マシュの姉が逝く【完結】   作:VISP

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フラグ
1、特異点への参加が5回以上
2、子供鯖&ナイチンゲールによる治療を行わない
3、第七特異点でサドゥ死亡orビーストⅢ覚醒

以上が成立した場合のお話
※本編でも酷似した分岐に入る可能性あり


IFEND 獣の再誕  最後に加筆修正

 全ての戦いを終えた後、人理は再編された。

 焼却された筈の世界は、戻って来た。

 音信不通だった筈のカルデアの外から、連絡が入った。

 一年。

 それは地球上全ての知的生命体が仮死状態になっていた間に過ぎた時間。

 何時の間にか経過していた時間に、大慌てで国連及び魔術協会は心当たりのある組織、カルデアへと連絡を取り、事の次第を知った。

 敵側からの爆破工作、人理の焼却、七つの特異点と聖杯、七体中四体のクラス:ビースト、そして二人の未帰還者。

 事が事故に、どうにかこうにか査察を受け入れる形へ落ち着きながら、カルデアは人理守護の最後の砦として機能する事になった。

 そして人理再編開始から半年、国連からの人材受け入れの日。

 

 カルデアは炎に包まれた。

 

 原因は簡単、情報漏洩だ。

 英霊が、ダ・ヴィンチが本気で隠蔽していた情報がどうやって漏れたのか、それは分からない。

 だが、問題はその情報が魔術協会のとある有力な一派へと漏れてしまった事だ。

 彼らは知った。

 人理焼却の折、カルデアは世界の外側に近づいていた事を。

 多くの失われた英知を持った魔術師の英霊達がいる事を。

 英霊を燃料とした聖杯が作成可能である事を。

 消えた筈の神霊や、根源と接続した者すら存在する事を。

 そこまで知れば、彼らの取り得る行動は一つだけだった。

 

 入念に下準備を重ね、国連の派遣人材を始末した後に成り済まし、まんまとカルデアへと潜入した。

 そして、施設全体の視察も兼ねていた事を利用して、生き残った職員らを人質に、カルデアのシステムを掌握した。

 英霊達は激怒しながらも、マスターの命令に従い、戦闘せずに霊体化させられた。

 そして、英霊達の多くはそのまま聖杯にくべられ、有用とされた英霊は封じられ、デミ・サーヴァントであった少女とマスターである少年は封印指定と同じく、標本にされる事が決まった。

 そして二人が標本に加工されると言う日、

 

 「なにを、してるの?」

 

 死んだ筈の、二人にとって大事な少女が帰ってきた。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 それはきっと、ほんの僅かなズレ、間の悪さの生んだ悲劇だった。

 

 ビーストは蘇る。

 正確には、一度活動を開始すれば、あらゆる時間軸に出現し得ると言うべきか。

 七体の中でも、こと人理の内では最も高い不死性を持つビーストⅢなら、それこそ人類史の何所であっても出現し得る。

 それは勿論、自身にとって大切な者が害された時も含まれる。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 カルデアは燃えていた。

 カルデアを襲った根源を目指す魔術師達は皆殺しにされ、今もケイオスタイドの中で死ぬ事も狂う事も出来ず、永劫の苦痛に苛まれ続けている。

 

 「行くのかい、サドゥ?」

 「うん。」

 

 英霊達の生き残りを代表して、ダ・ヴィンチが問うた。

 

 「悪い人達はたくさんいるから、全部消してくるの。」

 

 立香もマシュもこの場にはいない。

 二人とも、今は治療のために医務室で休んでいた。

 処置は終わったが、心身へのショックと疲労から、今は昏睡に近い状態だった。

 

 「はぁ…結局、人類を滅ぼすのは人類って事か。成程、自滅因子とはよく言ったものだ。」

 

 こりゃお手上げだ、と言う具合に、ダ・ヴィンチは呆れ果てていた。

 何にもならない自分達の欲望で、確かに人類は破滅へのスイッチを、自分の死刑執行書に判を押したのだ。

 

