マシュの姉が逝く【完結】   作:VISP

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その10 オガワハイム前編

 

 

 ロンドンから帰還して丁度8日目

 その日、唐突にカルデア全域に警報が鳴り響いた。

 だが、同時に発生した施設内の監視機器に対する爆破工作により、犯人の姿は一切捕えられずにレイシフトによる逃走を許してしまった。

 被害確認後、医務室にて治療されていた筈のサドゥ・キリエライトの姿が無い事から、犯人に誘拐されたと思われる。

 犯人は新たに観測された特異点に逃げ込んだものと思われ、カルデアはその戦力で以て追跡及び人質の奪還作戦を発令した。

 だが、サーヴァントらの一部が行方不明となっている事が判明し、特異点の探索にて両作戦を並行して行う事となる。

 そして、観測された特異点は現代の日本の、とあるマンションだった。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 現代の日本と言う事で、マスターである立香には馴染みの場所ではあるが、それ以上に彼の中ではサドゥの事が気にかかり、それ所ではなかった。

 それはサドゥの妹であるマシュもそうだったが、特異点について早々に亡霊に遭遇し、それ所ではなかった。

 そして、亡霊達を撃破した後に出会ったのは、着物に赤の革ジャンを着た一風変わった女性だった。

 一見日本人の彼女はアサシンのサーヴァント、それも直死の魔眼と言う神代でも屈指の代物を宿していた。

 一時はあわや敵対するかと言うタイミングで、フォウさんの絶妙なタイミングにより、彼女はカルデア一行と協力してくれる事となった。

 カルデア一行も普段よりもサーヴァントが減っているため、この場を知る彼女の案内の下で先に進む事となった。

 

 そして遭遇するのは己の負の側面に呑まれ、反転状態となった行方不明となっていたサーヴァント達だった。

 弁慶、ブーディカ、エリザベート等、生前に無念を残して死んでいった者達。

 それでも普段はそれを欠片も見せない彼らがそんな醜態を晒したのは、このマンションにこそ原因があった。

 オガワハイムと言う名のこのマンションは、嘗て一人の魔術師が死を蒐集し、太極を再現し、根源へと至ろうと試みた場所だった。

 その目論見は潰え、歴史の闇に消える筈の場所だった此処を、何者かが掘り出し、特異点へと成さしめた。

 それを成した者の見当を付けながら、カルデア一行は次々に各部屋に封じられたサーヴァント達を解放していき、途中でサドゥを攫ってきたという悪メフィを血祭に上げつつ、漸く黒幕のいる屋上へと辿り着いた。

 

 そこにいたのは、一体の黒く霞がかったサーヴァントと巨大な怨霊の集合体だった。

 

 怨霊の集合体は幾度倒そうが、蘇る度に強大になり、更には唯そこにいるだけで周囲から怨念を引き寄せ、拡大していくと言う。

 だが、人のスケールでは測れない存在でも、式の直死の魔眼では殺せない訳ではなかった。

 この特異点の柱となる怨霊が死ねば、後はサーヴァント、否、幻影だけだった。

 そして、その幻影であっても、式には殺せぬ筈がない。

 褒美とでも言う様に、影の男は消えながらも律儀に問いに返答してくれた。

 曰く、魔術王の仕事を断った。

 曰く、魔術王は人に対して怨念を持っていない。

 どれも驚きの事実だったが、今はそれよりも優先すべき事があった。

 

 「待て!お前は何者で、サドゥは何処にいるんだ!!」

 

 その問いをするために、立香は此処に来たと言っても良い。

 例え人理に影響しないとしても、そこにたった一人でも仲間がいるのなら助け出す。

 そのためだけに、彼は此処まで来たのだ。

 

 「答える義理は無いが…まぁ良い。」

 

 何処か呆れつつも穏やかな気配で、影の男は消えながらも口を開いた。

 

「あの娘なら、確かにこのビルの何処かにいる。だが気を付けろ。間もなくアレは溢れ出し、この穴に満ちるだろう。オレに関しては…」

 

そこで意地悪げにニヤリと笑いながら…

 

「“――待て。しかして希望せよ”…とだけ言わせてもらおう。」

 

 それだけを言い残して、夜明け前の空に消えていった。

 

 

 

 

 ……………

 

 

 

 

