別名「冬木市は今」
「今日は市内観光です。」
「姉さん、一体誰に…?」
いや、第四の壁の向こう側の人達にでもと。
“はいはいメタネタ禁止な。”
(ちぇー。)
ともあれ、現在は某市内のショッピングモールを巡っている。
市内の博物館やプール等は後日へ回して、今回はショッピングである。
「こっち、いやこっちも似合いますね。あぁもう着せ替え甲斐がありますねぇ。」
「たすけて。」
「ね、姉さん頑張ってくださいっ。」
現在、藤丸母により着せ替え人形状態です。
誰か助けて下さい。
そもそも、服とか見苦しくない程度で十分なのに、こんな芳香剤の匂いが充満した空間なんていたくない。
「よし、次はこれを着ましょうっ。」
そして渡されたのはフリッフリのたくさんついた白いワンピースだ。
何処か貴族の令嬢、或は花嫁衣裳にすら思えるそれに、つい顔が引きつるのが理解できた。
「あの、お義母さん、そこまでに…。」
「ふふ、マシュちゃんも選んでみる?」
「よ、良いのですか!?」
何と、最愛の妹が裏切りやがりました。
ゴッド、私何かしました?
“いやお前人類悪じゃん。”
(そうだった。)
嫌な目に遭うのも道理だった。
「さぁ姉さん、次はこれをお願いします。」
「待って、マシュ。それはどんな場面で着るの?」
何そのドラクエ的踊り子衣装。
普段から露出激しいんだから、せめて布面積多いのにしてください。
「あらあら、じゃあこんなのはどうかしら?」
奥さん、何でそんな古式ゆかしいセーラー服なんてあるんですかこの店?
「助けて、立香…。」
……………
「父さん、一緒に行かなくてよいの?」
「立香…女性の買い物ってのは、男には何が楽しいのか分からなくなる程に長いものなんだ…。」
「あー…。」
「身に覚えがあるなら止めるな。巻き込まれるぞ。」
「でも、母さんってあんなにはっちゃけてたっけ?」
「そりゃお前が音信不通だったんだから仕方ない。妹も夜には帰ってくるそうだから、それまでには帰る予定だからな。」
……………
同時刻 冬木市 円蔵山 地下大空洞
「で、どう、キャスター?」
「大丈夫よ。これで解体完了ね。」
そこには数人の人影があった。
一人は紫のローブを頭から羽織った女性。
もう一人は見事な黒髪とやや慎ましい肢体を持った女性。
どちらも優秀な女魔術師であり、十数年前に開催された聖杯戦争に参加していたと言う共通点を持っていた。
「見事なものね、流石は神代の魔術師。」
「あら、お嬢ちゃんだって以前よりも腕が上がってるわよ?まぁ私程じゃないけど。」
「ふん、言ってなさい。」
その名をキャスター・メディア。
もう一人は遠坂凛。
一人は英霊で、もう一人は生者で。
しかし、そのどちらも、この土地とこの土地で行われた聖杯戦争に縁深い二人だった。
「にしても、人理焼却ねぇ…。」
「信じ難いでしょうけど、事実よ。そして、それは今もなお完全に終息していない。」
「でしょうね。貴方達英霊を、こんな大量に呼び出す事が出来ているのだから。」
十数年前の開催を最後に、聖杯戦争が最早行われないこの土地で、今現在8騎もの英霊が活動していた。
即ち、アーチャー・エミヤ、ランサー・クー・フーリン、セイバー・アルトリア、ライダー・メドゥーサ、アサシン・佐々木小次郎、キャスター・メディア、キャスター・ダヴィンチ。
そして追加でもう一人、カルデアから大聖杯の調査目的で派遣されていた。
無論、事前にセカンドオーナーである遠坂家に許可を取ってからだ。
目的は嘗て特異点を形成するに至ったこの場所で、何らかの歪みが起きていないか、或はその兆候や原因と成り得る事象はもうないのか、その確認だった。
何せ、この場所は現代に続く聖杯降臨の儀式の場だった故に。
「それに、墓参り位はしたかったしね…。」
嘗てメディアのマスターだった男は、もういない。
第五次聖杯戦争において、彼は戦死した。
