マシュの姉が逝く【完結】   作:VISP

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ギャグなのかシリアスなのか(困惑


番外編3 100の方法

 これはカルデアが混乱から回復してから一週間、初の国連及び両協会からの査察を受け入れた時の記録である。

 

 

 便宜上旧館といわれている、人理保障継続機関カルデアの本館にて、人理焼却を始めとした一連の事件への説明を求めて、国連及び魔術協会、更に聖堂教会からの人員が大会議室に集まっていた。

 

 「さて、大凡の説明が終わったので、これから実際に施設全域の査察となるのですが…その前にこれを熟読して頂きます。」

 

 オルガマリーの言葉と共に、とある冊子の資料が全員に渡された。

 突然の事に訝しげな査察メンバーだったが、その資料のタイトルを見て呆気にとられた。

 

 「カルデアで生き残る100の方法」

 

 明らかに冗談かギャグの様なタイトルだった。

 

 「…ふざけているのかね?」

 「ふざけてなどいない。これは純粋に必要な処置だ。」

 

 そう告げたのは、時計塔にいる筈なのに何故かこの場にいる名講師だった。

 

 「どういう事ですかな、ロード・エルメロイ?」

 「二世をつけて頂きたい。端的に言えば、カルデアのサーヴァントは色々と問題を抱えた個体が多いのです。」

 

 そして、資料の1ページを示しながら、二世は分かり易く解説していく。

 

 「人理焼却という未曾有の大災害を前にして、ほんの数騎のサーヴァントでは戦力は足りな過ぎる。故に多くのサーヴァントを召喚、片っ端から契約していったのだが…残った職員は30にも満たなかったのに対し、サーヴァントの数は100を超えて久しい。だと言うのに、令呪を三画しか持てぬマスターは未熟者一人だけだった。」

 「まさか、使い魔を野放しかね?」

 

 苦々しい顔で頷くエルメロイ二世に、査察団の代表は驚きと共に納得する。

 強大な力を持つ英霊、それを律する令呪。

 しかし、余りにも数の多い英霊に、回復可能とは言え令呪だけでは命令を徹底する事はできない。

 加えて、対魔力の高い英霊は令呪にすら逆らう事ができるし、宝具やスキル次第ではそもそも無効化されてしまうだろう。

 

 「令呪による強制は強力だが、その分遺恨も残る。だからこそ、カルデアは彼らの意思を可能な限り尊重する形で運用するしかなかった。反乱でも起きれば、その時点で人類が滅びる故に。」

 「そこでこの冊子ですか…。」

 

 英霊達が闊歩するカルデア新館では、この冊子が無ければ生き残れないと言う事だ。

 成る程、話は分かった。

 だが、内容が余りにも問題すぎた。

 

 

 1、清姫の前で嘘を言ってはいけません。焼け死にます。

 

 …初っ端から危険すぎた。

 

 「今はマスターとの交流である程度丸くなったのもあって、冗談や比喩表現と言えばある程度は切り抜けられる。」

 「…次に行きましょう。」

 

 

 2、クー・フーリンに犬の話題を振ってはいけません。刺し殺されます。

 

 「これは逸話的に納得、ですかな?」

 

 まぁ犬肉関連のゲッシュで追い詰められたので、仕方ないのだろうが。

 

 3、ファラオ系英霊にピラミッド発掘の話をしてはいけません。エジプト政府関係者及び考古学者が死にます。

 

 「ちょっと待て。」

 「墓荒らしとそれを許可した者など、間違いなく殺されます。」

 「…次に行きましょうか。」

 

 

 4、新館最下層に入ってはいけません。死にます。

 

 「これは…?」

 「最下層には特に危険なサーヴァントが何体か隔離されています。近づいただけで殺されます。」

 「何故そんなサーヴァントと契約を…。」

 

 

 5、王・皇帝等の支配者階級出身の英霊には礼儀正しく接しましょう。しなければ無礼打ちで死にます。

 

 「まぁ不思議ではないですな。」

 

 

 6、影口を叩いてはいけません。死にます。

 

 「いきなり!?」

 「アサシンも多数在籍しているので…。」

 

