八幡」

 

そんな事を考えているとオーフェリアが俺にドリンクを差し出してくる。

 

「ありがとなオーフェリア」

 

「んっ……」

 

礼を言うとオーフェリアは自分の頭を叩いてくる。それは撫でろというメッセージである事を俺は知っている。

 

「はいはい」

 

俺が苦笑しながら頭を撫でるとオーフェリアは気持ち良さそうに目を細める。うん、やっぱり可愛いな。

 

「……何度も言うけど、反省会の前にイチャイチャするの止めてくれないかしら?」

 

オーフェリアの可愛さに癒されていると、フロックハートが呆れた表情で見てくる。この台詞既に50回は聞いたような……

 

でも仕方ないだろ?オーフェリア可愛いんだし。マジで天使だ。今直ぐにでもハグしたい。

 

まあそれはともかく……オーフェリアとイチャイチャするのは帰ってからにしよう。シルヴィは仕事でアスタリスクの外にいるし。

 

「悪い悪い。とりあえず蓮城寺とアッヘンヴァルは大分体力が付いてきたな。とりあえず来年度までにフロックハートの能力を1分使われても大丈夫なようになれ」

 

見るとアッヘンヴァルと蓮城寺は元々体力が少ないからか汗びっしょりでへたり込んでいる。

 

現在赫夜のメンバーはフロックハートの能力である感覚と経験の伝達に対する訓練をしている。

 

具体的に言うと遊撃手であるアッヘンヴァルや後衛である蓮城寺も若宮やフェアクロフ先輩の技術を使えるようになって貰う事だ。

 

しかし他人の力を使うのには身体に負荷がかかるので、赫夜のメンバーにはチームメイト全員の技術を使いこなせるように、動きに耐えうるだけの身体作りを課している。

 

しかしこれについてはそこまで悲観していない。獅鷲星武祭まで後半年以上あるし、それまでには全員身体が出来上がっているだろう。

 

 

しかし……

 

「ただ問題はこの先なんだよな……」

 

「え?どういう事?」

 

「簡単に言うと、今まではチーム・メルヴェイユやルサールカと対戦相手がわかっていたからフロックハートが戦術を組み立てて、対策を練っていたが……」

 

「本番に備える場合はもっと高度な訓練が必要になってその指導は私には出来ない。有り体に言えば貴女達の長所を伸ばせる人が欲しいのよ」

 

俺の言葉をフロックハートが引き継ぐ。

 

問題はそこだ。俺が赫夜のメンバーに教えているのはこいつらが持つ弱点に対する対抗策など短所を補うものであって、長所を伸ばすタイプのものではない。

 

こいつらは全員得意分野に関しては一流である。その部分をより伸ばせるような指導者は少ない。

 

「そっか。師匠と連絡が付けばなあ」

 

「それを言うなら私だってお兄様クラスの練習相手が欲しいですわ」

 

「私も細かな修正点を見つけてくださるような方がいてくださると助かります」

 

「わ、私は魔女としての立ち回り方を教えて欲しいな……!」

 

フロックハート以外の面々が勝手気ままに出す希望に、俺とフロックハートは揃ってため息を吐く。

 

「……とりあえず私も色々と当たってみるから貴女達も探してみてちょうだい。望みは薄いでしょうけれど」

 

フロックハートの言葉を最後にその日の訓練は終わった。

 

 

 

 

 

 

その夜……

 

『……わかりました。ではよろしくお願いします』

 

その言葉を聞いた俺は1つ頷き通話を切る。そして新しい番号を電話帳から探してcallする。

 

すると、

 

『……もしもし。どうしたのかしら?』

 

常盤色の髪の少女が空間ウィンドウに映る。

 

「フロックハートか。夜遅くに悪いな」

 

『別にいいわ。それより何の用?』

 

「ああ。昼間言った訓練相手についてだが、フェアクロフ先輩については見つけた」

 

俺がそう言うとフロックハートは珍しく驚きに満ちた表情を見せてくる。

 

『……随分早いわね。それで相手は?』

 

「天霧綾斗」

 

『……は?』

 

今度は絶句した表情を見せてくる。今日のこいつ感情豊か過ぎだろ?

 

『ちょっと待って。天霧綾斗って叢雲の事よね?』

 

「そうそう。その鳳凰星武祭覇者の天霧」

 

『……確かに彼なら良い訓練相手になるけど……どうやって交渉したの?』

 

フロックハートは聞いてくるが話すべきか?

 

以前リーゼルタニアに行った際にエンフィールドから持ちかけられた『リースフェルトを鍛えるかわりに、天霧をフェアクロフ先輩の訓練相手にする』という取引を受けた事を正直に話したら怒られないか?

 

一瞬悩んだが話す事にした。どうせ隠しても諜報能力の高いフロックハートにはいずれバレるだろうし。

 

そう判断した俺はフロックハートに全部話した。するとフロックハートは呆れた表情になる。

 

『……なるけどね。確かにそれなら向こうも旨味があるわね。それにしても貴方、自身の学園のライバル校鍛え過ぎじゃない?』

 

「良いんだよ。俺別に愛校心ないし」

 

何せ生徒の9割が屑の学校だし。あんな学校に愛校心を持つ奴なんていないだろう。

 

『とりあえず話はわかったわ。私としても特に反対していないから貴方に任せるわ』

 

「そいつは良かった。それより問題は……」

 

『美奈兎と柚陽ね』

 

そう、問題は若宮と蓮城寺だ。

 

若宮が使う玄空流や蓮城寺の射撃は、教える人が少ないだろう。前者は流派が独特だし、後者は弓使いが少ないからな。

 

「ああ。一応2人の相手も探してみる。とりあえず今日電話したのは星導館と取引した事だな」

 

『わかったわ。……あ、ごめんなさい。今から仕事だから切るわ』

 

あー、そういや最近フロックハートは歌手としてどんどん人気が上がってるからな。仕事が増えたのだろう。

 

「わかった。じゃあ頑張れよ」

 

『ええ。また』

 

そう言ってから空間ウィンドウが閉じる。

 

するとそれと同時に風呂が沸いた事を知らせるメロディが流れ出した。実に良いタイミングだ。

 

「……八幡、沸いたから一緒に入りましょう?」

 

風呂の準備をしているとオーフェリアが自室に入ってくる。手にはタオルや下着が持って準備万端のようだ。

 

「はいよ。じゃあ行こうぜ」

 

「んっ……」

 

オーフェリアが可愛らしく小さく頷いたのを確認した俺はオーフェリアと手を繋ぎながら浴場に向かった。

 

この小さくて温かい手は俺は本当に大好きだ。出来ることなら、今のように3人でずっと平和に暮らしたいものだ。

 

「……八幡、幸せそうな顔をしてるけど何かあったの?」

 

「ん?いやアレだ。お前やシルヴィと一緒に過ごす時間は平和で大好きだって改めて思ったんだよ」

 

「……そう。私も大好きよ」

 

オーフェリアは見る者全てを魅了するであろう優しい微笑みを向けて……

 

「んっ……」

 

そっと唇を重ねてくる。

 

オーフェリアの柔らかい唇、サラサラの髪、恥じらいの混じった表情、それら全てが俺を幸せにしてくれる。

 

俺は今ある平穏を噛み締めながらオーフェリアにキスを返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

1週間後……

 

 

「お願い比企谷君!星露ちゃんと戦ってくれないかな?!」

 

早くも俺の平穏が完膚なきまで破壊されそうになった。

 


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