マシュの姉が逝く【完結】   作:VISP

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間が開き過ぎィ!
いや、ガンオンとFGOのイベントがあって仕方なくですね(言い訳

予想以上に長くなったので、中国編のみ三部構成でお送りします。


リクエスト番外編 ×うしおととら 中国編 中編

 煙を利用した物見台による知らせにより、遂に都への獣の到来が告げられた。

 丁度宮殿では獣対策に国中の鍛冶師達が挙って集まり、自らが打った神剣を掲げ、帝からの言葉を授かっていた。

 

 「今宵、遂に方々を荒らし回った獣がこの都に、この宮殿に、我が妃を狙ってやってくる。この場に集いし鍛冶師達が力を振り絞った多くの神剣は全て、この日のためのものである!お前達の神剣は近衛の腕利き達に持たせ、必ずや獣を討つ一助となるであろう!見事獣を討ち果たせば、この戦いに参加した全ての鍛冶師と兵達に恩賞を与える!各自、一層奮起せよ!」

 

 兵達と鍛冶師達から歓声の叫びが上がる。

 しかし、妃の顔色は晴れず、その顔を見ている姫君の顔もまた不安に曇っている。

 そして、それに気づいた数少ない者、異なる時から来た少年もまた、言い様の無い不安を抱えていた。

 妃は知っているのだ、この後起こる惨劇に。

 今宵、この楽しい夢が終わってしまう事に。

 自分が歪めてしまったが故にやってくる揺り戻しに。

 その被害を少しでも減らすためには、己の命を費やす必要があるのだと。

 サドゥは知っていたのだ。

 

 

 ……………

 

 

 妃曰く、その獣は「不死身であり、口から炎を、鬣から雷を放ち、寅の様な模様をして怪力で、しかし鳥よりも遥かに速く空を飛ぶ。あれを殺す事は誰にも出来ない。」

 それを兵士達は、将達は、鍛冶師達は聞かされていた。

 しかし、如何な化け物であろうと、精鋭である近衛を中心に編成され、鍛冶師達が精根込めて鍛え打った神剣を持った彼らは勝てると思っていた。

 そう思い込んでいた。

 

 「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ーーッ!!」

 

 だが、日没と共に彼方より飛来したその獣の咆哮により、その場にいた全ての者が魂消た。

 黒い毛皮に黄色の縞が走ると言う独特の逆寅縞、獅子とはまた異なる長い鬣を持った獣は、その咆哮で無防備にも動きの止まった討伐軍に対し、その口から熱線の様な炎を吐き出した。

 その一撃で、炭も残さず多くの者が絶命していき、あっと言う間に軍は壊乱状態となる。

 だが、今の一撃で死ねた者は幸運だった。

 

 「熱い熱い熱い熱いィィィィィッ!!」

 「誰か、誰か消してくれぇぇェェ!!」

 「来るな、来るなァァァァ!!」

 

 生きながら炎に巻かれ、消してくれと他の生き残りに縋りつく者が多く出て、指揮系統は完全に崩壊し、組織的な行動はあっと言う間に不可能となっていく。

 

 「■■■■■■■■■■■…!」

 

 それすらも目障りだと言わんばかりに、獣の鬣から雷が発生し、全方位へと降り注ぐ。

 床や柱を光速で這う雷を避ける術など無く、辛うじて炎から逃れた者達もその電撃により身体を内側から焼かれるか、その心臓を強制的に停止させられていく。

 閃光に目を塞いでいた帝が目を開いた時には、生き残りは殆どいなかった。

 接敵から僅か1分。

 それが彼が持てる権力の全てを使って揃えた戦力が全滅するまでの時間だった。

 

 「■■■■■■■■■■■■………。」

 

 ずしゃりと、獣が揺らぎない足取りで近づいてくる。

 それを見て、帝は死の恐怖に耐えながら、何とか妃と娘が逃げる時間を稼ごうと、腰の剣に手を伸ばした。

 

 「いいえ、貴方。ここまでです。」

 

 だが、その決死の行いは他ならぬ妃によって止められた。

 ぐらりと意識を失い、倒れ込みそうになった帝を、妃は易々と受け止め、娘へと託した。

 

 「白、お父様を連れて、此処から逃げなさい。」

 「お母さまは…!」

 「行きなさい。その人を死なせてはならないのですから。」

 「やだ、だって、お母様は…!」

 「ダメだ、お姫様!今は行くんだ!」

 