 

 7、餌付けしてはいけません。破産して死にます。

 

 「これ、は…?」

 「一部のサーヴァントは現代の食事をとても好んでいまして。更に直ぐに魔力に分解されるので、それこそ無尽蔵に食べるのです。」

 

 アルトリアに餌をあげないでください。

 

 

 8、鬼系サーヴァントと二人っきりになってはいけません。死にます。

 

 「鬼と言うと、極東の?」

 「人食いの怪物ですな。此処にも二体いますが、酒呑童子は本当に何時裏切るか分からない。」

 「だからどうしてそんなサーヴァントと…。」

 「戦力が無かったんです…。」

 

 頭の痛い話だった。

 

 

 9、お茶会に参加してはいけません。死にます。

 

 「………。」必死に頭痛を堪えている

 「一部の英霊が、お茶会と称して自身の固有結界内に引き込んできます。」

 

 

 10、訓練に参加してはいけません。死にます。

 

 「これは…」

 「訓練の基準が神代なので、現代の人間には…。」

 「あぁ…。」

 

 

 11、コンサートに参加してはいけません。死にます。

 

 「あのさぁ…」

 「一部、音痴なのに歌が好きな英霊がいまして…。」

 「下手の横好きか…。」

 

 

 12、体調不良を訴えてはいけません。死にます。

 

 「あのさぁ!」

 「フローレンス・ナイチンゲール女史がいます。」

 「あぁ納得した。」

 

 逸話的に納得しかなかった。

 

 

 13、子供を虐めてはいけません。死にます。

 

 「子供にトラウマを持った英霊が?」

 「多数いますな。」

 

 主にギリシャとケルトとブリテンが該当する。

 

 

 14、道化師に関わってはいけません。死にます。

 

 「???」

 「そういう外見の、邪悪な英霊もいるのです。」

 

 

 15、夫婦の邪魔をしてはいけません。死にます。

 

 「夫婦共々召喚されているので?」

 「えぇ。理想王ラーマとその妻、ジークフリートとその妻が。常に一緒で穏やかに過ごしています。」

 

 

 16、令呪を過信してはいけません。死にます。

 

 「本当に、大丈夫、なのかね?」念押し

 「適切に使用すれば大丈夫です。一部は無効化してきますが。」

 「それは大丈夫とは言わん!」

 

 主に魔女とか英雄王とかがいます。

 

 

 17、高圧的に振舞ってはいけません。死にます。

 

 「これ、大抵の魔術師はアウトだと思うのだが…。」

 「そもそも、互いに利益があるからこその主従関係ですので。英霊との契約は通常の使い魔のそれとは全く異なります。」

 

 

 18、特にスパルタクスに主っぽく接してはいけません。死にます。

 

 「逸話的にも駄目だろうな。」

 「本人の思考が反逆一色ですからな。」

 

 

 そんな感じで、解説は続いていった。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 「さて、大まかな説明は終わりましたが、最後のページをご覧ください。」

 

 そこには「超危険!」とデカデカと印刷された文字があった。

 

 「そこにある事を実行に移した場合、ほぼ間違いなくカルデアに属する全英霊が暴走を開始します。それは相手が両協会であっても、国家であっても、国連であってもです。」

 

 ざわり、と査察団が動揺する。

 当然だ。

 お前達の背後の組織が何であれ、舐めてくるなら殺す、と言っているに等しいからだ。

 

 「我々を脅迫する気かね?」

 「そんな益のない真似はごめんですな。」

 

 代表者からの詰問を、二世はサラッと流した。

 

 「このページに書かれている事が実行された場合、カルデア側がどうした所で、英霊達の暴走は収まらないと言っているのです。例えシステム・フェイトを停止した所で、彼らは独自の術式やシステムを既に編み出している。その気になれば、我々の手を借りずとも現界可能なのです。」

 

 再び査察団が動揺する。

 それは既にカルデアの存在意義を揺るがす内容だった。

 

 「なのに何故、このカルデアが未だ機能しているのか?それは偏に、マスターである少年が英霊達に好かれているからに他なりません。」

 

 最後のページに書かれていた事。

 

 

