獅子は今日も。 作:KARASAWAん
今回の内容につながりますが皆さんは周りに注意し、迷惑にならないようにしましょう。
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まさか来るとは思っていなかった。だって、こんな森の中で、しかもただ叫んだだけなのに。でも、嬉しかった。
その男の人は、突然現れたかと思えば、あっという間に二人を地面につかせた。普通ならこんなことはできない。この島にいるってことはαドライバーってことを前提に話すと、αドライバーは言ってしまえばただの人間だ。プログレスに必要な存在とは言ってもリンクができること以外は一般人と大して変わらない。
つまり、普通なら異能を持つプログレスになんて勝負を挑まないはず。それでも目の前の男の人は私を助けてくれた。
「(はっ、今の間に逃げなきゃっ…………)」
震え痺れる手足を無視して背の羽をはためかせ、草むらのほうへと向かう。
でも、その私の動きを逃してはくれず、ファントムの二人が私を捕まえようとした。
「(───────嘘…………いやっ、こないで!)」
そんな私の心の願いが届いたのか、あの男の人が
「そっちにはいかせねえよ!」
私を追っていたファントムの肩をつかみ、引き離してくれた。
もちろんその間に急いで草むらに飛び込む。すると偶然か、そこにバッグが落ちていた。多分あの助けてくれた人のものだろう。本当ならこの場所から逃げたほうがいいと思う。でも、
「助けてくれたし、お礼、後でしなくちゃ。」
それに、ここで逃げ出したら、もう二度とあの人と会えなくなる、そんな気がして
私はバッグの中に入り込んだ。
side out
天地鳴動、俺、水無月 獅音の戦い方だ。
昔いろいろあってから、俺は自分が強くなるために武術を覚え始めた。空手、柔道、剣道、…………これでもかというほどに様々な戦い方を見てきた、学んできた。
でも、違った。今まで上げたものを侮辱するわけじゃない。ただ俺が望んだものを教えてくれるものはなかった。というのも、どれも確かに強いし役に立つことはある。が、所詮は一対一を想定したものがほとんどであり、一対多になった時に学んだものができるかといえば何とも言えない。
そこで俺は1つの答えにたどり着いた。
「人間は横の動きには慣れても縦の動きにはついていくことはできない」
人間は移動する、攻撃を避ける時は、ほとんどの場合が横にずれる、まれにしゃがむことはあってもそれは視界から完全に外れることはない。視界の何処か隅には残る。もちろんそうなる原因は明確で、人間のジャンプ力と地面が関係している……といえば誰でもわかるだろう。
ならどうする? ……自分がより高く上がれば地面との間の高低差は広がり相手の隙をより突くことができる、これが答えだ。
しかしこの戦い方には穴がある。自分も人間だからそれなりにしかジャンプできない。もちろん俺が天地鳴動を完全にものにするにあたって最大の壁だった。
これを解決することができたのは俺が中学に入ってすぐのころだった。中学に入ってすぐ、俺はまだ「あの事件」を完全に払拭することができず、女子はおろか男子ともあまり話さずふさぎ気味だった。そんな俺が学校で部活動をするとかそんなことはなく、ただ放課後は毎日筋トレと体力づくりの毎日だった。
そんな俺を見かねてか、親父は俺にある人物を紹介した。名前を「土屋原 カケル」、歳は15の高校1年。親父の親友の息子らしいが、その人は高1にしてパルクールのトレーサーだった。当時の俺はパルクールという単語すら知らず、どうせすることないなら何かスポーツでもやってなという親の目論見かと思った。
が、実際にパルクールをみて、俺は完全にこれだと思った。狭い足場から足場へ、高い場所
への跳躍、アクロバット………まさに俺が求めていた戦い方の一つだった。それから俺は(敬意をこめて)カケル先輩とパルクールの練習を続けた。街中であったり、学校の屋上であったりもとより鍛えていたのもあって、どうにか形にはなるほどになった。半年もたたないうちにカケル先輩はどこかへ行ってしまったが…………
とはいえ、カケル先輩のおかげで天地鳴動のいわば「天」が成り立ったのだ。
じゃあ「地」は? 答えはコウタとハルに教えてもらったブレイクダンスのパワームーブだ(説明が雑? 知らんな)。
こうやって完成した天地鳴動。その全身全霊をもってしても仮面の女プログレスに奇襲で勝てなかった。
多分プログレスは一般的な攻撃なんて多少ひるむくらいでしかないんじゃないかと思う。でも一時的に俺の攻撃は通っていた。つまり俺の特訓が足りていないことを暗示して
「ちくしょうっ…………もう女のいうことなんて聞きたくねえんだよっ………!」
観念して目を瞑る。が、いつまでたっても攻撃してこないどころか何も起こった音がしない。恐る恐る目を開くと、さっきまでの光景は何処か、ばらばらに砕けた仮面と、倒れこんだ女が6人、そして…………