 そこに何とか生き残っていた少年が加わり、帝を背に負ぶって姫と共に駆け出す。

 後には、獣と妃だけが残った。

 

 「ありがとうございます。待っててくれたんですね。」

 

 獣は語らない。

 言葉は既に忘れ、大切な記憶は彼方で、最早何のために生きているのかすら曖昧だ。

 だが、用があるのは目の前の女だけだと言う事は、辛うじて分かっていた。

 

 「では、始めましょう。」

 

 妃が告げると同時、その姿がブレる。 

 同時、その姿が大きく膨らみ、その姿を変化させた。

 

 「「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!!」」

 

 全長10mを超える、漆黒の毛並みの獣。

 身体と同じ程の長さの三本の尾を持ち、それを自在にしならせ、鋭い爪を備えた四肢は力強く宮殿の床を踏み砕いて屹立する。

 此処に、同種である二頭の獣が揃った。

 だが、二頭は兄弟でもなんでもない。

 果たすべき因縁のある嘗ての宿主と寄生者、つまりは宿敵に他ならない。

 直後、咆哮と共に両者は炎を吐き出し、宮殿を真っ赤に燃え上らせた。

 

 

 ……………

 

 

 「あぁ、都が…。」

 

 避難する民達から、無念と諦観、悲嘆と絶望の声が上がる。

 二頭の黒い獣達の戦いの余波により、ここ10年で大きく発展した都が滅んでいく。

 よくある国の終わり、妖魔による災害によって。

 

 「お妃様が怪物だったなんて…。」

 

 ふと、誰かがそんな言葉を零した。

 

 「あぁ、そう言えばお妃様はあの獣の事を知ってたらしいな。」

 「今回の騒動も王がお妃を守ろうとして起きたらしいぞ。」

 「そもそもあの獣、どうして此処に来たんだ?」

 「まさか、お妃様が狙いだったのか?」

 

 今の今までサドゥと白に食われ、ほぼ消えていた負の感情が、此処に来て噴出し始めていた。

 

 「じゃぁ、お妃様を差し出していれば…」

 「おい、滅多なことを言うなよ。」

 

 この程度の悪意なら、普段であれば治安への影響も誤差程度だっただろう。

 

 「だが、お妃も、あの女も化け物だろう?」

 

 だが、何もかも無くした人々は、自分達がこんな状況に陥った原因と感情の矛先を求めていた。

 

 「化け物は皆殺すべきだ。」

 「あの女を殺せば、獣もいなくなるかも。」

 「あの女を差し出せば、獣も何処かに行くだろう。」

 

 そんな憶測と願望と希望的観測の混じり合った妄想を抱いて、彼らは行動を始めた。

 始めてしまった。

 それがこの国の本当の終わりに繋がる行為だと、知りもしないままに。

 

 

 ……………

 

 

 「■■■■……■■■■■…………ッ!」

 

 (これ以上は無理か…!)

 

 都中を飛び跳ね、炎と雷を放ち、爪と牙と尾を唸らせて戦う両者だが、既に勝敗は見えてきた。

 即ち、小柄な方、嘗てシャガクシャと呼ばれた者の勝利である。

 とは言え、彼の目的からすれば、それを勝利と呼んで良いのかは不明であるが。

 

 (戦わなくなって長すぎちゃったか…。)

 

 嘗て人類史を救う旅をしていた頃、その直後の人類を滅ぼす災いとなった頃なら、この程度の連続戦闘でどうこうなる事は無い。

 しかし、余りにも永く戦闘から遠ざかり、子供を産む事で力の過半を削がれた今となっては、目の前の準大英雄級の怪物であっても、今の自分には荷が重すぎた。

 

 「■■■■■ッ!!」

 「ガッ!?」

 

 思考が逸れた事を感じ取ったのだろう。

 シャガクシャだった逆寅柄の獣は一瞬の隙を突く形で、三尾の獣を地へと叩き落し、眼下の市街地へと突っ込ませた。

 

 「ぐ、が、ッ…!」

 

 身体がバラバラになりそうな衝撃に何とか耐え、三尾の獣は起き上がろうとするものの、良い所に貰ったのか、身体に力が入らない。

 

 (ダメだ、ここじゃ…!)