 100、マスター及びデミ・サーヴァント二人に危害を加えてはなりません。死にます。

 

 

 「彼は魔術師としては素人で未熟です。だが、その精神性、人柄は彼らにとって大変に好みだった。彼が必死に英霊達と職員との仲を取り持ったが故に、今日のカルデアが、人類史があるのです。」

 「成る程、人誑しという事か。」

 

 確かに、英霊と典型的な魔術師では反りが合わない。

 魔術師は基本的にプライドが高く、嘗ての大英雄であっても使い魔としか見做さない。

 英霊もまた、現代の劣化した魔術師風情の命令を素直に聞く程、薄い矜持や自我である訳がない。

 ならいっそ、素人に毛の生えた者の方が、遥かに。

 

 「このデミ・サーヴァントは?」

 「そちらはマスターと共に人理修復の最初から最後まで戦い抜いた、云わば最後の盾であり、他の英霊達からの信頼も篤い。」

 「故に何かあればマスター同様反乱の危険がある、か…。」

 

 世界を救った戦力は、即ち世界を滅ぼしうる戦力に他ならない。

 

 「キャスター達とは交渉次第で技術提供は可能かね?」

 「可能です。無論、対価は必要でしょうが。」

 「ならば良い。」

 

 満足そうに頷く査察団の代表は、魔術協会の所属だ。

 しかし、この場にはそれ以外の面々もいる。

 

 「国連としては使途不明金等はないので、今の所問題は無い。」

 「我々聖堂教会として、聖人系の英霊と一度はお目通りしたいのだが…。」

 

 国連はそもそもからしてカルデアの人理保障継続のための活動の確認のため。

 聖堂教会は魔術協会の監視と政治的理由、そして信仰のため。

 

 「さて、説明も終わったので、今度は新館の方へ行きましょう。皆さん、資料は持ちましたね?もし何かあれば、近くの英霊や職員に声をかけてください。じゃないと死にますので。」

 

 そして、スリリング過ぎる査察が始まった。

 

 

 

 

 後に査察団のメンバーは言う。

 

 「どうしてあそこで帰らなかったかなぁ…」と。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 「ぐが…っ」

 

 雪原に血の花が咲いた。

 よく見れば、そこかしこに同じものが確認できただろう。

 

 「ダメだよ。悪いことしちゃ。」

 

 雪の上で赤い花を咲かせている者達。

 彼らは査察団の受け入れとほぼ同時に現れた、武装集団だ。

 魔術礼装だけでなく、近代兵装も装備した彼らは一流の傭兵達だ。

 だが、彼らは一方的に蹂躙され、死んだ。

 相手が英霊だから?否。

 彼女はそんなモノではない。

 

 「まだ戦いは続くんだから、貴方達に付き合う暇はないの。」

 

 それを成したのは、たった一人の華奢な少女。

 否、外見に惑わされてはいけない。

 その本質は悪神であり、原罪であり、獣である。

 

 「多分ばれてるけど、まぁ良いよね。」

 

 彼らは例えこの場で生かされても、雇い主によって始末されていただろう。

 間違っても英霊の集団と言う悪夢的戦力を敵に回さないよう、その可能性を僅かでも減らすために。

 だが、だが、そんな涙ぐましい努力は欠片も意味はなかった。

 

 「…見つけた。じゃぁ後始末お願いね。」

 

 獣の権能。

 偽りとは言え悪神としての権能により、悪意そのものを辿って、この集団を雇った者との縁を辿り、特定する。

 単独顕現。

 召喚者も維持魔力も必要とせず、人類史の何時何処であっても出現する。

 それは例え遠く離れた時計塔であっても例外ではない。

 

 「もう、悪い子ばかりだね。」

 

 そんな愚痴を溢しながら、少女は姿を消した。

 後に残ったのは死体と、それを貪る残骸の獣だけ。

 だが、それすらも間も無く消え、痕跡も雪が全てを覆い隠すだろう。

 

 

 

 

 翌日、時計塔のロードの一人が謎の死を遂げた事で、一時時計塔は政治的混乱に包まれる事となる。

 

 

 

 

 

 

 

 


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