なお、本来想定していたルートがこちらになります。
その日、カルデアは敗北した。
ビーストⅢ「アンリ・マユ」撃滅作戦に、聖杯の使用許可が降りなかったからだ。
国連は単にブービートラップを警戒して、そして魔術協会は根源到達のための近道として、聖堂教会は主の奇跡を騙る贋物として、それぞれの理由で反対し、終に纏まる事はなかった。
だが、カルデアは最後まで足掻いた。
幸いにも、固有結界や結界宝具といった代用品となるものは多くあったが故に、補充したマスター達と共に、ビーストⅢに決戦を挑んだのだ。
信長が、エミヤが、二人のネロが、ナーサリーライムが、征服王が、アステリオスが、その宝具の中に閉じ込め、カルデアの全戦力で以って攻撃を開始した。
しかし、封じ込めが完全でなかった故に、ビーストⅢは囲いを次々と突破していく。
そこには新規のマスター達同士の連携の欠如、何よりビーストへの恐怖故に心の均衡を失ったがために、その対応は一人を除いてお粗末なものだった。
当然の結末だった。
彼・彼女らは人理と真っ向から向き合った訳ではなく、ただ選ばれたからこの場に立っていただけなのだ。
それも、多くはプライドの肥大した名門の魔術師か、マスター適正はあるものの数合わせの三流魔術師だった。
当然の様に、藁の様に、塵の様に、彼らは蹴散らされた。
最終的には自壊を厭わぬ槍の騎士王二人が展開した聖槍の外郭に閉じ込められ、世界の外側へと放逐されかけるも、全身に纏った呪詛を全方位に放出、自身にかけられた多くの呪詛や拘束を汚染し、終に自由を手にしてしまった。
それから先は蹂躙だった。
そもそも、殺した所で死なない怪物に、幾らでも蘇るとは言え、限りがあり、タイムラグもあるサーヴァント達では太刀打ちできない。
多くのマスター達が討ち取られる中、それでもカルデア最高のマスターは彼自身の練度と英霊達の実力と連携により離脱に成功した。
それを追う事もせず、ビーストⅢは彼方へと飛び去っていく。
まだまだ、彼女が滅ぼすべき悪はあるのだから、油を売っている暇など無いと言う様に。
悠然と呪詛を尾の様に棚引かせながら去っていった。
……………
敗北したカルデアを待っていたのは、彼らが守るべき人々からの罵声だった。
国連、魔術協会、聖堂教会。
足を引っ張った事すら忘れて、外敵から目を逸らす様に、彼らは内輪揉めに終始した。
特に魔術協会は根源到達のために、もう一度世界を滅ぼす事すら視野に入れている節もあり、殊更にカルデアへの追求が苛烈だった。
だが、そんな悠長な真似ができる時間は、すぐに過ぎ去った。
ビーストⅢが顕現して一ヶ月。
人類は、その総数を10億人にまで減らした。
多くの「悪性」を持った人間は、獣によって狩り尽くされ、国連も魔術協会も聖堂教会も、既に組織としての体を成していなかった。
そして、人類の中の悪性の総量が減ったが故に、ビーストⅢは弱体化していた。
これを好機と見た米軍の生き残りを中心とした国連軍は決戦部隊を編成、前線部隊の全てを囮にして、残存する核保有国全ての核ミサイルをもってビーストⅢを撃破する計画を立案した。
無論、残った各国政府から反対が相次いだが、追い詰められた米大統領(繰り上がりの元国防大臣)を始めとした強硬派を抑えられず、特に人口が希薄となった中国の北京にて決戦が行われる事となった。
これにカルデアは反対するものの、既に誰もが聞く耳を持たなかった。
彼らは、余りに政治力が無かったのだ。
結果だけ言えば、国連軍は全滅した。
囮となった残存部隊も、発射された総数500を超える核弾頭も、その殆どが役目を果たした。
だが、ビーストⅢに恐怖を憎悪を持つ人々がいる限り、第三の獣は不滅なのだ。
七度に渡って核ミサイルの熱量で消滅しながら、七度とも蘇ってみせた獣は、再び世界を巡って、自身に悪を向ける者達の所へ赴いた。
……………
カルデアが戦力の再編を完了し、ビーストⅢを確殺し得る準備を終えた頃には、人類はその文明を維持できるだけの力を無くしていた。
これにより、本来連鎖召還される筈の他のビースト達が登場するまで、100年単位での時間が稼がれた事となるが、生き残った者達にとっては何の慰みにもならない。
そんな状況で、それでもカルデアは、藤丸立香は折れなかった。
嘗て世界の滅んだ様を見ていたカルデアの生き残り達は、己に課した役目の下、もはや国連組織としての楔を脱した今もなお、成すべき事を成した。
例え、全てが手遅れだと分かっていても、それでも、彼らは成した。
ビーストⅢ、この世全ての悪。
彼の愛した姉妹の姉、その成れの果て。
往時に比べれば無人と言ってもよい状態の星の上で、七つの聖杯によって作り出された檻の中で、彼らの最後の戦いが始まった。
……………
血の様な夕焼けが大地を照らす。
周囲一帯は瓦礫すら消し飛び、クレーターや捲り上がった大地と呪詛が散らばるばかりだった。
そんな惨状の中、獣に止めを刺したのは、マスターである藤丸立香だった。
馬乗りになった状態で、礼装たるアゾット剣を心臓に突き刺し、その霊核を砕いていた。
「あぁ…ありがとぅ…りつか…。」
ざらざらと、灰すら残さず消えていきながら、獣の少女は微笑みながら礼を告げた。
「サドゥ…僕はっ…ぼくは…!」
なんで、なんで、なんで、自分は……
ボロボロの身体で、止め処なく流れる涙を拭う事もせず、立香は臆面もなく泣き叫んだ。
「君を…殺したくなんてなかった…!」
立香は、サドゥを愛していた。
子供の様な身体で、誰よりも前に出て、自分とマシュを見守ってくれて、最後まで自分を守って消えていった彼女の想いに、少しでも報いたかった。
「わたしも…り…かが…みんなが…」
既に一分も経たずに滅びる状態で、それでも彼の想いに少しでも応えるために、サドゥは必死に言葉を紡いだ。
「愛してる!愛してるんだ!ボクは、君が」
「わたしも、だいすき」
微笑んで告げられた言葉を最後に、少女は灰も残さず消え去った。
「あ、」
パキンと、何処かで何かが折れた音がした。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ---ッ!!」
慟哭が誰もいなくなった荒野に長々と響き渡る。
最早それを聞く人も獣もなく、ただ一人の少年の心が砕けた音が響くだけだった。
これ以後、人類は大きく衰退するものの、各地に突如出現した「過去の王」を名乗る人物達に統治され、徐々に繫栄を取り戻す事となる。
しかし、地球上の人口が嘗ての最盛期に戻る事はなく、全ての地球上の資源を使い尽くす前に宇宙開発が始まり、月面や火星への移住が始まる事となる。
だが、今度はその移住先の先住生命体との果てしない戦いが幕を開ける事になるのは、まだ誰も知らない。
IFEND 輝きの消えた日 別名「鋼の大地回避ルート」
地球上の電気の輝きと立香の心の輝きが消えた代わりに、程よく口減らしの完了した地球を上手く支配者系サーヴァントの皆さんが治めるエンドでした。
マシュ? 廃人一歩手前の立香の面倒を一生診てました。