マシュの姉が逝く【完結】   作:VISP

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番外編 バレンタイン

 

 「姉さん、先輩へのチョコはどうしましょう?」

 

 そう可愛い妹に相談された時、

 

 (あ、忘れてた。)

 “おいおい…。”

 

 完全無欠にバレンタインというものを忘れ果てていた。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 (さて、どうしよっか。)

 

 マシュと共に材料となる食材をレイシフト先で集めながら考える。

 と言うか、立香達に贈るのは良いとして、チョコである必要は無いよね?

 

 “確かにな。他の連中はチョコで良いとして、あの坊主にならそれ以外のも有りだろ。”

 

 と言うか、贈られたチョコ全部を食べたら倒れるんじゃね?

 明らかに個々の量も、贈る人数も多いし。

 そして何より飯マズ勢の存在。

 

 “医務室のベッド予約しておくか…。”

 

 立香の明日はどっちだろう…あ。

 

 “お?決まったか?”

 

 うん、まぁ。

 取り敢えず、詳しそうなノッブに話を聞いてみるね。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 「立香。」

 「あ、サドゥ。」

 

 食堂でどんちゃん騒ぎをしているサーヴァント達を後目に、男性サーヴァント達にチョコを配るためにあちこちを巡っていたマスターは、唐突にサドゥと出会った。

 

 「はい、バレンタイン。」

 「わ、ありがとう!開けても良い?」

 「うん。でも、此処では食べれないと思う。」

 

 そう言って渡された小箱を開けると、一つの茶筒が入っていた。

 

 「茶葉?」

 「抹茶。チョコばっかりで、飽きるかなって。」

 

 と言う訳で、ノッブの協力の下、略式だがお茶を点てる事になりました。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 「お待たせ。」

 「ううん、待ってないよ。」

 

 カルデアにある数少ない和風の休憩ルームにて

 サドゥは態々着物に着替えた上で、立香に茶を点てていた。

 付け合わせの和菓子も、あっさりと頂ける葛餅で、マスターの胃腸と舌を最大限気遣った内容だった。

 

 「どうぞ。粗茶ですが。」

 「あ、ありがとう。」

 

 渡された抹茶を味わう様にゆっくり飲む。

 粉乳等は一切使っていない筈なのに、丁寧に点てられた茶の表面には細かい泡が浮かんでいる。

 味自体は煎茶に比べてかなり苦みが濃い筈なのだが、細やかな泡がそれを和らげ、柔らかな苦みにしてくれる。

 本来は先に食べきるのが礼儀の茶菓子と、交互に少しずつ味わっていく。

 

 「はふぅ…。」

 

 美味い、実に美味い。

 ノッブに以前茶席に呼んでもらった時も良かったが、二人っきりで貞操を狙われずにいられる時間はとても安らぐものがあった。

 だが、立香の思考の半分近くは、美味しい抹茶と菓子以外に向けられていた。

 

 (サドゥの着物姿、だと…!)

 

 マシュも幾度か着せ替え人形にされて、水着やドレスを着た事はあったが、和服というのは余り無かった。

 一応、玉藻や式(暗&剣)、清姫等の着物を着ている極東のサーヴァントはいるが、見慣れ過ぎて新鮮さは無い。

 しかも、サドゥは自分には似合わないと言って、その手の催しの殆どに不参加で、普段のカルデアの制服やデミサーヴァントとしての恰好以外は見た事が無い。

 故に、

 

 (やっぱりサドゥも美少女なんだよなぁ…。)

 

 その着物姿は、超レアだった。

 白からオレンジへとグラデーションの地に濃い紫の帯、紅梅の木に止まる雀が見事に刺繍されており、まるで生きているかの様だった。

 マシュと違ってスタイルは幼児体形(寧ろガリガリ、肋骨が浮いてる)だが、それ故にかえって着物が似合っている様に見える。

 髪もマシュより少し長い位の長さを態々紐で結い上げ、桜の装飾のついた簪を差している。

 また、薄らと施した化粧が大人っぽさを引き出し、更に普段は見えない項が丸見えという点に、立香の思春期らしい部分が大変にドキドキしていた。

 

 (待て待て待て落ち着け。サドゥは純粋な善意でお茶を点ててくれたんだ。こんな邪な感情は良くない!心頭滅却!落ち着け僕の煩悩!)

 

 しかも、サドゥ本人は着物の着つけとかは分からないので、完全に日本系女性陣に任せてしまった故か、自身の魅力とかには一切気づいていない。

 精々が見苦しくない所作を保てているだろうか、と言う程度の認識だ。

 

 (確かに胃腸は休まってる。休まってるけど他に負担が…!僕の理性が…!)