 

 見れば、近くには未だ避難の完了していない市民がいる。

 だと言うのに、シャガクシャは雷を放つべく、その鬣から激しい紫電を発している。

 

 

 「お母様!?」

 「行っちゃだめだ!」

 

 見れば、避難していた筈の娘が、すぐ傍へと駆けよって来ようとしていた。

 夫である皇帝は部下達に止められているものの、二人の避難を手伝ってくれた少年もまた手を伸ばして駆けよってきている。

 

 

 (潮時、かなぁ。)

 

 深窓の令嬢どころか一国の御姫様なのにお転婆な娘に苦笑を零しながら、サドゥは最後の行動に出た。

 

 

 ……………

 

 

 潮は見ていた。

 お妃が変化した三尾の獣の向こう、未だ自分を知らないトラが、全力でこちらに雷を放とうとしている所を。

 

 「娘を頼みます。」

 「え」

 

 綺麗な声が告げると同時、三尾の獣は閃光と共に放たれた雷の前に身を晒し、己自身を盾にして、娘と自分を守った所を。

 全身を雷が舐め尽くし、その夜空の様な綺麗な毛皮が焼かれ、その下の肉が爛れていく様を。

 妖力の証であった尾も千切れ、焼け落ち、一本だけになる様を

 余りのダメージに最早立っていられなくなり、力尽きる様に倒れ込む所を。

 一人娘である姫と共に、間近で。

 

 「■■■………。」

 

 唸り声と共に、歩み寄って来た獣がその右手の爪で止めを刺そうと振り被る。

 だが、誰も何もできない。

 神剣も、近衛兵も、呪術師達も太刀打ちできず、ただ目の前で妃が殺される所を見るしかできない。

 その次が自分である事を知りながらも、彼らは皆無力だった。

 

 「■■■■ッ!!」

 

 そして、爪が振り下ろされる瞬間、

 

 「残念。」

 

 ドスリと、肉を何かが貫いた音が二重に響いた。

 

 「■、■■■ッ!?」

 「私、痛いのは慣れてるんだ。」

 

 アベンジャー・アンリマユのデミサーヴァントであったが故に、サドゥ・キリエライトと言う女性は、苦痛に対して高い耐性を持つ。

 それが既に死に体であった彼女に最後の一撃を放つ程度の余力を残させていた。

 最後に残った一本の尾。

 それに己が最後の魔力と呪詛を収束させて、自身が爪で引き裂かれるのと同時に相手の心臓目掛けて放つ。

 渾身の死んだ振りによって成功したその一撃は、胸板から背中にまで完全に貫通し、心臓と肺、背骨を、即死するレベルで損傷させた。

 だが、

 

 「■、」

 

 それだけでは、嘗て英雄であった獣は止まらない。

 

 「■■■■■■■■■■■■■ッ!!!!」

 

 心臓をぶち抜かれてなお猛る成れの果てに、しかしサドゥは動じない。

 

 「うん、知ってた。」

 

 直後、心臓に突き刺さっていた最後の尾が爆裂し、獣の上半身を内側から爆砕させた。

 

 

 ……………

 

 

 「お母様、お母様!」

 「しっかりしろお妃様!今医者呼んでくるから!」

 

 二人の子供が必死に自分に声をかけてくる。

 だが、その声はどんどん遠くなっていく。

 仕方ない、現界維持のための力すら完全に注ぎ込んだ一撃だった。

 そうなれば、自滅するのは必然だった。

 だが、それでもこの命は惜しくなかった。

 

 「サドゥ…。」

 「貴方…。」

 

 夫と娘、そして二人を守ろうとしてくれた優しい少年。

 都は守れなかったが、彼らを守れただけでも望外の喜びだ。

 

 「二人共、仲良くね。少年も、国に戻っても元気でね。」

 

 カルデアでレイシフトを行っていたからこそ分かる。

 この少年は此処ではない別の時間の存在なのだと。

 だからこそ、こんな事に巻き込んでしまって申し訳なく思う。

 そして、自分を看取らせてしまった夫と娘にも。

 

 「やだやだやだやだ!お別れなんてしないもん!もう我が儘しないから!早く寝るし、好き嫌いもしないし、勉強からも逃げない!だから、だから…!」

 

 そこから先はもう声として聞こえてこない。

 ただ、娘と夫の頬から流れるものをもう止められないのが悲しかった。

  

 「さようなら。今まで幸せだった。ありがとう。」

 「わた…し、も……」

 

 

 

 しあわせでした

 

 

 

 それがサドゥ・キリエライトと言う人間の、死を望み続けてきた女性の、最後の言葉だった。

 

 

 

 

 




なお、FGO今回のガチャで1万課金して無事マーリンと剣オルタ引きましたw

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