「久しぶりだなぁ、女嫌いのシオン。」
「カケル先輩!?」
俺の目の前に立っていたのは数年ぶりにあった、土屋原 カケル先輩そのものだった。
「何でこk」
「話はあとだ、ここにはいずれ風紀委員がやってくる。そうなったらおちおち話もできん。…………まさか、腕は落ちてないだろうな?」
それだけ言って白黒のみで彩られた仮面を投げつけてくる。というか、「腕は落ちてないか」って、もしかして今から移動する場所って…………
安易に想像できた俺は慌てて荷物をとる。手甲はあえて外さず、かわりに靴の紐をきつく縛る。仕上げに仮面をつけて
「準備できましたよ。」
「じゃあ、逝こうか。遅れるなよ!」
すでに太陽も高い位置につき、多くの人(女性)はレストランだったりカフェテリアだったりする場所で一息つくころ、おしゃれな街の中を風のように駆け抜ける二つの影があった。
もちろん土屋原 カケルと俺だけど。
森を抜けて街中に入るまではよかったんだ、誰もいなかったし。問題は商店街……と呼ぶには少しおしゃれ過ぎるが(入口にクリスタルモールって書いてるからここはスいう名前なのか)、そこに入る瞬間にカケル先輩がいきなりエアリアル→フラッシュキックをノータイムでかましたのが問題だ。
どんな技かは置いておいて、問題点が二つ。一つは、初回の技にしては随分と張り切った流れだ。ひとつひとつは出来るとしても、まさか小休止もなくとは思わなかった。
もう一つの問題は、いきなり街中でそんなことをすれば絶対に目立つことだ。俺は現在の立場としては脱走した身である。いくら仮面をつけているとはいえ、止められてしまえば身元がばれる。もし万が一、億が一にも妹かあの幼馴染に見つかりでもすれば仮面なんて関係なく一瞬でばれる。
が、ここまできてしまえばもう迷っても仕方ない。こうなったら近づきづらくなる技をするしか! そう思って俺が出した答えは、ライズ→猫宙だった。これなら見た目もよいうえに近づけない。
「(いいねぇ、気合入ってるじゃん。)」
誰のせいですか誰の! 心の中で毒づきながらも必死に追いかける。
一応俺と先輩の間にはあるきまりというか約束がある。それは、技の個数を統一にすること。さっきの場合は技を2個連続、といった風に。もう一つは、「バク転」の禁止。これは特に何かあるわけでなく単なる縛りプレイなだけだ。
と、気を抜いてる隙に先輩は近くの街灯を使ってウォールインワードサイドフリップをし始めた。いや、頭おかしすぎでしょ。流石に壁でするような技は壁でしましょうよ。
それにしてもさっきからおかしい。人はたくさんいるし賑わってないわけじゃない、けど、さっきからすんなりとパフォーマンスができるというか、俺たちの進行方向に人がいない……?
「(カケル先輩、青藍島の人ってパルクールに理解のある人なんですか? どうにもさっきからすんなりと技ができるんですが。)」
「(あぁ、それなら実はすでに島全体に連絡していてね。今日ちょっとしたストリートパフォーマンスをするって事前に言ってあるから。)」
なるほど、確かにはじめに言っておけばある程度注意は出来るからな。だがそれにしても、普通はそんな連絡してもすんなりと意見は通さないはずなんだが。
「(もしかして先輩って結構この島で役職高かったりしてます?)」
「(そんなわけないじゃん、これでも青藍学園中退してるし。その辺はあとで話す。それより、そろそろここの中央広場につくから準備しな。もうちょっとだけ付き合ってもらおう。)」
そしていうことだけ言ってサイドフリップ→サイドスワイプと技をつなげていくカケル先輩。多分だけど先輩にとってアクロバットは呼吸と同義なんじゃないかと思うんだ。
正直この島から脱出しにくくなるからこれ以上は目立ちたくはないのだが、ここまで来たから先輩のいう通りにしておくか。
…………それよりもさっきからかすかに聞こえる叫び声にもならない悲鳴が気になるけど、まあいいか。
今回出てきた技についてですが。そもそもわたしはパルクールしたことない(表現合ってるのかわかんないですが)し、これらの技は出来ません。YOUT○BEで「パルクール 技」とか「アクロバット 技」で調べたら映像は出ます。が、一応文で説明します。
エアリアル=手を使わない側転
フラッシュキック=バク中の足を縦に広げるバージョン
ライズ=体を横に寝かせて一回転
猫宙=側転→足をたたんで側転
サイドフリップ=足をたたんで側転
サイドスワイプ=体を横に寝かせて足を広げて一回転
ウォールインワードサイドフリップ=壁を足でけってからサイドフリップ
…………私の語彙力と観察力では実感わかないと思うので、気になったら適当に調べてください(丸投げ)
もしこんな作品を読んでいただいてる人の中にアクロバットガチ勢がいて、「この説明よりは……」という方がいれば指摘お願いします。