 「二人をお願い。」

 「分かってる。私達が責任を持って守ろう。」

 

 その答えに、獣の少女は黙って頷くだけで返答とした。

 赤い布を腰に巻き、その上から黒いフードを纏い、全身を刺青で覆っている。

その灰の髪は腰に届く程長く、風も無いのに棚引いている。

 少女の人としての名をサドゥ・キリエライト。

 存在としての名をクラス:ビースト。

 その三番目を冠する、狂信の獣である。

 

 「悪い人達を皆燃やしてから、帰ってくるから。来なかったら…」

 

 私の事は忘れてね。

 それだけを告げて、少女は断崖絶壁から飛び降りた。

 次いで、崖の下から巨大な獣が猛吹雪の空へと飛び立っていった。

 その目は潰れ、盲目だった。

 

 「結局、私達の頑張りは無駄だったのかな…ねぇロマン。」

 

 今はもういない友へと、ダ・ヴィンチは空しそうに問い掛けた。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 世界中の人口密集地が、黒い泥と獣達に蹂躙された。

 だが、その動きには何処か規則性があるのか、ごく一部であるが、被害にあっても生き延びた人間達も存在した。

 泥は逃げれば良いし、獣達は重火器や魔術を使えば辛うじて殺す事も出来た。

 だが…

 

 『■■■■■■■■■■■■■■■■■■――ッ!!』

 

 全長800mの威容を持った、空を往く盲目の巨獣には、誰もが歯が立たなかった。

 その咆哮だけでビルを砕き、手足の打撃は山を踏み砕き、空を高速で飛んだだけで軍隊を壊滅させる。

 その全身には常に黒い靄が集まり、肥大化を続け、既に確認された当初の倍以上となっている。

 その背には世界各地から集まる黒い靄が集まり、まるで尾の様になって棚引き、まるで抜け毛か何かの様に無作為に黒い獣や泥を地上に撒き散らしていく。

 

 最初は300m程と、もっと小さかった。

 だが、人間から黒い靄の様なものを吸い取るにつれ、刻一刻と巨大化していく巨獣に、政府関係者と魔術関係者は巨獣の殲滅を選択した。

 しかし、ミサイルも、ロケット砲も、大規模魔術も、伝承保菌者による宝具も全く効かなかった。

 傷一つ負わせる事も出来ず、呆気なく蹂躙された。

 形振り構わぬ艦隊の全力出撃、戦略級核弾頭による飽和攻撃によって、幾度かは巨獣を殺す事は出来たが…

 

 『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――ッ!!』

 

 その度に、巨獣はより強大となって復活してしまうのだ。

 最早、打つ手は無かった。

 当然だ、あの獣はそういうモノなのだ。

 クラス:ビースト、狂信の獣性を持つビーストⅢ。

 相手が人間で、この世から悪意が消えぬ限り、ビーストⅢは永劫に誕生と肥大化を繰り返す。

 元より、人間にどうこう出来る存在ではないのだ。

 

 殺され、殺され、殺された。

 爪で、牙で、力で殺された者はまだマシだった。

 泥に触れ、魂すら汚染され、発狂しながら燃やし尽くされるか、泥に溶かされながら飲み込まれた者達は悲惨だった。

 既に20億を超える人間が直接的に殺された。

 他にも経済損失は言うに及ばず、国土を満遍なく泥に覆われ、滅亡した国すらあった。

 或は、首都を瓦礫の山とされ、全ての国民を獣に食い尽くされる事によって滅んだ国も多々あった。

 もう、人類に巨獣を止める術は無かった。

 

 ただ、何事にも例外は存在した。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 「良いのかい?」

 

 ダ・ヴィンチは、カルデア唯一のマスターへと問うた。

 

 「他に方法があれば、そっちを選ぶよ。」

 「だが、君がやらなくても良い事だ。」

 