 「やっぱ此処だよな。」

 「エレベーター…ですよね。」

 

 そして此処に戻って来た。

 行きの時は何もない虚空ばかりが広がるだけのソレは、しかし今はどす黒い瘴気が漏れ出ている様に感じられる。

 

 「おいマスター。入ったら絶対にマシュやオレ達から離れるんじゃないぞ。死ぬぞ。」

 

 言葉少なに警告する式に、この場所のヤバさが伝わる。

 この不器用な女性が本気で警戒する程に、この場所は危険なのだ。

 

 「一応魔除けのアゾット剣を渡しておく。いざという時は使え。使い方はメディアから聞いてるな?」

 

 エミヤから念入りに投影されたアゾット剣を渡される。

 宝具ではないが、それでも結構な礼装らしく、身体に感じていた重圧が軽減された気がした。

 

 「よし、じゃ「あー待った待った。ちょいと待ってくれよー。」ッ!?」

 

 不意に、エレベーターの闇の中から、一人のサーヴァントが出てきた。

 その気配は先程の影程ではないが薄く、ステータスも軒並みEと言う雑魚ぶりに逆に訝しみつつ、全員が何時でも動けるように構えた。

 

 「そんな警戒しなくても、この最弱英霊アヴェンジャー、あんたらにゃ何も出来ないさ。」

 「話は何だ?真っ黒々助」

 

 自称最弱英霊アヴェンジャーは、一部の隙も無く真っ黒だった。

 エレベーターの先の闇の様に、一切の色を黒で塗りつぶし、白目の部分位しか他の色が無い。

 その男は何処か軽薄だが、それでも割と必死そうに身振り手振りを交えながら話し始めた。

 

 「こっから先は正規の英雄様は厳禁だ。一瞬で汚染されて反転させられるぞ。」

 「それは、この建物に閉じ込められたサーヴァントの様にですか?」

 

 マシュが思い当たる事例を出す。

 ブーディカらの豹変は、普段の彼らを知っている者達からすれば、かなり衝撃的なものだった。

 

 「あーちゃうちゃう。あの程度じゃねーんだ。そっちにいる青い騎士王様が冬木みたいに黒くなるって言えば分かるか?」

 

 オガワハイムに捕らわれたサーヴァントは、あくまで属性はそのままに普段は抑えている負の感情が表出したものだった。

 だが、此処から先は違う。

 曰く、「泥」に匹敵する程の呪詛が空間に満ち、立ち入れば耐性のないサーヴァントでは最奥まで辿り着く事は出来ない。

 

 「マスター、どうしましょう?」

 「そっちの盾のお嬢ちゃんなら…まぁ大丈夫だろ。元々こーいうのに強いんだし。」

 

 と言う事は、マスターも一応は大丈夫だろう。

 無論、長居すればどうなるかは分からない。

 

 「良いのマスター?こんな怪しいの信用して。」

 「でも、先程から嘘は言っていませんわ。取り敢えずは大丈夫ではないでしょうか?」

 

 ドラゴン娘コンビの言葉に黙って頷く。

 この黒い最弱英霊は色々と怪しい。

 だが、心当たりがある相手でもあった。

 

 「君は、サドゥに力を貸してくれている英霊だよね。いつもありがとう。」

 「お、流石にバレたか。まぁ弱いんだけどネ!」

 

 キヒヒヒと、皮肉げに笑う姿はサドゥとは似ても似つかない。

 だが、自分は弱いからと謙遜する所は何処か似ていた。

 

 「じゃぁ入ろうか。」

 「応。案内はしてやるよ…でもな、最後に忠告だ。」

 

 先行しようと背を向けたアヴェンジャーが振り返り、立香の目を覗き込む様に、その暗黒の様な瞳を近づけてくる。

 

 「何を見ても、何を聞いても、何があっても、挫けるな。じゃねーと戻ってこれなくなるからな。」

 

 んじゃ先行くぜ。

 そう言って手をヒラヒラと振りながら、アベンジャーはエレベーターへと入っていった。

 

 「行こう、マシュ。皆と一緒に帰るために。」

 「はい、マスター!マシュ・キリエライト、突入します!」

 

 そして、立香も反英雄のサーヴァントとマシュを連れながら突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




サドゥ「( ˘ω˘)スヤァ」

サドゥ は ちからを ためている!

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