「所で、坊や達は?」
「桜の見舞い。あの子も回復したとは言え、まだまだ本調子じゃないし。」
冬木市。
態々此処に調査だけでなく、戦力となるサーヴァントまで連れて来たのは、戦闘となった場合を考慮しただけではない。
もう一つ、特異点形成の原因となる人物を排除しに来たのだ。
その名は間桐臓硯、またの名をゾォルケン。
この世全ての悪の廃滅を掲げながら、魂の劣化により人食いの怪物、死徒と成り果てた魔術師である。
この人物、何と騎士王と同じく、二度も特異点形成に関わった人物でありながら、英霊である騎士王は兎も角、未だに存命していたのだ。
しかも、調べれば調べる程に典型的な外道であり、定期的に人食いをしながら、今日まで生き永らえていた。
その期間、遠坂家の先祖の記録によれば、実に100年以上に及ぶ。
調査の結果、確たる証拠も上がり、遠坂家当主と聖堂教会の認可の下、英霊を動員してまで徹底した消毒作戦が展開されたのだった。
「士郎は士郎で、あの子に負い目があるだろうしね。後は…」
「あの看護婦の監視ね。」
不意に、二人の眼が遠くなる。
この二人をして、それだけのあの「人の意志の極致」、その一角は恐怖の対象だった。
『治療を妨げる者には死を!全ての患者を救うため、私は悪魔にでもなりましょう!』
『何ですか、この害虫の山は?不衛生です、殺菌します!』
『私は貴方を救います!そう、貴方を殺してでも!』
『すべての毒あるもの、害あるものを絶ち、我が力の限り、人々の幸福を導かん…『我は全ての毒あるもの、害あるものを絶つ』――!!』
全ての毒性並び攻撃性を無効化された空間では、長い年月を経た老練な魔術師の工房も、地下空間全てを満たす蟲の群れも、そこにいた重症患者を盾にした人質も、一切の意味を成さない。
逃げようにも事前にメディアによって構築された結界が張られてしまえば、最早宝具か冠位指定魔術師、或は超級の存在しか逃げ出す事は出来ない。
結果、間桐邸は全ての防備・迎撃を濡れた障子紙の様に突き破られ、更にエミヤの絨毯爆撃とメデューサの宝具により、魔術的にも物理的にも完全に焼却され、綺麗にされ、臓硯は念入りに滅ぼされた。
辛うじて各種資料は回収できたものの、それは両協会と遠坂家、カルデアによって解析にかけられる予定だ。
そして、生き残りにして被害者でもある長男と養子の娘は、遠坂家が責任を持って預かる事となった。
無論、その体内に潜んだ蟲も、万能の天才と神代の魔女、クリミアの天使により、完全に除去された上で、だ。
「無理させずに止めてくれるのは良いんだけど、ね…。」
「止め方が過激すぎるでしょう。鼠を殺すのに爆弾を持ってくる様なものよ。」
現在、ナイチンゲールは全身の蟲を摘出した後、経過監査のために入院となった桜の監視をしている。
序でに病院の医療体制の監視もしているため、医療関係者はその言動とプレッシャーに大変胃の痛い思いをしていたが。
そして、そんな冬木の人々を助けるため、今日も正義の味方志望の魔術使いは必死にナイチンゲールの暴走を止めている。
まぁ最終的にはブレーキを少しかける程度でしかないのだが。
「ま、これが終われば冬木も静かになるでしょ。」
「そう願いたいものね。」
そう言って、女魔術師二人は取り戻した未来へ思いを馳せた。
……………
「何ですかコレは?院内に酒類は持ち込み禁止です!」
「わわわ待ってくれ!これはオレじゃなくて藤ねぇが…!」
「せ、先輩―!?」
今日も、冬木市民病院は賑やかだった。
前半…国内某所、ガチャ丸一家+2
ご両親は既に四十台
後半…冬木市、この世界線のStay night勢
時系列はFGO準拠、なので皆三十路
この作品はFGO世界線ですが、なおかつ冬木で聖杯戦争がずっと行われていたStay night時空とも連結したものと言う設定です。
こちらの説明不足があった事を、この場を借りてお詫び申し上げます。