 ダ・ヴィンチの言葉は本当だった。

 自身の所属する魔術師の独断によって、この事態の引き金を引いた魔術協会は大慌てで事態の解決を望んでいた。

 それこそ、英霊召喚でもなんでもやるし、目の上のタンコブ扱いのカルデアとも協力するだろう。

 

 「ダメだ。せめて僕の手で終わらせたい。」

 

 それが、サドゥの願いだったから。

 

 「なら先輩、私も行きます。」

 「マシュ…。」

 

 既にシールダーとしての能力を無くした彼女は、並より低い魔術回路を持った只の人間だ。

 

 「私も止めます。それが姉さんの願いだから、そうしてあげたいんです。」

 

 その藤色の瞳は、確固たる意思を宿していた。

 

 「じゃぁ行こう。もう作戦は練ってあるから。」

 「はい!マシュ・キリエライト、お供します!」

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 人理継続保障機関カルデアは魔術協会及び国連に、ある条件と共に巨獣退治を申し出た。

 それは両組織からの脱却、独立。

 既に資金も設備も自前で賄える彼らは、人の助けを求めていなかった。

 人材にしても、自分達で集められるからだ。

 それに対し、国連側は苦渋と共に承諾したが、足並み揃わぬ魔術協会では反対の声も大きかった。

 

 「よろしい。では誰が我々以外にビーストⅢを止めるのかな?否定するのなら是非代替案を示してほしい。」

 

 その言葉に、各勢力は沈黙し、消極的賛成としてカルデアは対ビーストⅢ討伐作戦を発令した。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 あぁ、ようやくきた。

 ぜんなるひとが、あくなきひとが

 ようやく、わたしをころしにきてくれた。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 作戦概要は簡単だ。

 ビーストⅢの動きを止め、聖杯を用いて作成した特異点へと封じ込める。

 人間のいない空間では、ビーストⅢは本領を発揮できない。

 それは第七特異点で証明された弱点だった。

 そして、何とか復旧したカルデアなら、もう一つの弱点である人外たる英霊を数多く用意できる。

 無論、マスターである少年もまた、その特異点へとレイシフトする必要があるのだが。

 

 結果として、神性を獲得したが故に、ビーストⅢはティアマト同様にエルキドゥの鎖へと捕えられ、その動きを制限された。

 次いで七つの聖杯によって構築された捕縛用特異点に、アーチャーのヘラクレスの『射殺す百頭』によって叩き込まれた。

 一辺5km程度の立方体の、何もない空間。

 そこで、人類とそれを食らう三番目の獣との戦いが始まった。

 

 「行くよ、サドゥ。」

 「此処で止めます、姉さん。」

 『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■――ッ!!』

 

 最早人の言葉すら忘れた巨獣の咆哮が響き渡る。

 それは喜びであり、歓喜であり、祝福だった。

 漸く、漸く、本当に漸く、巨獣は自分が求める者と出会えたのだ。

 悪ではなく、善であり、それでいて己を止める意思と力を持つ者を。

 

 『最終フェイズ、開始!』

 「はい!マシュ・キリエライト行きます!」

 「あぁ、これで終わらせよう。」

 

 

 後にカルデア側に、この一連の事件はこう記録される。

 

 最終特異点カルデア

 AD2017 人理定礎値Ω

 終焉黙示審判《この世の唯一の人類悪》

 

 この日、人類史上最大最悪の事件が幕を下ろす事になる。

 それは同時に、今後も続くビーストとの闘争の日々の幕開けでもあった。

 

 

 

 だが、皮肉にもこの日を契機に、人類全体が滅亡と自身の悪性に対して向き合う契機にもなるのだった。

 




 何が怖いかって、似た様な話が本編の未来でも十分あり得るし、原作でも規模は違えどあり得るんだよなぁ(白目

 aki Mk-Ⅱ様より、許可していただいた特異点の名称を使用させていただきました。

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