 

 この様に、立香は小一時間程、自身の理性と本能の狭間で苦しんだ。

 

 (良かった。美味しそうに飲んでくれてる。)

 

 ただ、好意に鈍いサドゥはそれに気づかず、終始ニコニコとしながらお茶を飲んでいた。

 

 (プークスクスwwww やっべ腹筋痛いwwwwwwwwwww)

 

 そして、一人全容を把握していたアヴェさんことアンリ・マユは爆笑していた。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 「いやーサドゥちゃんの生チョコ美味いなぁ。」

 「マスター君のと違って、明らかにお義理ですけどね。」

 「彼の方にはチョコ以外なんだっけ?良いなぁ、青春してて。」

 「ははは、後見人やってる僕としてはもう少し我儘言ってくれた方が良いんだけどね、あの二人に関しては。」

 「…所でロマニ所長代理。貴方だけ渡されたチョコの量が我々の倍はあるのですが…。」

 「あ、ホントだ。所長代理だけラッピングも手が込んでるし。」

 「ははは、あぁ見えてちゃんと感謝してるって事なんだろうね。表情が分かり難いけど、やっぱり優しい子だなぁサドゥは。」

 「「「「「………。」」」」」

 「あの、皆?どうしてジリジリと距離を詰めるんだい?なんで壁際に追い込むんだい?」

 「いやーその」

 「私達だけ少ないって」

 「ズルいと思いません?」

 「ねぇドクターロマンティック…。」

 「私達にも、そのチョコ…」

 「「「「「寄越せー!」」」」」

 「ぬわぁ~!?」

 

 そんな職員達の一幕

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 ちょっとだけ補足

 

 1、本編でのサドゥの口調

 最初は無口だったのは、勿論無気力で投げ遣りな精神性の他、爆発で呼吸器系の一部が焼けてたから。

 それ以後は段々と声帯回りの神経が鈍くなっていったため。

 最後の方で口調が普通になったのは、自分の中の悪性(魂の男性部分含む)を消費し尽くしてある程度前向きになった事と、ダメージを完全に無視して崩壊しながら行動してたから

 

 2、サドゥの恋愛・結婚観念

 「こんなガリガリボディ+生気の無い女なんて、誰も見向きもしないでしょ」とか思ってるが、元が十分美少女なので、イケる人はイケる。

 ただ、デミ鯖状態でないと体力が無いので、性交する場合はどうしても受け身になりがち。

 誰であっても、本気で求められれば拒めない。

 ただ、一度関係を持つと、その相手から別れを告げられるまで、ずっと傍にいる。

 基本、どんなものであっても周囲に影響が無く、当人達の合意の下ならどんな在り方であっても良しとする。

 但し、その周囲への迷惑行為は絶対にNG。

 結婚した場合、夫や子供は締める時は締めて、褒める時は褒める。

 相手の悪性を見抜くので、浮気しようものならば、自分はもう必要ないと判断して即効で離婚or雲隠れする。

 子供のためには過労死も厭わない程に働くが、逆にそれが子供の重荷になる場合もある。

 基本的に重い女。

 

 3、立香のサドゥへの感情

 「放っておけない」が一番近いが、本編中最初にお色気シーンを披露したため、どうしても異性として意識してしまう。

 精神性が無垢かつ幼いのに甘やかしてくるため、頼光やブーディカとはまた違ったバブみを感じてしまう。

 多分、割と肉食系なマシュに告白されて関係を持った後、二人してサドゥも引き込むと思われる。

 

 4、アヴェさんの聖杯の使い方

 どう足掻いても欠陥品だったが、出力に関しては本物の神の子の聖杯に並ぶ程だった。

 また、どう願っても破滅する事に関しては「破滅の方向性が内向き」だった事もあり、割と何とかなった。

 但し、効果範囲は終局特異点にいた者全てをほんの少し不幸にする事で、結果的にその願いを叶えている。

 ロマンの場合、ゲーティアと共に消えると言う願いを叶えず、ゲーティアを崩壊させるも自身は死亡(消滅ではない)と言う形になった。

 サドゥ本人に関しては、霊基をアヴェンジャーに偽装しただけで、半ば以上ビーストの獣の権能及び単独顕現で召喚に応じる形を取っただけ。

 まぁ受肉すると抑止力とのガチバトル一択なので仕方ない。

 そして立香&マシュの「また三人での日々を過ごしたい、もっと世界を見たい」と言う願いも叶えられたが、一歩間違えればビーストⅢ顕現なので要注意。

 

 

 

 


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